怒られた時のダメな謝り方とは? 「良い謝罪」と「悪い謝罪」の違いを研究者に聞いてみた

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「喜んで謝罪したい」という人は少ないでしょう。例えば、ミスをして上司に怒られた時や、取引先を怒らせてしまった時。皆さんの中にも記憶があるはず。謝罪する前の、あの憂鬱な気持ちが。

では、発想を転換して、謝罪することで人間関係をより良くできるのだとしたら……? あるいは謝罪を通じて、仕事でステップアップできるのだとしたら……? もしかすると、謝罪に対してほんの少しポジティブな印象を抱くのではないでしょうか。

そんな「効果的な」謝罪をするためには、まずは謝罪とはどういうものかをよく考えてみることが大切です。

そこで今回お声がけしたのは、『科学の知恵 怒りを鎮める うまく謝る』の著者で名古屋大学教授の川合伸幸さんと、『謝罪論』の著者で東京大学大学院准教授の古田徹也さん。違うアプローチで謝罪を研究するお二人とともに、効果的な謝罪とは何なのか、深く掘り下げます。

川合伸幸さん・古田徹也さんプロフィール画像
左:川合伸幸(かわい・のぶゆき)さん。1966年京都府生まれ。関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(心理学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学霊長類研究所研究員などを経て、現在、名古屋大学大学院情報学研究科教授・中部大学客員教授。専攻は比較認知科学・認知科学・実験心理学。文部科学大臣表彰・若手科学者賞(2005年)、・科学技術賞(2023)、第六回(2010年)日本学士院・学術奨励賞などを受賞。主な著書に、『心の輪郭——比較認知科学から見た知性の進化』(北大路書房)、『コワイの認知科学』(新曜社)、『ヒトの本性——なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(講談社現代新書)など。

右:古田徹也(ふるた・てつや)さん。1979年、熊本県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科准教授。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。新潟大学教育学部准教授、専修大学文学部准教授を経て、現職。専攻は、哲学・倫理学。『言葉の魂の哲学』(講談社選書メチエ)で第41回サントリー学芸賞受賞。その他の著書に、『それは私がしたことなのか』(新曜社)、『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(角川選書)、『不道徳的倫理学講義』(ちくま新書)、『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHKブックス)、『いつもの言葉を哲学する』(朝日新書)、『このゲームにはゴールがない』(筑摩書房)など。訳書に、ウィトゲンシュタイン『ラスト・ライティングス』(講談社)など。

※取材はリモートで実施しました

謝罪を成立させる8つの要素

──効果的な謝罪の方法をお伺いする前に、まずは「謝罪とは何なのか」から掘り下げていきたいのですが、そもそも謝罪を一言で表すと、どんな言葉になるでしょうか?

古田徹也さん(以下、古田):謝罪は非常に多面的な意味を持つため、一言で定義するのは難しく、すべきではないとも思いますが、あえて定義するなら「当事者間のコミュニケーションの起点となる行為」でしょうか。

川合伸幸さん(以下、川合):たしかに、子どもが喧嘩した後に「ごめんね」と謝るのと、大人が仕事で大変なミスをして謝罪するのとでは謝罪の意味合いが全く異なりますが、あえて共通している部分を抽出するならば「損なわれた関係を再構築するための行為」なのではないかと思います。

──謝罪という行為の解像度がグッと上がりました。そこまで定義できると、「これが欠けていては謝罪にならない」という要素も見えてくるのでは?

川合:前提から説明すると、そもそも謝罪を成立させるには8つの要素が必要だと考えていて。すなわち「自責の念の表出(悔恨)」「責任の自覚(責任)」「補償の申し出(解決策の具体的な提案、補償)」、「説明」、「改善の誓い」、「被害者へのいたわり」、「不適切な行為の認識」、「容赦の懇願」です。

  • 自責の念の表出(悔恨)
  • 責任の自覚(責任)
  • 補償の申し出(解決策の具体的な提案、補償)
  • 説明
  • 改善の誓い
  • 被害者へのいたわり
  • 不適切な行為の認識
  • 容赦の懇願

特に謝罪の核となるのが最初の3要素で、中でも一番大事なのは「補償の申し出」だと思います。補償と聞くとお金を想像しがちですが、必ずしもそれだけではありません。例えば、打ち合わせの時間に遅れたことを謝罪するなら、「打ち合わせを効率よく進めて予定通りの時間に終了させる」ことが補償になるでしょうし、商品の不具合を謝罪する場合は「新品と取り替える」ことが補償になるでしょう。

古田:川合先生がおっしゃった内容は、国や文化が違ってもそれほど違いがないケースが多く、謝罪をするためにまず押さえるべきポイントだと思います。その上で私が付け加えるなら、謝罪を自分ごととして捉えること、すなわち「当事者性」でしょうか。

謝罪をする時は「自分自身に非がある場合」ばかりではありません。誰かの代わりに謝罪したり、組織を代表して謝罪したりすることもありますよね。例えば、子どもがやったことを親が謝罪するとか、会社が不祥事を起こした時お客さんに謝罪するとか。そんな時、たとえ当事者でなくても「当事者性」は必要です。広い意味で自分が当事者であるという意識をもつからこそ、自分がどういう立場で、何について、誰に謝るのかを初めて認識できるわけです。

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謝罪するのはなぜ「難しい」のか

──お二人の著書には共通して「謝罪というものは難しい」「限界がある」と書かれています。具体的に、どのような点で「難しい(限界がある)」と感じますか?

古田:まずは「埋め合わせ」、つまり補償の難しさです。先ほど川合先生も謝罪における補償の大事さに触れておられましたが、実際はそう簡単にいかないケースも多いのではないでしょうか。「誰かの形見を壊してしまった」というケースが典型例です。いくら埋め合わせようとしても、物理的に取り返しがつかないこともある。これが、謝罪をめぐる主要な難しさのひとつです。

また、「和解」や相手の「赦し」をこちらでコントロールできない難しさもあります。例えば子ども同士が喧嘩をして、それに対して大人が形式的に「和解」させることはできるかもしれませんが、当人たちが本心からお互いを赦せているかどうかは分かりません。

そして、謝罪を受ける側も「本当にこの人は心から謝っているんだろうか。悪いと思っているんだろうか」と疑念を抱くこともあります。相手の本心を見通すことの難しさが、謝罪の成立をさらに難しくしています。

ここに、謝罪する側、される側の拡張性や曖昧性、多重性も加わってきます。親(子ども)がしたことに対して子ども(親)が謝る。あるいは、もっと前の世代がしたことについて自分が謝る。このように、謝罪は対象が広がったり多重的になったりと、する側、される側が曖昧になることも多く、これもまた謝罪を難しくしている要因と言えます。

川合:心理学的な観点で考えると、謝罪できるかできないかは自尊心に左右されやすい、とも言えます。謝罪するためには、まず自分の非を認めなければなりませんが、非を認めると、自尊心が目減りしてしまう。だから、自尊心が高すぎる人はなかなか謝罪することができません。

反対に自尊心が低すぎる人もまた、謝罪することが難しい傾向にあります。普段から「私なんて……」と思っている人は謝罪しなければならないくらいひどいことをしてしまったという事実を受け止めきれず、うまく謝罪できなかったり、その場から逃げ出したりといった行動に出やすいです。

古田:謝罪を自分のものとして引き受けるには、ある程度の自尊心が必要ということですね。でも、逆に高すぎてもダメだと(笑)。この辺りは、後ほどお話しする「怒られた時の反応」とも関係がありそうですね。

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謝罪「だけでは」相手の怒りは鎮められない

──さて、ここからはいよいよ具体的な謝罪の方法に迫っていきたいのですが、相手の怒りを鎮めるために有効な言葉や考え方とはどのようなものでしょうか?

川合:そもそも、謝罪だけで相手の怒りは鎮められないんです。怒りには「攻撃性」と「不快感」という2つの要素がありますが、攻撃性は謝罪で抑えられるものの、謝罪してもなお不快感は残ることが、脳波を使ったわたしたちの研究でも分かっています。

そもそも相手の怒りを鎮めるための謝罪とは「これ以上怒られたくない」という気持ちからくる自分本位な行為ですよね。

──怒られている時はあまり意識できないものですが、たしかにその通りですね。

川合:では、相手の怒りを鎮めるにはどうすればいいのか。まず「怒り」とは、「コミュニケーションにおいて相手が強烈に何かをリクエストしている状態」だと定義できます。であるならば、そのリクエストに応えてあげなければ、本当の意味での謝罪にはなりませんよね。

つまり、自分がどうしたいかではなく「相手がどうされたいと思っているか」をまずは考えなければならないはずです。そのためには、先ほど申し上げたように、後悔の念の表明や、責任の自覚、補償の提案がセットで必要になってくるでしょう。

古田:川合先生がおっしゃるとおり、怒りを鎮めるための手段として、謝罪は1つの方法にしか過ぎません。大事なのは「とりあえず謝る」ことではなく、相手が何に怒っているのか、よく話を聞いて怒りの原因を正確に把握することです。

取材風景カット
取材の様子

──ビジネスシーンを例に考えた時、どのような怒りや謝罪のパターンがあるでしょうか?

川合:先ほど挙げた「補償」や「説明」「改善の誓い」といった謝罪に必要な要素を頭に思い浮かべ、それぞれのシチュエーションに合わせてどの要素を強調するのかという考え方をすればいいのではないでしょうか。

例えば、取引先に対してはまずは「補償」が大事になるでしょう。こちらの商品に瑕疵があった場合は、謝罪に加えて、商品を取り替えた上で少し上乗せしてサービスするとか、ディスカウントするといった形で補償するのが適切です。

上司に怒られて謝罪する場合は、上司は別に補償を求めているわけではないですよね。その場合の怒りにはおそらく、部下に対する指導のような意味合いが込められているはずですから、ここでは上司に指摘されたミスを二度としないようにする「改善の誓い」に重きをおいて謝罪するといいでしょう。

古田:面白いですね。逆に上司が「改善の誓い」や「責任の自覚」「説明」などを求めるのではなく、誠意の証としてこちらが納得いかない「補償」を要求しているとしたら、それはその上司や職場の方に問題があることの証明になるかもしれませんね。その意味でも、目の前の「怒り」と「謝罪の内容」を客観的に判断することは自分自身を守るためにも重要だと言えそうです。

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──こちらが謝罪したと思っていても、相手はそう受け取ってくれない、という場合もありますよね。そんな「逆効果」になる言葉や行為にはどのようなものがありますか?

古田:状況にもよりますが、例えばひたすら謝り倒す行為は逆効果になることがあります。例を出すと、ドラマの『北の国から』で、主人公の五郎さんが息子の不始末をめぐって土下座するシーンがあります。この行為が、「頭を上げてください。もういいですから」という言葉を引き出すための「要求」だと相手に捉えられ、「芝居がかったことはやめてくれ」と言われてしまっています。

また、詳しく説明する行為も逆効果になる可能性があります。説明自体は謝罪において重要な要素ではあるのですが、詳しく説明しすぎると「自分の行為を正当化・矮小化しようとしている」と相手に捉えられてしまうおそれもあります。だから、説明するのであれば、「あくまで非は自分にある」ということを併せて明確にしていく必要があるでしょうね。

川合:ポイントは、伝え方で受け取られ方が変わってくることですね。例えば、電車の遅延で待ち合わせ時間に遅れたことを謝罪する際に「電車が遅れていました。申し訳ありません」と言うのと、「申し訳ありません。電車が遅れていました」と言うのでは、相手の印象が変わるはずです。どちらも謝罪と説明で構成された文章ですが、前者は説明が先に来ているために弁解していると捉えられるおそれがあるのに対し、後者はまず「申し訳ありません」と謝って遅れてしまったことに対する「自責の念」や「悔恨」を伝えられていますね。

ここも、先ほどお伝えした「相手がどうされたいと思っているか」に思いを馳せる、というところにつながってくるわけです。

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謝罪しなければならない状況はむしろ「チャンス」

──特に若手のビジネスパーソンは、上司や取引先に対して謝罪することも少なくないと思います。そんな時、少しでも謝罪が怖くなくなるような考え方はありますか?

川合:冒頭で私は「謝罪とは損なわれた関係を再構築するための行為」だと述べました。裏を返すと、これは「謝罪とは相手との関係を再構築するチャンス」ということなんです。相手の真意や要求の内容が、怒りの発生や謝罪という行為を通してハッキリするわけです。だから私は、謝罪しなければいけない状況になったら「よし来た!」とすら思いますよ(笑)。

もちろん、先ほどお伝えした通り、謝罪が逆効果にならないよう相手の立場を考えて話すことは大事です。ただ、相手が何を求めているのかを考えて適切に謝罪すれば、場合によってはそれまでよりも良い関係を築くこともできる、というのは覚えておいて損はないでしょう。

古田:ちゃんとした謝罪を行うためのひとつのポイントは、自分が当事者だという意識をもつだけでなく、ある程度状況を客観的・俯瞰的にも見ることです。昨今は「怒られが発生した」という表現をしばしばネット上で見かけます。表現の妥当性自体には賛否両論あるようですが、私はむしろこの精神がときに必要になると思っていて。無責任に聞こえるかもしれませんが、相手の怒りを真正面から受け止めようとするのではなく、「怒られ」という現象が発生したな、という捉え方の下で俯瞰することで、自分がどんな状況に置かれていて、相手が何に怒っているのか、何を要求しているのかが見えてくる面もあるでしょう。そうすれば、相手にどう謝罪すべきなのかも自ずと分かるのではないかと思います。

──とはいえ、怒られている状況でそこまで冷静になれる人は少なそうですね……。

古田:たしかに、そういう視点を得るには経験が必要かもしれませんね。これは仕事でクレーム対応をしている人から聞いたのですが、クレーム対応で大事なのは「相手の話をちゃんと聞く」ことだそうです。というのも、相手がすごく怒っている時は、謝罪しても怒りが静まらないんですね。まずは相手の話をちゃんと聞いているという姿勢をとって相手の激情を徐々に収め、十分にクールダウンしたタイミングで謝罪するのが最も効果的だそうです。先ほどもお伝えした通り、大事なのは「とりあえず謝ること」ではない、と考えておけば、対応を間違えることも減るのではないでしょうか。

川合:相手の怒りを自分への攻撃だと解釈しないことも効果的です。怒られていると、自分の人格を否定されたような気持ちになってしまうと思いますが、そうではありません。相手は起きている問題に対して怒っているのであって、自分という人間を攻撃しているわけではないのです。そんなふうに出来事と人格を分けて考えると、たとえ怒られた時でも落ち着いて謝罪できるのではないでしょうか。

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取材・文:山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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