「英語日記」発案者が編み出した目標達成のための思考法~人生を壮大な一曲として捉えよう〜

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<プロフィール>
新井リオさん。イラストレーター/作家/ミュージシャン。1994年東京生まれ。立教大学社会学部卒業。カナダでのデザイナー生活と英語独学法をつづった自伝的学習本である著書『英語日記BOY』(左右社)が、Amazon本総合人気度ランキング1位を記録。日本テレビ「人生が変わる1分間の深イイ話」「中田敦彦のYouTube大学」に出演するなどメディアで話題になり、発売から約9カ月で5万部を突破するベストセラーに。イラストレーターとして、Sony Music Shop/ヴィレッジヴァンガードとのコラボグッズ、WIRED.jpにてweb連載イラストを担当。Adobe MAX 2020にAdobe Insiderとして選出。バンドPENs+のボーカルとして日本で4枚のCD、アメリカで1枚のレコードをリリース。2012年に日比谷野音で開催された閃光ライオットに出場。


「MEETS CAREER」では多様な選択肢の中で自分らしい生き方をされてる方々の言葉を集め、「はじめの一歩」を踏み出すきっかけをお届けしています。今回のテーマは「目標の叶え方」

何か新しいことを始めるとき、目標の立て方に悩んだり、目標達成に苦労する人は多いと思います。

若くして「海外でデザイナーとして生計を立てる」という夢を叶えた新井リオさんは、目標達成のプロフェッショナルとも言える存在。大学生のとき、金銭的な理由から留学するのは難しいと判断した新井さんは、そもそも「なぜ、英語が話せるようになりたいのか?」と徹底的に問いを深め、自分にマッチする勉強法として「英語日記」を編み出しました。

その後上梓された『英語日記BOY』では、英語学習のみならず、目標達成のための思考法が書かれた本としても人気を博し、発売約9ヶ月で5万部を越えるベストセラーを記録しました。

今回そんな新井さんに、現状にモヤモヤしている二十代に向け、独自の目標達成のための考え方をテーマにご執筆いただきました。

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初めまして、新井リオです。この記事では、僕が20歳の頃から実践してきた「人生を壮大な一曲として考える」というアイデアについて書きます。これは、自分なりに編み出した目標達成をしやすくするための考え方です。

とはいえ、いきなり人生と楽曲を対比されても、ピンと来ない方もいるかと思います。まずは、この考え方に行き着いた経緯からお話しします。

どん底だった僕はBメロを自覚したから夢を叶えられた

人生を壮大な一曲として捉えるとはどういうことか? 

それは、“音楽”が「AメロBメロときてついにサビがくる」からこそドラマチックになるように、“人生”にも然るべきアップダウンがあり、「壮大な一曲を作る」ような手順でデザインすることで目標の達成に近づけるのではないか、ということです。

きっかけは、20歳のとき。バンド、学校、家族関係など生活のすべてがうまくいかないタイミングがありました。もうこれ以上落ちることができないほど落ちたとき、僕は自分の状況を「なんだかBメロのようだな」と思いました。

ここで言うBメロとは、「派手な展開があるわけではないけれど、次にくるメインのために必要不可欠な助走期間」のことです。

例えば、AメロもBメロもなく、ただサビだけを7回も8回も繰り返す曲があったとして、僕たちはその曲をずっと聴いていたいと思うでしょうか? おそらくすぐに飽きると思います。

Aメロで雰囲気を作り、Bメロで一度テンポを落としたところでついにサビがくるからこそ、曲全体が輝きます。この“流れ”があるから、何年も飽きずにずっと聴いていられる。

15歳から始めた曲作りの習慣を通し、僕はこの事実を何度も痛感していたので、このプロセスを自分の人生にも応用できないかと考えたんです。

そこで、僕は当時の自分にとってサビにあたる「海外でデザイナーとして生計を立てる夢」を叶えるべく、大学を休学し、バンドも休止して一人カナダに旅立つことにしました。

そもそも、なぜカナダでデザイナーなのか?

前年の2015年、自身のバンドで行ったカナダツアーが人生で一番ともいえる素晴らしい経験となったので、「これを超えるような何かを再び体験したい」と思うようになったからです。当時バンドと同じくらいの熱量でデザインにハマっていたことから、「カナダでデザイナーとして生計を立てること」を次なる目標に決めます。そのためには英語力が必須ですが、年間平均費用300万円といわれている語学留学をすることは家計的に厳しく、そこで考え出したのが「英語日記」というアイデアでした。

それから日本で1年間+カナダに渡ってからも学校には通わずカフェで英語日記を書き続け、仕事ができる程の英語力に到達したところで地道に営業を重ねて案件を獲得していきました。カナダ生活が1年経とうとした頃、僕はついにデザイナーとして生計を立てるという夢を叶えることができました。

日本にいたときから数えて丸2年、叶うかも分からない夢をただ追いかけ続けるのは不安なできごとでもありましたが、「自分は今サビに向かっているのだ」というたしかな意志が燃料になり、諦めずに駆け抜けることができました。

それ以降、僕は人生を「壮大な一曲のようだ」と捉えるようになり、常に自分の現在地を意識するようになったのです。

自分の人生を俯瞰したとき「大好きな一曲」のような高揚感が得られるか?

もちろん、最高の楽曲は人によって異なります。だから、なにもすべての人に好かれる曲にする必要はありません。

まわりにはあまり共感されないけど、自分は大好きだという曲があるように、自分で自分の人生を愛している状態がなによりも大事なのだと思います。

逆にいうと、特定のサビがなく一定のリズムを刻み続けるBGM的な音楽が好きな人や、即興的なジャズセッションが好きな人がいるのと同じように、人生にも大サビがなくていいという人や、その場の判断を大切にするのが好きな人は、本当にそれで正しいと思います。

重要なのは、

自分の今の人生を俯瞰してみたとき、「大好きな曲を聴いているとき」のような高揚感は得られるか?

ということです。

僕自身は「ドラマチックなサビが欲しい」と思うタイプなので、ちょっと熱くなってしまうかもしれませんが、今回は僕なりの“曲の作り方”(=目標設定の方法)を書いていきます。

ぜひ、「自分ならどうするか」と皆さんなりに考えながら読み進めてみてください。

人生を最高の一曲にするための「曲の作り方」

■STEP1「サビ」を作る

曲作り(=目標設定の仕方)の手順は人それぞれで、AメロからはじめてもBメロからはじめてもいいと思いますが、僕は「サビ」から考えてみることをおすすめします。

ここで言うサビとは、簡単に言うとその時点で「個人的に叶えてみたい一番大きな夢」のことです。

実際に音楽の曲作りをするときにも、僕は基本的にサビから作っています。サビこそがその曲(=人生)のメインテーマとなり、これが先に決まっていると逆算で努力がしやすいのです。

例を挙げてみます。

  • サンフランシスコに移住し、エンジニアとして働く
  • 東京でカフェ兼ギャラリーを開きヒットさせる
  • アーティストとして成功し、イギリスの音楽フェスに出演する
  • 家庭を築き、沖縄で一軒家を立てて幸せに暮らす

など。

まあ、本人がワクワクするのであればなんでもいいのですが、ポイントを挙げるなら、現状のスキルですぐに実現できそうなものではなく、「まだできるか分からないけど、これが叶ったら涙が出るほど幸せだ」と思えるできごとをサビにすることです。

サビは個人の「好き」という思いから生まれると思います。だから、自分の「好き」にとことん向き合うんです。

つい、今の自分のレベルに照らし合わせ、現実的かつ公表しても周りから笑われないちょうど良い対象を目標にしがちかと思いますが、人が本気で何かをやりたいという感情を笑う行為はどんな場面であれクールではないと思います。だから、そういう人たちのことを今は気にしなくていいです。

また、「やりたいけれど向いているか分からなくて……」という悩みも生まれると思いますが、「やりたいと思っている時点である程度向いている」と僕は考えています。というかそう考えるようにしました。夢くらい大きくないと、何に希望を見いだして生きていけばいいんだろうと思ってしまいます。

「曲の好み」が人によって違うように「理想の人生」も人によって違うのだから、世間体や社会的なスタンダードは極力気にせず、純粋に、子供のように、自分が今求める生活を一度思い描いてください。

「内容」と「叶えたい理想年齢」を紙に書き出す

サビを作る際の具体的なやり方は、「内容」と「叶えたい年齢」を紙に書き出すことです。

ここに大まかな曲の構成表みたいなものを作ってみました。視覚的にすると分かりやすいんです。

この表の「サビ」の部分を、叶えたい理想年齢と共にひとまず埋めてみます。頭で思い浮かべるだけでなく、実際に紙に書いてみると良いです。

僕個人の次なるサビも、ここに書いてみました。こんな大々的にメディアで公表するのも少し恥ずかしいですが、わりと本気です。

僕は夢のことばかり書いている大学ノートを18歳くらいのときからつけています。もう7冊目とかです。

脳科学的なことはよく分からないのですが、手を動かして紙に書くと、なんだかその夢が体に浸透していく感じがします。「これは、だれから指図されたわけでもなく、自分自身で決めた目標なんだ」と。

とにかく僕は、「自分の人生を自分でクリエイトしているんだというイメージ」をここまで持ち続けてきました。

また、僕たちの日常はあまりに忙しすぎて、意図的にリマインドしないと、個人的な目標はすぐに頭の片隅に行ってしまいますから、毎日この紙を部屋の壁に貼るくらいしてしまった方がいいと思います。自分はデスクの壁に貼っています。

それでもサビが思いつかない人は?

とはいえ、うまくサビが思いつかない人もいるかと思います。そういう方は、まずはいろんな曲を聴いてみる(ほかの人の人生を知る)ところから始めるのがいいと思います。

一番いいのは「本」を読むこと。個人的に、一番情報濃度が濃いメディアは本なのではないか、と思っています。ただ、本に馴染みのない人は、ネット上のインタビューでもYouTubeでもいいです。とにかくこの世に存在する多様な生き方をまずは知り、「自分がどんな生き方をかっこいいと思うのかを探り当てる実験」をするような気持ちで向き合ってみてください。

■STEP2「Aメロ」を作る

次は「Aメロ」を作ります。

サビが「叶えたい夢」ならば、Aメロとは「勉強期間」にあたると僕は考えています。

空を飛びたい雛がまずやるべきなのは、自分の体重を支えながら飛べるだけの翼を生やすことです。本当に空を飛びたいなら、準備ゼロで飛んでみるよりも先に、「立派な翼を生やす」努力をしてみるんです。これが「勉強」だと思っています。そして大抵の場合、ここには年単位の勉強が必須になると感じます。

これが今の僕のAメロです。実際に、今年に入ってから絵画教室に通い、基礎から絵を勉強しているところです。

このように、「サビのために今からできる具体的な勉強プロセス」をAメロに持ってきます。

勉強というと「やらなければいけないネガティブなもの」というイメージがあるかもしれませんが、「やれば夢に近づける、どこまでもポジティブなもの」が勉強の正体だと思っています。

僕は勉強が心から好きで、これを公言すると驚かれることもありますが、感覚としてはお腹が空いている人が健康的で美味しい食べ物をたくさん食べるのと同じです。特定の知識を取り入れたい人が体内に経験と情報を取り込んでいくんです。

とはいえ、スマホを開けばいくらでも暇をつぶせてしまうし、「意識」だけで自制して生きるのは現代において至難の業です。

勉強のために「国を作る」ようなイメージで生活環境を変える

そこで僕たちがやるべきなのは「生活環境を変える」ことです。

  • 転職
  • 引越し
  • 海外移住
  • 部屋の模様替え

など、もうけっこう具体的に、「目に見えるメインの生活環境」をガラっと変えます。

今言ったばかりですが、「意識」だけではどうにも僕たちは変われないからこそ、「環境」のほうを先に変えるんです。

個人的な話ですが、実家暮らしだった学生時代は机とベッドの距離が近すぎて、眠りにつくときの半分くらいが「ちょっと休憩しよう」とベッドに腰かけたら寝落ちしている、というスタイルでした。しかし一人暮らしを始めるようになり、作業部屋と寝室を分け、作業部屋には寝転がれるアイテムをひとつもおかないことを決めただけで、寝落ちしなくなりました。作業をしていて疲れたなと思っても、腰掛ける場所がないので、寝室に行って寝ます。

あと、日中、スマホはキッチンの棚の中に入れているので触ることもありません。

すっごい真面目な生活に見えるかもしれませんが、別に僕自身が人間的に急激に真面目になったわけではなく、「そうするしかない環境」をつくってそこに生きているからこそ生まれる行動スタイルというだけなんです。

「いや、そもそも、その環境作りが頑張れないんだ」という人もいるかもしれません。頑張りたくないの、めちゃくちゃ分かります。でも、どこかのタイミングで一度「おりゃっ」と立ち上がるようなアクションを、自分の力で起こさないと、本当に、目の前の状況って変化しないんです。

だから、まずは環境を変えましょう。

多分一番やりやすいのが「部屋の模様替え」かなと思います。

勉強する空間には、基本的に勉強に必要なものだけをおくようにします。部屋が一つしかなくて難しかったら、少しベッドとの距離を離すとか、視界に入らないような配置にするとか、工夫はできます。

イメージとしては、「部屋の中に勉強専用の国を作る」イメージです。国は大袈裟かな。でも本当にそう思っています。

自分は、勉強の国と、寝る国の2国間を、フリーパスポートで行き来するような生活のイメージを持っています。寝る国には、PCもスマホも持ち込みません。寝るか、本を読むだけです。

本来洗濯機を置くスペースに小さいデスクを置いて、ここで勉強をしていた時期もありました。この椅子に座ったら、「勉強王国の小市民」になったような気持ちで、勉強だけをまっとうします。

■STEP3「Bメロ」を作る

最後にBメロです。

Bメロには「具体的なチャレンジ」を当てはめてみます。Aメロの勉強期間に得た学びをもとに、最初に決めたサビを叶えるための決定打になるような行動を、ここで考えます。

ただ、人はチャレンジをしている瞬間が一番失敗もしやすく、落ち込みやすいので、「基本的にBメロは難航するんだ」くらいの意識でいいと思います。

僕の場合はこんな感じです。

欧米にはまだなんのコネもないですし、正直このBメロを書きながら「まじかよ、おれはこんなに大変そうなことをするのかよ」と自分でも思っています。でもやっぱり、これが僕にとっては「良い曲」なんだよな。繰り返すけど、夢くらい大きく……ということで。

もちろん一度目のチャレンジでは成功しないことが多いです。だから叶うまで何度もチャレンジを続けます。それがBメロです。それまでの自分だったらすぐに諦めていたことでも、「自分は今Bメロにいて、これを乗り越えたらサビがくるんだ」と思うと、本当に頑張れるんです。

また、「Bメロ期間に試行錯誤をしまくっていたら新たに叶えたい違うサビが見えてきた……」ということもかなりあるので、その場合は潔く新しいサビにシフトチェンジしていいと思います。突然新曲ができた感じで、これも楽しそうです。

この期間は総じてハードである場合が多いですが、俯瞰してみればこの経験自体が「人生という壮大な一曲」をよりドラマチックにするスパイスになっているはずなんです。

先人の言葉を調べ、同じことをやってみる

この段階でやるべきは、「自分が理想とするサビを叶えた先人たちが、サビを叶える直前におこなったアクションを調査すること」です。

僕の場合、自分が大好きで、実際にAppleと仕事をしているイギリス人イラストレーターの方たちが通っていたロンドンの大学があるので、ひとまずはそこに通うのもいいなと考えています。

あとは、そういったクリエイターがどうやって仕事までこぎつけたかを語っているインタビューがあれば探して、それを読みます(こういうとき英語ができると本当にいいよなと思います)。

今はインターネットから無数の文献を閲覧できるので、何かしら自分の琴線に触れるようなことを成し遂げた人の本やインタビューを読んだり、場合によってはYouTubeを観るのでもいいです。

で、調べあげたら「同じことをやってみる」んです。あ、違うなと思えばやめればいいだけなので、「まずは実行する」のが本当に大事だと感じます。

何か叶える人は「検索」ではなく「実践」した人

この記事を書くために自分も曲の構成表を書いてみましたが、「まだまだ全然Aメロだったじゃん」と、あらためて気づかされました。

うまくいかないことも多いですが、どんな進め方をしてもそれが最終的に人生という壮大な一曲を魅力的にしてくれる要素になると考えれば、少しは楽観的に物事を捉えられるようになるのではないかと思います。失敗も、振り返ってみればかっこいいできごとだったんです。

この記事でとにかく伝えたいのは、「自分は今、人生という壮大な一曲のうえにいるのだ」という意識を持って生きることです。

最近は世の中が便利になりすぎて(ググれば一発で出てくることに慣れすぎて)、自分の夢を叶えるときにも、まだ自分の知らない一番楽な方法があるのではないかと、日々の大半を「検索」に費やしがちです。

しかし、何かを叶える人は、「検索」した後に「実践」をした人です。

今まで曲を作ったことがない人も、初めて作る曲が「自分の人生」だなんてすごく素敵だと思います。ゼロからものを作るってすごく楽しいです。子供の頃、無心で絵を描き、歌を歌ったように、人は本来表現をすることが好きなのではないかと信じています。

僕はミュージシャンを経てイラストレーターになり、今年は初めて本を出しました。バラバラな活動に見えるかもしれませんが、さまざまなアプローチで「作品づくり」を追求するという意味では一貫していると思っています。物づくりは、(まさに人生のように)常に不安が付きまとい、0から10までスムーズにいくことなんて絶対にありませんが、完成した時は何にも代えがたい喜びを感じます。いやあ、生きていてよかった、と思えるくらいの。

僕はもはや表現活動に取り憑かれていて、これに人生を捧げる覚悟があります。

自分の人生、せっかくならドラマチックで最高の一曲にしたいので、今日も地道に勉強をするのです。

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