「自分の自由になる領域」を守って。マンガ食堂の梅本ゆうこさんが考えるライフワークバランス

『ダンジョン飯』(九井諒子)より魂のエッグベネディクト

『ダンジョン飯』(九井諒子)より魂のエッグベネディクト



社会に出て数年目の間は、仕事に慣れておらず、時間の大半を仕事に費やしてしまうことも多いでしょう。その結果ワークライフバランスが崩れ、自分の趣味や好きな活動にうまく時間を割けなくなってしまうこともありそうです。今回は会社員として働くかたわら、マンガに出てくる料理を実際に再現しブログなどで発表する活動「マンガ食堂」をされている梅本ゆうこさんにインタビュー。

梅本さんは会社の仕事と、趣味としての活動である「マンガ食堂」を「あえて地続きにさせている」といいます。そんな梅本さんに、新卒時代などから振り返ってもらいつつ、ライフワークバランスとの向き合い方のアドバイスをいただきました。話を伺ううちに見えてきたのは、仕事と趣味が地続きでありながらも、きっちりと両者を線引きしているということ。仕事と趣味の両立に悩む新社会人にもヒントがありそうです。

PROFILE

マンガ食堂を運営する梅本ゆうこさん"

梅本ゆうこ
1979年生まれ。会社員。2008年にマンガに登場する料理を再現し、ブログで発表する「マンガ食堂」の活動を始める。2012年に活動を書籍化した「マンガ食堂」(リトルモア)を上梓。
Twitter:@pootan

楽しい活動をして、同時に仕事にも役立てたかった

『クッキングパパ』(うえやまとち)より3日かかりのスペシャル煮込みハンバーグ
『クッキングパパ』(うえやまとち)より3日かかりのスペシャル煮込みハンバーグ


――梅本さんは会社員をしながら、プライベートの趣味としてマンガに出てくる料理を再現し、ブログなどで発表する「マンガ食堂」の活動を13年続けておられます。これを始めた経緯について教えていただけますでしょうか。

始めたのは2008年ですね。この活動を始めたきっかけは3つほどあります。

1つ目は、忙しい生活のなかで、何か楽しみを取り入れたかったから。当時、仕事が忙しすぎて、好きだった料理もルーチンワークのようになっていました。そんななか、『深夜食堂』(安倍夜郎)を読んだら「牛すじと大根と玉子のおでん」という料理が出てきました。試しに作ってみたらすごく楽かったんです。

『深夜食堂』(安倍夜郎)より牛すじと大根と玉子のおでん

『深夜食堂』(安倍夜郎)より牛すじと大根と玉子のおでん


2つ目は、インターネットで楽しい活動をしたいと思ったから。私が大学生のころ、インターネットが一般に普及しだしました。私もHTMLを手書きして、プロバイダのスペースにアップして、ホームページを公開していたんです。それがすごく楽しかった。

それが忘れられず、ネットでコンテンツを作る会社を選びました。それ以来、動画の作成、記事の編集、メルマガの執筆など、その時に応じてかなりさまざまな業務をしています。ただ、仕事となると、どうしても学生時代にやっていたように自由にはできません。インターネットで何かを作る楽しみを取り戻したい、という気持ちがありました。

3つ目は、完全に仕事が理由です。当時はブログが全盛期。その流れから私も会社でブログに関わる業務を担当することになりました。そこで、どうせ使うのなら自分の好きな活動をしてみたいと思ったんです。

始めたきっかけの一つに仕事もありましたが、基本的には自分の趣味として続けています。自分としても気分が乗らないときは、もういいや、みたいに思っているところがあります(笑)。更新期間が空いてしまっても気にしません。

ブログを始めて1年くらいで、雑誌の取材が来たのはうれしかったですね。ブログのランキングサイトへの登録など、人に見てもらうための工夫を多少はしてはいたのですが、「こんなことに着目してもらえるんだ」と思いました。

バランスを意識し始めた1つのきっかけ。自分でコントロールできない時間が増えた

――仕事を始めたばかりの20代前半だと、自分でも気づかない間に仕事をがんばりすぎて、プライベートが削られてしまうこともありそうです。梅本さんにもそんなご経験はあったでしょうか?

20代前半は、かなり無茶な働き方をしていました。平日も土日もずっと仕事して、会社に寝泊まりして。

思いっきり仕事をするのは若い時のほうが有利です。私もハードワークを経験したことがあり、現在の糧になっている部分もあります。ただ、こうした働き方は続かないんですよ。

仕事が忙しいと、人間関係も職場の中だけになりがちです。自分の置かれているハードな状況に気づきにくくなってしまうこともあると思います。ストレスで蕁麻疹が出てきてしまったりなど、体に不調が出てきてしまったら、一見軽そうでも要注意です。

また、私の場合は思考が狭まってしまって、作業がルーチン化してしまう状態に陥りました。これは、自分でコントロールできる自由な時間が減ってきてしまっている一つの表れだと思います。気づくことができたら、思い切って違う道を歩むのも一つの手だと思います。

プライベートと仕事を地続きにして高めあう

――これまでのご経験もへて、現在ではプライベートと仕事のバランスについてどういう考えをお持ちですか。

仕事とプライベートは分けるものというイメージがずっとありました。会社から帰ったらスパッと会社のことは忘れて、アフターファイブには仕事とはまったく別の活動をするような。ただ、実際に「マンガ食堂」を始めるようになってくると、仕事とプライベートを地続きにし、それぞれを高めるという方法もあることに気づきました。

「マンガ食堂」を始めたきっかけの1つが仕事だったので、仕事に還元させることは考えていましたが、ずっと続けていると私の活動を知って「こういう仕事はどう?」と職場で声をかけてもらうこともあります。

私の場合は仕事がネットのコンテンツ作りで、趣味がブログを書くことなので、そもそもやっていることが近いですよね。ただ、営業の方がプライベートでも交渉ごとに強かったり、経理の方が家計や投資周りに強かったり、そんな例もあると思うんです。完全にプライベートと分断されている仕事って実はそんなにはないんじゃないかなと思います。なのでプライベートが仕事にも生きるというのはけっこうあるんじゃないかなと。

自分のプライベートについて職場で話してみることから始めてみる

『女の園の星』(和山やま)よりうどんまん
『女の園の星』(和山やま)よりうどんまん


――では、その仕事とプライベートのバランスをとるうえでの工夫はありますか?

プライベートで取り組んでいることについて、職場でも話をしてみるのはいいと思います。私は以前、自分の活動について周囲に言っていませんでした。言っても良いことはないんじゃないかというイメージがあったんです。

でも、思い切ってプライベートについて話してみると、話題が広がったり、人間関係が広がったりしてきました。その結果、先ほどのように自分がやりやすい仕事に繋がることもあります。ただ、プライベートについて言いやすい環境かどうかは、十分に確認しておいたほうがいいですね。

もう一つ、ブログでもYouTubeでもTwitterでもなんでもいいので、仕事で得た知見やプライベートの趣味について発信してみたいことがあるなら、ぜひトライすることをおすすめします。情報の伝え方を身に付けられたり、さっき話したような仕事の相談など、思わぬところからの反応をもらえることがあると思います。

私自身も「マンガ食堂」をブログにせずに、自分で作って終わりにしていたら、こんなにたくさんの反応をいただけなかったでしょうね。その場合はマンガの料理の再現をすること自体が続かなかったかもしれません。

また、これは私の話ではないのですが、コロナ禍でリモートワークと巣ごもりが続いたせいか、同僚や親族など、周囲でもYouTubeに挑戦する人が増えています。普段から直接会っている同僚の意外な人柄をYouTubeから知ることもあります。おもしろいですよね(笑)。こういうのが仕事においても会話のきっかけになって、その後の仕事のしやすさにつながるかもしれません。

必要なのは、自分の中にある「自由な領域」を守ること

――仕事とプライベートを地続きにしていくなかで、困ったことや、悩まれたことはありますか。

「マンガ食堂」をやっていることは会社で知られているので、会社の仕事として料理コンテンツの制作を担当していたことがありました。最初のうちは「プライベートでやっているようなことを業務時間内でできて楽しい」と思っていたんです。

ただ、やはりどうしても仕事にすると「予算」や「目標」や「納期」など、考えることが増えてきてしまいますね。だんだん辛くなってきてしまって。「やはりこれは趣味でやっているのが楽しいんだろうな」と思いました。

思えば、いままで「このマンガ食堂でブロガーやライターとして独立しよう」と考えたことはありませんでした。目指したいとも思っていません。仕事と趣味がゆるくつながっている状態が好きですが、その一方で自分の中で明確に線引きをしているんだと思います。

仕事にはいろいろなしがらみがあったり、リクエストが来るのは仕方がないことなので、受け入れています。その一方で、他者にコントロールされないで自分が自由にできる領域が趣味だと思います。

「好きなことで生きていく」というキャッチフレーズがありますよね。この言葉を「好きなこと『だけ』で生きていく」と解釈する人が多いと思います。でも、「好きなこともやりつつ生きていく」というだけで十分幸せなんじゃないんでしょうか。

今回のお話しのテーマはワークライフバランスですが、人生の中でどんなときでも自分の中に自由になる領域を残しておくっていうことが、重要なのかもしれないですね。

(MEETS CAREER編集部)

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