「曖昧さを大事にして枝を広げる」雅楽芸人・エンジニアのカニササレアヤコが仕事で心掛けていること

雅楽芸人でエンジニアのカニササレアヤコさん

「仕事のやりがいとは?」社会人であればきっと誰もが、特にまだ模索の時期である社会人数年目の頃はこのような悩みにぶつかることが多いかもしれません。

今回は、エンジニアでありながら、お笑い芸人でもあるというカニササレアヤコさんにインタビュー。一見して大きな違いのある二足のわらじを履くカニササレアヤコさんは、仕事のやりがいをどのように考えているか伺いました。

PROFILE

雅楽芸人にしてエンジニアのカニササレアヤコさん"

カニササレアヤコ
1994年生まれ。雅楽に使われる笙(しょう)という楽器を用いてネタを行う「雅楽芸人」。『R-1ぐらんぷり2018』の決勝に進出した実績あり。その一方で企業でロボットエンジニアの業務もこなす。 Twitter:@Catfish_nama

芸人として活動をするために就職をした

――カニササレアヤコさんが「芸人」と「エンジニア」の2つの顔を持つようになった経緯を教えていただけるでしょうか。

人を笑わせることが好きで、大学時代から芸人としての活動をしていました。大学を卒業する時に、就職か、芸人か、どちらかの道に行くかを悩んでいましたが、「両方やろう」と決めたんです。

ちょっと変わった決断に聞こえるかもしれませんが、多くの芸人は、芸人の活動だけでは食べていけずにアルバイトをしています。芸人の道を選んだとしてもアルバイトに時間を取られるのだったら、いっそのこと就職したほうがいいですよね。

そこで選んだ仕事がエンジニアだったんです。フレキシブルな働き方ができるというイメージがあったからです。大学では文系だったのですが、独学でプログラミングを学びました。現在では人間とコミュニケーションするロボットのソフトを主に作っています。


カニササレアヤコさんが取り組んでいるロボット「Kebbi Air」
カニササレアヤコさんが取り組んでいるロボット「Kebbi Air」

人からは「どちらが本業?」と聞かれることもありますが、私としては「どちらも本業」だと思っています。

芸人に必須の「トーク」が苦手と気づいた

――日々働いていると、ふと「このままでいいのだろうか」と不安になったりモチベーションを維持しづらくなったりすることもありそうです。特にカニササレアヤコさんはまったく違うお仕事をされていますが、それぞれにどんなやりがいを感じますか?

エンジニアとしては、ロボットという物体が、私のプログラミングした通りに動いたり話したりするのを見るとやりがいを感じます。そして使っている人の役に立っているところを見るとすごくうれしいです。

芸人として仕事のやりがいを感じるのは、やはりお客さんが笑ってくれたときですね。特に記憶に残っているのは『R-1ぐらんぷり2018』の準決勝です。かなり大きな会場で、たくさんのお客さんがいるところでネタをやりました。

その時に、私のネタがものすごくウケて。大きな会場が本当に一瞬揺れたような感じがありました。「会場が揺れる」なんて言い回しがありますが、こういうことって本当にあるんだな……と思いましたね。

でも難しいなと思うこともあって、それは芸人としての「トーク」です。芸人の仕事って、ネタを演じるよりも自由にトークをするほうが多いんです。テレビでも「ひな壇」や「ロケ」などがありますよね。そういうところで陽気な話をすることができず、淡々と普通に話してしまう。
オフィス街で笙を吹くカニササレアヤコさん

お笑いライブの後にも出演した芸人が集まってフリートークをする時間があるんですが、みんなトークが上手で、圧倒されてしまいます。トークができないと、芸人としての仕事は限られてしまいますね。

苦手分野では勝負しない。好きなことを伸ばす

――その時どのようにしてその状況を打破しましたか? 当時のアクションを教えてください。

トークをがんばろうと思った時期もあったのですが、トークが好きな芸人には絶対に勝てない。自分を振り返ってみると、人と普通に話すこともそんなに得意なほうではないんです。加えて、昨今の新型コロナウイルスの影響もあり、ここ1年ほど以前ほど芸人としての活動が思うようにできなくなっていました。

さらに、エンジニアの仕事をしている時に気づいたことがありました。エンジニアの中でもプログラミングが大好きな人達がいて、休日も趣味でプログラミングをしています。私はそういった人達にプログラミングでは絶対に勝てません。ただ、エンジニアの能力というのはプログラミングだけではありません。会社は私のプログラミング以外の部分を認めてくれているんだと思うんです。

それならば、苦手なことを無理に伸ばさなくても、好きなことや得意なことを伸ばすことでいい方向に枝が広がることもあるんじゃないかなと。

そこで、好きな音楽の方面に枝を伸ばしてみるようにしてみました。私は雅楽芸人として笙(しょう)という楽器を用いてネタをしていたのですが、実は雅楽や笙を演奏すること自体が大好きなんです。本格的に練習をしています。

野原で笙を吹くカニササレアヤコさん

おかげで音楽のお仕事や、演奏の機会をいただくことが増えています。あこがれていた演奏家の方と共演できたこともありました。また、以前に比べると活動量は減ってしまいましたが、芸人の仕事においても新しい音楽ネタが生まれてきました。やはり苦手なことをがんばって克服しようとするよりも、得意な方面に行ったほうが私には向いているのかなと思います。

なので最近では音楽の勉強をがんばっていて、特に音楽理論をきちんと学びたいです。
演奏家の方はたいてい音大を出ているので、そういった方々と一緒に演奏するときに恥じない人間になりたい。そのための下地作りです。休日であっても音楽の勉強は欠かさずしています。

現在の目標は「演奏家」を名乗れるようになること。音楽もお笑いもどっちもやっていますよ、と胸を張って言いたいですね。

自分の輝ける場所を探して、どんどん枝を広げていく

――今後はどんな風に活動を進めていく予定でしょうか?

トークは苦手なのですが、ネタを中心とした芸人の仕事はいろいろと進めています。それに私の中ではお笑いと音楽はまったく別のところにあるとは思えないんです。自分はこうと決めずに、あえて曖昧さを持っています。そのほうがお笑いも音楽も両方生かして、横断的な活動ができるのではないかと。

複数の活動をしていると「退路を断って一つに絞らないとダメだ」などと言われることもあると思います。でも、自分の輝ける場所を探して、どんどん枝を広げていくのもいいんじゃないかなと思います。私もそれを模索している最中です。

自分の「こうありたい」という像も、どんどん変わっていってもいいと思います。社会情勢もどんどん変わってきますしね。そのときどきで、自分にとって心地よい環境を自分の周りに作れるといいと思います。私自身は、いますごく充実しているし、それが仕事のやりがいにもつながっているかもしれないですね。

(MEETS CAREER編集部)

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