副業でビリヤニ作り。会社員が「街をおもしろくする」ためにやったこと

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副業の目的は人それぞれ。例えば副業を「成長のためのステップ」と捉え、自分にないスキルや知識を得る機会として活用する人もいます。

奈良岳さんはポップアップスペースの運営や食イベントの企画に携わるかたわら、店舗やイベントに出張してビリヤニ(注:スパイスをふんだんに使ったインドの伝統的な炊き込みご飯)を作っています。「街をおもしろくしたい」という思いから、まちづくりにまつわるさまざまな仕事に関わり、新たな経験を積む日々です。

奈良さんにとって、ビリヤニ作りは「街をおもしろくする」ためのプロセスであり、自分を成長させるための副業でもあります。

街や仕事に対する固定概念にとらわれない考え方、そこから導き出される副業選びの方法論は、「目標ドリブン」で副業を選びたい皆さんの参考になりそうです。


奈良岳と申します。僕は今、一つの目標に向かって、本業・副業の分け隔てなくさまざまな仕事に携わっています。その目標とは「自らの手で街をおもしろくする」こと。大学時代、街の奥深さに気づき、さまざまな視点からまちづくりに関わりたい、と思ったのがきっかけです。

普段は、会社員として渋谷PARCOにある食のポップアップスペース「COMINGSOON」でブッキングやディレクションを行っています。また副業として、下北沢にある商店街型の商業施設「BONUS TRACK」で、イベントの企画・運営に携わっています。その傍ら、個人プロジェクトとして、大鍋をかついで店舗やイベントに出向き、初めて出会う人にビリヤニをふるまう“流しのビリヤニ”として活動しています。

もともと普通の会社員だった僕が、そうした複数の仕事や活動を同時にこなすようになったのはなぜか。背景には、副業を学びの機会にしたい、という僕なりの思いがあります。

今回はその考え方や本業と副業のシナジー、キャリアへの影響、さらには副業を選ぶ際に大事だと考えるポイントについて、つづっていきたいと思います。

「叔母のビリヤニ」を追い求め

ビリヤニを好きになったのは幼稚園の頃。叔母の配偶者がパキスタン人で、現地の珍しい料理を日常的に食べる機会がありました。中でも、叔母がタッパーに入れて持ってきてくれるビリヤニが大好きで、よくねだっていたのを覚えています。

叔母がドバイへ移住してからは食べる機会もなくなりましたが、ある時から無性にあのビリヤニが恋しくなり、さまざまな店を食べ歩くようになりました。でも、思い出補正もあるのでしょうが、どの店も叔母のビリヤニを超えてくることはありませんでした。

そこで、自分で研究を始めました。叔母からもらったレシピをベースに、さまざまなレシピを参考にし、巷のカレー屋さんに教えを請いながら、おいしいビリヤニを作るために今も試行錯誤を重ねています。

ビリヤニ画像

ビリヤニはただおいしいだけでなく、「最高のコミュニケーションツール」でもあると思います。そのことに気づいたきっかけは、仲間と住んだシェアハウスでの体験でした。

「流しのビリヤニ」が生まれるまで

社会人1年目の2015年3月頃、建築やまちづくりのプロデュースを手掛ける事務所に勤めていた僕は、建築業界で働く仲間4人と一軒家を借りてリノベーションし、2階をシェアハウス、1階部分をイベントスペースのように使っていました。イベントスペースは当初仲間を呼んでパーティーをするくらいでしたが、人が人を呼び、多い時では50人くらい集まることもありました。

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シェアハウスの内装をDIYする様子

仕事から疲れて帰ってくると、知らない人が宴会をしていたりする。アメリカの青春映画に登場するホームパーティーのような感じと言えばいいのでしょうか。その様子が、なんだか面白かったんです。宴会に来た友達が友達を呼んで人間関係が連鎖的に広がっていく、という街のコミュニティスペースでした。

ある日、そこに集まる人たちに試作中のビリヤニを出してみたんです。すると、当時はまだビリヤニの知名度が低かったこともあって、「この食べ物はなんですか?」「どうやって作るんですか?」と、会話が盛り上がりました。また、ビリヤニを糸口に僕自身の自己紹介もできる。ビリヤニって人と人をつないでくれる、すごいコンテンツなのかもしれないと思いました。そして、場所と独自性の高いコンテンツがあれば、たくさんの人を集められることを実感したんです。この気づきはその後の仕事やキャリアプランを考えるうえでも、大いに役立っています。

「流しのビリヤニ」というスタイルを考えついたのも、そこでの出会いがきっかけでした。ビリヤニを食べにきてくれた人がバーを経営していて、「今度、うちの店に作りにきてよ」と。そして、その店で出会った人がまた別の場所に呼んでくれる。ビリヤニを媒介に、数珠つなぎのように縁が重なり、気づけば「流し」のスタイルに落ち着いていました。

お客さんのもとへ出張するスタイルを貫くことで、集客に注力したり、お客さんが来るのを待ったりするような一般的な飲食店のあり方からも自由になれました。

流しのビリヤニを始めて5年がたちますが、今も毎回のように新しい出会いや気づきがあります。なかには、本業の仕事につながるものも少なくありません。そもそも現在の本業であるCOMINGSOONにジョインしたきっかけも、流しのビリヤニで知り合った人からの情報でした。また、COMINGSOONやBONUS TRUCKで食のイベントを企画する際にも、流しのビリヤニで得た情報がヒントになる。何気なく始めた副業が、気づけば本業やキャリアに大きな影響を及ぼし始めていました。

“街をおもしろくする”ための副業

これまで「ビリヤニ」「イベント企画」「建築」とさまざまな世界に足を踏み入れてきました。一見バラバラでとりとめのない選択であるように感じられるかもしれません。でも、こうして本業と副業を行き来するうちに、やりたいことに少しずつ近づいている確かな手応えを感じています。

僕がやりたいのは、“街をおもしろくすること”そのために必要なプロセスを0から10まで自分で手掛けることです。

もともとは大学で建築やまちづくりの勉強をしていました。また、旅も好きで、金曜の授業が終わったその足で夜行バスに乗り、色んな街へ行きました。旅先では地元の人が集まる酒場に飛び込み、そこにいる人たちと仲良くなるのが楽しかった。仲良くなって、地元の人にお酒を奢ってもらうという特技も身に付いて(笑)。ともあれ、“街をおもしろくする”とは、そうした“偶発的な出会いが生まれる場所”を街中にたくさん作ることではないかと、当時から漠然と考えていました。

その思いを叶えるため、新卒でまちづくりをプロデュースする建築系事務所に入社しました。それとは別に、個人のプロジェクトとして始めたのが流しのビリヤニ。それを通じて、ビリヤニが人と人をつなぐコンテンツになると知り、本業でも食のイベントを手がける仕事を始めました。気づけば、ハード(空間・建物)からソフト(コンテンツ)まで、“街をおもしろくする”ために必要な、たくさんの知識やスキルを身に付けることができているように感じます。

もちろん、今の仕事が将来のやりたいことに直結しているなら、わざわざ複数の仕事を掛け持ちする必要はないと思います。ただ、“街をおもしろくする”という僕の目標はやや漠然としていて、定義も広い。ゆえに、必要な知見やスキルも多岐にわたります。本業一本でやっていたら、そのことにすら気づけなかったのかもしれません。自分に今足りていないものを見つける、という点でも、本業以外の仕事を持つ意義は大きいと感じています。

例えば、COMINGSOONにジョインした当時は、イベントを広く周知させるためのプロモーションスキルが自分には足りないと感じていました。また、もう一つの副業であるBONUS TRUCKでの仕事からも、経営やマネジメントなど、テナントの方々から日々さまざまなことを学んでいます。

COMINGSOONは渋谷PARCOの店子側で、BONUS TRUCKは大家側。規模は違いますが、商業施設における真逆の立場を同時に経験できていることも興味深いです。

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こうした経験も、ゆくゆく自分で何かの事業を起こす時に役立てていきたいと思っています。

「何を学べるか」で副業を選ぶ

副業をする理由は人それぞれだと思いますが、僕自身は、仮にどれか一つが駄目になっても困らないよう、意識的に収入源を分散させている側面はあります。

ただ、それとは別に、これまでお伝えしてきたような「将来の目標から逆算して副業を選ぶ」という視点も大事だと思います。副業というとどうしても、自分が今持っているスキルで何かをしようと考えがちですが、それだと単にリソースを切り売りしているだけで、新たな成長は見込めません。もちろん副業といえど仕事なので、他人に対価をもらえるだけの貢献は必要ですが、同時に「それをすることで何が学べるのか」を意識したほうが、目標ややりたいことに近づくのではないかと思います。

そのうえで僕自身は、将来の希望として、一つの場所である程度仕事を学んでスキルを得たら、雇用形態を業務委託に切り替え、そこと緩やかに繋がりつつまた新しい場所で働く、という働き方を考えています。もちろん、メリットとデメリットを踏まえて決める必要はありますが。

“街をおもしろくする”という目標はあるものの、「具体的に何をやるか」は定まっていない現在。だからこそ、今は興味のあること、面白いことにどんどん手を出していきたい。そうやって色んな経験やスキルを得た先に何があるのか、何をしたいと思うのか。今から楽しみにしています。

(MEETS CAREER編集部)

奈良岳

1991年生まれ。平日は会社員として働きながら、「流しのビリヤニ」の名でビリヤニの炊き出し活動を開始。各種イベントや店舗を中心に出店。ビリヤニの提供場所はInstagramで随時告知している。

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