優秀な人に共通する「解像度の高さ」って何だ? 起業家支援を続ける馬田隆明さんと言語化してみた

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あなたの職場に、「優秀だ」と周囲から評価されている同僚はいませんか?

もしかすると、あなたはその人と自分を比べ「確かにあの人は仕事をテキパキ進めるし、コミュニケーション力も高いけれど、自分も負けてはいないはずなのに……」と、モヤモヤしたことがあるかもしれません。

ただ、「優秀さ」の定義が曖昧なままだと、いつまでもモヤモヤし続けることになってしまいます。「優秀だ」と言われる人は、具体的にどの部分が「優秀」なのでしょうか?

一つのヒントになりそうなのが、近頃ビジネスシーンでよく使われる「解像度」という概念。解像度が高い、つまり物事の理解や思考がクリアになっている状態は、ビジネスにおける課題の本質を特定し、より適切な解決策を導き出すことにつながります。

そこで、『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(英治出版)の著者である馬田隆明さんに、解像度を上げるための考え方や具体的な方法を教えていただくとともに、馬田さんが考える「優秀さの定義」について伺いました。

馬田隆明さんプロフィール

馬田隆明。日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学で本郷テックガレージの立ち上げと運営に参画。2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』『解像度を上げる』。

そもそも「解像度が高い人」の特徴とは

──馬田さんは東京大学のスタートアップ支援を通じて、普段から起業家と接する機会が多いかと思いますが、その中でも「優秀さ」を感じる人にはどんな共通点があるでしょうか?

馬田隆明さん(以下、馬田):優秀な人は物事を「高い解像度で把握する」傾向にあると思います。要は広い視野を持ちつつ、「物事の重要なポイント」を深く理解できているということです。

多くの仕事は、何かしらの課題を解決することで成り立っていますが、課題の解像度と解決策の解像度の両方を上げることで、意義の大きな課題を選んで、それに対する適切な解決策を提案できるようになります。

──会社員の日々の仕事に置き換えると、具体的にどのようなシーンで解像度を上げることが求められるでしょうか?

馬田:営業やカスタマーサポートなど、お客さまの困りごとを解決するような仕事を例に考えてみましょう。お客さま自身も何を解決したいのか、よく分かっていないことが少なくありません。だからこそ、性急に解決策を出すのではなく、お客さまと対話を重ねて「本当に解決したい課題」を注意深く探る必要があります。これができている人は、課題に対する解像度が非常に高い状態であると言えます。

また、対お客さまだけでなく社内でのコミュニケーションにおいても同様です。チームの課題や置かれた状況を深く理解することで、より効果的な解決策の提案ができるはずです。逆に、その課題の本質をきちんと捉えられていない状態、つまり解像度が低い状態で解決策に飛びついてしまうと、的外れな取り組みが増え、結果的に無駄が多くなってしまうのではないでしょうか。

解像度を上げるための4つの視点「深さ」「広さ」「構造」「時間」

──馬田さんは著書のなかで、解像度を上げる4つの視点を挙げています。それぞれの視点について、詳しく教えてください。

4つの視点「深さ」「広さ」「構造」「時間」

馬田:筋トレにたとえると、分かりやすいように思います。「深さ」の視点で考えると、「筋肉を付けたいから」とやみくもにトレーニングを始めるのではなく、まずは具体的にどの筋肉をどれくらい鍛えたいのか掘り下げる。例えば、「上腕二頭筋と上腕三頭筋を太くしたい」という具体的な部位まで指定し、その筋肉の特徴を把握すれば、より効果的なトレーニング方法を選択できるでしょう。

また、「広さ」の視点ですが、これは筋肉を大きくするための“打ち手”を、多面的に検討するということ。筋トレにも数多くのメニューがありますし、食事や休息なども大事な要素です。トレーニングを補助するアイテムなどを導入してもいいかもしれません。つまり、知識や経験の引き出しが多いほど、課題に対して幅広い打ち手を講じることができるということです。

次に、「構造」の視点について。先ほど「深さ」の視点で掘り下げた「上腕二頭筋・三頭筋の肥大化」という目的に対し、「広さ」の視点から見えてきたそれぞれのトレーニング方法がどれくらい有効なのか、効果の強弱や難易度、​自分の状態などを考慮しながら、構造的に把握します。

例えば、なかには「効果は大きいものの、初心者向きではないトレーニング方法」もあるかもしれません。それを無理して行うことで怪我をしたりモチベーションが低下したりするくらいなら、「無理なくできる一つのトレーニングを、まずは1カ月続けよう」と判断するほうが良いこともあるでしょう。つまり、物事の構造さえ把握できていれば、さまざまな打ち手を認識しつつ、状況に応じてあえて選択肢から省く、という判断もできるわけです。

馬田隆明さん

──なるほど。では4つ目の「時間」の視点とは?

馬田:筋トレでいえば、初心者と中上級者の段階では、おもりの重量や適切なやり方は異なるでしょう。状態や変化を考慮しながら、その時々に合った手段を選ぶ。これが、時間軸を意識するということです。

この「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点を持ち、それらが相互に影響し合うことで、課題に対する解像度は上がっていきます。

──解像度を上げるためには4つ全ての視点を意識する必要があると思いますが、若いビジネスパーソンに不足しがちなのは特にどの視点でしょうか?

馬田:基本的にはどれも不足していることが多いですが、特に「深さ」と「広さ」の部分だと思います。若い起業家の方と話していると、課題の本質や打ち手の種類について掘り下げが足りていないケースが多いですね。

ただ、これは致し方ない部分があって、経験が少ないうちは「深さ」の視点を持ちづらいと思います。何を解決するのかが明確に把握できないまま仕事に向き合うことも多いので。また「広さ」についても、若手の頃はプロジェクト全体に関わるような仕事を任されることが少なく、眺められる風景が狭くなりがちです。そうした環境で広い視点を養うことは、なかなか難しいのではないでしょうか。

解像度を上げるコツは「型」を意識しながら行動量を増やすこと

──では、これら4つの視点を養うためには何をすれば良いのでしょうか?

馬田:大きく分けて、3つのステップがあると思います。1つ目は「まず行動する」ことです。先ほど、「深さ」や「広さ」の視点を養うには経験が必要だと申し上げましたが、やはり自ら行動しなければ実のある経験を得ることはできません。

実際、優れた起業家ほど行動量が圧倒的です。例えば「これを事業化するには1週間で5件の新規顧客が必要です」とアドバイスされた場合、彼ら彼女らはその日のうちに自ら営業に走ります。行動する際には必ず仮説を立て、行動により得られたフィードバックをもとに深く思考して、また新たな仮説を立てて行動する。この仮説検証のサイクルをスピーディーに繰り返すことで解像度をどんどん上げているんです。

2つ目は、行動する際に「型を意識する」こと。武道や芸事に「型」があるように、ビジネスの世界にも先人たちが成功と失敗を繰り返しながら確立してきたベストプラクティス(編注:ある特定の工程において最も効率的・効果的な手法)という「型」があります。この型に沿うことで、ありがちな失敗を回避し、効率よく上達できると思います。

3つ目は、「粘り強く取り組む」こと。高い解像度にたどり着くには、十分な時間をかけて取り組む必要があります。例えば起業のアイデアであれば、一つの領域に最低でも1000時間は取り組んで、初めて光明が見えると考えています。ひたすら頭をひねって思考し、大量に行動し続ける。諦めずに質と量を求め続ける粘り強さを持つことで、アイデアが洗練されていくと思います。

──馬田さんの著書では、48種類の「型」が具体的に紹介されています。若手に不足しがちな「深さ」「広さ」の視点において、特に重要な型を挙げていただけますか?

▲強化したい領域によって意識すべき「型」は異なる(『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(英治出版)より)
▲強化したい領域によって意識すべき「型」は異なる(『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(英治出版)より)

馬田:まず「深さ」の視点では、「インタビューをする」ことですね。インタビューは定性的な情報を得るにあたってコストパフォーマンスが良い手法であると同時に、さまざまな職種において解像度を上げるのに役立ちます。

──インタビューというと、専門的なスキルが必要なイメージもありますが。

馬田:確かに、単純に人に話を聞くこととインタビューは異なります。ここで言うインタビューの目的は「気づきを得る」こと。ただ楽しく会話をするのではなく、ときには話の流れを遮り、元の話題に立ち戻って深掘りすることも必要です。

また、「自分で考える」ことも重要です。人の意見をそのまま自分のアイデアとして取り入れるのではなく、あくまで「とある人はそう言った」という事実として受け止めて、その事実を基に考え、自分自身で洞察を導くのです。

──インタビューというスキルの「型」が重要だということが分かりました。ただ、そうはいってもインタビューと聞くと構えてしまう読者も多いように思います。スムーズに進めるためのコツはありますか?

馬田:インタビューのコツは、例えば6W3H(Why/What/Who/When/Where/Whom/How/How much/How often)を明確にすること、質問リストを用意しておくことなどいくつかありますが、基本的には場数を踏むことです。まずは知り合い経由でインタビュー相手を見つけるところから始めてみましょう。

スタートアップ立ち上げ時のチームを見ていると、新製品を作るためのインタビューを30〜50人程度に実施しています。それだけの人数に話を聞いて、ようやく製品化につながる可能性がありそうな「最初の」課題が見つかる印象です。

──では「広さ」の視点で、特に意識すべき型はなんですか?

馬田:どんな領域でも、情報が不足している状態では解像度を上げることが難しく、「何が分からないのかが分からない」という状況に陥ってしまいがちです。そこで、まずは「サーベイをする」ことをおすすめします。サーベイとは、多くの情報を集めて全体像を知ること。つまり、良質な情報を内化(※)することです。

※内化(internalization):読む・聞くなどを通して知識を習得したり、活動(外化)後のふり返りやまとめを通して気づきや理解を得たりすること。
(出典:(用語集)内化・外化(溝上慎一のホームページ内「溝上慎一の教育論」、2018年3月24日掲載 2018年5月31日更新))

──先ほどの「インタビュー」とどう違うのでしょうか?

馬田:顧客についての深い洞察を得るのがインタビューの目的だとすれば、その洞察がビジネス全体の中でどのような位置づけにあるのか、全体の中で何が抜けているのか、といった全体感を得るのが「サーベイ」の目的です。

先ほどお話ししたインタビューも重要ですが、インタビューによって得られた洞察だけで大きなビジネスにつながるかというと難しい。例えば、インタビューで得られた目の前のお客さまの課題が、そのお客様一人しか持たない課題なのか、それとも多くの人を対象にしたビジネスにつながる課題であるかは分かりません。ある程度の全体感がなければ、得られた洞察の重要度も分からないのです。

──なるほど。では、具体的に、サーベイではどんな情報を集めればいいのでしょうか?

馬田:自分の仕事の領域に関連するニュースや市場のトレンド、研究など、さまざまな情報が対象になりますが、まずは「事例」に当たってみるのがいいと思います。

例えば、いま取り組んでいる課題に関連する他社製品やサービス、また、それを手掛ける会社や人のインタビュー記事なども読み込んでみる。成功事例だけでなく失敗事例も含めて、最低でも100個程度はサーベイできていないと、広い視野を持つことができているとはいえません。

これができている人は意外と少ないため、徹底的に、かつ継続的にサーベイを行うことで十分な競争力を持てると思います。

ちなみに、ここまでお話ししたインタビューやサーベイはあくまで内化の手段です。これらで得た事実を書いてまとめたり、対話することなどを通して外化(※)することで初めて、質の高い情報と思考を獲得できる。つまり、課題の解像度を上げられるわけです。

※外化(externalization):書く・話す・発表するなどの活動を通して、知識の理解や頭の中で思考したことなど(認知プロセス)を表現すること。
(出典:(用語集)内化・外化(溝上慎一のホームページ内「溝上慎一の教育論」、2018年3月24日掲載 2018年5月31日更新))

解像度を高くする=複雑なことを単純化すること、ではない

──物事を解像度高く捉えられている人は、説明上手というイメージもあります。例えば、人気のYouTuberなどは複雑な物事をシンプルに説明できているように感じるのですが、いかがでしょうか?

馬田:私は「分かりやすいこと」が解像度が高い状態とは必ずしも言い切れないと考えています。確かに、社会の問題に対して「こうだ」とシンプルに言い切れる人は多くの支持を得ていますし、「物事の要点を押さえる」ことは解像度を上げる一つのポイントではありますが、分かりやすさにこだわるあまり「木を見て森を見ず」という状態になっては本末転倒です。

──単純化は、ある種クレバーさを印象づけるアクションだと感じていたので意外でした。

馬田:「単純さ」の裏には、捨てられたものがあります。もしかしたら、その捨てられたもののなかにこそ重要な観点が隠れているかもしれません。そこをバッサリ切って何でもかんでもシンプルにしてしまうのは、思わぬ落とし穴にはまりかねない、危険な兆候ではないかと思います。むしろ、複雑なことを複雑なものとして捉え、その上で重要なポイントを把握することが、真に解像度が高い状態といえるのではないでしょうか。

──物事の複雑さに、しっかり向き合うことが大事だと。

馬田:そうですね。複雑なものを複雑なまま理解した上で、相手の理解度や目的に合わせて伝え方を調整できることこそ、真に「解像度が高い状態」と言えるのではないでしょうか。相手がその分野についてあまり明るくないのであれば、専門用語などは使わず説明するなど、伝え方と内容を工夫するといいように思います。

──そもそも自分自身が解像度高く物事を捉えられていなければ、相手に合わせて伝え方を調整することもできませんよね。

馬田:そう思います。もちろん、解像度を上げれば上げるほど、見たくないものまで見えてしまう可能性はあります。しかし、そうしたネガティブな側面も含めて、物事の複雑さを解像度高く理解することから逃げてしまえば、ぼんやりとした人生を過ごすことになってしまうでしょう。逆に、解像度高く世界を見ようとすることで、その美しさに気づくことも増えるのではないでしょうか。

「優秀さ」とは、より高い山を目指すこと

──物事や思考の解像度が高ければ高いほど、課題の本質や解決策を見つけやすく、そうした人が「優秀」と言われる理由も分かりました。一方で、それだけでは人々の意表を突くような革新的なアイデアや仕組みを生み出すのは難しいようにも思います。そういったスキルは「優秀さ」という尺度で測れるものなのでしょうか?

馬田隆明さん

馬田:100点満点のテストで90点をとる優秀さもあれば、100億点満点のテストに挑み、1000点や1万点をとる優秀さもありますよね。個人的には、後者の方、つまり「どこまで高い山を登ろうとするか」という観点でも優秀さを測るべきではないかと考えています。

もちろん、前者の優秀さも大切です。ただ、世の中に新たなものを生み出すのは、失敗や間違いを覚悟の上で挑戦するような後者の優秀さだと思うのです。

特に若い人には、より高い山に挑む優秀さを意識してほしいと思っています。もちろん会社や職種にもよりますが、与えられたゴール地点よりも高い頂上を自分のなかで設定し、そこに到達するためにできることを考えていく。あるいは、チームが登っている山自体に納得できないのであれば、登る山そのものを変える提案をする。それが叶わないのであれば、そもそも会社のミッションと自分のやりたいことがマッチしていないわけですから、それこそ転職も視野に入れる。

そうやって、能動的に高い山を目指し、100点満点のテストではなく、1兆点のテストに挑んで1億点を取ろうとすることができる人は、本当に優秀だと思います。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:関口佳代

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