パレオな男・鈴木祐さんがぼんやりした体の不調に悩む20代に“旧石器時代人の生活”を勧めるワケ。

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<プロフィール>
鈴木祐。1976年生まれ、慶応義塾大学SFC卒。16才の頃から年に5,000本の科学論文を読み続けている、人呼んで「日本一の文献オタク」。大学卒業後、出版社勤務を経て独立。雑誌などに執筆するかたわら、海外の学者や専門医などを中心に約600人にインタビューを重ね、現在は月に1冊のペースでブックライティングを手がけつつ、1日に2~4万文字の原稿を量産する。著書に『進化論マーケティング』(すばる舎)、『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)や『科学的な適職』『無(最高の状態)』(同)、『不老長寿メソッド』(かんき出版)など。
Twitter:@yuchrszk
ブログ:パレオな男


『最高の体調』など、体調管理をテーマにした著作を数多く手がけてきたサイエンスライターの鈴木祐さん。健康にまつわる科学論文を読み漁り、そこで提唱されている健康法を一つひとつ自分の体で試してきました。

その結果、最も効果を感じたのが「パレオな生活」。現代の生活に起因するさまざまな体調不良は、パレオ、つまり「旧石器時代」の暮らしを再現することで解消できるという理論です。

20代の頃は怠惰な生活を送っていたという鈴木さんが、どんな経緯でパレオな生活に行き着いたのか。パレオな生活にはどんなメリットがあるのか。ビジネスパーソンが避けては通れない、仕事と体調の関係についてじっくり伺いました。

あなたのパフォーマンス低下は「体調不良」が原因かもしれない

──「パレオな生活」の中身を聞く前に……突然ですが、仕事でミスをした時に「お前の意志が弱いからだ」「仕事に向き合う姿勢が悪い」と精神論で上司に詰められることってありますよね。

鈴木祐さん(以下、鈴木):あるあるですね……。

──そんな精神論に対して「別にやる気がないわけじゃない(体がだるくて仕事が手につかないだけなんだよな)」とモヤモヤしている人も少なくないと思うんです。

鈴木:まず、「意志」や「やる気」という概念は一旦無視してほしいんですよ。だるくて思うようにパフォーマンスが出せない、という状態を、スキル不足や経験不足は関係なく、体調不良だと捉える。そこから具体的な改善策を考えるべきです。仕事だって所詮人間の営みですからね。

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──なるほど。「多少無理しても平気」と思いがちな若い世代は特に、そこは普段あまり意識できていないところかもしれません。

鈴木:そうした体の不調は、「人間のDNAに組み込まれた性質」と「近代的な生活」とのズレが引き起こすものです。

──……というと?

鈴木:少しスケールの大きな話をさせてください。人類の起源は類人猿が活躍した600万年前ですが、現代へつながる農耕・定住が始まったのは約1万2000年前と“つい最近”のこと。狩猟採集が中心の生活を長らく送ってきた人間の体は、新しい生活スタイルにまだ適応できていません。人類の進化が追いつくには、あと数千世代の時を経る必要があるでしょうね。

──つまり、現代人は体の仕組みに馴染まない生活を送っていて、結果的にさまざまなズレが生じてしまっている(それが体調不良につながっている)と。具体的には、どこがどうズレているのでしょうか。

鈴木:挙げればキリがありませんが、代表的なのは食事と睡眠です。食事でいえば、人間のDNAには狩猟採集時代の「食べられる時に食べて、カロリーを過剰に摂ろうとする性質」が組み込まれています。その性質は現代人にも引き継がれているため、必要以上に食べ物を食べようとしてしまうんですね。

睡眠も、人間にはもともと「暗くなったら寝る」という単純なシステムが組み込まれているのに、現代人はベッドの中にまでスマホを持ち込んで“夜中まで光を浴び続ける生活”を送っています。これでは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が妨げられ、不眠になるのは当たり前です。

──なるほど。人間の体内システムと生活習慣のズレを意識できていないだけであって、意志のあるなしは関係ないと。

鈴木:​関係ありません。人間は「食べる・狩る・寝る」という原始的な生活を送っていた数百万年もの間ずっと、本能のメカニズムに従って生きてきました。対して「意志」というのは、人類史のなかではわりと最近になってできたシステムなんです。農業が人間の生活に計画性をもたらしたことが、その起源とも言われています。

だから、歴史の浅い意志の力で、数百万年にわたって積み重ねられた本能のメカニズムに対抗するというのは、どだい無理な話なんです。

──――意志の力なんて、はなからアテにしちゃいけない、ということですかね。

鈴木:そう。精神論で詰めてくる上司だって、別のところでは「意志の力で自分をコントロールできない」と悩んでいるかもしれませんよ。

──では、「ズレ」をなくして体調不良を克服するためにはどうすればいいですか?

鈴木:簡単なことで、人間の体にマッチした「原始的な暮らし」をすればいいんです。僕は「パレオ(旧石器時代)な生活」と呼んでいますが。もちろん、現代人が旧石器時代人のように暮らすのは不可能でしょうが、できる範囲で近づけるんです。

具体的には、旧石器時代と現代を比較して「多過ぎるもの」を減らし、逆に「少な過ぎるもの」を増やすこと。そして、旧石器時代には存在しなかった「新し過ぎるもの」をなるべく遠ざけること。これをするだけで、ズレに起因する体調不調は大きく改善されるはずです。

「多過ぎるもの」を減らし、「少な過ぎるもの」を増やす

──では、一般的な「20代会社員の生活」における“多過ぎる”“少な過ぎる”“新し過ぎる”に該当するものを、いくつか挙げていただけますか?

鈴木:多過ぎるものは「摂取カロリー」や「アルコール」、「塩分」や「飽和脂肪酸」「オメガ6脂肪酸」、それから「人生の価値観」なども挙げられます。

少な過ぎるものは「睡眠」と「運動」が代表格で、栄養素でいえば「ビタミン」「ミネラル」「食物繊維」「タンパク質」「オメガ3脂肪酸」など。あとは「自然との触れ合い」や「自然光の摂取量」などもそうでしょうね。もっと抽象的な要素としては「深い対人関係」も。

新し過ぎるものは山のようにありますが、あえて挙げるなら「SNS」でしょうね。

──いずれも興味深いですが、順を追ってご解説いただきましょう。まず、旧石器時代人よりも現代人のほうが「ビタミン」「ミネラル」「食物繊維」の摂取量が少ないというのは驚きです。

鈴木:確かに、狩猟採集民族の食生活は地味で貧相です。でも、ビタミンやミネラルの摂取量は現代の日本人の2倍、食物繊維は3〜5倍と言われていて、歴然とした違いがあります。

ファストフードのような食事に頼り過ぎると、これらの栄養素は圧倒的に不足してしまうからですね。

──「自然との触れ合い」も不足しているということですが、毎日会社で働いていると、なかなか難しいですよね。

鈴木:毎日は無理でも、週末はキャンプに行くなどして自然のなかで過ごすだけで違いますよ。難しければ、起床後にベランダで太陽光を浴びるだけでもいい。体内時計もリセットされて、睡眠の質向上にもつながります。

──なるほど。あとは「深い対人関係」も一朝一夕に作れるものではありませんよね。特に、近年はSNSのようなコミュニケーションツールの進化で、多くの人とつながりやすくなったぶん、一人ひとりと深く交流する機会は減ったようにも感じます。

鈴木:浅いですよね。何を良し悪しと捉えるかは人それぞれですが、SNSは特定の人との関係を深めるよりも、知らない人を目にする機会を増やすことに貢献しているテクノロジーだなと。

SNS以外でも、現代人は通勤電車で毎日知らない人とすれ違っていて、これも無視できないストレスになっていそうです。通勤時間が長くなると寿命が短くなる傾向にありますしね。

思うに、それぞれ小規模なグループで生活し、数少ない顔見知りとだけ深いコミュニケーションを取っていた旧石器時代は、現代よりも精神衛生が保たれやすい環境だったのではないでしょうか。

──たしかに、鈴木さんは“新し過ぎるもの”の代表格として「SNS」を挙げられています。これはやはりストレスに直結するものだから、と捉えていいのでしょうか?

鈴木:そうですね。もちろん生活を豊かにした側面もあるのでしょうが、SNSで知らない人のキラキラした生活を見せつけられ、自分と比較して落ち込んだり、あるいは同世代の成功自慢やスキルアップに勤しむ意識の高い投稿に焦りを感じたり。イヤでも他人と自分を比較させられて、余計なストレスを生む原因となっているように思います。比較は人間のメンタルにとって一番良くないんです。

この部分は、多過ぎる「人生の価値観」とも関わってくるのですが、現代はとかく目に入る選択肢が多い。かといって、未来への希望に満ち溢れているわけではなく、やれ副業だ、やれネットでブランディングだ、と選択肢を提示されて、ただ煽られる。でも、一つの会社に就職しさえすればOKという時代でもない。こんな状況で自分の生き方を選ばなきゃならない今の20代は気の毒ですよね。

少なくとも、一日のなかで「スマホを触る時間」は制限したほうがいいと思います。これ、Webメディアのインタビューで言ってしまっていいんですかね(笑)。

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これが会社員でも実践可能な「パレオな一日」

パレオな生活のタイムスケジュール

──ここまで「パレオな生活」に必要な条件を見てきましたが、ここからは20代が無理なく実践できる「パレオな一日」のモデルケースを教えていただきたいと思います。まず、「起床から通勤前まで」の時間は、どのような過ごし方が望ましいでしょうか?

鈴木:まず、起床時間は一定にしましょう。理想は毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きることですが、夜遅くに帰宅することもあるでしょうし、なかなか寝付けない日もあるでしょう。であれば、どんなに寝るのが遅くなっても、せめて毎日同じ時間に起きること。そうすると、日中疲労物質がたまってその夜は自然と寝付けるようになります。

目覚まし時計は脳を無理矢理覚醒させてしまいますので、自然な状態に近づけるためにも、できれば使わず起床してほしいですね。

──旧石器時代人の生活を再現するのもなかなかハードですね……。

鈴木目覚めたらまず太陽の光を浴びます。太陽光を浴びて脳と体が自然に覚醒したら、瞑想や5分程度の軽い運動など、何かしらのルーティンをこなします。脳の覚醒状態をゆるやかに持続させながら、通勤までの時間を穏やかに過ごしましょう。ちなみに蛍光灯など人工の光を体に当て続けるのは、体内リズムを狂わせてしまうのでオススメしません。

──では、「通勤から会社で仕事をして、帰宅するまで」は、どう過ごせばいいですか?

鈴木:まず通勤手段ですが、ストレス削減のため、できれば自転車で行くなどして満員電車を避けたいですね。どうしても避けられない場合、車内では「(乗っている時間を)有意義に使ったな」と思えるようなことをやりましょう。「ムダだな」と思いながら乗るのと、「有意義に使うぞ」と思いながら乗るのとでは、ストレスの量が全然違うんです。例えば、オーディオブックで勉強をするなど。

──漫画を読んだり、ゲームをしたりするのはダメなのでしょうか?

鈴木:漫画やゲームは“暇つぶし”の側面が強く、結局「ムダな時間を過ごしたな」と感じて、それがストレスにつながってしまう可能性があります。それよりも、「自分で目標を立てて、それを達成するための時間」とするのがいいように思います。

次に、仕事中ですが、この時ばかりはできることが限られますが、集中力を持続させるために細かく休みを入れてこまめに脳を休ませましょう。ちなみに、人間の集中力が持続する限界は90分と言われていますが、科学的な根拠はありません。私の個人的な感覚ではもっと短くて、せいぜい30分くらいかなと。ですから、「30分仕事をしたら、5分休む」というルーティンを繰り返すのがいいと思います。

その5分は何もせずに、ただただボーっとする。間違っても、スマホでメールやチャットをチェックしちゃダメですよ。直前までパソコン作業をしていたのに、休憩時間までスマホを見ていては脳が休まりません。その状態で仕事に戻ると、脳がマルチタスクをしているようなものなので、作業効率がガクンと落ちてしまいます。

休憩時はなるべく「仕事の時とは違う脳の使い方」をするよう心がけましょう。デスクワーク中心の人ならば、文字を読んだり動画を見たりするよりも、体を動かすか目を休めたほうがいい。ちなみに、僕はその5分の間にわりと激しめの運動をします。いわゆる「アクティブレスト」と呼ばれる休養方法ですね。僕の場合はそれでリフレッシュできて脳が回復する感覚があるのですが、個人差もあるので、仕事の時と全然違うことをしていれば、自分に合った休憩方法でいいと思います。

──ちなみに、ランチ休憩の間にできることってありますか?

鈴木:天気が良ければ公園に行って自然光を浴び、緑と触れ合う時間を少しでも増やしたほうがいいと思います。公園でお弁当を食べて、そのまま何もしないで過ごすか、ちょっと散歩をする。

──では、会社から帰宅した後の理想の過ごし方は?

鈴木:帰宅後は、まず仕事のことをいっさい考えないようにしましょう。できれば、仕事とプライベートを切り替えるスイッチとなるような習慣(儀式)があるといいですね。例えば、仕事終わりにサウナに行くとか、ジムでストレッチをするとか。僕の場合は、激しめの運動をすると完全に思考が止まるので、週3で筋トレ、ボクササイズ、テコンドーをそれぞれやっています。

鈴木祐さん提供写真
エクササイズをする鈴木さん(写真提供:鈴木さん)

そうした“儀式”を経て完全に仕事を切り離したら、あとは可能な限りリラックスして過ごすことが大事です。ちなみに、インターネットを見たり、ゲームをしたりするのはあまりオススメしません。「趣味ならリラックスできるのでは?」と思われるかもしれませんが、むしろ逆で脳が覚醒してしまうんですね。ただ、休憩中の脳の休め方と同じく、リラックスの方法も人それぞれなので、いろいろな手段を試してみてください。ポイントは覚醒のレベルを下げられるかどうか。ちなみに僕の場合はペットの猫とひたすら戯れるのが最高のリラックス方法です。

鈴木祐さん記事内写真
猫と戯れる鈴木さん(写真提供:鈴木さん)

──その後、夕食や入浴を終えてから就寝するまでの時間は、どう過ごしたらいいでしょうか?

鈴木:寝る直前の1時間くらいは、ひたすらボーっとするのがいいでしょうね。脳を休ませるというよりは、就寝モードに切り替えるための時間に充てるイメージですね。間違ってもスマホは見ないでくださいね。ここまでせっかく脳を休ませてきたのに、一気に台無しになってしまいますから。

……と、一日の流れとしてはこのような形ですが、これはあくまでモデルケースです。(旧石器時代にに比べて)「多過ぎるもの」を減らし、「少な過ぎるもの」を増やし、「新し過ぎるもの」を遠ざけるという“パレオな生活”の大原則さえ守られていれば、あとは自己流で構いません。

徹夜続きで、主食はラーメン。“パレオな男”の意外な20代

──ちなみに、鈴木さんも20代の頃は不摂生がたたり、さまざまな身体の不調を抱えていたと伺いました。

鈴木:20代の頃は徹夜は当たり前でしたし、ラーメンばっかり食べていました。仕事の生産性も低く、体は常に不調で、しょっちゅう風邪を引いていましたね。

その状況を改善しようと考えたきっかけは特にないのですが、もともと仕事で科学論文は読んでいたし、色んなことを試すのが好きな性格だったので、最新の研究で報告されている健康法や食事改善法、ダイエット法などを自分の体を実験台に検証してみたんです。ちょうど35歳の頃ですかね。その結果、パレオな生活が自分のなかで最も納得感があった。

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──パレオな生活を導入したことで、どのような変化があったのでしょう?

鈴木:まず明らかに体型が変わりましたし、病気にもかからなくなりました。仕事のパフォーマンスも明らかに変わって、作業時間と生産性は数倍というレベルまで上がった実感があります。

その時、身も蓋もない結論ですが、正攻法で真面目にやればやるほど、大きなリターンがあるのだなと学びましたね。若い頃は速攻でパフォーマンスを高められる「裏技」を求めていたけど、そんなものはないんだなと。20代の頃に気づきたかったですけどね。

──できれば20代のうちから始めたほうがいいけれど、30代、40代からでも決して遅くはない、と?

鈴木:そうですね。人体の素晴らしいところは、何歳になってもリカバリーできること。近年では、80歳からでも心肺機能を高めることが可能だと言われています。だから、40代だろうが50代だろうが、遅いということはありません。まぁ、それでも早く始めるに越したことはないし、特に病気でもないのに何らかの体調不良を感じている人は、まずはパレオな生活にトライしてみるのがいいでしょうね。



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(MEETS CAREER編集部)

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:関口佳代