ビジネス系のYouTubeチャンネルなどで頻繁に取り上げられる「FIRE」というキーワード。「Financial Independence, Retire Early」の略称で、「経済的自立」と「早期リタイア」を意味しています。会社や組織に縛られずに生きていきたい人、お金や将来に漠然とした不安を抱えている人にとって、そんなFIREの達成者は憧れの存在かもしれません。
現在31歳のせいやさんは、ハウスメーカー勤務時代の貯蓄を元手に不動産投資で投資を学び、2017年5月に始めた仮想通貨及び仮想通貨ブログにて年収2億円を達成。27歳でアーリーリタイアを実現しました。その経験談を、YouTubeチャンネル「ヒトデせいやチャンネル」で発信しています。
一方で、「FIREさえしてしまえば、無条件に幸せになれるわけじゃない」と語るせいやさんに、リタイア後の生活実態や、資産を築くための考え方、お金を稼ぐ人の特徴、また怪しげな投資情報に惑わされないための心構えなどを伺いました。
FIRE達成後の生活は「自己責任でストレスフルな世界」
──FIREというと、一般的には「人生の勝ち組」「(リタイア後は)遊んで暮らす」みたいなイメージもあると思います。せいやさんは2018年に当時勤めていた会社を辞めていますが、実際のところリタイア後の生活ってどうなんでしょうか?
せいやさん(以下、せいや):FIREがバズワードとして広がり始めたのは2019年頃からだと思いますが、その言葉をトレンド的に追いかけている人って、「現実の嫌なことから解放されたい」「FIREさえしてしまえば、その先には楽な世界が待っている」と考える傾向が強いように感じます。
でも僕の経験上、必ずしも「FIREさえしてしまえば、その先には楽な世界が待っている」わけではありません。「経済的自立」と「早期退職」を成し遂げたら、そこから先は誰も守ってくれなくなる。全て自己責任のもと、自分の資金と知識を頼りに資産を守っていかなければいけないわけで……。楽どころか、すごくストレスフルな状態なんです。
──無理に資産を運用せずに、それまでに蓄えた貯金だけで生活していく道もあるかと思いますが……。
せいや:確かに、資産を切り崩せばいいという考え方の人は多いようです。とりあえず3億円くらいあれば、年500万円で何十年も生活できるじゃないか、と。でも、それはそれで、積み上げたものがどんどん切り崩されていくという、尋常じゃないストレスが襲ってくると思います。
そんなストレスフルな環境が、果たして幸せなのか? 僕は決してそうではないと思います。ですから“FIREさえ達成すればアガリ”みたいな考え方は持たない方がいい気がしますね。
──いきなり現実を突きつけられた気もしますが、とはいえFIREを達成することによる利点もあるわけですよね?
せいや:もちろん、お金があることで心の安心感が生まれることは確かです。当面は食いっぱぐれないという、心理的な後ろ盾にはなります。また、若いうちにまとまった資産を築くことができれば、完全なリタイアではなく期間限定の「ミニリタイア」だって可能です。少しの間、仕事に追われる生活から離れ、自分を見つめ直せる。特に20代のうちは、そういう時間がとても大事だと思いますから。
──ちなみに、せいやさんは2018年にリタイアした後、どんな生活を送っていましたか?
せいや:本当に何もしていませんでした。最初こそ頻繁に旅行したりしていましたが、半年くらいで飽きて(笑)。これまで非日常だったものが日常になってしまうので、ぜんぜん面白くないんです。
「毎日のように豪遊できてうらやましい」といったイメージがあるかもしれませんが、同年代の友人は普通に働いているから、一緒に遊んでくれる仲間もいない。結果、独りでゲームをしたり、特に実践の場がないのにビジネス書を読んだり、ただただコンテンツを消費するのみ。リタイアから2年くらいは「虚無」という言葉がピッタリの怠惰な日々を送りました。
──確かに、その生活はあまり幸せそうではないですね。
せいや:人間が虚無に耐えられるのってせいぜい2年くらいだと思います。だから僕も2020年2月からYouTubeでの情報発信を始めました。他人と全く関わらず、何も生み出さない日々に限界を感じたんです。
でも、僕のようにリタイアを経験してから、再び社会復帰するのもアリだと思います。繰り返しになりますが、仕事で疲弊して病んでしまうくらいなら、何もしない時期があってもいい。20代であれば、2年間くらいレールを外れたってまた戻ってこられますからね。完全なFIREではなく「2年間限定のミニリタイア」と決め、差し当たって必要なお金をためるのもいいかもしれませんね。
FIREするならまずは本業で結果を出そう
──FIREに必要な資産を築くにあたり、まずは運用のための「種銭」が必要になるかと思います。まとまった額の種銭を得るためには本業だけでなく、副業で稼ぐことも視野に入れるべきでしょうか?
せいや:あくまで個人的な意見ですが、正攻法は「本業を頑張って収入を上げる」ことだと思います。副業で一発当てることや、ハイリスク・ハイリターンな投資は宝くじのようなもので、仮に当たったとしても再現性がありません。再現性を重視する理由は、資産を運用する局面で確実に必要となってくるからです。稼げている(資産が増えている)理由を言語化しておかないと、安定的に資産を運用できず、FIREどころかあっという間にお金を溶かしてしまいかねないので。
宝くじの高額当せん者が破産したり、現役時代に数百億円を稼いだスポーツ選手が引退後に困窮したりするのと同じで、一発当てて得た資金は失うリスクも高いと思います。
──ただ、本業の収入を上げるといっても限界があるように思います。大幅な給料アップが見込めない業界や会社にいる場合はそもそも難しいですし……。
せいや:もちろん本業で稼ごうと思うなら、そもそも「稼げる業界」にいないと難しいです。稼げる業界というのは「大きなお金が動く業界」のこと。ビジネストレンドによっても変わりますが、今であれば不動産や金融など、探せばいろいろあるはず。稼げる業界の多くは専門的な知識やスキルを問われますので、20代のうちからFIREを目指しているなら、早めに足を踏み入れて経験を積んだ方がいいですね。
そして、その稼げる本業で結果を出し、転職でキャリアアップして給料を上げていくのが一番の近道だと思います。
──せいやさん自身もリタイア前はハウスメーカーで営業をしていましたが、やはり就職活動の時から「稼げる業界」を意識していたのでしょうか?
せいや:そうですね。僕は不真面目な大学生で、パチスロと麻雀に明け暮れた末に中退しているのですが、そのくせずうずうしくも「まっとうに大学を卒業した同年代よりも稼ぎたい」と思っていました。そこで、ハローワークで稼げる仕事を探し、歩合制の住宅営業の仕事を選んだんです。
入社後は、先輩や上司のボーナスの額も調査しました(笑)。結果を残した時の対価を把握しておかないと、がむしゃらに頑張る意味もありませんから。それに、30歳、40歳の上司は10年後、20年後の自分の姿でもあります。彼らの年収を聞いて、その場所で稼げる限界を知っておくことも大事だと思います。
実際、2年目に年収が720万円になって、改めて「どの場所で頑張るか」というのは、お金を稼ぐに当たってめちゃくちゃ大事なポイントだなと感じましたね。同時に、お金があればいろんな意味で制限がなくなることも実感できて、なおさら「稼ぐこと」に向き合うようになりました。
──その頃からアーリーリタイアを意識していましたか?
せいや:僕の場合は意識していたというよりは、結果的にそうなったという方が近いです。年収が1,000万円を超えた辺りから生産性が上がり、時間に余裕ができてきたので、副業として不動産投資と仮想通貨投資に力を入れるようになりました。また、合わせて仮想通貨ブログも運営しており、これらがうまくいって本業の収入を大きく上回った時に、会社を辞めて資産運用に専念することにしたんです。アーリーリタイアしたタイミングで、本業の年収は1,600万円、副業年収は2億円でした。
──「(稼げる場所で)本業を頑張る」→「年収と生産性を上げ、時間に余裕ができる」→「できた時間で副業に力を入れる」→「副業が軌道に乗り、会社を退職」と、理想的な流れですね。
せいや:僕の経験上、副業に注力するのは本業の年収が600万円を超えたタイミングがいいと思います。それくらい稼げているということは、効率よく仕事を回せるほど生産性も高まっている状態だと思うので。
仮にその年収レンジでも全く暇にならないという人は、「権限の委譲」がうまくできていない気がします。つまり、本来は人を使わないといけないフェーズなのに、自分で仕事を抱えてしまっている。そこでうまく自分の業務量を減らしていくことができれば、副業に回すくらいの時間はできるんじゃないでしょうか。
──ちなみに、本業で稼ぐために何かに投資した、ということはありますか?
せいや:20代前半の頃はスーツや時計にお金をかけていました。特に社会人3年目くらいから身なりを重視するようになって、1着10万円くらいのスーツを買っていました。実際、営業の仕事でめちゃくちゃ役に立ったので投資に近いと考えています。
数千万円の家を買う時に、安物のスーツを着た若い営業担当に接客されるのは不安ですよね? 実際、スーツや時計、靴を変えてから営業成績は格段に伸びましたし、10万円で「雰囲気を買える」なら安いものだったと思います。
本業で稼げるのは「他人と比べられる人」
──能力や経験以外の要素で、「本業で稼げる人の特徴」があれば教えてください。
せいや:他人と比較するマインドでしょうね。自分の会社員時代を振り返っても「絶対に誰にも負けない!」という気持ちがある人ほど営業成績が良かったですし、僕自身も常に売上1位を目指していました。自分と他人をとにかく比較して、勝つための方法を考えていましたから。
──最近は「他人と比べないこと」「自分らしさ」を尊ぶ向きもあるように思いますが、せいやさんは何というか、けっこうガツガツしていますね。
せいや:「他人と比べないこと」が悪いとは思っていません。ただ、お金を稼ぎたいなら、他人と比べた方がいい場面もある。
そもそも今の若い人って、比べる軸を間違えているように思うんです。
──……というと?
せいや:SNSをのぞけばキラキラしたライフスタイルが目に入りますが、それはあくまで「どういう生活を送れば幸せなのか」という個々人の価値観の軸であって、比べること自体が不毛です。
でも、年収や肩書きといった実績・地位の軸は定量的ですから、自分のスキルやモチベーションを上げるためにも比べる意義があるように思います。
若い人が陥りやすいのは、本来比べちゃいけない「ライフスタイル」を比べて、比べ疲れしてしまうこと。他人が高い寿司を食べていようが、いい服を買っていようが、どうだっていい。
それよりも、そんな良い生活を送っている人の「稼ぎ方」を自分と比べて、案外似ているな、難しくないな、と思うことが大事です。
考えてみてください。学生時代の部活では、大会や試合で当たり前のように順位がつけられるじゃないですか。社会に出た途端いきなり「比べるのはよくないよ」と言われてもピンとこないですよね。
仕事や人生にとって大事な軸になる部分については、やっぱり他人と比べて、戦う気持ちを失わない方がいいんじゃないでしょうか。
成功者の発信には「生存バイアス」がかかっている
──最近は「貯蓄から投資へ」を旗印に、しきりに投資を促される風潮があるように感じます。ネット上には資産運用にまつわる玉石混交の“ネタ”が散見され、「情報弱者が損をする」ようにあおるメディアやインフルエンサーも存在する。結果、焦って怪しげなもうけ話に飛びついてしまう人もいそうです。こうした情報に踊らされないためには、どんな心持ちが必要でしょうか?
せいや:忘れないでほしいのは、何をやるにせよ「選択権」は自分自身にあるということです。確かに、不安や焦りに付け込んで、役に立たない高額な商材を売るような人は多いです。それを買わない人が、いかにも「情弱」であるかのように不安をあおる人もいます。でも、彼らはあなたの人生に何の責任も持ってくれません。そんな人に乗せられて大切なお金についての判断をするのではなく、自分の頭で考えて決める。これが大前提です。
──せいやさんもSNSなどで情報を発信していますが「自分の価値観に合うものだけを取り入れてください」と、全てをうのみにしないよう注意を促していますよね。
せいや:そうですね。これを言うと身もふたもないけど、結局のところ、成功した人の発信には、いわゆる「生存バイアス」がかかっていますから。これを踏まえた上で、全ての情報をまずは疑うようにしてほしいです。
ちなみに、僕自身が選んでインプットする情報はたいてい「定義」と「数字」が明確です。あとは、発信者が信頼に足るだけの結果を定量的に残しているかどうか。そんな情報を頭に入れて、自分が再現すればもっと稼げるかどうか、稼ぐためにはどうすればいいかロジカルに考える。まずはこの基本を押さえることが、怪しい情報に踊らされず稼ぐ力を身につける第一歩じゃないでしょうか。
(MEETS CAREER編集部)