長所を見つけ、「ブースト」させる。休日課長に「自己分析」の極め方を聞いてみた

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<プロフィール>
休日課長 1987年生まれ。埼玉県出身。東京農工大学大学院を卒業後、2014年まで一般企業に勤めながらバンド活動を展開。12年、「ゲスの極み乙女。」に加入。17年に「DADARAY」、18年に「ichikoro」にベーシストとして加入。



自分の長所や自分に向いている仕事を理解しないまま、漫然と仕事している方、同僚の活躍ぶりに「ただ自信をなくしている」方は多いのではないでしょうか。

一方で、社会人にもなると、耳の痛くなるような指摘は日々投げかけられるのに、「あなたの長所はこういうところだね」と他人に褒めてもらえる機会は少なくなるもの。

つまり、自分の長所や自分に向いている仕事は、自分で見つけ、自分で育てなければならないのです。

今回お話を伺った休日課長さんは、共演者も驚くホスピタリティの持ち主。3年間のサラリーマン生活の中では、そうした「自分の長所」を常に伸ばそうと意識していたと言います。

課長さんは、一体どうやって自分の長所を見つけ、その長所をどう育ててきたのでしょうか。取材を通じて見えてきたのは、短所を直すのではなく、長所を「ブースト(強化、促進)」させる、という思考法でした。就活中、転職活動中の方も必見のインタビューです!

※取材はリモートで実施しました。

「実証」と「改善」で長所を見つけ、生かす

──休日課長さんといえば、共演者の皆さんにしばしば「ホスピタリティがすごい」と称賛されていますよね。 休日課長さんの長所とも言えるこのホスピタリティは、どうやって育まれてきたのですか?

休日課長さん(以下、課長):ありがとうございます(笑)。それほどのホスピタリティがあるとは思えませんが、自分の長所をブーストさせるようにはしてきました。

──長所をブースト……ですか。それにはまず、自分の長所を分かっていないといけませんよね。自分を掘り下げることは案外難しいとも思うのですが、課長さんが長所を理解したタイミングはいつだったのでしょうか?

課長:就活の時でしたね。正直、就活を始めた当初は自分のアピールポイントとかやりたいこととか、よく分かってなかったんですよ。むしろ、「学生時代にどんな研究をして、どんな成果をあげたかのほうが大事だろ」と思っていましたし、面接でもそこを重点的に話していました。でも、ある時、思っていた以上に面接で何も話せないことに気づいて。そんな折、面接を受けたある企業さんが面接後に、「よくなかったポイント」を電話で教えてくださったんです。

──企業から面接のフィードバックを直接受ける機会ってなかなかないですよね……。その電話ではどんなことを言われたんですか?

課長:「アピールポイントに一貫性がない」「あなたの素質が志望動機とリンクしていない」と、すごく率直に言ってくださって。このフィードバックがきっかけで、研究内容や実績をアピールするよりも先に、「自分」を分析してアピールする必要がありそうだ、と感じました。自分のことを知らないまま研究の内容や実績をアピールしても研究内容は伝わるかもしれないけど、自分がどういう強みを持った人間なのかは伝わらない。それに、研究内容が正確に伝わったところで、一般的な就活面接の目的からするとあまり意味を持たないわけで。

研究の話をする時も、「自分にはこんな強みがあって、研究でこんな風に貢献しました。一緒に働いたら楽しそうでしょ?」ってことを伝えなきゃいけない。

そこで、まずは自分の趣味やアルバイトの経験を振り返ってみました。丸2日くらい使って、話せそうなエピソードをノートに書き出したんです。無理をしなくても続いたことって、自分の「得意技」とも言えるので、長所や適性につながっているのかな、と。

僕の場合は、趣味のカレー作りでスパイスの分量と味の印象をExcelにまとめて分析したり、大学の軽音サークルで渉外担当として他大との合同打ち上げをスムーズに催行できるよう改善を繰り返したり(PDCAって言うんでしたっけ?)。そういう些細なエピソードから、「分析力」や「細やかさ」という長所を抽出しました。

──「長所の見つけ方」という本筋からは逸れるかもしれませんが、そうした長所を踏まえて、面接では具体的にどのようなことを意識されたんですか?

課長:話を「盛らない」ことと、他人の話に耳を傾けること、面接を振り返ることですかね。これらのエピソードは本当に頑張ったことなので、「自分の言葉」で盛らずに話せるんです。そして、盛らずに話したほうが、結果的に上手くいくことに気づいて。

──インパクトのある話をするよりも、嘘を言わないことって大事かもしれないですね。

課長:あと、面接って緊張から自己アピールに必死になってしまいがちだけど、ほかの就活生の受け答えを聞くことも大切だと感じました。他人の言葉を「先ほどこういうお話も出ましたが……」と自然に引用すると、面接官に「きちんと話を聞いているんだな」と印象付けられませんか?

──一度フィードバックを受けただけなのに、面接のスキルが飛躍的に向上している……。他人の話をしっかり聞いたほうが好印象だ、といつ気づかれたんですか?

課長:面接の内容を振り返るなかで気づきました。僕は「自分が面接でどんな印象を残していたんだろう?」というのを、面接が終わった後に1回1回振り返っていました。帰りの電車の中で、受け答えや感想を携帯電話のメモに書き出してみたりして。面接官になったつもりで自分の話を振り返ると、「ここはアピールしない代わりにもっと“聞いてる感”を出したほうがいい」と感じる箇所があるんですよね。「この人と一緒に仕事したい、もしくは友達になりたいと思えるか?」という視点で自分を分析すると、いろいろなことが見えてきます。

──“実証と改善”への意識がすごく強いんですね。長所の「分析力」も生かされている。

課長:1回の失敗から、次の成功のための要素をなるべく多く抽出したいという意識は強いかもしれない。個人的に、「タメになる失敗」と「タメにならない失敗」があって、それを分けるのは分析の有無だと思っています。漠然と20回面接を受けるのと、たとえ5回の面接でも振り返りをしっかりするのとでは、後者のほうが得られる情報量が圧倒的に多いと思うんですよね。

「丁寧さ」という長所を仕事でブーストさせる

──その後、無事志望度の高い企業に入られ、3年在籍したとお聞きしています。課長さんはどんな会社員でしたか?

課長:面接の時と同じく、他人の話をよく聞いていたと思います。常に初心者のつもりで周りから情報を集め、意識的に「曖昧なところ」をなくしていました。いまもそれは変わらないんですが、知らないことを恥ずかしいと思わず、きちんと理解して進めよう、と。

──そう思ったのはなぜですか?

課長:自分を過大評価して失敗する気がしたからです。というのも、3年目くらいってちょっとややこしい時期で、できることが少し増えたり、責任のある仕事を任せてもらえたりしますよね。仕事に対して自分なりのアプローチをすることも求められる。一方で、業界や会社にもよると思いますが、まだ「できるようになった気でいる」だけで、気づけてないことが山ほどあるタイミングだと思うんです。

僕自身もそんな板挟みのなかにありました。それである時、ふと自分を分析して「今の俺、慢心してるな」「ただ形だけこなせるようになっても、中身を理解していないと応用がきかないな」とか考えたんです。だからこそ、自分一人で分かった気にならず、周りにちゃんと聞こう、と。もちろん、いろんな失敗をしながら突き進んで、結果的に200%の成果を上げるタイプの人もいると思うんですが、僕は細かく積み上げていくタイプですね。ベースも「理想の音」と「現実の音」のギャップを分析して改善する過程を幾重にも積み重ねてきている実感があるので、そういう特性の人間なんだと思います。

──お話を聞いていると、自分を客観視できるからこその「丁寧さ」や「周りをよく見られること」は課長さんの大きな長所のような気がします。それは働くうえで、意識されていましたか?

課長:よく言えば丁寧だけど、悪く言えば腰が重い。要は石橋を叩いて渡るタイプなんです。ただ、そういう自分の丁寧さをブーストさせて、どうすれば周りにいい影響を与えられるかは考えていたと思います。例えば、人に物を渡す時に、持ちにくそうだったら袋に入れる、みたいな。本当に些細なことですが、わりとそういう振る舞いが好きだったので……。

──なかなか他人に気づかれないし、褒められることも少ない気がしますが、とても大事な役回りですよね。

課長:仕事ってミスのほうが目につきがちだし、できていることも褒められづらい。でも、自分の長所を自分で分かっていたら、落ち込む必要はないと思います。どうしても他人の評価が欲しくなった時は、「みんな恥ずかしくて褒められないだけなんだ」と妄想しておきましょう。

──その妄想術、精神衛生上よさそうですね。

課長:ともあれ、一番大切なのは、周りの人と自分の「違い」にアンテナを張って、「自分の勝負のしどころ」を自覚しておくこと。

あと、自分はどんなタイプの人と組むと輝けるかを知っておくのも大切かもしれませんね。社会人3年目の時に、会社員を続けるか、音楽の道に進むか、選択するタイミングが来て。仕事も好きだったので、すごく悩みましたが、「バンドを選ぶほうが、ほかのメンバーから何らかの刺激をもらえそうだし、自分もメンバーに与えられそうだ」という読みがありました。もちろん、自分はこんな価値を提供できる!みたいな大それたことは思っていなかったですが、自分がこのバンドのワンピースになれたら面白いんじゃないかな、と。

休日課長さんアー写
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短所は直さず、ツールに頼る

──ちなみに、バンドの中で「自分はこれを担おう」という役割やポジションを意識されることはありますか?

課長:ベースという絶対的なポジションがあるので、あまり意識しないですね。ただ、例えば機材の搬入をしてる時に人手が足りないようだと、スタッフさんを手伝ったほうがいいかな、スタッフさんの仕事に手を出すのも違うな、と葛藤することはありますね。

──ものすごく周りを見ていらっしゃる……。

課長:いえ、単に「頭でっかち」なんですよ(笑)。

──「頭でっかち」という話も出ましたが、課長さんは、短所は積極的に直そうと思うタイプですか?

課長:基本的に、短所を無理に直すよりは長所を育てようと思うほうで、できないことはツールに頼りますね。やらなきゃいけないことをメモアプリに箇条書きしたり。根がすごくポジティブなので、とにかくストレスなく、「楽しく無理なく生きていたい」と思うんです。

──でも、自分ができないことをできる他人を見て、劣等感を覚えたり、「あの人が羨ましい」と思うことはありませんか?

課長:「この人になりたい」とは、小さい頃から一度も思ったことがないんですよね。そう言うと、すごくナルシストみたいに思われちゃうかもしれないんですけど、そうではなくて。どうやったって僕は他人にはなれないじゃないですか。だから、他人のいい部分を自分なりに解釈して、自分を肉づけしていくイメージです。

──「他人になれない」という考えと「他人のいい部分を取り込みたい」という考えが課長さんの中で共存しているんですね。

課長:僕は自分のプレイスタイルも固めていないベーシストだし、機材もコロコロ変わる、いい意味でぶれるタイプ。でもその背景には、「他人にはなりきれないからこそ、他人のいいところを積極的に取り込みたい」という思いがあるんです。

もちろん、他人のいい部分を取り込む場合も、自分の長所を生かせるかどうかは常に気にする。一見矛盾するようですが、自分に対する深い理解と「周囲に振り回されない」という意思があるからこそ、他人のいいところもストレスなく取り込めるんです。

休日課長さんライブ写真
撮影:鳥居洋介

──なるほど。すごく納得しました。

課長:いろいろと話してきましたが、根底にあるのは「何としてでも楽しく生きたい」という感覚かもしれません。自分の長所を育てると、周りの状況やその中の自分の立ち位置が見えてきて、ヘコんだときも焦らなくなります。これでもヘコむことが結構多いほうなのですが、「ヘコんだ時にこそ大きなヒントを与えられている」と思って、失敗から元気になるための要素を意地でも抽出してやる、って自分を奮い立たせています。

──課長さんの軸になっている「楽しく生きること」って大事ですよね。ただ、その軸をぶらさないのが案外難しいように思います。忙しさの中で自分の軸を見失いそうになる。

課長:僕もいつも機嫌よくニコニコ過ごしているわけではないんですけど、最終的にはポジティブになるぞ、と思ってここまで踏ん張ってきた気がします。一方で、ヘコんでいる自分に焦らないというか、立派に見える人たちもみんな意外とヘコんでることに気づくのも大事なんじゃないかな。

……話がちょっと逸れますが、高校時代の修学旅行で、座禅を体験したんです。その時、お坊さんの説法に「自分が苦しいと思った時、隣の人はもっと苦しんでいるかもしれない」というような話があって、それが印象に残っています。その言葉をどう捉えるかは人それぞれですが、「苦しんでる、ヘコんでるのは自分だけじゃないんだな、周りのことも助けたいな」と改めて思えたというか。でも自分のこの説明だけだとブラック企業みたいな考え方につながっちゃうかもしれないなぁ、うーん……。

──(すっごく真面目に考えてくださっている……)

課長:若手社会人の皆さんにあんまり思い悩んでほしくないんですよね……。面接や日常生活でキツいことを言われて自分と向き合う必要が出てきても、それは「巡り巡って自分の長所を生かすため」「それを通じて楽しい人生を送るため」という意識はしっかり持っておいたほうがいいんじゃないでしょうか。逆に、自分の長所を生かすことにつながらない苦労はしなくてもいいんじゃないか、とも思います。あと、リフレッシュはしたほうがいい。いったん頭を真っさらにすると気付けなかった事に気づけたりするので。

取材・文:生湯葉シホ

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