「1位になれない」と気づいてからが勝負。ファーストサマーウイカに教わる「自己プロデュース術」

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<プロフィール>
ファーストサマーウイカ。1990年生まれ、大阪府出身。「BiS」「BILLIE IDLE®」での活動を経て、NTV「女が女に怒る夜」でブレイク。関西弁の切れ味鋭いトークを武器に『ワイドナショー』『はなつまみ』(「お願い!ランキング」内)『不可避研究中』といったバラエティや、ラジオ『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0(ZERO)』NHK朝の連続テレビ小説「おちょやん」に出演するなど、多岐に渡って活動している。


「MEETS CAREER」では多様な選択肢の中で自分らしい生き方を選んだ方々の言葉を集め、「はじめの一歩」を踏み出すきっかけをお届けしています。今回のテーマは「自己プロデュース術」。

何かと「自分らしさ」が重んじられる現代では、仕事でも個性を発揮し、オリジナルな立ち位置を獲ることが良しとされがち。一方、周りと比べて、「特別なものなんて何も持っていない」と焦っている方も多いのではないでしょうか。

ファーストサマーウイカさんは、自分のことを「すべてが60点から70点の人間」と言います。さまざまなフィールドで稀有な存在感を放てる背景にあったのは「自分は1位になれない」という冷徹な自己分析と、それに基づく巧みな自己プロデュース戦略でした。

「特別な人間」ではないけれど、自分という素材を生かし、周囲にアピールするにはどうすればいいのか。ウイカさんが弱肉強食の芸能界で確固たるポジションを獲得してきたその歩みは、会社員にとっても大いに学ぶところがありそうです。

自分のイメージを操り、周囲の予想を裏切った

── ウイカさんといえば、少し前のインタビュー記事で「流木のように生きたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。ここから「流される」というキーワードを抜き出すならば、その見た目やテレビ番組などで見せるキャラクターも、「制作側に求められるままに演じた結果」なのでしょうか?

ファーストサマーウイカさん(以下、ウイカ):それは違うんです。むしろ、制作側に求められたキャラクターを演じると後手に回ってしまう。なぜなら、予想通りの展開になってしまうから。エンタメという仕事は、予想は裏切り期待は上回ってこそ面白くなると思っています。

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── ということは、そのビジュアルや立ち居振る舞いも、確たる「自己プロデュース」の賜物なのですね。それでは具体的に、ウイカさんはどのようなことに気をつけ、自己プロデュースをしていますか?

ウイカ:いかに周囲と差別化をはかるかということは大事にしています。ただ、それはあくまで「自分の素材を生かしてこそ」。自分とかけ離れたキャラクターを無理に演じることはありません。例えば、「関西弁、ヤンキー」という属性にしてもそうです。

── メディア用に無理やり作ったキャラクターではないと。

ウイカ:はい。まず、出身が大阪なので関西弁は自然に使っているだけなのですが、東京では大半の人が標準語を話すので、それだけで差別化がはかれます。

ヤンキーというのも、演じていたわけではなく、私自身はごく自然に振舞っていただけ。そもそも、人生の中でヤンキーだったことは一度もありません(笑)。でも、人によっては「ヤンキーみたい」だと感じたり、「スナックのチーママみたい」「宝塚の男役みたい」だと感じたりするようです。

── 受け取り方は受け手に委ねる、ということでしょうか。そうすると、時に「これは本当の自分じゃない」という、不本意な捉えられ方をすることもあると思いますが、抵抗はありませんか?

ウイカ:受け手が自分にさまざまな印象を持つことは仕方ないし、むしろ面白いとすら感じます。また、時にはその印象を利用することもあります。

── 「利用」するとは?

ウイカ:例えば、私はエゴサーチなどで自分の“市場調査”をするのですが、そこでヤンキーっぽさを面白いと感じている人がいたら、バラエティ番組などであえてそのイメージを誇張することもあります。

逆に、そのイメージが広がりすぎていると感じたり、そのイメージがそぐわない番組に出演したりする際はメイクなどを微妙に変えて、ヤンキー感を抑えることもある。

ですから、キャラクターを演じるというよりは、世間のイメージを利用して“足し引き”をするような感じですね。実際、どの媒体(番組)をきっかけに私を知ってくださったかで、私に対する印象は全然違うと思いますよ。

── なるほど。ただ、場合によっては特定のイメージを押し付けられることもあるのではないでしょうか? 例えば、テレビ出演が増え始めた当初は、制作側に「毒舌」を求められて辟易したこともあると伺いました。

ウイカ:正直、自分の話し方を毒舌だと思ったことがないんです。関西弁で、ちょっと語気を荒くして喋っているだけ。

毒舌って真正面から人を殴りにいくようなものだと認識していて、自分自身は面と向かって特定の誰かを傷つける言葉は使わないように心がけています。もちろん、受け取る側が私の言葉を毒だと感じることはあるかもしれませんが、少なくとも自分から「毒舌を言おう」と思ったことは一度もありませんね。それは嘘になってしまうし、やりたくないことだったから。

以前、ある番組のディレクターさんから「(番組で共演する)女性アナウンサーに毒舌をお願いします」と言われたことがありました。でも、そのアナウンサーの方とは初対面で、人となりを何も知らないんです。そんな関係性の人に毒舌って何? ただ罵倒すればいいの? と疑問に思いました。

── その時は、どのように切り抜けたのでしょうか?

ウイカ:ディレクターさんが「(毒舌で)どんな状況を作りたいのか」を考えました。要は両者の「バチバチ」を見せたいんだな、と。ならば、毒舌を使わずにその展開へ持ち込めばいい。

そのアナウンサーはアイドル出身の綺麗な方だったので、「アナタ、息吸って吐いてるだけで親孝行やないの!」と仕掛けました。さも喧嘩を売っている風ですが、実際には褒めているだけなんですよね(笑)。「どんだけ素晴らしいねん。ええ加減にせえよ!」って。関西弁を早口でまくしたてる話し方が毒舌っぽく受け取られるのであれば、逆にそれを利用しようと思いました。

── 確かに、それなら自分が守りたい一線は守りつつ、制作側の要望にも応えていますね。

ウイカ:大事なのは「目的地」を把握すること。今話した例では「バチバチの展開」ですが、目的地を把握すればそこへ至るまでのルートは変えてしまっていいと思うんです。

もし、ディレクターさんの指示通りに毒舌を言ったら、自分に嘘をつくことになるのはもちろん、予定調和な展開になっていたかもしれませんよね。それなら、「こう変えてきたか!」と、いい意味で予想を裏切る展開にしたい。

だから私は、“逆張り”を意識して、他人があまり通らない道を通るようにしてきました。

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天才じゃないから「逆張り」で勝負してきた

── “逆張り”をする、とは具体的にどういうことですか?

ウイカ:劇団にいた頃は、他の出演者の特徴やバランスを見て自分の立ち位置を決めていましたね。今回の芝居は役者10人のうち半分が女性、そのなかの4人は「声が高い」から、私はハスキーなトーンで声を出したほうが目立つかな、とか。あるいは、かわいい系の女優さんが多ければ、自分はちょっと男勝りな役作りをしようとか。

── その場の状況に応じて、自分が輝けるポジションを獲りに行った結果が「逆張り」の戦略だったと。

ウイカ:バラエティ番組などに出演した時もそうですね。今日はリアクションの大きい人が少なそうだと感じたら、私が大きなリアクションをしようとか。状況により、臨機応変に逆張りするんです。

少し話を戻しますが、これは毒舌を言わないこととも関係しています。何かを批判すると、自分の立ち位置が明確になり、臨機応変に逆張りしづらくなってしまうからです。例えば、「ミニスカートを穿いている女性は嫌い」と言えば、ミニスカートを穿きづらくなりますよね。

── だからこそ、どの番組でも埋もれることなく存在感を示せる。とても戦略的ですが、一方で、どんな場も強烈な個性で染め上げてしまうタレントさんもいます。そんななか、ウイカさんはなぜ逆張りという戦い方を選んだのでしょうか?

ウイカ:自分が特別な人間ではないことを自覚しているからだと思います。抜群に背が高いわけでも、ずば抜けてかわいいわけでも、スタイルがいいわけでもない。学力が秀でているわけでもないし、かといって極端なおバカでもない。すべてが60点から70点の人間なんです。

では、逆にご質問しますが、私が日本一優れているものって、具体的に何だと思われますか?

── 例えば、ラジオ(『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0』)でのトークは抜群に面白いですよね。

ウイカ:ありがとうございます(笑)。でも、1位じゃないんですよ。<何か記録を打ち立てるようなトップではない。圧倒的なものを何も持っていないからこそ、逆張りという発想になるわけです。

例えば、私が『ONE PIECE』のルフィや『ドラボンボール』の悟空のように才能豊かなカリスマだったら、自分の力を信じ、周りをガンガン巻き込んでいくはずです。天才は逆張りなんてする必要はないし、そんな発想にすら至らないと思います。

芸能界にはカリスマや天才がいっぱいいます。そうじゃない私は、いかに人が少ない場所で陣地を確保するかが大事なんです。

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── ウイカさんが思う天才とは、例えば誰でしょうか?

ウイカ:最近お仕事をご一緒した方だと、滝沢カレンさん。ビジュアルも圧倒的ですし、中身もめちゃくちゃ面白い。私にないものをすべて持っています。でも、カレンさんにないものを私が持っている可能性もあって、それを使って、彼女と一緒に仕事ができたら最高だなと思うんです。

自分は天才じゃないけど、天才のゴールをアシストする存在にはなれるかもしれない。エースがバシバシ得点を決める裏で、常にいい仕事をする。見る人が見れば分かるスーパーサブみたいな。そういうポジションもカッコいいじゃないですか。

理想と現実のギャップに気づいた瞬間は、逆張りして陣地を確保するチャンスなんですよね。私は天才になれないと気づいた瞬間から、戦い方を変えました。

売れている人に共通する「3つの要素」を考えた

── スーパーサブと言いつつ、ウイカさんは「ウイカさんっぽさ」を世間にしっかり浸透させていると思います。受け手の印象に残すため、どんなことを意識していますか?

ウイカ:これまで散々逆張りの話をしてきましたが、一方で、極力ぶらさないと決めていたことがあって。「かきあげ前髪に巻き髪」「ちょっと派手な服装や化粧」「関西弁」です。どこに出演しても、この3つの要素は崩さないようにしていました。というのも、3つの要素で言い表せる人は印象に残りやすく、端的に言えば「売れる」と考えたからなんです。

例えば、「7・3分け」「筋肉」「ピンクのベスト」。これだけで、誰のことを言っているか分かりませんか?

── オードリーの春日さんですね。確かに、売れている人は強いワード(要素)を持っている気がします。

ウイカ:そのワードを受け手に印象付ければ、しっかり認識してもらえます。ありがたいことに、今では前髪をかき上げて巻き髪にし、花柄ワンピースを着ると「ファーストサマーウイカっぽい」と言われる現象も巷で起こっているようです。それだけで私に見えちゃうとか、ものまねしてもらいやすいテンプレートを確立するのは、成功パターンの一つでしょうね。

といいつつも、最近では、少し認知をいただいてきたので、番組内容やキャスティング、シチュエーションに合わせてバランスを調整しています。それらの要素を取り払うときには逆に意味が生まれるので、「あえて関西弁を使わない、あえて前髪を降ろす」など「ブレを作る」ことが生きる場面もあります。

── ウイカさんの3つの要素は、どのように作り上げていったのでしょうか?

ウイカ:アイドルグループで活動していた頃から培ってきたものです。アイドルはみんな見た目が似通ってくるので、ほかのグループやユニットと並ぶと印象に残りづらいんです。

そこで、私はまず「売れている人」を分析しました。BiSというグループにいた時、はるか前方を走っていたのがでんぱ組.incさん。その中で、ソロでも目立った活躍をされていたのが夢眠ねむさんです。ねむさんは、どの場所にいても3つの要素で言い表すことができました。「黒髪ボブカット」「テーマカラーのミントグリーン」「秋葉原」。これだけで人に伝わるし、似顔絵もすごく描きやすいんですよね。

──分かりやすい要素があるとデフォルメもしやすいですね。

ウイカ:だから私も、自分をイラストにした時に9割の人が「これはウイカちゃんだね」と言ってくれる要素をビジュアルに落とし込もうと思ったんです。

要素を決めるうえで重視したのは、やはり逆張りですね。ほかのアイドルと並んだ時に、「今、ここにない要素」って何だろうと考えました。

例えば、前髪をかき上げてみる。それだけだと男の子っぽく見えるけど、少年ではなく宝塚っぽい感じにすれば女性からもカッコいいと思ってもらえるんじゃないかと考えたり。

花柄のワンピースも、最近のアイドルや女性タレントはスタイリッシュな見た目の方が多いから、思い切って「参観日のお母さん」みたいな華々しい格好で出たらどうかって。ちなみに、普段の私はダボダボのTシャツにデニムばかり着ています(笑)。

── それもいわば、「日常の逆張り」ですね。

ウイカ:そうですね。私にとって、巻き髪と花柄ワンピースは、芸能界というハレの世界で身を守るための鎧みたいなもの。日常から最も遠い花柄ワンピースを着ることで「さあ仕事だ」と気が引き締まるんです。会社員の方で言うスーツに近いかもしれません。

自分は掘って、掘って、掘り下げた

── 会社員の世界でも、自分のスキルを最大限発揮し、それを周囲にアピールするための自己プロデュースは有効かと思います。ただ、そうはいっても自分の強みが分からない人も多い。どうすれば、3つの要素にあたるような武器が見つかるでしょうか?

ウイカ:要素を見つけるには、多少なりとも客観性が必要です。だから、他人に評価されているものを考えてみるのがいいんじゃないでしょうか。人から褒められたこと、喜ばれたことなど、これまでの経験の中に大事なデータがあります。20数年も生きていれば、何かしらはあるはず。

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── それが見つからなくて、ずっと自分探しをしている人もいます。

ウイカ:自分は探しても見つからないと思います。自分は今ここにいるんだから、徹底的に掘るんです。あの養老孟司先生も「自分探しなんてやめなさい」とおっしゃっています。*1

多分、自分の良さが分からない人は、他人の良さも分からないと思うんです。ということは逆に、他人の良さを知ることで見えてくるものもあるんじゃないかな。

── なるほど……。確かにそうかもしれません。

ウイカ:あとは、よく言われることですが短所は裏返すと長所にもなり得ます。口下手でうまく喋れないけど、頭の中ではいろんなことを考えているとか。繊細で傷つきやすいけど、そのぶん人の気持ちに敏感になれるとか。短所を並べて逆張りすれば、自分だけのポジションが見つかるかもしれませんよ。

だって、私自身がそうでしたから。ファーストなんて名前をつけているのに、1位になったことはない。でも、大抵のことは60点、70点くらいできるから、希少なものを磨けば少しでも100点に近づける。

まぁ、自分をルフィや悟空のようなタイプだと思われる方は、ここで話したことは無視していただいて問題ないんですけどね(笑)。

【リリース・出演情報】

デジタルシングル「カメレオン」
配信日:2月22日

舞台『カメレオンズ・リップ』
公演日程:4月2日から4日まで北千住・シアター1010、14日から26日までは日比谷・シアタークリエにて。5月中旬まで大阪・名古屋ほか各地公演あり。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:関口佳代

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*1:著書『「自分」の壁』(新潮新書)の中で言及。