失礼にならない褒め方のコツ3選。相手別タイミング別褒めるポイントと褒め言葉一覧

褒め言葉が浸透している職場

後輩、部下、同僚と接するにあたり、うまく使っていきたい褒め言葉。褒め言葉は、職場の人間関係を円滑にして仕事を遂行する上で非常に効果的です。「現状で満足してしまうから褒めないほうがいい」と考える人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

なぜ褒めることが効果的なのか、どのように褒め言葉を使っていけばいいのか、「褒め上手の鉄則3箇条」などと併せて解説します。

<INDEX>
なぜ「褒める」はビジネスパーソンにとって大事なの?
その褒め言葉はタブーかも? 覚えておきたい褒め方3カ条
相手別・褒めるコツ5選
今日から使える! 褒め言葉一覧
褒められて嬉しいと思われる人間であるために
まとめ:褒め上手がビジネスを制す!

なぜ「褒め言葉」「褒める」はビジネスパーソンにとって大事なの?

「ほめちぎる教習所」で見えた驚きの効果

三重県伊勢市にある南部自動車学校は、めずらしいコンセプトを掲げています。それは、「ほめちぎる教習所」。自動車学校の教官は怖いイメージがあるかもしれません。しかし、ここでは生徒を徹底的にほめることを実践し、わざわざ遠方からの入校希望者も出ているそうです。

さらに驚くべきことに、卒業検定の合格率は約8割から約9割に伸び、卒業生の事故率は1.76%から0.5%以下に低下。さらに教官の離職が減り、他校からの転職希望者も出たそうです。つまり、生徒の運転技術が上がり、教官の仕事への意欲が上がり、学ぶ場・働く場としての価値が上がっているのです。

この教習所では生徒を褒めるだけでなく教官同士でも褒め合い、生徒のやる気を引き出せた褒め言葉を共有して教習で使用したりと、常に「褒め」をブラッシュアップしています。この事例から、人や組織を動かして良い結果を出すには、褒めることが重要だとわかるのではないでしょうか。


褒めるとは相手を認めること

褒めるとは、おだてたり評価を下したりすることではありません。相手を認めることです。人には承認欲求があり、誰かに認められると心地よさを感じます。心理学者アブラハム・マズローは「欲求五段階説」を唱え、人間の欲求を階層化しました。

【1】生理的欲求(睡眠や食事などの本能的欲求)
【2】安全欲求(安心で安全な生活への欲求)
【3】社会的欲求(家族、友人、会社など、集団に帰属したい欲求)
【4】承認欲求(他社から認められたい欲求)
【5】自己実現欲求(自分にしかできないことを達成したい欲求)

生理的欲求が満たされると安全欲求を満たしたくなり、それが叶うと次は社会的欲求の充足を目指す……。こんなふうに、人間は一段階目から順を追って欲求を満たしたくなる生き物だとマズローは唱えています。

一説では、日本のビジネスパーソンは、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求は比較的満たされていますが、承認欲求はあまり満たされていない傾向があるそうです。認められたい気持ちはあるのに、認められる機会が少ないのです。

昨今、SNS上で迷惑動画や過激なコメントの投稿が後を絶たない理由の一つは、「いいね」をもらうことで承認欲求を満たしたいからだとも言われています。しかし、日常的に褒め言葉をもらう場所に身を置いていれば、わざわざそのような行為に走る動機も減るでしょう。

従業員の管理の一環としても、褒める文化が浸透していることはプラスになる可能性があるのです。


その褒め言葉はタブーかも? 覚えておきたい褒め方のコツ3カ条

失礼にならない褒め方のコツ・褒めるポイントとは?

最近は○○ハラスメントという言葉も増えていることもあり、「余計なことは言わないでおこう」「褒めたつもりで相手の気分を害するかもしれない」などとコミュニケーションに慎重になりがち。相手がすごいと思っても褒めるのをためらってしまう方もいるのではないでしょうか。

しかし、失礼にならないポイントを押さえておくことで、褒め言葉を口にするハードルを下げることができます。ポイントは2つあります。

■ポイント1:「自分がどう感じたか」を伝える
良い、うまい、など「ジャッジ(評価)」する表現は、特に目上の方には失礼にあたる場合があります。感動、感想、感銘など自分がどう感じたのかを伝えるようにしましょう。

(言い換え例)
×課長の資料はさすがの出来ですね。
○課長の資料をお手本にします。

「さすがの出来」は評価にあたるため、お手本にしたいという自分の気持ちを伝えます。

×部長のお話に感心しました
○部長のお話に感銘を受けました

「感心」は相手を評価する言葉です。部下や後輩に対してであればOKですが、目上の人には「感銘」を使います。

■ポイント2:具体的な行動や理由を伝える
「すごい」「さすが」などだけでは、表面的な印象を与えてしまいます。どこがどのような理由ですごい(さすが)なのかまで伝えることで、心のこもった褒め言葉になります。

(言い換え例)
×プレゼン、すごかったよ
○プレゼン、あの事例を出したことで流れが変わったよね。すごかったよ。

何がすごいのかを伝えることで、相手を認める気持ちが伝わります。

×要領がいい
○仕事の進め方がスムーズ

仕事が早い、段取りが上手いなど、具体的な行動を褒めます。なお、「要領がいい」には小手先のテクニックでうまく立ち回るといったネガティブな意味合いもあるので、避けたほうが無難です。


「褒め言葉」はタイミングが命

何事もタイミングが重要です。褒め言葉の力が120%発揮されるタイミングで伝えるようにしましょう。

■褒めタイミング1:すかさず褒める
「そういえば3カ月前のプレゼンよかったよ」などと言われても、ピンときません。成果を出したときや成長が見られたときなどに、すかさず褒めるようにします。相手の変化に気づけるよう、普段からコミュニケーションを取ることが大切です。

■褒めタイミング2:テキストコミュニケーションも活用して褒める
リモートワークが普及し、同僚と直接会う機会が少なくなっている人もいるでしょう。褒め言葉を直接伝えようと思っていたら、何週間も先になって忘れてしまうかもしれません。チャットやメールの最後にひとことに付け加えるだけでもいいので、まずはそのときに。もちろん、会ったときに改めて伝えるのもいいでしょう。

■褒めタイミング3:ミスをした後輩を褒める
褒めるとは相手を認めることです。褒めとは程遠いと思える相手の失敗も、勇気づけるチャンスに変えることができます。たとえば後輩がミスを報告してきたときに「言いにくいのによく報告してくれたね」などと最初に報告の速さを認めてから再チャレンジを促せば、後輩を勇気づけてやる気を上げることができます。


「容姿に触れる」褒め言葉はタブー?

「褒められて嫌な気持ちになる人はいない」と思うかもしれませんが、容姿や身体的特徴を褒めるのはNGです。たとえ褒め言葉のつもりで「背が高くてスラっとしていますね」と言ったとしても、相手は長身をコンプレックスに思っていて不快感を覚えるかもしれません。

ここには「身長が高い=良い」という、自身のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が潜んでいます。初対面の人に「背が高いですね」と言うことはあっても、「背が低いですね」と言うことはほとんどないのではないでしょうか。

まして、身を置いていた環境(国、組織、身近な宗教など)によって、価値観はさまざまに変わります。外見を褒めるときは「相手が自分の意思で選択していること」にするのが無難。肌の色や体型ではなく、服装、持ち物などについて言うといいでしょう。

日本では、ひと昔前まで容姿について言及するのが当たり前でした。ですから、上司や先輩に、容姿について言われた経験がある人や、今も職場で当たり前のように話題にのぼるという人もいるかもしれません。

しかし昨今の時代の変化を考えると、悪気はなくても、一歩間違えば取り返しのつかない失礼や、会社やサービス自体のイメージを損なう大きな問題になる可能性があります。「容姿については触れない」はビジネスパーソンの新しい常識としておさえておきましょう。


ビジネスシーンの相手別・褒めるコツ5選

ここからは、相手別の褒めるときのコツを具体的に解説していきます。

【1】部下や後輩(若手)を褒める

小さな変化でも積極的に褒めていくのがポイントです。特に若手は、先輩から見れば「できなくても当たり前」とおおらかに受け止められることでも、本人たちは必要以上に気に病んだり、一歩先を行っている(ように見える)同期に焦りを覚えたりと、ストレスやプレッシャーを感じやすい状況にあります。

そんな時に「お客さんとの商談が板についてきた」「資料が前より見やすくなった」など、小さな進歩でも褒めてもらえれば気が楽になるというもの。気が付いたらどんどん口に出して褒めていきましょう。

【NG褒め言葉例】
「若いのにできるね」

注意したいのは、年齢に触れて褒めること。「若い=できない」という前提があり、人によっては不快感を覚えます。逆に年配の方に「60歳なのにパソコンを使いこなしていますね」などと言うことも失礼に当たります。


【2】同僚を褒める

友人でもありライバルでもある同僚。褒め言葉を活用することで関係性がより深まるかもしれません。褒めるときのポイントは具体性です。

たとえば営業成績トップの同僚に対して「すごい」「さすが」だけだと、上から目線の印象になる可能性がありますが、たとえば「あの会社から契約を取るなんてすごいね。どうやったの」であれば、印象がかなり変わります。

具体的に何を「すごい」と思っているのかが明確ですし、教えを請うことで相手の手法を尊敬していることが伝わります。実際に教えてもらえれば自分のスキルアップにもつながり、良いことだらけです。

また、褒めるのは成果ではなく過程でもいいのです。身近な立場の同期だからこそ見えるプロセスや努力というものもあるはず。結果につながらなかった時、落ち込んでいる時にフォローする場面でも、褒め言葉は有効です。


【3】年上の部下を褒める

先輩より先に役職に就く、中途採用で年上の新たなメンバーが加わるなど、年上の人をマネジメントする機会が出ることもあるでしょう。社会全体として年功序列の色は減りつつあるとはいえ、年下の部下とまったく同じく接するのは考えもの。相手の技術や経験を立てるのが基本です。

たとえば「よくやりましたね」「頑張りましたね」は、ですます調で一見丁寧ですが、「よくやった」「頑張った」と言っているので上から目線が透けて見えます。それよりも「こんなわかりやすいレポートが書けるなんてすごいです。コツを教えてもらえませんか」「○○さんの言葉遣い、私も見習いたいです」など、自分より優れている箇所を認めるのが大切です。


【4】上司、先輩、年長者を褒める

失礼にならないように表現は気を付けつつも「すごい」と思ったところは素直に伝えていきたいところ。ポイントは、具体性と尊敬の念を盛り込むことです。

たとえば「課長のトークを真似したら、お客様が熱心に聞いてくれるようになりました」などと伝えれば、すごい、さすがなどの言葉を使わなくてもそう思っていることがわかりますし、感謝の気持ちも伝わります。上司にとっても、自分のやり方で成果が出たというのは自信につながり嬉しいものです。

あとは、話を引き出して聞くことが結果として褒めることになります。結果を出している人には、武勇伝のひとつやふたつは必ずあるものですが、普段は話す機会もありません。

「私くらいの年齢のときはどんなことをしていたのですか」「そんな大変な時期をどう乗り切ったのですか」など、気持ちよく話せる質問を投げかければ、喜んで話してくれる可能性が高いです。褒めコミュニケーションをうまく使って、ビジネスのキーパーソンとも積極的に関係を築いていけるといいですね。


【5】会えない相手を褒める

メールのみでやりとりをしているビジネスパートナーにも、褒めは重要。特にテキストコミュニケーションだと「承知しました」「ありがとうございました」など、簡潔に伝えがちですが、ひとこと褒め言葉を加えるだけで印象が変わります。

たとえば「早急に対応ありがとうございました。おかげで残業せずに済みそうです!」など、ちょっとした1行でかまいません。チャット、メール、付箋は、話し言葉と違って形に残り、受け取った側の喜びもひとしおです。

筆者は取材をさせていただいた方から、「事業にかける想いを(記事中で)見事に表現してくださり感服しました」とメールをいただいたことがあります。涙が出るほど感動してメールを印刷し、落ち込んだときには見返していました。10年経った今でも、あのときの感動を覚えています。

今日からビジネスで使える! 褒め言葉一覧

ちなみに、いわゆる合コン「さしすせそ」と言われる褒め言葉も、ビジネスシーンで便利な言葉の一つ。リスペクトを伝えたい時に、頼りにしていると伝えてモチベーションをプラスしたい時に、さりげなく使ってみては。

「さしすせそ」の褒め言葉一覧と使用例

・さ:さすがです、最高です
 (例)先ほどのXXさんのトークの切り替えし、さすがでした。
 (例)さすが仕事が早いね!
・し:知らなかった
 (例)(先輩のアドバイスに対して)知らなかったです、勉強になりました。
・す:すごいです、素敵です、すばらしい
 (例)すばらしい、よくまとまってるね。
 (例)(訪問先などで)素敵なオフィスですね。
・せ:センスがいいですね(目上の方の場合は「センスがいい→おしゃれですね」など言い換えたほうが無難)
 (例)XXさんのセンスを見込んで、ぜひこの資料の作成をお願いしたいです。
 (例)(会食などで)XXさんが手配してくださるお店、いつも素敵でセンスを感じます。
・そ:そうなんですね、その通りです
 (例)A社の件、XXさんが指摘してくださった通りでした。ありがとうございました。
 (例)そうなんですね、XXさんのお話はいつも勉強になります。

その他、ビジネスで使いやすい褒め言葉一覧

・ご一緒できるのを楽しみにしていました。
・いつも助かります。
・よくがんばってるね!
・ありがとう、頼りにしています。
・ぜひXXさんのご意見をお伺いしたくて……。
・(上司の名前)さんも褒めてたよ。
・XXさんがチェックしてくれると心強いです。

相手を認め、立てる言葉を言われて嫌な気分になる人は少ないもの。コミュニケーションをスムーズにするために、会話のなかに取り入れてみてくださいね。

褒められて嬉しいと思われる人間であるために

「誰に褒められるか」も嬉しさに影響する

「何を」言うかに加えて、「誰が」言うかも影響するのが人間関係というもの。たとえば「努力が大事」と、一流のスポーツ選手が言うのと一般の人が言うのでは、重みも説得力も違います。

褒め言葉も同様に、まずは「この人に褒められたら嬉しい」と思われる人になるのが大切です。でもそんなに難しいことではありません。

近寄りがたい表情やオーラを作らず笑顔を心がける、清潔感のある身だしなみ、明るい挨拶、TPOに合わせた言葉遣いなど、社会人としての基本的なふるまいを今一度見直しましょう。

あとは、声をかけられたらパソコンやスマートフォンから目を離して相手を見て返事をする、挨拶の時は「○○さん、おはよう」のように名前を呼ぶなど、「あなたの存在を大切にしています」というメッセージを言語・非言語の両方から発し続けることが大切です。

褒めるコツを練習! まずは自分を褒める

繰り返しになりますが、褒めるとは相手を認めることです。そのためにはまず、自分自身を認めることが大切です。褒めることに苦手意識がある人は、もしかしたら自分に余裕や自信がないのかもしれません。

あふれるほどの水があれば相手に分けられますが、コップの半分も水がなかったらそうはいかないのと同じです。まずは自分を褒めるところからスタートしましょう。

とはいえ、些細なことでかまいません。たとえば「今朝は目覚ましをスヌーズなしで一発で起きられた」「メールの返信が早くて助かると言われた」「会議で意見を言ったら部長が満足そうに頷いていた」など、いつもスルーしてしまうことに目を向ける習慣をつけていきます。

ダメなところではなく「良いところ」を探す視点を持つことは、相手を褒めるときにも役立ちます。


まとめ:褒め上手の言葉がビジネスを制す!

褒め言葉はうまく使えるようになると、人間関係がスムーズになったり、コミュニケーションのハードルが下がったりといいことづくめです。まずは相手の良いところを探す。そして、気付いたらすかさず褒める。そういう習慣がまわりまわって人に褒められる機会が増えることもありますし、部下や後輩の能力を引き出し、職場の生産性をあげるためにも有効です。

仕事のなかで使える褒め言葉、褒めシチュエーション、ぜひ意識してみてくださいね。

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参考書籍
『一人でも部下がいる人のためのほめ方の教科書』(かんき出版、中村 早岐子)
『デキる上司は褒め方が凄い』(角川学芸出版、日本語力向上会議)
『ほめ言葉ハンドブック』(PHP研究所、本間 正人)
『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版、大野萌子)
『結果を引き出す 大人のほめ言葉』(同文舘出版、西村貴好)

文・ミーツキャリア編集部