あなたが信頼されないのは「会話のズレ」のせい。組織内コミュニケーションの達人が教える、“丁寧に聞く”技術

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「話をしていると『アレッ?』という顔をされる」
「相手に『ちゃんと話を聞いてる?』と言われる」
仕事でこんな経験をしたことはありませんか?
もしかするとそれは、「会話のズレ」が原因かもしれません。

「会話のズレ」とはつまり、相手と会話が噛み合っていないということ。お互いに伝えたいこと、聞きたいことがはっきりしていないと、認識がズレたまま物事が進んでしまい、大きな「事故」につながります。

では、具体的に、何をどのように気を付ければ「会話のズレ」を解消できるのか。
「コミュニケーション術」と聞くと、流れるような口調や、テンポの良い会話、ユーモアに富んだエピソードなど、話すテクニックが思い浮かぶ人も多いでしょう。

しかし、『キミが信頼されないのは話が「ズレてる」だけなんだ』の著者で、コンサルタントの横山信弘さんは、「聞く」ことの大切さを指摘します。

お互いに気持ち良く、円滑に仕事を進めるためのコミュニケーションテクニックを横山さんに伺いました。

横山信弘さんプロフィール写真
横山信弘(よこやま・のぶひろ)さん。株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長。企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。

コミュニケーションの本質は「他者視点」の徹底

会話のズレ度チェックシート
本文を読む前にまずはチェック。1つでも当てはまる場合は、日ごろから会話がズレている可能性あり!

──「コミュニケーション」と聞くと、「流暢に話すコツ」といったニュアンスを感じてしまいます。横山さんが思う、ビジネスパーソンに必要な「コミュニケーション」とはどんなものでしょうか?

横山信弘さん(以下、横山):ビジネスパーソンに必要とされている「コミュニケーションスキル」は、「上手に話す」スキルではありません。

そもそも、どんな業種でも生産性を上げることは大切です。ものづくりの現場だと、生産性向上に直結するのは作業の内容やフローそのものの効率化ですが、オフィスワーカーの場合、業務内容的にコミュニケーションを効率化した方が生産性を上げられる傾向にあります。実は、上手に話すことはその「コミュニケーションの効率化」にはつながらないんです。

──会話を弾ませる力が「コミュ力」と呼ばれるように、てっきり、口が上手なことがコミュニケーションにおいては大事なのかと思っていました。

横山:会社を牽引するトップセールスって、お話が上手で「口八丁手八丁」なイメージがあるでしょう? でも、あれはイメージに過ぎず、実は話すのが上手な人ばかりではないんです。

むしろ、話し方ばかりにこだわることはコミュニケーションを非効率にしてしまいます。なぜなら、あくまで「自分視点」だからです。

──「自分視点」ですか?

横山:そう。コミュニケーションは相手がいなければ成り立ちませんから、本来なら、まず相手の話を聞くことから始めるべき。でも、自分が話すことばかり考えていると、相手と意思疎通するという本質的な部分がおざなりになってしまう。それって非効率じゃないでしょうか?

例えば年齢が離れた人と話す時に「相手が何を考えているか分からない」と悩むことがあるかもしれませんが、分からなければ聞けばいいだけの話なんです。

コミュニケーションの本質とは、徹底した「他者視点」です。テレビ番組でたとえるなら、司会やMCのような感覚に近いです。彼らは自分の身の上話はできる限り控え、黒子に徹して場をまわしていきますよね。

──確かにそうですね。MCの方は出演者を巻き込んでその場をうまく盛り上げ、成立させることに長けている印象です。

横山:相手と良好な関係を築きたいのであれば、自分が何を話すかは一旦脇に置き、相手に関心を寄せて、相手の話を広げていくことが大切です。

それなのに、コミュニケーションにまつわるノウハウは「自分が話すこと」に焦点を当てすぎてしまっている。だからビジネスの現場では「何を話したらいいか分からなくて営業に行けない」「お客さんとコミュニケーションがとれない」と思い込む人が多いんですよね。

ビジネスシーンの会話では「ぼんやり」と伝えがち

──確かに初対面の相手と話す時は、「何を話せばいいか……」と悩みがちです。では、実際のビジネスシーンでの会話で、どんなミスが起こってしまうのでしょう?

横山:例えば、「できるだけ早く資料を作ってね」と上司に指示された際、「分かりました!」と即答する前に、「できるだけ早く」が具体的にいつまでなのかを確認しないと、上司の期待する納期と認識がズレてしまうかもしれません。「会議室を予約して」と言われたのに、参加人数や目的も確認しないまま予約してしまったら、相手が想定しているスペックの部屋を用意できませんよね。

このように、ミスコミュニケーション、つまり「会話のズレ」は相手の話をきちんと聞こうとしないからこそ発生してしまう。すると、仕事も捗らず、生産性が著しく下がるばかりか、相手の信頼も失ってしまう。これは特に珍しいことではなく、あらゆる職場で頻繁に起きていることです。

──確かに、身に覚えがあります。ただ、「指示の出し方」も不十分であるように感じてしまうのですが……。

横山:まさにその通り! 会話がズレる最大の原因は、伝える側がぼんやりと話すからなんです。

「先日の提案書、よろしくね」とか、「そういえば、あれどうなった?」とか、「できるだけ早く頑張って」とか。つい「前提」を省略したり、曖昧な表現を使ってしまいがちです。

伝える側に立った時、意識してもらいたいのが「最後まで伝えきる」ことです。「メールを送っておきました」「資料を机の上に置いておきました」ではなく、「メールの中身にこういうことが書いてあるので、今日の夕方の4時までに良し悪しの判断をしてほしい」と具体的に伝える。その上で、固有名詞や数字を意識したり、伝える前にしっかりと準備したりすることも大切ですね。

──具体的であればあるほど認識のズレは起きにくいというわけですね。しかし、なぜビジネスシーンでぼんやりとした伝え方になってしまうのでしょうか?

横山:こうしたことは、ものづくりの現場では起こりえません。なぜなら、建築やシステム設計の領域では一度やってしまった作業を後戻りして直すのが物理的に難しいため、作業を始める前にかなり細かく要件を定義してメンバーの認識を擦り合わせた上で作業を始めるからです。

でもオフィスワーカーの場合は、「とりあえずやってみる」といった形で、認識の擦り合わせと作業の進行が並行しがちです。指示を出す側が、指示の内容をきちんと整理できていないことも多いんです。

だからこそ、指示された時点で分からないところがあれば逐一確認しなければならない。それに「聞く」ことで、相手が伝えたいことを整理できるという利点もあります。

大事なのは、相手と一緒に情報を整理しながら考えること。それがビジネスで生きる「聞き方」です。

ここまでのまとめ1

「聞き手」の立場で会話の主導権を握る方法

──では、具体的に相手の話を聞くコツを教えてください!

横山:先ほどコミュニケーションの本質は「他者視点」だとお伝えしたところと矛盾するかもしれませんが、自分が会話の主導権を握ることですね。

──聞き手のまま会話の主導権を握ることなんてできるのでしょうか?

横山:「自分が話すこと」に焦点を当てすぎるのと、会話の主導権を握ることは大きく異なります。

コツは、いかに“会話の間(ま)”を恐れないか。人は、どうしても沈黙が気になって、間を埋めたくなってしまいます。でも、慌てて間を埋めようとすると、相手のペースに巻き込まれてしまうんですよ。

……。

──……? えっと、どうしましたか?

横山:はい、今のが“間”です。ちょっと不安になりませんでしたか?

──確かに、気まずさを感じました。

横山:そんな時に便利なのが「メモ」。メモを取りながら話を聞いていると、その行為自体が発言しないことの大義名分となるので、間が生まれても落ち着けるんですよ。

それに、メモを取るようにすると、相手が話す時間よりも、必然的にこちらがメモを取る時間のほうが長くなりますよね。つまり、相手が話し終わっても、こちらはメモを取りつづけている。

そうすると相手は手持ち無沙汰になって、また話し始める。メモを取り続けている限り、相手は勝手に話し続けてくれるので、会話の間が気にならなくなっていきます。

──メモにそんな効果が。新人の時はよく取っていましたが、仕事に慣れてくるとあまり取らなくなってしまったような気がします。

横山:厳しいことを言いますが、それははっきり言って二流ですね。新人かベテランかを問わず、優秀な人ほどメモを取っています。

ほかにも、メモを取るといいことがたくさんあります。前のめりにメモを取っているだけで、相手は話したくなるんですよ。「この人はちゃんと話を聞いてくれている!」と感じるんです。だから、聞く姿勢を見せるためにも、パソコンにタイピングするのではなく紙のメモをとるのがオススメ。パソコンなどの場合は他の操作をしているようにも見えてしまうからですね。

──確かに、自分が話す時を思い出すと、相手がどのように聞いてくれているか気になりますね。

横山:聞く姿勢は、相手と信頼関係を築くうえでとても重要です。私も毎週のように講演をしていますが、受講者が熱心に聞いてくれているかどうかは壇上から一目で分かります。コンサートと一緒で、相手が熱心に聞いているのが分かるとこちらもノってくるんですよ。

「信頼」というのは情緒的なものなので、本当に信頼できるかどうかは別にして、「あの人といると心地いい」「あの人を前にするとついつい話しちゃう」と感じてもらうテクニックとしても、メモを取ることは有効なんです。

──メモを取ることに夢中になって、相手の話がうまく聞けない……というようなことはありませんか?

横山:むしろ、メモを取ることによって会話の主導権を握るんです。 話を聞いていると、相手の論点がズレてきたり、思い付きで話し始めることがありますが、そこを制御するのも聞き手の仕事です。

とはいえ、すぐに話を遮るのもよくないので、1分間ほど聞いてみたうえで「先ほどの件について確認したいのですが」といった具合に、本筋へ誘導するのです。

──メモを取る時間を活用して、会話の主導権を握っていくと。

横山:そうですね。ただ、メモを取ろうと慌てるあまり字がぐちゃぐちゃになったり、途中で書くのを諦めてしまったら、相手に主導権を握らせてしまっている証拠です。あとで自分が読み返すことできるような字で書くことを意識すると、うまく会話の主導権を握れるようになっていくと思います。

──ちなみに、書き留めたメモをうまく活用できるテクニックはありますか?

横山:会話が終わったあとに要点をまとめて、相手にメールで送ることですね。例えば「念のために確認してください」「認識のズレがあってはいけないので」などの形でこちらの意図を伝えつつ、話の要点をまとめます。まとめ方は、箇条書きでもなんでも、要点がまとまっていれば大丈夫です。

書いているうちに、「さっきの会話で聞き漏らしてしまった」と追加の確認事項が出てくる可能性もありますから、そのメールであわせて質問してもいいと思います。

メールにして送ることで記録として残るので、「そんなこと言った覚えがない」という“言った・言わない論争”を防ぐこともできます。むしろ「この人はいつも丁寧に確認してくれる」と好印象を与えられるかもしれません。

これは、自分が頭を整理するためにも、相手と共通認識を持つ意味でも、使っておきたいテクニックです。メモを活用することで、小さな信頼を積み重ねることはすごく大切だと思いますね。

ここまでのまとめ2

忘れてはいけないテキストコミュニケーションの「使い時」

──最近では職場のコミュニケーションもオンライン化し、テキストでやり取りする機会も増えています。テキストコミュニケーションにおいて「会話のズレ」を防ぐためには、どんなことを押さえておくといいでしょうか?

横山:テキストコミュニケーションの「使い時」を見極めることです。

対面でのコミュニケーションは非言語の情報がたくさん入ってきますよね。相手が険しい表情をしてピリついた雰囲気を出していたら、うまく質問できないこともあるでしょう。

でもテキストコミュニケーションであれば、そういった非言語の情報に左右されにくい。オンライン会議であっても相手の顔を見ずに話せますしね。私も緊張している時は、設定をいじって相手の顔をオフにして話すこともありますし(笑)。

──横山さんでもそんな場面があるんですね!(笑)

横山:もちろん、私も人間ですからね。そして、頑張りを見せたい時や、謝罪をしたい時など、「ここぞ」という時に対面のコミュニケーションを挟む。

例えば、営業職は、お客さんと対面で商談を進めていくことが多いですよね。テキストコミュニケーションで正確性を担保しながら、本気度を伝え、相手との「本気度のズレ」を解消するために対面のコミュニケーションを活用することが大切です。

──なるほど。先ほど、「紙のメモを取りながら聞く姿勢を見せる」ことが信頼関係の醸成に繋がるというお話がありましたが、テキストコミュニケーションでその代わりになるものはありますか?

横山:特にチャットツールで有効な手段ですが、こまめにやり取りをする、ということでしょうか。

「これは具体的にどういうことですか?」「納期はいつにしましょう?」「当日はよろしくお願いします」など、テンプレート化しづらい表現でこまめにやり取りできるのはチャットツールの強みです。「チャットツールでやり取りできませんか?」とこちらから率先して提案すれば、相手も応じてくれると思います。

あとは、細かいところですが、テキストコミュニケーションをする際に大切にしているルールがあって。

──ルール?

横山:アイコンを必ず、自分の笑顔の写真にしておくことです。以前、私がコンサルティングを担当している会社とチャットツールでやり取りをしている時に、営業部長から若手まで全員が山や猫の写真をアイコンにしていたんですよ。だから「今すぐ皆さんの笑顔の写真を撮ってください!」と社長に連絡したことがあります。

横山さんが実際にアイコンに使用している写真
横山さんが実際にアイコンに使用している写真

テキストコミュニケーションではお互いの顔が見えませんよね。そんな時に笑顔のアイコンにしておくと、少々言いづらいことも話しやすくなる。そんな効果があると思っています。また、オンライン会議でカメラをオフにされていても、表示されるアイコンが笑顔だったら話しやすくなりませんか? これはオンラインならではの心理的安全性の作り方ですね。

ここまでのまとめ3

「会話のズレ」をなくすことは相手の満足度を上げることではない

──お話を聞いて、会話のズレをなくすには、「当たり前のことを当たり前にやる」ことが大切なのだと感じました。

アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱する「二要因理論」では、仕事の満足に関わる要因を「動機づけ要因」、不満足に関わる要因を「衛生要因」と捉えていて、会話のズレはそのうち「衛生要因」にあたります。例えば、屋根に穴が開いていないことに喜びを実感することは少ないと思いますが、屋根に穴が開いていたら不満ですよね。

同じように、会話のズレをなくせば、相手を満足させることにはつながらなくても不満足を防ぐことはできる。

──満足ではなく「不満をなくす」ことを目指す、という考え方は面白いですね。

一方で「上手に話す」ことは、「動機づけ要因」にあたります。上手に話せば確かに相手は満足してくれるかもしれませんが、それよりも不満足な状態をなくすことの方が、ビジネスコミュニケーションにおいては大切です。

実際、そういった本質的なことを重視する流れになってきていると思います。かつては組織において「やる気を上げる」「組織の空気を良くする」といったことが重んじられてきたかもしれませんが、今は「やる気を下げない」「組織の空気を悪くしない」といったように不満のない状態が重んじられる傾向にあるように思います。

話し方の勉強も悪くはありませんが、それはあくまで、やるべきことをやったうえでの話。報連相を怠らないとか、確認すべき時に確認するとか、そういう日々の積み重ねって、うまく話すことよりもずっと重要なことだと思うんですよね。

どんなに話すのがヘタだろうが、どんな見た目だろうが、関係ないです。やるべきことを丁寧にやっていけば、「会話のズレ」はなくなり、円滑にコミュニケーションが取れるようになるはずです。

ここまでのまとめ4

取材・文:いしかわゆき

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