ノリで唐辛子農家になったエンジニアが語る、二拠点生活を続けるために欠かせない「本業」の話 #地方で働く

村山晋作さんトップ画像


自分の興味関心を生かして職場とは違う「拠点」を作ってみたい。でも、体力は持つか、収入は減らないか、キャリアは途絶えないかと不安で、なかなか一歩を踏み出せない。そんな人は少なくないでしょう。

システムエンジニアとして東京で働く村山晋作さんは、週末に畑のある群馬へと車を走らせ、唐辛子を栽培する生活を10年以上続けています。ほんの「ノリ」で農業の世界に飛び込みながらも、本業のスキルを生かし、試行錯誤を繰り返すことで、200種類を超える多品種栽培に成功しました。そんな経緯も、村山さん自身は「気負わずやってる」といいます。

村山さんにとって、農業は未知の世界でした。それでも、10年の間に自分のやりたいことをやってこれたのは、本業での経験や心理的な「安定」があったからだそう。二拠点生活を続けていくための、本業と副業のキャリアの関わらせ方について、村山さんに伺いました。

二拠点生活を始めたら休日が「有意義」になった

――村山さんは、平日は東京でシステムエンジニア、週末は群馬で唐辛子農家として働く二拠点生活を、10年以上続けていらっしゃるんですよね。

村山晋作さん(以下、村山):はい。毎週金曜日の夜に車で3時間半ほどかけて群馬に行き、日曜日の夜に東京の自宅に戻ってくるという生活です。エンジニアの仕事は現在は完全リモートなので、唐辛子栽培が忙しいと群馬でテレワークすることもあります。

村山晋作さんのテレワーク環境
東京の自宅のテレワーク環境

――本業が忙しくて群馬へ行けなかったことはありますか?

村山:いえ、記憶している限りでは毎週行ってますね。農業ってけっこういろんなトラブルが起こるので。

――トラブルというと、例えば?

村山:畑が山の中なので、イノシシや鹿、たまに熊なんかも出るんです。そうした獣が隠れられないように、畑周りの草刈りは欠かせません。あと、畑の潅水(かんすい)設備がときどき不調を起こすので、定期的にチェックしなきゃいけない。

村山晋作さんの農作業の様子
畑周辺の草を刈る様子

……ただ、東京の自宅では妻と二人暮らしなので、家を空けすぎると家事が疎かになってしまいます。だから、基本的に平日は東京、週末は群馬の生活リズムは守っています。

――すごく規則正しい生活ですね。ちなみに、唐辛子を育てるための畑はどうやって調達されたんですか?

村山:農園を始める5年ほど前に、母親が田舎暮らしをしようと、群馬に一軒家を買っていたんです。そこで小さな畑を借りていたので、私から「ちょっと唐辛子もやってみない?」と焚きつけたというか。

――お母様も唐辛子はお好きだったんですね。

村山:いえ、母親は、辛いものは苦手です。

――えっ。

村山:たぶん、私がなんだかすごく熱中しているし、仕方ないから手伝うか、みたいな感じだったんじゃないでしょうか。母親には感謝ですね……。

――なるほど。お話を伺う限り、村山さんの二拠点生活はお母様の後押しとご自身の努力で成り立っている側面があるのかな、と感じました。改めて、「二拠点生活を続けられた理由」は何だと思いますか?

村山:もちろん、環境に恵まれていたのは大きいと思います。ただ……努力に関しては、正直にいえば、あまり分からないんですよね。当人としてはそんなに気負っているつもりはなく。強いて言うなら、ルールを決めすぎなかったこと。縛りすぎるとやる気が削がれますし、何より試行錯誤して初めて学べることも多いですから。

あと、休める時にしっかり休んだこと。やっぱりこの生活を10年以上続けると、体が慣れてしまうんですよ。休める時に休むという思考を持たないと、平日と平日の間に時々やってくる中途半端な祝日とか、ああいう時に家で何をしていいのか分からず、落ち着かなくなるので……。

――それは経験者だからこそ語れる教訓ですね……。二拠点生活を始める前は、週末や休日をどう過ごされていたんですか?

村山:ドライブに行くとか……深酒をするとか……褒められるようなことは一切してませんよ。農業についても考えたことがありませんでした。だからもう、唐辛子栽培を始めてからは生活はガラッと変わって、休日をかなり有意義に使えるようになりました。車移動は気分転換にもなりますし、畑仕事をしていると強制的に運動不足も解消されます。

もちろん、こうした生活が続けられるのは拠点先で「やりたいこと」に携われているからでしょうし、すでにお伝えした通り、休める時には休んでいますので、そこまで苦には思わなかったんです。

村山晋作さん記事内写真
本業のトラブル対応をこなし、徹夜明けで向かった唐辛子食育イベントの様子

本業のスキルが農業に使える場面

――肝心の唐辛子栽培についても教えてください。いまや200種類もの品種を育てているとお聞きしましたが、最初は「ほんの趣味」だったそうですね。

村山:激辛ブームが盛り上がり始めていた頃に、「ハバネロがウケてるんだな。じゃあうちでも作ってみるか」くらいの、単なる「思いつき」でした。もともと辛いものは好きだったので、自分が食べる分くらいは育てられたらいいなと。最初はほんのノリで……ノリとはいえ20~30種類くらいは育ててみたんですが。

村山晋作さん記事内写真
村山さんが育てる唐辛子。一般的な小売店ではなかなか出会えない品種ばかりだ

――ノリで20~30種類……? それまでは農業のご経験はなかったんですよね。技術や専門知識はどうやって覚えたんですか?

村山:独学ですね。ネットで検索したり、本を読んだりしたのですが、唐辛子栽培に特化した情報がほとんどなく……。だから基本的には、手を動かして試行錯誤する。本業で言うところのPDCAを1年ごとに回しながら続けてきました。その年の栽培でうまくいかなかったことがあったら、その原因を分析し、翌年に改善することの繰り返しですね。

――例えば、今までにどのような失敗があり、それをどのように改善しましたか?

村山:畑のある群馬の山奥では停電がわりと頻繁に起こるのですが、去年の夏、停電で冷凍庫の中の唐辛子を全部ダメにしてしまったことがありました。今年は、停電しても冷凍庫が動くような仕組みをDIYで導入しました。

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停電した際、自動でバッテリー給電に切り替えるための装置

それから販売管理も、昔は唐辛子の品種に振ったIDを手書きで紙にメモして収穫時にメモと実を同じ袋に入れる、というアナログなやり方でした。しかし、注文の増加に対応しきれず、結局、パソコンで一括管理できるバーコードのシステムを導入しました。このあたりのシステム構築は、本業のスキルも多少は生かされているのかな、と思います。

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ラベル作成機器とバーコードリーダー

――たしかにPDCAをガンガン回されている……!

村山:売り方も、より人目につきやすい並べ方や写真の撮り方を試行錯誤しました。最近はそうした効果もあってか、徐々にお客さんも増えてきました。

あと、唐辛子の多品種栽培はやはり珍しいので、メーカーや大学関係者の方からもお声掛けいただけるようになりました。

本業があるから、トラブルにも冷静でいられる

――お話を伺っていると、村山さんは「トラブルの原因を分析して改善する」というプロセスそのものも楽しまれている印象です。まったく違うジャンルのように見えて、農業とエンジニアのお仕事は案外近いのでしょうか。

村山:そうですね。どちらも、課題に直面して実行・改善を繰り返すのが好きな人は向いているかもしれない。課題直面→実行→改善のプロセスが数限りなく生じるので飽きないですね。

あと、畑仕事も今自動化を進めていますが、自動化と監視はかならずセットでなくてはいけない、という点はエンジニアの仕事にも通じると思います。自動化だけで満足すると、障害発生に気づくのが遅れ、致命的なダメージを受けてしまう可能性もあります。だからこそ、「正常動作を監視する仕組み」もセットで考える必要があるわけです。

――課題さえも楽しめるのはさすがの一言です。 一方で、農業の場合、先ほどの停電エピソードのように、トラブルで作物をダメにしてしまうリスクもありますよね。そこにあまり不安を感じないのは、やっぱり本業の存在が大きいからですか?

村山:本業での収入が安定しているからこそ、唐辛子栽培が大打撃を受けても冷静でいられるというのはあると思います。かなり前ですが、大雪でビニールハウスが全部潰れてしまったことがあるんですよ。専業農家だったら、収入がゼロになる恐れもあった。けれど、その時は「自然を相手にするとこういうこともあるんだな」と諦めがついたし、むしろ「いまからでも種を蒔けばなんとかなるかな」と、リカバリーに気持ちが向いた。それは、経済的にも心理的にも本業という「土台」があったからだと思います。

村山晋作さん記事内写真村山晋作さん記事内写真
大雪被害でへこんだビニールハウスと復旧の様子

――たしかに、そんな時、お金にも時間にもあまりに余裕がないと、疲弊してしまいそうです。

村山:そうですね。最初は希望に満ちあふれていた二拠点生活が、楽しめなくなってしまったら元も子もないと思うんです。だからこそ、仕事にしても家庭環境にしても、何らかの土台を作っておいたほうがいいと思います。私自身は本業の収入もある程度安定しているし、副業を応援してくれる母親や妻もいて、環境に恵まれていたとは思います。

もちろん、一般的には親や配偶者が必ずしも協力してくれるとは限りません。その場合は、やりたいことを理解してくれている人を味方につける、というのが二拠点生活を始めるうえで、一つ大切になるかもしれません。

――たしかに、それは大切でしょうね。家族以外に、どんな人を味方につけられるとよいでしょうか?

村山:同好の士、ですかね……。ただ、あまり親しすぎない関係の人がいいかもしれない。

――それはどうしてですか?

村山:一緒に仕事をするうえでは、意見の対立も出てくるはずです。親しい人同士で意見が対立すると、それ自体が大きなストレスになって、二拠点生活を続ける気力がなくなってしまうかもしれません。だから、ある程度ビジネスライクな関係というか、「目的が一致している相手」と組めるといいんじゃないかと思います。

二拠点生活に向いているのはこんな人

――村山さんが手掛ける多品種栽培は、栽培の効率や事業として成り立たせるための利益率をある程度無視したスタイルだと感じます。売れる唐辛子や育てやすい唐辛子だけに絞らないのはどうしてですか?

村山:日本でどれくらい唐辛子を広められるか壮大な実験をしている、みたいな感覚があるんでしょうね……。それこそ日本のスーパーに並ぶ唐辛子って鷹の爪くらいですが、唐辛子は品種ごとに味がまったく違う。そうした奥深さを広めることで、消費者にどれだけ影響を与えられるか試してみたいという思いはあります。ゆくゆくは「唐辛子」とネットで検索して、うちのネットショップに行き着くような流れができれば面白いなと。

ただ、効率や利益を完全に無視すると設備投資も満足にできなくなるので、最近は、ハラペーニョのようなある程度売れる品種の栽培量を意識的に増やしていますよ。

村山晋作さん記事内写真村山晋作さん記事内写真
収穫したハラペーニョ(左)とハラペーニョなどの唐辛子がメインの具材となったパスタ(右)

――設備投資というと、肥料などでしょうか?

村山:いえ、トラクターとかですね。

――想像していたよりも大きな投資だった……。

村山:やっぱり耕地面積が広くなると、そのぶん耕す時間もかかるので、業務効率化のために……と言いつつ、実際には乗ってて楽しいからなんですけどね。最初は鍬一つで耕してました。でも、さすがに非効率極まるので、耕運機のような農業機械を買い始めたら、がぜん楽しくなってきちゃって。今では「大きな買い物」が大好きです。

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ロマンを感じたので、特に意味もなくキャタピラタイプのトラクターを購入

――ちなみに、言える範囲で、収支のバランスはどんな感じでしょうか?

村山:バランス、ですか……(沈黙)。

――……。

村山:設備投資は、それなりにしてますからね。稼いだら稼いだ分だけ。トラブルを理由に「大きな買い物(設備投資)」をすることが楽しい、という、今はすべてここに行き着く感じです。

――(笑)。お仕事でありつつもすごく楽しそうにされていて憧れます。そんな村山さんから見て、二拠点生活に向いている人はどんな人だと思いますか?

村山:先ほど述べた試行錯誤ができる人というか、いいことも悪いことも楽しめる人でしょうか。想定外の事態に見舞われても、「実験」なんだと思えば気が楽になります。思わぬところで本業のスキルが役に立つかもしれませんし。

もちろん、始める前に考えるのは大切ですが、考えすぎて一歩踏み出せないなら気負わず飛び込んでみてもいいかもしれませんね。

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愛犬とたわむれるのも楽しみの一つ

――ちなみに、二拠点生活を10年以上続けている村山さんにお聞きするのは野暮かもしれませんが、ご自身は「向いている」性格だと思いますか?

村山:そうですね。マイペースで、持続力があって、割と几帳面だけどいい加減なところもある、という「新しいもの好きのやや変わり者」なので。

――野望は持ちながらもルールを決め過ぎず、いいことも悪いことも楽しむ、という、村山さんが実践してこられた二拠点生活のあり方にピッタリ合ってますね。最後に、そんな村山さんの性格に近い唐辛子を教えてください。

村山:クリーム・ファンタジーでしょうか。収穫期は安定して実り続け、不思議な形状をした果実は梨のようにみずみずしく甘い。でも、胎座(種が付いたワタの部分)は結構辛い、ちょっと「ニュータイプで変わり者」の唐辛子です。

クリーム・ファンタジー

村山晋作

1973年、千葉県生まれ。ネットショップ「Peppers.jp」運営者。IT企業で運用オペレータとして勤務した後、プログラミング言語を独学で習得し、プログラマーに転身。23歳の頃、映画やテレビ番組の大道具の仕事に転職するも、2年でIT業界へ復帰。
2006年より群馬で唐辛子栽培を開始。同時期にオープンソースソフトウェアでネットショップを立ち上げ、栽培した唐辛子の販売・流通経路を構築する。
私生活では8年の交際期間を経て2016年に結婚。現在も円満な家庭環境を継続中。

取材・文:生湯葉シホ