【3分でおさらい】ロボットで世界はどう変わる? 最新トレンドと注目トピック

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米国のロボット導入事情

米国労働市場では慢性的な人材不足が問題となっていますが、治安維持を担う警察の人材不足は喫緊の課題です。

CNNが2022年7月20日に報じたところでは、特にカンザスシティやポートランドで人材不足が深刻化しており、これらの都市では数百人規模の人材不足に陥っています。各警察署では、人材流出を止めつつ、流入を促すため、ボーナスや教育費などさまざまインセンティブを支給し始めているといいます。

人材不足問題を乗り切るため、さまざまな施策を実施する米警察ですが、その1つとしてロボット導入を試みる動きも一部で見られます。一方、警察のロボット導入に対し地域コミュニティからの反発が強く、白熱した議論になることがしばしばあります。

直近では、サンフランシスコ市で警察によるロボット利用に関する議論が巻き起こったばかり。2022年11月30日、サンフランシスコ市の専門家委員会が同市警察が殺傷能力を有するロボットの利用を許可することを決議したことが事の発端でした。

同委員会の決議を受け、サンフランシスコ市警察広報は声明を発表。現時点で、同市警察では17台のロボットを有するものの、殺傷能力のある武器を装備したロボットはなく、今後もそのような武器を装備する計画はないといいます。ただし、凶悪犯への対処など、極度に危険な状況に直面した場合、そのような選択肢もあり得ると発言しています。

サンフランシスコ市警察で実際に運用されているロボットは、主に遠隔での爆発物分析と爆破処理、また情報収集用に利用されています。すべてのロボットは、人の手によってコントロールされており、自動で作業を行う能力は持っていないといいます。

サンフランシスコ市の決議を受け、米各メディアが一斉にこのことを報道したことを鑑みると、米国では関心の高いトピックであることが見て取れます。

米国で高い関心が注がれる理由は、過去に警察が殺傷能力を持つロボットを利用し、実際に犯人を殺傷した事例があるためです。

その最初の事例とみられているのが2016年にダラスで起こった事件です。この事件では、警察官5人が容疑者によって殺される事態が発生、ダラス警察は爆弾処理ロボットに爆弾を装備し、そのロボットを容疑者に突撃させ、死亡させたというものでした。

この件では、事件の早期解決につながったとし、警察の判断を称賛する声があった一方、全ての手段を出し尽くさない状況でロボットを使ったと非難する声もあがっていました。

警察によるロボットの武装に関しては、オークランドでも同様の議論が巻き起こっています。オークランド警察は2022年10月、遠隔で容疑者を殺傷できる武器をロボットに装備することを承認しました。しかし、批判の声が相次いだことで、数日後には承認を撤回したと報じられています。一方、完全に禁止されてはおらず、将来的に武器装備の議論の余地は残された格好です。

冒頭で伝えたサンフランシスコの件では、12月6日に最新報道があり、一度決議された警察による武装ロボット利用ですが、批判が相次いだことで、一旦棚上げとなることが決まりました。しかし、やはり「人材不足」や「危険な状況への人の介入」の抑制につながることなどから、オークランドと同様に将来的に議論が再開される余地はあり、市民からの信頼とのバランスが重要であることを示す事例と言えるでしょう。

人型ロボットの販売は目前。イーロン・マスク氏の狙い

上記の警察による武装ロボット利用は、市民にとっても脅威となることから、大きな反発を生み出していますが、脅威とならない利便性を高めてくれるロボットには大きな期待が寄せられています。

一般消費者に関わるロボットとして、今特に注目されているのは、AI搭載の自律型ヒューマノイドロボット(人型ロボット)の開発動向でしょう。

この分野の話題性を高める人物の1人がテスラCEOのイーロン・マスク氏です。

マスク氏は2022年9月30日に開催した自社イベント「Tesla AI Day 2022」にて、同社が開発中のヒューマノイドロボット「Optimus(オプティマス)」を公開。これに対し、人間の労働力を置き換えるのか、人間の臨機応変さは実現できないのでは、など賛否さまざまな意見が噴出したことで、ヒューマノイドロボットの開発動向や実現可能性に関心が注がれることとなりました。

マスク氏はこのイベントで、オプティマスのようなテスラボットを数百万単位で量産し、3~5年後には買い物などさまざま家事手伝いができるロボットとして2万ドル(約280万円・2022年9月時点)で販売する意向を明らかにしています。

テスラがロボットを開発・製造する強みは、テスラの自動運転ソフトウェアや自動車部品サプライチェーンをロボット開発に応用し、開発期間やコストを下げられる点にあります。

自律型ヒューマノイドロボットの開発は非常に難しく、競合となるボストン・ダイナミクス社でも長年ヒューマノイドロボットの開発を続けていますが、現在のところプロトタイプにとどまっており、量産には至っていません。

今回、マスク氏がオプティマスを公開したことで、海外メディアの間ではAIロボット開発の現在地と今後の開発動向を探る動きが活発化しました。

VentureBeatは10月16日に公開した記事の中で、技術的には非常に難しい領域であるものの、最近の開発スピードを鑑みると、10年以内にはヒューマノイドAIロボットが主流になる可能性があると指摘しています。たとえば、テスラのオプティマスは、コンセプトから実際に二足歩行するまで要した期間は1年のみ。

メカニクス(機械学、力学)領域では、二足歩行ロボットの開発は難しい課題といわれてきましたが、最近の開発動向をみると、歩行に関する課題はクリアしつつあり、次のステップである「走る」という動作に移行していることが確認できます。2022年9月には、オレゴン州立大学で、同大学とスピンオフ企業が開発するロボット「Cassie」が100メートルを24.73秒で走り、ギネス記録に認定されたばかりです。

歩く・走るという動作が難なくできるようになりつつある状況、今後AIロボット開発における焦点は、人間と相互作用する能力の開発に向けられる可能性が指摘されています。

VentureBeatはFortune誌が報じたウィル・ジャクソン氏の発言を紹介しています。英ヒューマノイドロボット開発企業Engineered Artsの創業者兼最高経営責任者で、この分野の専門家として広く知られる同氏いわく、ロボットが普及するかどうかは、ロボットが人間と対話できる能力を持つか否かにかかっているといいます。

今後、ロボットを取り入れた新サービスを企画開発するならば、「使用者の指示を聞く、あるいは使用者に提案する」「ロボットに指示が伝わるように人が伝達する」といった意思疎通が一つのキーワードになるのかもしれません。

世界のロボットスタートアップ、注目株は?

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スタートアップへの投資動向からもロボット分野の中でも特にどのような領域が注目されているのかを推察することができます。

スタートアップの注目度を分析するExploding Topicsが2022年12月時点でまとめたレポートを参考に、注目されるロボットスタートアップをみていきましょう。

まず同レポートが1番手として紹介しているのが米ドローン開発のSkydioです。

マサチューセッツ工科大学出身のアダム・ブライ氏、エイブ・バハラック氏、マット・ドナホー氏が2014年に創業。

Skydioが強みとするのは、「Skydio Autonomy」と呼ばれる自律飛行システム。ドローンに搭載された6つのカメラで周囲360度の映像を捉え、AI分析により障害物を自動で回避できる技術です。

NTTドコモがSkyidoと提携しており、日本でもSkydioのドローンを産業用途で利用することができます。

Skyidoのドローンは、他社のプラットフォームなどとの統合により、その活用範囲を広げており、消防署などの公共安全機関がエビデンス管理(巡視や設備点検)の一環でSkydioドローンを利用することが想定されています。

Exploding Topicsの注目度分析でSkydioを上回るのが国防ロボット開発の米Andril Industriesです。

2017年創業の新しい企業で、同社もSkydioと同様に自律飛行システムや無人機航空機を開発していますが、国防に特化している点で大きく異なります。

主力となるのは、無人機航空機のGhostやAltius、水中無人機Dive-LD。米軍だけでなく、オーストラリア軍など海外の軍隊にもプロダクト・サービスを提供しています。

このほかExploding Topicsのレポートでは、米Robust AI、スイスValiro、米Saildroneなど、自律型ロボット/ドローン関連企業が多く紹介されており、これらがスタートアップ界隈で注目されるトピックとなっていることが分かります。

倫理観、ロボットが仕事を奪うというリスク、ロボット課税の議論

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ロボット普及に際し、ロボットが人間の仕事を奪うのではないかという脅威を感じる人は少なくありません。これは倫理の問題として、この数年専門家らによる議論が続けられています。

現時点でどれほどの仕事がロボットによって代替されているのか、最新調査が明らかにしています。

米ブリガムヤング大学のエリック・ダーリン社会学教授が実施した最新調査(2022年11月発表)によると、実際にロボットに仕事を代替されたと回答した労働者の割合は14%でした。

この割合は、ロボット/AIが進化すれば必然的に高まるものと思われます。こうした将来的な脅威の高まりに対し、ロボット課税を導入する議論も進められています。

マサチューセッツ工科大学のエコノミストらの分析では、米国で労働者1000人あたりに対し1台のロボットを導入すると、人口あたりの雇用率は0.2%下落、また製造企業でロボットを導入すると1台あたり3.3人の雇用が失われ、人件費は0.4%下落することが分かりました。

別のMITのエコノミストらは、こうした数字をもとに、ロボットに対する最適な税率を算出。その税率とは、ロボット1台に対し1〜3.7%。また、貿易でのロボットに対する税率は、0.03〜0.11%といいます。前述の警察のように、企業や団体が人手不足をロボットで補おうとする場合は、ロボットの維持費に加えて「ロボット税」のようなコストも見込んでおく必要が生じるかもしれません。

ロボット/AI倫理は、ロボット工学、コンピュータサイエンス、人工知能、哲学、倫理、生物学、法律、社会学、産業デザインなど様々な分野の専門家が議論する問題ですが、ロボットが身近になる今、消費者としても関心を持つ必要性が高まっています。

さて、今回の記事で紹介したとおり、ロボットの導入においては、人材不足の解消などのメリットだけでなく、市民の信頼を醸成する必要、雇用が失われるリスクの軽減、ロボット税のような新たなコストの発生など、考慮すべき課題が山積していることがお分かりいただけたかと思います。みなさんには今後、それらを念頭において最新情報をウォッチしていただければと思います。

文:細谷元(Livit)http://livit.media/