<プロフィール>
安井友梨。愛知県出身。30歳を機に、2014年からトレーニングを開始。トレーニング歴わずか10カ月でALL JAPANビキニフィットネス選手権大会に優勝。以来、2021年開催の同大会に至るまで、前人未到の6連覇を達成。2019年にはアジアビキニフィットネス選手権で総合優勝、2021年にはIFBB世界ボディビル・フィットネス選手権大会で準優勝を飾る。著書に『筋肉をつけて24時間代謝を上げる! 働きながらやせたい人のための「食べまくりダイエット」&「超時短ゆるガチ筋トレ」―自宅でできる簡単メソッド』(東洋経済新報社)、『究極の太らない体を手に入れる ユリ式筋トレ』(KADOKAWA)。
Instagram:@yuri.yasui.98
ブログ:フィットネスビキニ優勝への道
銀行員として平日フルタイムで働きながら、“ビキニアスリート”としても活動する安井友梨さん。30歳から本格的なトレーニングを始め、わずか10か月でALL JAPANビキニフィットネス選手権大会で優勝。35歳でアジアチャンピオンとなり、現在は世界一を目指す挑戦を続けています。
「スケジュールに空白がない」というハードな日々をパワフルに、ポジティブに乗り越える安井さん。表情や言葉は自信に満ち溢れ、何より常に楽しそうな印象を受けます。しかし、ビキニフィットネス(髪の毛や顔だち、バランスのとれたプロポーション、肌の色つやなどを総合的に審査する競技)に出会う前はネガティブ思考で、何事にも消極的だったのだとか。
「ジムに入会申し込みの電話をかけた瞬間が、人生のターニングポイントだった」と語る安井さんに、自身の未来を大きく変えたチャレンジについて伺いました。
365日、おはぎを食べない日はない
──安井さんといえば『マツコの知らない世界』に「おはぎマニア」として出演されるなど、個人的には「おはぎ」のイメージが強いのですが、年間にどれくらい召し上がりますか?
安井友梨さん(以下、安井):少なく見積もっても1200個くらいでしょうか。毎日平均して2〜3個は食べます。365日、おはぎを欠かすことはありません。
──すごい。後ほど触れますが、安井さんは筋金入りのトレーニーでもありますよね。甘いものってトレーニングの大敵という印象なのですが……。
安井:私にとっておはぎはスイーツではなく、スーパーフードなんです。おはぎって1個あたりの脂質が0.6gほどで、さらに豆が使われているので植物性のタンパク質もたっぷり摂れる。おにぎりを食べるよりも栄養補給に向いています。
私はトレーニング前後に、おはぎとプロテインを一緒に食べています。運動の前後は食べ物の栄養が筋肉に行き渡る「スーパマリオのキラキラタイム状態」ですからね。
──おはぎは「トレーニング飯」として理にかなっていると。
安井:はい。一番量を食べるのはオフ期(大会後の期間)には、全国各地のおはぎを片っ端から取り寄せたり、旅行先で「おはぎツアー」を敢行したりして、1日40個くらい食べまくる時もあります。
「猫背のぽっちゃり体型」から10か月で日本一に
──そうやっておはぎを食べまくっても素晴らしい体型を維持できている安井さんですが、30歳まではトレーニング未経験で、ダイエットにも何度も失敗してきたとか。
安井:高校生の頃から何度もダイエットに挑戦しては、リバウンドを繰り返してきました。「10kg痩せるぞ」と意気込んで始めるものの、結局3日坊主で終わるみたいなことも多くて。
そもそも、うちは“ぽっちゃり家系”なんです。高校生の頃の私が体重70kg、母は80kg、祖母は100kgくらいあったと思います。週末は朝からパフェを食べ、夜はみんなでビュッフェに行くような食べまくり家族で(笑)。大人になってからも食べることは唯一の趣味で、平日のランチから食べ放題に行き、夜の飲み会に参加した後にニンニクたっぷりのラーメンを替え玉するという、今では考えられない食生活でした。
──現在のように体を鍛えたり、運動の習慣があったりしたわけでもない?
安井:高校の部活は背が高いという理由だけでバレー部に入りましたが、バイトを優先し、ろくに顔を出しませんでした。大学時代は和菓子を目当てに茶道部に入りましたし、20代は一切スポーツをしていませんでしたね。
──それが30歳になって、いきなりトレーニングを始めたと。しかも、ジムに通い始めてからわずか10カ月後にALL JAPANビキニフィットネス選手権(35歳以下163cm超級)で優勝。いったい何があったんですか?
平石:30歳を過ぎたある日、ふと鏡のなかの自分を見てショックを受けました。あまりにも体型が崩れていることに、恐怖すら覚えたんです。そんな時、ジムに通い始めて半年で20kg痩せた母の勧めもあり、ペア割引で同じジムに入会したのがトレーニングにのめり込むきっかけでしたね。
入会時にジムのトレーナーから言われたのは「体重を目標にするのではなく、“どんな姿になりたいのか”を考えてみてください」ということ。それをうけて、「なりたい姿」を探すなかで知ったのがビキニフィットネスの存在です。そんな競技があることも初めて知りましたし、40歳の主婦の方がすごくカッコいい体になって、大会で優勝していることも驚きでした。
ただ、当初は痩せたらトレーニングをやめるつもりでしたし、ましてや大会で優勝しようだなんて考えてもいませんでした。でも、「清水の舞台から飛び降りるような、大それた目標を掲げたら本気になれるんじゃないか」と思って、ブログを立ち上げ、「大会で優勝する」と宣言したんです。その時は、ここまで人生が激変するとは、夢にも思いませんでしたが……。
大好きな“シュワちゃん”の教えを胸に日々精進
──まずはどんなトレーニングから始めましたか?
安井:姿勢の改善ですね。当時は高身長がコンプレックスで、1ミリでも小さく見せたいという思いから猫背になり、すごく姿勢が悪かったんです。トレーナーにも、「なんて姿勢が悪い人だ」と驚かれたほど。
姿勢が悪いままトレーニングすると怪我しやすいですし、そもそも「土台」がボコボコだと、その上からどんなに綺麗な建物をつくっても歪んでしまいますよね。そこで、最初の半年はひたすらアライメント(骨や筋肉、関節が適切に配置されている状態)を整えるストレッチに勤しみました。
──トレーニング開始から10カ月で日本一になったということで激しいトレーニングをしていたのかと思いきや、まずはじっくり下地をつくっていったんですね。
安井:はい。私にとっては、そのやり方が合っていたのだと思います。もし、いきなり厳しいトレーニングを課されていたら続かなかったでしょうね。最初の頃はジムに行くのは週2日だけ、しかも1回はストレッチのみ。でも、それだけでどんどん姿勢が良くなり、疲れも取れる。ジムに行くと楽しいしスッキリするので、歯磨きみたいな感覚で自然と足が向くようになりました。
──そうやって体が変わっていくうちに、内面にもポジティブな変化はあったんでしょうか?
安井:むしろ、内面の変化のほうが大きかったんです。特に変わったのは、他人と比べるのをやめたこと。20代の頃は仕事でもなんでも、常に誰かを羨んでいました。とにかく自信がなくて。
でも、トレーニングって他人と比べるものではなく、基本的に「自分との戦い」なんです。一歩でもいいから、昨日より前に進む、その繰り返し。そうして毎日、小さなゴールテープを切ることで少しずつ自信がついていったように思います。そして気づけば、目の前の景色もどんどん変わっていきました。
──自信がついたことで、会社での仕事や生活にも良い影響がありましたか?
安井:そうですね。トレーニングで昨日できなかったことが今日できるようになっていくのと同じように、仕事も「やってできないことはない」と思えるようになりました。これまで敬遠していた難しい案件も、臆することなくチャレンジできるようになりました。トレーニングは、痛みなくして成長なし。仕事もあえてイバラの道を突き進むことが、成長につながるはずだと。
また、新しいことを始めるのに積極的になりました。仕事に限らず習い事なども、少しでも興味が湧いたらとにかくやってみる。「体操教室」とか「バク転教室」とか、これをやったら楽しいかも、成長につながるかもと思った瞬間に、見切り発車で申し込みの電話をしてしまいますね。その時どんなに忙しかったとしても、スケジュールのことは後で考えればいいやって(笑)。
──後先のことは考えず、まずは飛び込んでみる。
安井:極端に言えば「明日死んでもいい」と思えるくらい、一日一日をやり残しなく終えたいと思うようになったんです。30歳までは無難な道ばかり歩んできて、やりたい気持ちにも蓋をしてきたので、余計にそう思うんでしょうね。「できる・できない、じゃない。やるか・やらないかだ」って。
──今の安井さんからは想像できませんね。先ほど「自信がない」ともおっしゃっていましたが、もともとは消極的な性格だったんでしょうか?
安井:はい。石橋を叩いて叩いて……結局は渡らないようなネガティブ思考の人間です。今もたまにそういう自分が出てきて、泣きながらトレーニングをすることもありますよ。
そんな時には、私が最も尊敬するアーノルド・シュワルツェネッガーさんの「ポケットに手を入れたままでは成功へのハシゴを登れない」という言葉を思い出すようにしています。
私は2014年の11月にトレーニングを始め、やっとポケットから手を出しました。ジムに入会するというほんの小さな一歩が人生を変えた。だから、ポケットから手を出すきっかけさえあれば、誰でも成功を掴むことができると思っています。
──ただ、そうはいっても仕事をしながらトレーニングを続け、大会に出るために自分を律し続けることは簡単ではないと思います。すべてを投げ出したくなるような時はありませんか?
安井:もちろんあります。年に1度くらい「全部やめたい」と夫に愚痴を吐いていますから。そんな時に思い出すのも、やはりアーノルドの言葉。彼がスピーチで語った“人生を成功させる6か条”です。
- 自分自身を信じること
- ルール(常識)を打ち破ること
- 失敗を決して恐れないこと
- 否定的な意見を言う人の話に惑わされないこと
- 猛烈に働くこと
- 恩返しをすること
迷ったらいつもこの6か条を心の中で反芻し、「今の自分はこれを守れているだろうか」と自問自答しています。すると、不思議とまたやる気が湧いてくるんです。
寝る前に「今日やれることは全部やった?」と自問
──おはぎの食べ歩きからトレーニング、そして新たな習い事まで、本当にいろんなことに挑戦されていますが、いったい毎日どんなスケジュールで動いているのでしょうか?
安井:平日は朝の5時に起き、6時から自宅でトレーニングをしています。8時から18時までは会社で仕事。仕事終わりの19時から21時までパーソナルトレーニングを受け、そこから柔軟教室やバレエ、ダンスの教室などのレッスンに行って、帰宅するのは毎日23時くらいでしょうか。帰宅後はお風呂に入りながらブログを書いたり、セミナーの台本や取材対応の準備をしたり、なんだかんだで就寝は深夜の2時頃になりますね。
──ハードですね……。ということは、毎日3時間睡眠?
安井:平日はそれくらいですね。休日は朝の7時からジムでトレーニングをしています。
──スマホを見てダラダラする時間とかはないんですか?
安井:ないですね。スキあらば予定を入れてしまうので、度々スケジュールが大渋滞を起こしてしまって(笑)。電車が一本でも遅れたら終わり、みたいな。
先ほども言いましたが、とにかく1日のなかで“やり残し”があるのが嫌なので、毎日寝る前に必ず「今日やれることは全部やったかな?」と自問します。もし、やり残しがあったら夜中でも起き上がってしまいますね。「今日は疲れているから明日やろう」という思考を捨て、常に昨日より一歩でも前に出る、目の前の1分1秒を精一杯生きることを心掛けています。
一番にならなくてもいい。夢中になれるものを見つけよう
──安井さんの生き様は、「人は何歳からでも変われる」ことを体現しているようにも感じます。
安井:私はもともと人前に出ることがものすごく苦手でした。会社の朝礼で、見知ったメンバーの前で少し話をするだけでもガタガタと足が震えて、冷や汗を流してしまうくらいのあがり症。それは今も変わっていません。
でも、向いてないことに挑戦するからこそ成長につながる。30歳を過ぎてからトレーニングを始め、31歳で日本チャンピオンになれた時から、ずっとそう思って生きてきました。
新しく何かを始めるのに、年齢は関係ありません。35歳でフィットネスビキニのアジアチャンピオンになった時、周りは20代前半の選手ばかりでした。その後、37歳で世界選手権2位になり、今は38歳ですが世界一を目指しています。これからも「当たって砕けろ」の精神で挑戦し続けていきたいですね。
──一方で、かつての安井さんのように、「どうせ一番になれない」と新しく何かを始めることを躊躇ったり、挑戦を諦めたりしている人も多いように思います。取材の最後に、そんな人に向けてのアドバイスをいただけますか?
安井:「人より秀でたい」「一番になりたい」ではなく、「何かに夢中になりたい」という思いを出発点にするのがいいと思います。「夢中は努力に勝る」という言葉もありますよね。何か一つのことに絞るのではなく、まずは手当たり次第、何でもチャレンジしてみるのがいいと思いますよ。
──先ほどおっしゃっていた「見切り発車」ですね。
安井:はい。1年くらいやってみて合わないものはやめて、変わらず夢中になれるものを続けたらいいと思います。ずっと夢中でやっていれば、一番と言わずともそれなりには上達するはず。そうやって自分の好きなこと、得意なことを増やし、武器をたくさんつくっていく。すると、その“合わせ技”が自分の個性になっていくんじゃないでしょうか。
私が大好きな安室奈美恵さんは「自分より歌が上手い歌手や、踊りが上手いダンサーはたくさんいる。でも“歌って踊る”ことに関しては誰にも負けない」とおっしゃっています。
私も大会で優勝はしましたが、自分より筋肉の大きな人やプロポーションの良い人はたくさんいます。一つひとつの要素でいえば、一番になれるものって何もないのかもしれません。でも、「銀行員として働きながらビキニフィットネスで世界一を目指して、おはぎを年間1200個食べる人」は自分しかいません。そんな個性に自信を持っていますし、夢中になれることがたくさんあって幸せです。
皆さんも、少しでも何かに興味が湧いたら、躊躇わず、年齢を言い訳にせず、ぜひ挑戦してみてほしいです。そのことに夢中になれたら、きっと見たことのない景色を見れると思いますから。
(MEETS CAREER編集部)
「より多くの人がステージへ立ち、夢を叶えてほしい」という思いで安井さんが考案した新競技「ドリームモデル」(コスチュームはイブニングドレスのみ、ポーズも2つのみ)の大会が初めて開催されます。現在予定されている日程は以下の通り。
- 8月21日 東京ベイ大会
- 10月2日 東京大会
- 10月23日 愛知県大会
- 11月5日 静岡県大会
- 11月13日 札幌大会
- 11月20日 北陸大会
詳細は主催のマッスルゲートによる競技説明会の動画を参照してください。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:曽我美芽