趣味と仕事のバランスが壊れたときは「何もしない日」を怖れないで。ライターひらりささんに聞く

劇団雌猫の一員でもある、ライターのひらりささん


社会に出て数年目の間は、仕事に慣れておらず、時間の大半を仕事に費やしてしまうことも多いでしょう。その結果ワークライフバランスが崩れ、自分の趣味や好きな活動にうまく時間を割けなくなってしまうこともありそうです。

今回はライターとして、趣味に生きる女性達の話を収集する傍ら、自身でもオタク趣味に没頭するひらりささんにお話しをお伺いしました。

PROFILE

ひらりささん。1989年生まれ。ライター・編集者。女性の生き方や、オタク趣味などに関わるインタビュー記事やコラムをメインに執筆する。"

ひらりさ
1989年生まれ。ライター・編集者。女性の生き方や、オタク趣味などに関わるインタビュー記事やコラムをメインに執筆する。またオタク女性4人組の同人サークル「劇団雌猫」の一員でもある。著書に『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』(劇団雌猫)、『沼で溺れてみたけれど』(単著)など。
Twitter:@sarirahira

趣味に全力で没頭したから仕事をがんばれた

趣味と仕事に没頭していたひらりささん
――ひらりささんといえば、近著『沼で溺れてみたけれど』のように趣味に生きる女性たちへのインタビューの印象が強いです。ひらりささんご自身もオタク趣味をお持ちと伺っていますが、どのように楽しんでおられますか。

20代前半はBLの小説やマンガがものすごく好きで、商業で出ているようなものは新刊リストを一通りチェックして、気になるものはとりあえず全部買う、みたいなペースで読んでいました。ほかにも2.5次元の舞台の観劇に行ったり、アイドルのライブに行ったりしていましたね。

20代後半になるとそれに加えて、友達と「劇団雌猫」という同人サークルを作って、同人誌を毎年1~2冊は出していました。

それから、あるジャンルにはまると、そこからオタクの友達が増えていくんです。現場で会った後の交流や飲み会も楽しくて。そこも含めてオタクの趣味として楽しんでいました。

お金も時間もかなり使っていましたが、すごく充実していて。それに、趣味を追いかけていると、「アドレナリン」が出てくるようなところがあって。その流れに乗って仕事もがんばれました。

――かなり活発に活動されてたんですね。仕事もお忙しかったのではないかと思うのですが、どんなふうに趣味と仕事のバランスを取っていましたか?

新卒でWebメディアの編集の仕事につきました。編集の仕事自体は自分の希望であり、やりがいを感じていたのですが、常に何かに追われているんですよね。締め切りとか、数字とか……。なかなか気が休まらなくて、さきほど趣味があるから仕事をがんばれると言いましたが、仕事が大変な救いを趣味に求めていたようなところはあったと思います。

その頃は仕事で稼いだら、その分を全部趣味につぎ込むみたいなサイクルができていました。仕事でない時間のほとんどは趣味の活動に使っていて、何件も予定を入れていましたね。趣味と仕事を、パズルみたいに隙間なく詰め込んでいました。

さらに劇団雌猫で作っていた同人誌『悪友』が、出版社から出る商業書籍『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』になりました。うれしいことだったんですが、これは趣味が仕事になっていくことにもなります。

趣味と仕事に楽しみややりがいを感じていましたが、いま思えば両方ともがんばりすぎでした。これがバランスがとれているとは、ちょっと言えませんよね。

当時は体力があったし、Webメディアの編集という仕事柄、時間の融通はしやすいので、バランスを崩しながらも自分のやりたいことに没頭できました。ただ、時間が経つにつれて、だんだんとこういったスタイルの維持が難しくなっていってしまいました。1カ月に1回くらい体調を崩すようになってきてしまったんです。

一度思い切って環境を大きく変えてみる

イギリスの大学院に留学しているひらりささん
――趣味と仕事の両方を楽しむ一方で、せわしない日々を送られていたんですね。バランスを取り戻すために、どんなことを行いましたか?

以前から海外の大学で学ぶことに興味があり、短期で語学留学をしたこともありました。そして、2021年の秋にイギリスの大学院に入学しました。学生をしながら、ライティングや編集の仕事などを行っていますが、学生ビザ上の制限もあるので、仕事量としては相当絞っています。

オタク趣味といっても、私の場合はとにかく流行を追いかけるようなところがあったり、現場に通ってオタクの友達と交流したりしているような時間が相当ありました。自分がすごくしたいから、というより、みんなしてるから、という消費もあったかもしれません。そのこと自体が楽しかったんですけどね。

環境を変えることで、現在では自分のペースでゆったりと映画や読書などを楽しんでいます。オタク的な趣味から、インドア的な趣味に移ったという感じです。また、仕事を絞ったことで使えるお金も減っています。以前のような趣味と仕事を隙間なく詰めるようなスタイルにはならなくなりましたね。

――海外に留学をするというのはかなり思い切った行動に感じました。普通なら趣味を控えて、休息を取るという発想になりそうです。

その時は、単に休息が欲しいというよりも、自分の生活のスタイルの全体を変えたかったんです。そんな時には、やっぱり仕事から変えてしまうのが一番やりやすいと思いました。

私の場合、趣味はハマるときにはハマっちゃいますし、なかなか自分ではコントロールが難しい部分もあります。仕事はコントロールしやすいですよね。

もちろんこの決断には相当悩みました。新型コロナウイルスの流行が決断を後押しした部分もあります。どうなるか分からないご時世だから、会社にとどまっておくというのが、確かに普通かもしれません。ただ、私の場合はこの状態が続くことに耐えられないから、思い切って新しい道に行くことにしたんです。

ここには、リモートでのライティングや編集などで、ある程度仕事を続けられる見込みがあったという背景もあります。

――留学されて数カ月経っていますが、率直な感想としていかがでしょうか。

勉強にかなりの時間をとられますね。授業は二コマなのですが、そのために毎日予習しないとついていけません。それに英語もちゃんと学んでおかないと、授業が理解できない。

それでも、東京にいる時よりも時間の余裕は確実に増えましたね。先にも言ったように、小説や映画などを鑑賞する時間を取ることができるようになりました。仕事を辞めたのもそうですし、そんなに友達ができてないので(笑)、外出や飲み会の予定を詰め込みすぎることがなくなったんです。

また、イギリスで新型コロナウイルスが猛威をふるい続けています。医療体制やマスクについての感覚など、日本にいた時とまったく違い、それもそれで社会勉強になっていますね。

何もしないことを怖れない

カレンダーの中に何もしない日を作るというひらりささん
――思い切って大きく環境を変えるのは、なかなかすぐには真似できない部分もありそうです。若手のビジネスパーソンが気軽に実行できそうなライフワークバランスの整え方はありますか。

仕事をするでもない、趣味のことをするでもない、「カレンダーの中に何の予定もない日」を作るのがとても大事だと思います。理想をいえば、そんな日が2週間に1度くらいはあるといいんじゃないでしょうか。

休みの日でも、趣味で人と会ったり、現場に行ったりすると、前向きな感じがしますよね。楽しいから気持は上がっていって、ストレスは解消されていく。でも、やっぱりどうしても体が休まっていないという現実はあると思います。だから何もしないことを怖れないでほしいです。

そして、なかなか休息を取れない人って、他人のやっていることを過剰に気にしてしまう場合が多いのではないでしょうか。仕事も、趣味でも、自分よりすごい人をみると「自分ももっとやらなきゃ」と思ってしまうような。

私もそういうタイプなので分かるのですが、人のことを気にしないで自分の行動を決めるのも大事なことです。すごい人の行動を真似しようとして、「自分にはあわないかも?」って思うことがありますよね。そんな時は、無理に追いかけない。やり方はひとそれぞれなので、すごい人の成功パターンを過信しないようにします。

こういったことを、ちょっとだけでも頭に片隅に入れておいてもらえたらと思うんです。そうすれば、もしも自分が仕事とプライベートのバランスを崩したときに、うまくリカバリーできるのではないでしょうか。

撮影:飯本貴子

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