プロフィール
カラテカ 矢部太郎(やべ・たろう)
吉本興業所属。1977年生まれ。お笑い芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。初めて描いたマンガ作品『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞、同書は80万部超の大ヒットに。シリーズ累計では120万部を突破。現在、絵本作家である父・やべみつのりとの幼少期の思い出を綴る『ぼくのお父さん』が「小説新潮」誌上で連載中。
マンガを描き始めるようになったきっかけはなんでしょうか?
小さい頃からマンガを読むのは大好きで、描くことに憧れてもいましたが、つけペンで描くことの難しさにペンを買っただけで挫折してしまいました。時は流れて「二十代の終わり頃から住んでいる部屋の大家さんと仲が異常に良い」という話を知人や先輩芸人さんにしていたところ、「マンガにしたら?」と勧められたんです。
僕も「大家さんは上品で素敵でかわいい、この大家さんを描いてみたい!」と思いました。今ではiPadで描くことができて僕でも描き上げられました。
YouTubeなど動画もそうですが、マンガも誰でも描ける時代だと思います。やりたい! という強い気持ちさえあれば。
『大家さんと僕』で新しい人間関係のカタチを描いた矢部さん。人との関係を悩む二十代におすすめのマンガを3つ教えてください
性格が合わない人、やだなーって人とは、「もう会いたくない! いなくなれ!」と思っちゃいますよね。。そこで人が出てこないマンガを紹介します。
『オンノジ』ではある日突然、世界はそのままで人間だけが、主人公の女の子以外全員消えてしまいます。誰もいない世界を主人公はさまよいます。人の家をピンポンしても誰も出てこないので、ピンポンダッシュならぬピンポン徒歩したり…… あっ、このマンガはシリアスなマンガではなく4コマのギャグマンガです。。
そんな主人公が1匹のフラミンゴと出会って一緒に生活するようになります。世界に1人と1羽だけの日々。おかしくて哀しい異常な日常を描いた名作です。読み終わる頃には誰かに会いたくなるかも。。
主人公は作者のカラスヤサトシさんご本人で、日々あったことを描かれている4コママンガです。
カラスヤさんは大人なのに一日中仮面ライダーの消しゴムで対戦したり、改造したりして遊んでいます。人との関係もダメダメでトホホな日々が続きます。それがめちゃめちゃ面白くて! どんな日々もネタになる! 笑えるんだなあと、ふわっと楽な気持ちになれます。幸せって人それぞれで、好きなことを誰も気にせず好きにやることの素晴らしさも感じるマンガです。
主人公は24歳の派遣社員の女性なんですが、実はダルダル星人なんです。。というところから始まるマンガです。
人前ではふつうの人に見えるようにメイクして服を着て「擬態」しているのですが、1人になるとダルダルになって、体もアメーバ状のダルちゃんになるんです。オールカラーの素敵な絵で笑いも交えて描かれているのですが、誰かに合わせないと生きられない、ダルちゃんの姿は自分自身に重なりつらいです……。ふつうってなんなのか、ダルちゃんを通して自分のことを見つめることができる大切な一冊です。
二十代の時に一番影響されたマンガについて教えてください
二十代の頃、当時の流行や、周りの同世代に馴染めていない僕は「もう一つの世界」を求めて、最新のマンガよりも古本屋さんを漁って名作マンガを読むことにハマり、救われていました。
その中で読んだマンガの一つがこのマンガです。『がきデカ』という、半裸の警察官が変なことしかしないギャグマンガで有名な山上たつひこさん。これはそんな作者の『がきデカ』以前の作品です。
ギャグの一切ない社会問題を扱った重く暗い内容に、あんなマンガを描く人が! と人間の多面性を見るとともにギャグの狂気の源を見ました。
今一番興味を持って読んでいるマンガについて教えてください
和山やまさんのマンガは大変興味があります。二十代の新しい世代の作家さんですので、ここでご紹介させてもらうのにも良いかと思いました。
『夢中さ、きみに。』はたくさんのマンガ賞を受賞され、その後に出された『女の園の星』、『カラオケ行こ!』もどれも素晴らしいです。静謐(せいひつ)な絵柄はかっこよくて、かわいくて、とてもオリジナルで、フレッシュな笑いや哀しさもあって……新作が出るたびに読みたいと思っています。
ご自身でなかなか一歩目を踏み出せないが、いつかやってみたいと思っていることは?
海外に住んで外国人として暮らしてみたいです。二十代の頃『進ぬ!電波少年』という番組で海外に行って現地の言葉で現地の人を笑わせるという企画をさせてもらったんです。アフリカの部族の村に住んだり、モンゴル人の家族と暮らしたりしました。
初めて海外に行ってまったく違う環境に置かれ、今までの自分や、日本という国がすべてだった考え方が、もっと俯瞰というか客観的に見えた気がしたんです。その目線はマンガを描くときにも役立ったと思っています。もう一度、日本以外の国で外国人になって少数派になってみたいと思っています。
あの人の働き方・生き方を覗き見してみよう