子どもの「学びたい」気持ちを台無しにしたくない。教育格差に立ち向かうYouTuber・葉一さんの野望と挑戦【私のはじめの一歩】

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自分らしい生き方をしながら活躍する人の「はじめの一歩」について、本音で答えてもらう企画「私のはじめの一歩」。今回は、小学生から高校生を対象にした授業動画や悩み相談にこたえる動画で人気を博し、チャンネル登録者数130万人、総動画再生数4億回を超える教育YouTuberの葉一(はいち)さんにインタビュー。「子どもたちが自分の意思で自由に学べる教育」を目指す葉一さんに、順調ともいえる仕事をやめ、成功するか分からない道に飛び込んだ過去の経験や、今の生き方や考え方に影響した経験などについて伺いました。

プロフィール

東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談にこたえる動画を投稿している。チャンネル登録者130万人、再生回数は4億回を超える。

現在のお仕事を始めたきっかけは?

大学卒業後は教材販売の営業を経て、持病の悪化により塾講師に転職しました。 私は学生時代に、進学塾に通った経験がなかったため、塾の月謝がどのくらいかかるか知らなかったんです。そのため塾講師になって、所得の関係で塾に通うことが難しいご家庭があることを知り、ショックを受けました。所得格差の問題が、子どもが選べる教育格差 に直結していることに衝撃を受けて……。それを「仕方がない」と言う人も多かったのですが、「仕方がない」で済ませていいのか……と考えるようになりました。

勤務していた塾は営業気質の高い塾で、なんでも数字で評価されていました。自分で言うのもなんですが、在籍していた3年間、毎年それなりの実績は残していたので出世街道には乗っていたと思います。それでも一度きりの人生、もっと自分が本当にやりたい、「子どもたちが自分の意思で自由に学べる教育」をしてみたいと考え 、塾を思い切って退職しました。そう思った背景として、我が家があまり裕福ではなかったこともあり、「教育=お金をかけるもの」という一般社会の共通解釈に疑問がありました。また、子ども自身の「学びたい」という気持ちを所得の問題で台無しにしてしまうのはもったいないという想いも強かったですね。

とはいえ、辞めた時は具体的にどのように「自分が本当にやりたい教育」をどうやって実現するかは決めていませんでした。塾を退職してからたまたまYouTubeを見ていた時、「私は特別な登録や手続きをしていないのに、こんなに素晴らしい動画を無料で見ることができているぞ」と気づき、ここに授業動画を投稿すれば、子どもたちが自分の意思で自由に学ぶことができる環境を作れるのではないかと思いつきました。

そこで2012年6月1日から授業動画をYouTubeにアップするようになったのですが、しばらくの間はさまざまな人からさまざまな意見が届き、本当に辛かったですね。チャンネル登録者数も800人くらいしかいなくて、何度も心が折れそうになりました。しかし、私がやりたかった教育を実現するためには「子どもたちからは直接お金をもらわずに、自分が生活するためのお金を違う形でもらうことができる仕組み」 が必要で、YouTubeという場所はそれを実現できる可能性があると思っていました。だからすぐに辞めるわけにはいかなかったですね。

この授業動画が、いつかたくさんの子どもたちにちゃんと届いたその時に、子どもたち自身から「こんな授業動画は必要ない」「役に立たない」と言われたら、その時点で辞めよう、そう思っていたんです。

YouTubeを始めて最初の1年はそんな状態が続きましたが、2年ほど経ったあたりから「間違ってなかった」と感じられるようになりました。子どもたちからのダイレクトなコメントや感想が増え始めたこと、再生回数の上昇率といった数字に変化が表れてきたんです。「このまま突き進めば、ある程度の形になる」と確信を持てるようになっていきました。そうして徐々にチャンネル登録者数が増え、私が授業を届けたいと思っていた子どもたちにも、ちゃんと動画が伝わりつつあると感じながら前に進んできました。

葉一さんの今の生き方や考え方に影響した、一番のターニングポイントと、その時に踏み出したはじめの一歩を教えていただけますでしょうか。

youtu.be

「教育に身を捧げよう」と決意したターニングポイントがあります。

大学時代の、教育実習中のことです。私は中学時代にいじめを受けていたことがあり、鬱状態・人間不信となり「生きる意味が分からない」と思って学生時代を過ごしていました。

そうして大学生になり、中学校での教育実習をする機会がありました。ある日授業中にも関わらず屋上のラウンジに生徒が3人いたので、ふと声をかけたんです。話を聞いてみるとその中の1人は、つい最近まで睡眠薬の多量摂取により入院していて先日退院したばかりということが分かりました。直感的にこの子達と話がしたいと思ったので、教育実習の期間中、時間があればその子達と話すようになりました。

話す内容は悩み相談とかではなく、本当にたわいもない話ばかりでした。でもそんな日々が2週間ほど経った頃、その子が「先生、私もう睡眠薬をたくさん飲んだりそういうことはしないから。頑張っていくから」と言ってくれたんです。私は特に説教じみた何かを伝えたわけではありませんが、自分もいじめにあって同じ想いをしていたので、なにか波長が合ったのではないかなと感じています。私たちの「負」と「負」の部分が掛け算されてプラスになったというか……。この出来事は、私に、「人の役に立てるんだ」と強く思わせてくれる経験となりました。「教育という場所で子どもたちに恩返しをしていこう」というこれからの指針、そして生きるバイタリティをもらった瞬間でした。

ただ、そのまま教師になる道は選びませんでした。教育実習中に、教師の忙しさを目の当たりにしていたので「これでは子どもたちに本気で向き合う時間ができない」と感じてしまったんです。さらに、社会に出てさまざまな経験をしてから教育の現場に戻ってきたほうが、子どもたちにきっと色んな話をしてあげられるのではないか、と思いました。そこで一番経験を積めそうな仕事で修行をしよう、と思い営業の道に進むことにしました。営業マン時代の経験は今でもすごく役に立っています。

動画の授業内容が分かりやすいと評判の葉一さんですが、相手に分かりやすく伝えるという点において心掛けていることで、二十代のビジネスマンが真似できることがあれば教えてください。

話している時の自分を俯瞰して見てみることが大切だと思います。

教材販売の営業時代に教わったことですが、プレゼンや営業トークなど自分がどのようにしゃべっているのかを録音して聞いてみると良いですよ。「自分が思っている自分のしゃべり」と、実際に「相手に伝わっている自分のしゃべり」はかなりズレがあるものです。録音した自分のトークを聞いて「話すスピードや言葉の強弱が自分で思っていたのとはこんなに違うんだ!」と気づけたら、そのズレを修正していくのです。

お手本を見つけてマネしてみるのも良いかもしれません。私はラジオがすごく好きなので、好きなパーソナリティの声の表現力を習得するために、録音したラジオにかぶせて自分もしゃべる訓練をよくやっていました。また、YouTubeの動画も撮影後にチェックします。「自分がもしこの動画を見ている子どもだったら、勉強をやる気になるかな?」って俯瞰して見るようにしていますね。

最近初めてチャレンジできたこと、やってよかったことを教えていただけますでしょうか。

今年(2021年度)の受験生は、コロナ禍と受験が重なリ、精神的に疲れてしまう子が多い印象です。そんな子どもたちとできるだけつながりを持ちたいと考え、「自習室」という名前の生放送配信を冬休み限定で毎日実施しました。冬休みが終わる頃に「これからも毎日やってほしい」と何人もの子どもたちから言ってもらえたので、「じゃあ3月11日(注:葉一さんの誕生日)まで毎日やるよ! 最終日は俺の誕生日をみんな祝ってくれ!」って宣言しました。

自分の子ども2人を寝かしつけてから、毎日生放送をやるのは正直かなり大変です。しかし「チャレンジするぞ!」と思ってとりあえず宣言をしました。しんどいですが、普段の授業動画ではなく生配信という「今の自分を共有する」ことは想像していた以上に子どもたちからの反応が良く、チャレンジして良かったなと思っています。

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