「無敗営業」高橋浩一の質問力|デキる営業はお客さまの返事を待たない

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業界のトップを走るビジネスパーソンに仕事の「こだわり」を聞く連載「トップランナーの流儀」。

今回ご登場いただくのは、8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率が100%を誇る営業コンサルタントの高橋浩一さんです。

25歳で起業してから、ご自身のノウハウと顧客の行動変容を促す構造的アプローチに基づき、上場企業を中心に3万人以上の営業力強化を支援してきました。

そんな高橋さんは、もともとは極端な人見知り。高校生になるまでは人とうまく喋れず、顔が真っ赤になってしまうことから「モモちゃん」と呼ばれ、からかわれるような思春期を過ごされていたといいます。

苦手なコミュニケーションを克服し、コンペ負けなしの“無敗営業”に昇り詰めるまでに、どんなこだわりを作ってきたのでしょうか。そこには、従来の営業の在り方を覆すメソッド、そして数々の「試行錯誤」がありました。

高橋浩一さんプロフィール画像
TORiX株式会社 代表取締役 高橋浩一:東京大学経済学部卒業。ジェミニ・コンサルティングを経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画し、取締役副社長に就任。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで、上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。著書に『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)、『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社、2月15日発売予定)など。

📖サマリ📖
☞ 営業におけるこだわりは「絶対に待たない姿勢」「丁寧に聞く」
☞ 人見知りだったが「感謝」をきっかけに営業の魅力に目覚める
☞ 「価値のズレ」を避け、相手の反応に合わせて「きめ細かく対応する」

「検討します」と言われても、待ってはいけない

──「8年間、コンペで負けたことがない」という、まさに“無敗営業”の高橋さんですが、改めて「無敗」ってすごいことだと思うんです。負けない営業になるため、一番必要なことはなんだと思いますか?

高橋浩一さん(以下、高橋):そうですね。一番は「待たない」という姿勢だと思います。

──待たない?

高橋:はい。何があろうとも絶対に待ちません

以前、お客さま1万人に調査したとき、営業から提案をされて、「検討します」と答えたことがある方は75%にも上ることが分かりました。

一方で、そのお客さまの中で、「本当に可能性がないと感じた」と答えたのは13.7%。つまり、残りの86.3%のお客さまに対しては、営業が何かしらのアクションを取れば、受注につながったかもしれないということなんですよ。

──返事を待つのが丁寧だと思いきや、相手はこちらが働きかけていくことを求めていると。

高橋:はい。でも、多くの営業は「検討します」と言われると、待ちの姿勢になるか諦めてしまう。

僕も昔はそうでした。そこで、いくら待っていても受注できない状態が続いたとき、「検討します」というのはどういう状態なのか、お客さまへ直接聞いてみることにしたんです。

すると、提案に対して本人はポジティブだったにもかかわらず、「周囲を説得できない」「まだ他社の話を聞いていないので比較できない」など、おのおのにすぐに決断を下せない理由があったんですね。

理由を把握できれば、必ず取れるアクションがあると感じて、「10分電話相談」を始めました。初回の提案後、「明日お電話できる時間ありますか」と聞いて、翌日すぐに電話をかけてヒアリングをして、追加提案をする。これを発注が決まるまで毎日繰り返していくんです。

打ち合わせの後に10分ほど電話でお話しすると、「実は上司がこんなことを言っていて……」「もう少しこういう情報があったらありがたい」というコメントをお客さまからいただけます。そうしたら、すぐそのコメントに対応した部分だけ取り急ぎ資料を作ってお送りする。さらに、その追加送付分についてまたフィードバックをいただく。このサイクルをひたすら素早く回していきます。

そうすると、他社の営業が初回の商談をして、1週間後の商談までに追加提案をして……と段階を踏んでいる間に、こちらでは受注まで進める。

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「10分電話相談」のイメージ図。Aは高橋さんのやり方、Bはありがちな営業方法

──それだけでもう、大きな差がついている……。

高橋:そうなんです。この「待たない」というスタンスを貫いてさえいれば、お客さまの側からすると、「この会社にリクエストを出したほうが、結果的に自分が望むものができる」と感じてもらえて、長期的にお付き合いいただけるようになります。

あと、すごく「粘る」ことも意識していますね。アポイントの機会は貴重なので。

例えば、普通の会社は、よく知らない会社の担当者が訪問してきたら、「他社と何が違うんですか」「御社の強みは何ですか」と効率の良い情報収集だけして、20ページもの資料の最後のページの見積もりだけをペラペラっと見て早々に切り上げようとします。

「御社の魅力はよく分かりました。社内で検討させていただきますね」と。

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自分も営業になりたての頃は来る日も来る日もこんな対応をされることが続いて。これでは駄目だと、20ページの資料をわざと4ページずつに分けて小出しにしてみたんです。

4ページ分(1ファイル)読み終わったところで、次の4ページ分を共有する。こうやって小分けにすることで、シャットアウトされる前に「議論」できる時間が増えていきます

すると、お客さまは先に見られる資料がないので、ゆっくり話を聞いてくださるようになった。

──相手の心理が分かるようで興味深い。さまざまなアプローチで提案のプロセスを改善してきたんですね。

高橋:もちろん、営業の力だけではコントロールできない商材が存在するのは事実です。

でも、営業が関わることで変えられる“流れ”は必ずあるので、相手のニーズをきちんと聞き、お望みの提案内容に近づけていくことで、確実に勝率を上げることができるんですよ。

営業の魅力にハマった、初めて「感謝」された瞬間

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──さまざまな試行錯誤の末の“無敗営業”であることが分かりました。でも、高橋さんは、もともと人前で喋るのが苦手だったそうですね。

高橋:はい。高校生のころまで、本当にずっと人と喋れなくて。

「ちょっと喋れない」程度なら何とか生きていけたのかもしれません。でも、学校生活が苦痛で苦痛で仕方がない時間を過ごして「このままだと社会に出られないんじゃないか」と思うほどの危機感を覚えていました。

それで高校生のときに、自分を変えるべく飛び込み営業のアルバイトを始めたんです。

──いきなり飛び込み営業を!

高橋:英会話学校のポスターを、お店の許可をいただいて貼らせてもらい、1枚ごとに報酬が発生するような歩合制の仕事だったのですが、最初は全然うまくいかず……。

当時は高校生だったので、「全力ダッシュをして、汗ダラダラの状態でお願いしたら、お情けで貼らせてもらえるかな」なんて甘く考えていたのですが、ダメでした。ポスターを貼ってもらえないとアルバイト代が実質0円になってしまうので、何とかそれを避けたくて。

そんなときに、すでに別のポスターが貼られているお店に対して、「そのポスター、新しいのに取り替えませんか?」と聞くと、快く貼らせてもらえたことがありました。

しかも、「ちょうど古くなってたから、変えてくれてありがとう」と感謝までされたんですよ!

──そんなことが。

高橋:ちょっと衝撃的でした。これまでコミュニケーションが苦手だった人間が、他人と話せるようになっただけでなく、感謝される日が来るなんて。本当に人生が変わるような体験でした。

「なんて人生素晴らしいんだろう!」って。

──その経験から、営業の魅力にハマっていったんですね。

高橋:お店にしてみると、ポスターを貼ることで儲かるわけでもないですから、基本的に嫌がられていました。

でも、「ポスターを貼り替える」と提案の切り口を変えたことで、お客さまに価値を感じてもらえた。この一件で、自分が思う価値と相手が感じる価値には大きなズレがあると気づかされたんです。

それからは、お客さまに価値を感じてもらえる提案方法を、自分で試行錯誤しながら探っていくプロセスが純粋に楽しく感じられるようになりましたね。

──なるほど。高橋さんが思う、営業の楽しさはどんなところにありますか?

高橋:僕は、営業の醍醐味は「フィードバックが返ってくる」ところだと思っています。

例えば、お客さまに1日100件電話をしたら、その日のうちに100回自分に結果が返ってくる。こんなにもすぐに、目の前の人から生々しいフィードバックがある仕事って、営業ぐらいなんじゃないかな、と思うんです。

「本日の提案は100点満点中、何点でしたか?」と聞くのをルーティンに

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──ちなみに、自分と相手が感じる「価値のズレ」にはどのようなものがあるんですか?

高橋:僕は25歳で起業をしたのですが、当時実績のない状態から、ある大企業に受注していただいたことがあったんですよ。

自分としてはしっかりヒアリングをして、お客さまのことを考えていい提案ができたから採用していただけたのだと思っていたのですが……。後で担当者の方に聞いてみたら、「前にお願いしていた会社が気に入らなかったから」という理由だったらしくて(笑)。

──想定していたのと全然違うポイントで決められていたんですね。

高橋:でも、起業して改めて感じたのですが、「確信を持ってお金を使う」ってすごく難しいことなんですよね。私たちも買い物をするとき、「絶対にこの商品がほしい」と思う瞬間は案外少ないはずです。

「この商品にお金を使う」という判断の理由を言語化できない人のほうが圧倒的に多いからこそ、担当営業への安心感・信頼感や、担当営業のちょっとした一言にグラっと心を動かされることって珍しくないんです。

だけど、いざ売る側になるとそれを忘れてしまって、「商品が良かったら買ってくれる」「分かりやすく説明したら契約してもらえる」と盲目的に考えがちです。そもそも、お客さまが何に困っているのかも分かっていないのに。

──そうした微妙な認識の差が大きなズレを生んでいくと。

高橋:はい。とはいえ、営業がお客さまと出会ったばかりのころは、お客さまが本当に求めているものは分かりません。だからこそ、それを理解するために「聞く」というプロセスを丁寧に進めることが、成果を出すためには必要だと思います。

僕は起業当時、提案をした日にはお客さまに電話をかけ、「本日の提案は100点満点中、何点でしたか?」と聞くのをルーティンにしていました。

──えっ、そんなことを聞くんですか!?

高橋:2割のお客さまには冷たい対応をされ、6割のお客さまには困惑されました(笑)。でも、残りの2割の方は、結構いいことを教えてくれるんです。

「今日の商談の、この話をもう少し聞きたいです」とか、「最近うちの社長がこういうことを言っていて」とか、「お願いしていた会社さんに不満があって」とか。

すべてのお客さまが快く答えてくださるわけではありません。でも、一定割合の方がいいことを教えてくださるのなら、絶対に聞いたほうが得だと思ったんです。

それに、ほとんどのお客さまが、「100点満点中、何点か」と聞かれてもピンとこないということは、おそらく他の営業の人は聞いていないのでしょう。だからこそ、これを聞きつづけていけばデータも溜まって、自分にとってアドバンテージになると確信しました。

「この指止まれ」への苦手意識が仕事に生きた

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──高橋さんは、顧客に対して臆せずに「聞く」ことを大切にしているんですね。

高橋:臆せず……というか、「分からない」から聞いているだけなんですよ。

僕は、昔から人の顔色がどうしても気になってしまう性格で……。子どものころ、「この指止まれ」を自分から率先できる人が必ずいたじゃないですか。

みんながその遊びをやりたいとは限らないのに、何も聞かずに突然誘う、ってよほど自信がないとできないし、すごく勇気のいることだと思うんです。

──確かに……。

高橋:当時「自分は絶対にあちら側には回れないな」と思いながら空気を読んでいるうちに、いつも周りの様子を見ているような人になっていました。でも、そのスタンスが仕事においてはすごく生きています。

例えば、提案をしていると、お客さまが口では「いいですね!」と言っているのに、目が「いいですね!」となっていない、不安を訴えていることに気づく瞬間があるんですね。

そのときは、もしかしたら上長から承認が下りるかどうかを心配されているのかな、会社の予算がまだ決まっていないのかな、とか、いろんな可能性を考えます。

──言葉をそのままうのみにしない、と。

高橋:自分に自信があったり、「自分が正しい」という思い込みの中で生きていたら、相手の言葉をそのまま受け取ってしまうかもしれません。

でも僕は、究極的には他人の心の中なんて分かるわけがないと思っています。だから、自分が分からない何かがあるんじゃないか、とずっと「健全に」疑いつづけているんです。

皆さんも、思い込みで完結させるのではなくて、ちゃんと目の前の相手に聞いてみてほしいです。自分が深く関与していかないと気づけないことがたくさんあります。聞かないほうが相手にとってはマイナスなんです。

相手の反応やニーズを型に当てはめてパターン化しようとするのではなく、まずはきちんと聞いてから対応する。それは、高校生で飛び込み営業のアルバイトを始めてから今でも、変わらずにやりつづけていることかもしれません。

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取材・文:いしかわゆき
撮影:関口佳代

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