「作業者根性」を捨てよ。メン獄さんに「コンサルの仕事術」を聞いたら、思わず背筋が伸びた

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「考える仕事」に必要なあらゆるスキルが求められるコンサルタント。彼らの合理的かつストイックな働き方は時にSNSで大きな話題を集めます。例えば、伝えることを簡潔に体系化するロジカルシンキングやマルチタスクをそつなくこなす業務効率化術、そしてどんな困難に直面しても任された仕事を最後までやり抜くコミット力……。

業界内外でも通用するこれらのスキルを身に付けようと、近年コンサル会社への就職を希望する20代が増えています。それは、コンサル会社で働くことが「自身の市場価値向上に直結する」と考えられているからではないでしょうか。

だからこそ、コンサルタントの仕事術や仕事に向き合うマインドは、他の業界でも通用するはず──。そんな仮説をもとに今回、お話を伺ったのはメン獄さんです。外資系コンサル会社で12年間勤め上げ、現在は自身の経験やスキルをSNSなどで積極的に発信されているメン獄さんは、コンサル業界で「プロの仕事」を学んだといいます。

一見するとストイックな、コンサルの働きぶり。そこには、業種や職種を問わない、プロとして大切な心がけにあふれていました。

メン獄さんプロフィール
メン獄さん。1986年、千葉県生まれ。コンサルタント。上智大学法学部法律学科卒業後、2009年に外資系大手コンサルティング会社に入社。システム開発の管理支援からグローバル企業の新規事業案件まで幅広く手掛ける。2021年に退職後、医療業界全体のDX推進を目指すスタートアップ企業にDXコンサルタントとして就職。コンサルティング業界の内情やDXトレンドを紹介し、仕事をよりポップな体験として提案するTwitter、noteが人気を博す。2023年3月に初の著書『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』(文藝春秋)を出版。Twitter:@uudaiy

議事録や資料作成は“仕事”だと思われない

──今、コンサルタントは学生に人気の職種の一つで、東大生の就活人気ランキングも今はコンサル会社が上位にランクインしています。そもそも、メン獄さんは、なぜコンサルに入ろうと思ったんですか?

メン獄さん(以下、メン獄):そんなに大した理由ではないですよ。もともとは弁護士を目指していたんですが、一度就活をしてみようと思って、就活サイトで見つけた募集バナーをポチッとしただけで……(笑)。

──意外と軽い気持ちだったんですね……!

メン獄:これはあくまで僕の考えですが、コンサルという仕事は、働くのに理由がいらない人のほうが向いてると思うんです。明確なやりたいことや、崇高な理念を持っている人は、自分で仕事を起こしたほうが早いですから。

でも、特にやりたいことがない人にとっては、コンサルに入社するとクライアントワーク(顧客から依頼された仕事)のイロハが学べてその後のキャリアの選択肢が増える。給料も他の業界に比べて高いので、行かない理由がないんです。だから最近だと、「モラトリアム」で行くような人の割合も増えているんでしょうね。

──なるほど。でも、「モラトリアム」という割には皆さんストイックに仕事に向き合われているイメージがあるのですが……。SNSでは、コンサル会社に務める人たちのストイックな仕事ぶりが、時折話題を集めていますし。

メン獄さんの仕事論はコンサル業界の内外で共感を呼んでいる

メン獄:それは仕事柄、自分に支払われている対価をものすごく意識しているからだと思います。コンサル業界ってサービスの単価が異常に高いんですよ。それは、サービス自体が課題解決の提案など知的成果物だったり、業務サポートだったりと、クライアントの課題に直結し、生み出すのに高度なスキルを要するものだからです。

例えば、わざわざコンサル会社に助言をお願いしなくても、社内の人たちで仕様書通りに実行すればできちゃう商品やサービスも多いと思うんです。だからこそ、「(コンサルの)僕たちだからできること」をすごく求められるし、社内外からの「付加価値を出せ」というプレッシャーもものすごい。当然ながら、対価としての手数料(コンサルフィー)も非常に高額になります。

そう考えると、非効率な仕事ぶりはクライアントにとってコスパが悪いですよね。そうした考え方が外からはストイックに見えているだけだと思います。

──確かに……。

メン獄:だから、コンサルにしてみれば、議事録や資料作成を“仕事”としてカウントしないでほしいんですよ。

──どういうことでしょうか?

メン獄:議事録を書くのに3時間もかけたり、会議調整に手間取ったりしているようじゃ、クライアントの課題を本質的に解決する時間が持てませんから、上司にも「他に何も頼めることなんてないから帰っていいよ!」って思われる世界なんです。

そうした業務については、手癖で瞬殺できる手法を身に付けることが求められる。僕がいた頃はそうじゃないと、話になりませんでした。

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「作業者根性」を捨てて、まずは当たり前のことを速く・正確にこなす

メン獄さん

──もう既に耳が痛いですが……コンサルの中には、初めからそういったスキルを身に付けられている人が多いんですか?

メン獄:そんなことはないですよ。コンサル業界に限りませんが、入社した当初は、自分に支払われているお金の重みを理解できたとしても、「雑務」に時間がかかりがちです。仕事をこなす技術や慣れがないですからね。ただ、そこでクライアントに貢献している気分になってしまうと危ない。

しかも、作業をすることって気持ちいいじゃないですか。「自分はこんなに頑張ってる!」って、作業をすること自体が信仰になっていくフェーズがあると思うんですよね。そんな、作業の本質を考えず、手を動かすだけで満足してしまう思考を僕は「作業者根性」と称しています。

例えば、長時間労働。業界ごとにさまざまな事情がありますが、何かが致命的に間違ってるはずなのにやり続けることによって救われようとしている「作業者根性」が見え隠れしているケースもありますよね。

この「作業者根性」が身に付いてしまうと、最終的に上から言われたことをやっているだけでも、「やり続けていたら勝ち」という状態になって、何となく上に評価されて、そういう仕事のやり方しかできなくなってしまう。

──「作業者根性」を捨てるために、具体的には何をすればいいでしょう?

メン獄:スピードと正確さを徹底的に追求することですね。もし、教えてくれる人が誰もいないのなら、社内のデータベースから過去の分かりやすいスライドや議事録などを引っ張ってきて、とにかくデキる人のまねをする。

身近なことでは、会議設定を依頼されたら、すぐに必須出席者・任意出席者の確認、会議室の要・不要、アジェンダと会議時間を調整する。

議事録作成を任されたら、事前に会議の結論をシミュレーションし、所定のフォーマットをすぐに確認する。会議当日には社内展開する。

そういったスピード感のある動きに加えて、作業効率を上げるためにExcelのショートカットや基本的な関数をとにかく覚えるのは必須でしょうね。

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「スピード」を生み出す3つの条件。『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』より

後は、自分が困っていることをはっきりさせて、どんなサポートが必要なのかを他人に伝える

僕のいた会社では、ちゃんと言えば助けてくれるはずなのに、一人で抱え込んで大きな問題になってしまう……という不幸な事件が結構ありました。素直に「できない」と言えなかったり、必要な時に助けを求められなくなってしまう人は仕事で苦しんでいる印象がありますね。

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「クライアントファースト」が鉄則。考察に時間と頭を使う

──スピードや正確さの他に、コンサル会社で徹底されている考え方はありますか?

メン獄:やっぱり、大事なのは、「クライアントファースト」を徹底することだと思います。

──クライアントファースト?

メン獄:先ほどの例でいうと、資料の見栄えが求められない局面で長い時間をかけて一生懸命美しい資料を作るとか、自分一人でできないのに助けを求められない時点で、自己満足の仕事になっていますよね。全然クライアントのことを考えられていない。

当たり前のことかもしれませんが、コンサルの仕事は、どれだけクライアントに還元できるかが全てなんです。これはto Bの仕事も、to Cの仕事も変わらないことですよね。メーカーであれば、商品を買ってくれるお客さんのことを徹底的に考えるのが大事です。

クライアントがどんな悩みを持っていて、どういう状態になりたいと考えているのか。それを深く考察するためには、彼らが普段働いている現場のことをよく知らなければならないし、競合に勝つために参考となるような事例を知っておかないといけないし、実現可能性のある方法を組み立てられないといけない。

ここが、僕たちコンサルが最も時間と頭を使わなきゃいけないポイントです。自分が今やっていることが、どうクライアントのためになるのか。それをやることで本当にクライアントは喜ぶのか。

そういうマインドを持っていたら、「何に時間をかけるべきか」は自ずと見えてくるはずです。

──作業は手早く終わらせて、クライアントのことを考えることに時間を割くのが本質的だと。

メン獄:はい。そしてこれは、自分の役職が上がれば上がるほど、より必要になる考えです。なぜなら、やることが増えれば増えるほど、クライアントのことを考えられる時間は少なくなっていくからです。

僕がマネージャーをやっていたときは、自分が達成しなければいけない目標もあれば、定時で上がりたい部下もいれば、戦略的に売っていきたいコンサルティングサービスもありました。

でも、それらを全部満遍なくやって、クライアントを喜ばせるのは無理なんですよ。クライアントのためを思うと、何かを捨てなきゃいけない。それでもクライアントを第一に優先するのが鉄則なんです。

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リスペクトを勝ち取るためにクライアントのことを知り尽くす

メン獄さん

──お話を聞いていると、メン獄さんが上梓された『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』って、実はコンサルにとってはものすごく初歩的なことが書かれているような……? ここで書かれている会議の調整方法や議事録のまとめ方って、先ほどおっしゃった「仕事としてカウントしない雑務」ですよね?

メン獄:はい、その通りです。だから、めちゃめちゃ入り口なんです。

入社したての年次が浅いアナリストのうちは「雑務」を正確にこなすだけでもいいですが、入社3年目以降(ジュニアコンサルタント・シニアコンサルタント)になってくると、何も言われなくても、クライアントや上司に求められていることを察知して先回りができたり、クライアントと一対一で話して、リスペクトを勝ち取れるぐらいになっていないと厳しいですね。

コンサルタントの各ステージ
コンサルタントの各ステージ。『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』より

──クライアントから信頼されるために、メン獄さんはどのような動きをされてきたんですか?

メン獄:僕はとにかくクライアントと話すようにしていました。「毎日何をしてるんですか」「最近、何かムカついていることはありませんか」と雑談のように聞いてると、業界の特徴や地雷ポイントが見えてくるんです。

例えば、通信業界だと会社の資産の中でアンテナなどの固定資産が異様に多い傾向にあるので、事務系の部門が「普通の固定資産管理システムでは管理し切れない」という悩みを抱えていたり、図書館のクライアントだと「本に付箋をベタベタと貼る利用者」に悩まされていたり。

そうしたお悩みポイントはクライアントによって違うし、クライアントと直接話すことでしか学べないと思っている。なので、とにかくクライアントと話して、現場の目線や、職業倫理として大事にしていることを把握するようにしていました。

あと、クライアントの業界にまつわる情報に触れる時間も増やしていましたね。Twitterで業界に関する情報を発信している人をフォローしたり、本屋さんで今話題の本をウオッチしたり。業界の専門用語が頭に入ってくると、次第に付属する情報に目がいくようになるんです。

例えば、通信業界だったら、それまでまじめに考えたことがなくても、マンションの屋上の設備を見るだけで「あれはどこの事業者のどこ製の基地局だな」とか分かるようになってくるんです。

「サッカーがうまくなりたいなら、サッカーボールを触る時間を増やせ」と言われるのと同じで、業界の情報に触れれば触れるだけ、以前は見えなかったものが解像度高く見えるようになっていきます。

マクロトレンドの押さえ方
マクロトレンドの押さえ方。『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』より

──クライアントのことを考えるためには、クライアントに直接触れることが大事ということですね。

メン獄:そうですね。結局コンサルに限らず、どの仕事にもクライアントは存在していて、「この人から買いたいな」と思ってもらうとか、何かが起こっても大ごとにならないぐらいの関係性を構築しておくことが大事だと思うんです。

そのためには、当たり前かもしれませんが、ずっとそのクライアントのことを見ていたほうがいい。「今日はスーツを着ているから、社外で打ち合わせがあるのかな」とか、外見だけで行動パターンを推測できるようになったり、観察するだけでもヒントはたくさんあります。

その上で、ひたすら案件に取り組んでいると、次第に「マップ」が描けるようになっていくんですよ。

──「マップ」とは……?

メン獄:頭の中でスタートからゴールまでの「マップ」が描けるようになったんです。これを実行するなら、このタイミングに巨大な岩があるはずだから、突破するためにメンバーを先に配置しておくとか。ここはキーパーソンを納得させないといけないから説明の仕方を工夫しないといけないな、とか。

僕も以前は、言われたことをこなすだけで精いっぱいだったんですけど、あるとき大事故を起こしたことがあって……。

クライアントの新規の業務設計を自分たちが主体となって進めなければいけないときに、進捗が悪くても「まだ怒っているわけじゃないから」という理由で、より緊張感のある案件を優先してしまったんです。

そうしたら、知らない間に、そのクライアントが一番怒っている状態になっていました。

それは「クライアントが怒っているのが普通」という状態だったから起こった事態でした。でも、冷静に考えるとそれって異常なことじゃないですか(笑)。

当時は怒られながらも、とにかく言われたことをやれば何とかなると思っていたんですけど、あらためて、「怒られないためにはどうしたらいいんだろう」と考えるようになってから「マップ」にたどり着きました。

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「サプライズのある解決法」を生み出すことこそプロの仕事

──今日お話を聞いて、コンサルというのがいかにシビアなお仕事なのかを思い知らされました。ストイックにクライアントに向き合い続けた結果として、高いビジネススキルが身に付いていくんですね。

メン獄:確かに、今考えるとかなりめちゃくちゃだったけど(笑)。僕自身も別に定時で帰る人生を送りたかったわけじゃないし、大きな仕事に関われているという自覚があったり、クライアントに喜んでもらいたいと思っていたりしていたからこそ、楽しんで12年間も働き続けられたと思っています。

仕事を通じていつも一番最初に考えていたのは、「どうやったら面白く解けるかな」ということでした。例えば、「来月まででいいよ」と言われたものを翌日までに提出するとか、前例のないテクノロジーを取り入れるとか、「そんなやり方するんだ!」というサプライズをどう届けるかが、大きなモチベーションでした。それが料理のメインディッシュなのだとしたら、議事録や資料作成は下ごしらえみたいなものですよね。

さらに、「この人は、現金を持ってこないだろうからQR決済できるようにしないと」というような、UX(ユーザー体験)までを考えられるのが、いわゆる“プロフェッショナル”と呼ばれる人たちなのだと思います。

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メン獄さん

コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』(文藝春秋)

取材・文:いしかわゆき
撮影:小野奈那子

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