温泉と仕事を両立するには。温泉オタクの永井千晴さんに聞く

別府の照湯温泉にて
別府の照湯温泉にて


社会に出て数年目の間は、仕事に慣れておらず、時間の大半を仕事に費やしてしまうことも多いでしょう。その結果ワークライフバランスが崩れ、自分の趣味や好きな活動にうまく時間を割けなくなってしまうこともありそうです。

今回は会社勤めをしながらも、「温泉オタク」として全国の温泉をめぐっている永井千晴さんにインタビュー。永井さんは単に入浴するだけではなく、温泉に関する原稿執筆や、講演など温泉にかかわる活動を続けています。「温泉は私自身に課した使命」と語る永井さんに会社勤めとの両立の方法を伺いました。

PROFILE

温泉オタクの永井千晴さん"

永井千晴(ながち)
1993年生まれ。学生時代にライターとして、日本全国の温泉を取材。その後、旅行情報誌『関東・東北じゃらん』編集部に2年在籍し、「人気温泉地ランキング」などの編集を担当する。現在では会社員として温泉とは関連のない仕事をしながらも、経験を生かしてTwitterやブログで温泉の情報を発信している。
Twitter:@onsen_nagachi

温泉オタクになったきっかけはアルバイトのライター

――永井さんはTwitterやブログなどで独自の温泉情報を発信する「温泉オタク」としての活動をされています。この活動を始めた経緯について教えていただけますでしょうか。

きっかけは、大学生の時にしていたライターのアルバイトです。大学を休学している間に、半年間ほどかけて全国300箇所ほどの温泉をまわり、取材記事を書きました。

取材を始めた時は温泉について何も知らなかったんですが、だんだんと泉質の違いが分かるようになってきましたね。「記事を書く」という前提で入浴していたのがよかったのかもしれません。この時に温泉が大好きになりました。

その後にアルバイトで旅行雑誌『関東・東北じゃらん』編集部で、編集者見習いのようなことをしていました。そこでも温泉にかかわる企画をたくさん出していました。

――温泉オタクになったきっかけはアルバイトだったんですね。その後も仕事として温泉にかかわっているのでしょうか。

大学を卒業した後は、温泉とは関係のない仕事をしています。新卒で入ったのはヤフー株式会社です。そこではYahoo!ニュースの編集をしていました。その後、CHOCOLATE Inc.というコンテンツを企画・制作する企業に転職し、IPのプロデュースを担当しています。

現在でも、温泉に関するインタビューや、メディアへの寄稿などを依頼されることもありますが、そうした活動も趣味の一環と考えています。

私にとって温泉は人生の「軸」の一つ

島根県の玉造温泉街にて
島根県の玉造温泉街にて

――すると、永井さんは本業である会社員の仕事の合間に、温泉オタクの活動をしているということになると思います。温泉オタクと仕事とのバランスをどのように考えていますか?

みんな、会社ではそれぞれ果たすべき役割を持っていると思うんです。何らかのミッションを達成するとか、特定の仕事を遂行していくとか、ですね。でも、会社に所属していない本来の自分は、何の役割も持っていません。世間から「こうするべき」と言われるようなことに縛られる必要もなくて、何をするかはまったくの自由だと思っています。

そんな状況だからこそ、自分で自分に何かを課してみたいんです。言ってみれば、「使命」ですね。私にとっては温泉に携わることが使命です。私は温泉を、会社の仕事に並びうる、もう一つの人生の軸と考えているんです。

――なぜ温泉に携わることが使命と考えるようになったのでしょうか。きっかけはありますか。

新卒で温泉とまったく関係のない仕事に就いたことがきっかけだったと思います。温泉が仕事ではなくなり、純粋に自分のために楽しめるようになりました。でも、同時に自分が温泉に貢献できる術がなくなったように感じてしまったんです。

温泉宿は小さな組織で経営されていたり、後継者がいなかったりするんです。そのため、ちょっとしたトラブルでなくなってしまうこともよくあります。実際に、私の「推し温泉」がなくなってしまったケースもありました。

微力ではありますが、温泉オタクとしての情報発信の活動が巡り巡って、「推し温泉」に1円でもお金が多く落ちるようになればと思うようになりました。

仕事と温泉を両立するための「ワーケーション」

――趣味である「温泉オタク」としての活動をとても大切にされていることが分かりました。温泉と、仕事の両立で悩んだことはありますか?

そこまで深刻な悩みではないですが……。毎日が忙しくて、なかなか温泉で純粋にゆっくりする機会が少なくなっていますね。

平日は会社の仕事があり、なかなかの忙しさです。そして週末は、温泉記事の執筆などの活動をしていることも多いです。

――それはお忙しそうです。温泉に入る機会を増やすための工夫はしていますか。

最近、観光地などに出かけて仕事をする「ワーケーション」が流行っていますよね。温泉とワーケーションの相性がいいことに気づいて、ときどき温泉宿で仕事をしています。

昨今の新型コロナウィルスの流行で、温泉宿もワーケーションの需要をキャッチするようになっています。いままで一人客を受け入れなかった宿が、一人客を受け入れてくれるようになったり、Wi-Fiを設置してくれたりしています。

それに、温泉旅館で温泉に入っている時間って、1~2時間程度ですよね。夕飯を食べた後は意外と宿の中で時間をとれるんです。

――ワーケーションを行うにあたっては、会社での働き方の環境や、周囲の理解も必要そうですね。

こういった働き方ができる背景には、所属している会社が「フルフレックス制」であることがあると思います。もちろん会社やチームの了解を得ながらではありますが、私はワーケーションを行う時、社内の共有カレンダーに終日「省エネ稼働」と入れておくようにしています。そうすると、急ぎの用事以外はあまり入らなくなります。

ワーケーションは人と連絡を取り合うような仕事よりも、一人でコツコツと作業を進めるような仕事にどちらかというと向いているのではないかと思います。

例えば、どうしても「作るのに時間がかかる資料」ってありますよね。作りかけの資料を携えて、温泉に行く。宿に着いたらゆったりと温泉に入る。そして、「これだけリラックスしたのだから、夜はやるぞ」としっかり仕事ができるんです。

ワーケーションのコツは「レジャーを楽しむ合間に仕事をする」という意識ではなく、「しっかりと仕事をする合間にレジャーを楽しむ」という意識を持つことだと思います。

モヤモヤしてきたら思い切って有給休暇を使う

――プライベートと仕事を両立させるために行った読者もマネできる具体的なアクションを教えてください。

20代半ばくらいって、会社や自分に対してモヤモヤする時期だと思うんですよね。そこで思いつめると「もうこんな会社辞めよう」などと極端な選択に走りがち。周りの人も「嫌なら辞めちゃったほうがいいよ」なんて無責任に言いますよね。

本当に病気になるくらいに思いつめているのなら、会社を辞めるのがいいのかもしれません。でもその前の「モヤモヤが募っている状態」くらいだったら、一度有休をたっぷりととってリフレッシュしてみませんか。

――うまく有休をとれる工夫などはあるでしょうか?

なんとなく社内に対して気まずさを感じるとしたら、有休の日の社内の共有カレンダーに「終日私用」などと書いておくのはどうですかね。見た人はなんとなく「家族のための用事で有休をとっていそうだな……」と思いそうです。役所で手続きをしているとか。もちろん、実際は自分のために遊んでいてもいいんです。

私は20代半ばくらいの時に1週間くらい有休をとって山陰に温泉巡りに行っていました。いま思えば自分自身を「なかなか図太いな……」と思わないでもないのですが(笑)。そんな風に自分のやりたいことのために有休を使うのって、全然いいと思うんです。

(MEETS CAREER編集部)

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