手軽さの裏にリスクも……ネットで流行る「性格診断」との付き合い方を心理学者に聞いた

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複数の質問に回答するだけで、その人のパーソナリティ(性格)を示してくれる性格診断コンテンツ。最近はSNSの普及によって流行の兆しを見せています。若手ビジネスパーソンの間でも、「向いている仕事」や「仕事との向き合い方」など、診断の結果を仕事とつなげて語る人も増えてきました。

性格診断コンテンツは、たしかに仕事に対する向き合い方やキャリア観を考える1つの材料になるかもしれません。しかし、診断結果を鵜呑みにした結果、自分の可能性を狭めてしまうリスクも一方で存在します。

そこで今回『性格診断ブームを問う──心理学からの警鐘』を刊行された心理学者の小塩真司先生に、性格診断コンテンツに過度に振り回されないための心構えを伺いながら、「性格」「相性」といった概念とラクに付き合うための視点を学びます。

小塩真司さんプロフィール画像
小塩真司(おしお・あつし)さん。早稲田大学文学学術院教授。1972年、愛知県生まれ。名古屋大学教育学部卒業後、同大学院教育学研究科教育心理学専攻修了。博士(教育心理学)。中部大学准教授などを経て現職。著書に『性格がいい人、悪い人の科学』(日経プレミアシリーズ、2018年)、『性格とは何か――よりよく生きるための心理学』(中公新書、2020年)、『「性格が悪い」とはどういうことか』(ちくま新書、2024年)など。

※職場にいる「性格の悪い人」への対処法について、小塩先生にご解説いただいた記事はこちら!
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性格診断コンテンツとの「付き合い方」

──SNSの影響もあるのか、手軽に受けられる性格診断コンテンツが近年インターネット上で流行しています。「自分のパーソナリティ」や「(他人や仕事との)適性・相性」などを診断できるツールとして人気を集めていますが、そもそもこうした性格診断の類はどこまで信用できるものなのでしょうか?

小塩真司さん(以下、小塩):性格(パーソナリティ)を診断するツールといっても、目的に応じてさまざまな種類があります。ネット上の性格診断コンテンツを語る前に、まずはそこを整理する必要があるでしょう。

──どのような種類に分けられますか?

小塩:まずは研究目的でパーソナリティを測定するもの。信頼性や妥当性が学術的に検証されており、研究目的であれば無料で使用できます。心理臨床や精神科医のカウンセリングで活用される検査もあり、これらは検査会社や出版社などが有料で提供しています。ともに100年以上の歴史があります。

ほかには、企業が企業に提供するものがあります。「就職適性検査」や「採用時の適性検査」のほか、企業研修の前後に実施して「管理職への適性」などを判定するサービスも見られ、こちらもほとんどは信頼性や妥当性が学術的に検証されています。

現在SNSで普及している性格診断コンテンツは、それらとまったく別物で、2021年頃に韓国の人気アイドルグループなどがYouTubeの動画で取り上げたことで広まったとされています。学術的な観点から見ると、曲解や拡大解釈が含まれる診断結果も多く、情報の正確性について精査が必要ではないかと思います。

──結果をあまり鵜呑みにせず、あくまでエンタメとして楽しむべきだと。

小塩:エンタメだから何でもアリというわけにもいかないのが、難しいところです。私はこうしたコンテンツの大きな問題は、「言いっぱなし」で終わってしまうことだと思います。

心療内科や精神科の性格診断では、健康診断のように、結果に基づいて専門医が患者にフィードバックするため、患者本人が検査結果から何かを判断することはありません。それに、専門医も結果をありのまま患者さんに伝えることはしません。なぜなら、(性格診断は)患者さんにとって好ましくない結果が出ることもあり、受け止め方次第では悪影響を及ぼしてしまうこともあるからです。もっと言うと、結果が間違っている可能性もゼロではない。だからこそ断定してはいけないし、伝える際にも倫理的な配慮が求められるわけです。

そもそも、性格診断に限らず、専門家が介在しない診断や検査は責任の所在が曖昧になりがちです。「この仕事は向いていない」「こういうタイプとは相性が悪い」といった結果を間に受けて、悩んだり、苦しんだりしてしまう人が出た場合、一体誰が責任を取るのでしょうか。

性格診断の結果によって、自身の可能性を諦めたり、ネガティブな思い込みに囚われたりする人が少しでも減ることを願います。

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性格診断がなくても、自己理解は深められる

──それでも、ネット上の性格診断コンテンツは若者を中心に支持されているように見えます。小塩さんは、なぜこうしたコンテンツが支持されるのだと思いますか?

小塩:主に3つの理由があると思います。1つ目は、初対面の相手に対する「自己提示」。最近の若者は自己紹介をする時に、「私は○○タイプです」と性格診断の結果を開示するケースが少なくないそうです。自分のプロフィールを分かりやすく伝えられて、相手からも関心を持ってもらいやすい話題として便利なのだと思います。

2つ目は、自分のアイデンティティが不確かであるがゆえ、「拠り所になるもの」を求める心理。逆に、自己を確立している人や自分のことをよく分かっている人、仕事で大きな成功を収めている人などは、わざわざ性格診断で自分を知ろうとは思わないはずです。

3つ目は、相手との相性を予測するための、手っ取り早いツールであるという点。本来、相手の人となりや自分と合うかどうかは実際に会って会話をし、じっくり付き合ってみなければ分かりませんが、その過程を経ることなく、ある程度の相性をはかれるツールとして機能している。昔流行った血液型診断にも近いですよね。

──他人との相性を測ることもそうですが、自己紹介など限られた時間のなかで自己提示をすることもまた、簡単ではありません。だからこそ、性格診断コンテンツを頼りたくなる人の気持ちも分かりますし、診断によって自己理解が進み、自信につながるのであれば、それはそれで悪いことではない気もしますが。

小塩:あくまで参考程度に捉える分にはいいのかもしれませんが、できるなら、自分のことをよく知るパートナーや家族、上司や同僚にも「自分はどんな性格?」「どんな仕事に向いていると思う?」と聞いたほうが実態に近い答えが返ってきて、自己理解が深まるでしょう。生成AIを日頃から活用している人であれば、アウトプットされる情報の真偽は気にしつつ、「壁打ち」をお願いしてもいいかもしれません。つまり性格診断以外にも、自己理解を深める方法は数多く存在するのです。

──なるほど。たしかに、その視点は持てていない人が多いかもしれませんね。

小塩:性格診断と向き合ううえで留意いただきたいのが、性格診断の結果「だけで」自己理解が進むことはないということです。専門家による診断では、診断後にグループでセッションを行うなど、自己理解を深める場を設けます。結果を踏まえ、異なるタイプの人同士が議論をすることで、自分や相手のことが少しずつ分かってくるんです。結果はあくまで入り口に過ぎません。

近年は「タイパ」への意識が高まるなか「自分のことを手っ取り早く知りたい」という動機から性格診断が用いられているのかもしれませんが、本来自己理解とは、日々の生活における体験や出来事からさまざまなフィードバックを得て、自分について考える、その積み重ねによって進んでいくというのが、あるべき形だと私は思います。

──そうかもしれませんね。でも、自力で自己理解を深めるための方法は何があるのでしょうか?

小塩:日記を書いたり、日常的に日々を振り返ったりするのが有効ですし、他の人と会話をすることも大切です。つまり、自分のことを整理するのと同時に他人からのフィードバックを得る、という両輪が自己理解を深めるうえで欠かせないわけです。

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自己理解とは「コスパやタイパの悪いもの」

──自己理解を深めたり、仕事の適性や他人との相性をはかったりするには、相応のアプローチと労力が必要だと。

小塩:身も蓋も無い言い方かもしれませんが、究極のところ、適性や相性なんて、実際に経験して、他人と触れ合ってみなければ分からないはずです。例えば、バイオリンを弾いたことがない人から「私って、バイオリンを弾くのに向いているかな?」と聞かれたらどう感じるでしょう。「とりあえず、やってみたら?」としか言いようがありませんよね。熟達する前から適性を判定するという行為自体、あまり意味がないと思います。

仕事だってそうですよね。どんな仕事も身を入れてしばらくの間やってみないと、分からないことはたくさんあります(※)。やってみて本当にダメだと思えば、転職も視野に入れながら、自分にフィットしそうなキャリアへ少しずつ軌道修正していく。それを繰り返すことで、結果的に「より相性のいい仕事」へと近づけるはずなので。

※……調査によると、異動経験者の約半数が会社都合の異動によるジョブチェンジについて「やってみたら意外な適性に気づきそう」と回答している(2021年、マイナビ転職『ジョブ型雇用の意識調査』)。
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──診断結果だけで「向いていない」と判断し、機会を逸してしまうのはもったいないですね。

小塩:自己理解についても同じことが言えます。ネット上の性格診断コンテンツで「コミュニケーション能力がある」という結果が出たとします。それをもって、面接の場などで「私はコミュニケーション能力がある人間です」と主張するのは少々無理がありますよね。

やはり経験に基づく自己理解でなければ、説得力を持って公に語ることはできないと思います。例えば「海外でパスポートをなくしたけれど、地元の人に話しかけて助けを求め、何とか日本に帰ることができました。だから、コミュニケーション能力には自信を持っています」と言うなら、それなりに説得力は生まれると思いますが。

──回り道のように感じられても、結局はいろんな経験を積むしかないと。

小塩:そう思います。自己理解というのは本来「コスパやタイパが悪い」もの。そんなにお手軽に、自分がどんな人間かを理解することはできません。特に若いうちは、まだやっていないこと、行ったことのない場所、会ったことがない人など、未知のことだらけです。自分には不向きだと思っていた仕事や遊びが意外にフィットするかもしれないし、相性があまり良くないとされるタイプと付き合ってみた結果、生涯の友人やパートナーになるかもしれない。

──たしかに。でもそうやって性格や相性や適性が「絶対的なもの」ではないという視点を知るだけでも、救われる人はいるのではないかと思います。

小塩:そうかもしれませんね。もし本当に、相性を事前予測したければ、マッチングアプリの裏側で行われている機械学習のように、誰かと交流したときのアウトカム(効果・結果)やフィードバックを細かく記録しながら、自分と相性の良い属性に対する解像度を高めていくといいのではないでしょうか。何をもって良い結果だと判断するのか、というアウトカムを定義する必要はありますが、少なくとも性格診断コンテンツに丸投げするよりは、自己理解が深まるかもしれません。

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※職場にいる「性格の悪い人」への対処法についても解説いただきました
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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職


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