人に会うことは最強の投資。プロインタビュアー・早川洋平が語る“アポの価値”

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技術の進化や働き方の変化により、私たちは「離れた場所にいる相手と画面越しにコミュニケーションを取る」便利さを手に入れました。しかし、ビジネスにおいてもオンラインミーティングが当たり前になった今、わざわざ人に直接会う意味はあるのでしょうか?

「実は、直接会うことほどコストパフォーマンスが良いアクションはありません」

そう語るのは、羽生結弦さんや吉本ばななさんなど、国内外のトップランナーへのインタビューを遂行してきたプロインタビュアー・早川洋平さん。早川さんに、誰かと会って話すことへの苦手意識を払拭し、相手の心を動かす「会う力」の極意を伺いました。

早川洋平さんプロフィール画像
早川洋平さん。1980年、横浜生まれ。中国新聞記者等を経て2008年起業。 羽生結弦さん、高田賢三さん、ケヴィン・ケリーさんら各界のトップランナーから市井の人々まで国内外分野を超えてインタビューを続ける。著書に『会う力』(新潮社、2025年)。

リモート会議、実は「コスパ悪い」説

──本日はよろしくお願いします!

早川洋平さん(以下、早川):よろしくお願いします。いきなり雑談で恐縮ですが、今日(取材日)は雨なのに、素敵な靴を履いていらっしゃいますね。この靴は防水仕様なんですか?

──お褒めいただきありがとうございます。おっしゃる通り防水仕様ですが、どうしてそこに着目されたんですか……?

早川:もちろん好きな靴だからですが、今日のテーマに絡めてお話しすると、こういう他愛もないやり取りこそ、対面の会話においては大事なんです

インタビューの世界でも、インタビュー前後の雑談で、その人のパーソナリティをうかがわせる発言や、記事のタイトルになるような本音がポロッと出ることは珍しくありません。

──なるほど、用件に縛られない会話だからこそユニークな発言が飛び出すと。

早川:そうですね。逆にお聞きしますが、なぜ今回僕と直接会って話そうと思われたのですか? 話を聞くだけならオンラインでもいいわけですよね。

──早川さんの「人となり」や「雰囲気」も含めて知れるから、でしょうか。

早川:おそらくそうですよね。実際、会うほうが「相手から受け取る情報量」が圧倒的に多いですから。表情だけでなく、服や靴などさまざまな要素から相手のパーソナリティが垣間見えます。

──コロナ禍を経てリモート会議も普及しましたが、個人的には実際に会うほうが、相手とより深いコミュニケーションができるような気もします。

早川:そもそも、オンライン会議ツールを含め、何かのツールを使ったコミュニケーションには「2つの箱(制約)」があるんです。

・「媒体」という箱

紙や電話機、モニターなど、その媒体を通してしか相手を知ることができない。

・「用件」という箱

一部の媒体では特性上、用件を簡潔にまとめることが求められるため、用件以外のことに触れづらい。

実際に会って話すというのは、こういう2つの箱から飛び出して、飾らないやり取りができるメリットがあります。

記事内グラフィック

そういえば先日、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんのラジオに出演した際も、収録後の雑談で意気投合してLINEを交換することになり、そこからずっと関係が続いています。

──それはすごい展開ですね。たしかに経験上、リモート会議だと、会議が終われば「お疲れ様でした」とすぐに通信を切ってしまいがちです。

早川:そうですね。リモート会議はとても便利なのですが、どうしても用件の話に終始してしまいがちですし、関係性のできていない相手ならなおさら深い話をするのは難しい印象です。

もちろん、目的によりけりですし、用件の話をすることも大切ですが、真に大切なのは相手との関係性を深めることのはずです。例えば、効率重視で1時間に2件のリモート商談をこなしても、相手との関係性が深まらないのであれば、成果にも繋がりにくいでしょう。商談の目的が「ただ数をこなすこと」ではなく、「受注につなげること」や「相手と深い信頼関係を築くこと」だとしたら、手間と時間をかけてでもリアルで会うほうが結果的にコスパやタイパも良い、と僕は思うんです。

早川洋平さんインタビューカット

知られざる「直アポ」の価値と「紹介」のリスク

──説得力を感じました。では、早川さんが実際に誰かと会う前や会っている最中、会った後にやっていることを伺いたいのですが、例えば、事前のリサーチはどの程度重要でしょうか。

早川:自分の「本気度」を相手に伝えるうえでもリサーチはとても重要です。しかし、驚くべきことに、オープンになっている相手の情報(公式のプロフィールや出演された記事など)すら調べていない人も多い印象です。

僕も小さな会社を経営しているので、日々営業のご連絡をいただきますが、僕のインタビューや著書に触れてくださっている方は本当に少ないですね。もちろん、自分の会社以外にもご連絡されていると思うので、営業先ごとにメッセージの内容を変えるのは大変だというのは理解できるのですが……。でもほんの数分でも構いません。お相手のためだけにひと手間かけてリサーチしてみる。すると、その他大勢から抜きん出る確率が圧倒的に高まるんです。時間がないと言っている方にこそ実践していただきたいと思います。

僕は葉加瀬さんにお会いした際、彼が15年以上前に書いた本を読んでから伺ったのですが、それだけで驚かれました。「大手メディアの人でも、ここまで調べてこない人が多い」と。わずか1500円の本を読んで、数千円のイベントに行ってみる。それだけで、お相手との関係性が一気に深まると考えれば安いものではないでしょうか。

──基本的に「自分のことを知ってくれている」というのは、相手にとってうれしいはずですもんね。

早川:そうですね。無料で手に入るオープンな情報を調べていくのは必要最低限。そのうえで、より本気度を伝えたいなら、無理のない範囲で「身銭を切る」のがおすすめです。

例えば、相手がオンラインサロンを主催しているなら、会う前に1カ月だけでも入会してみる。本を出しているなら、買って読んでみる。会員や読者になるということは、相手のお客さんになることでもあります。ご自身に置き換えて考えてみてほしいのですが、お客さんには丁寧に接さないと、と思うはずです。身銭を切るということは、自分への先行投資でもあるんですよ。

もちろん、大前提は会社のルールを守ることであり、職種や業種によっては個人的な「課金」が難しい場合もあるでしょう。その際は、上司に細かくホウレンソウしながら、会社の経費で処理できないかを交渉してみてもいいかもしれません。あくまで仕事にポジティブな影響をもたらすものなので、上司も悪い気はしないはずです。

──だからこそ、騙されたと思って本気でリサーチしてみよう、ということですね。

早川:はい。仕事だと苦手なタイプの人に会いに行かなければならないこともありますが、それでもリサーチすると、どこかで自分との共通点が出てきて親近感を覚えるパターンが多いはずです。

──早川さんは、会いたい人にアポイントメントを取りたい時、第三者に「紹介してください」とお願いする手法についてはどう思われますか?

早川:人づてに紹介をお願いすることは、ほとんどありません。というのも 「人からの紹介」は効率的に見えて、その実リスクが大きいんです。紹介をお願いした手前、もし会ってみて合わなかったとしても断りづらいですし、万が一失礼があった場合、紹介してくれた人の顔に泥を塗ることになります。

あとは、紹介をお願いする人と紹介してほしい人の現在の関係性が、こちらから推察しづらいというデメリットもあります。オープンな情報では「親友」となっていても、実際今はそうじゃなかったり。他人と他人の関係性を想像しながらお願いごとをするのは結構ハードルが高いです。

それよりも、自分から直接連絡をする「直アポ」のほうが、実はコスパが良い。断られたとしても失うものは何もないですし、リスクは自分だけで完結しますからね。「直アポはハードルが高い」という印象もありますが、誠意を持ってアプローチすれば案外受け入れてくれるものです。

アポを成功に導く「事前準備」

  • 無料で手に入る相手のオープンな情報は必ず調べてから臨む
  • 相手に関するものに少額投資して本気度を伝える
  • 人から紹介してもらうのではなく、直接連絡する勇気を持つ

理想のアポは「おしゃべり」。信頼を生む会話術

──早川さんは誰かに会った時、どのようにして話を盛り上げますか? 相手の心を開くための「アイスブレイク」で意識していることはあるのでしょうか。

早川:アイスブレイクと聞くとテクニックのようにも聞こえますが、僕は飲食店の「接客」に近い感覚だと思っていて。初めて入ったお店で、店員さんが気持ちよく過ごせるように気遣ってくれたらうれしいですよね。それと同じで、目の前の相手に「どうすれば喜んでもらえるか」「どうすれば心地よく過ごしてもらえるか」を考える。

冒頭で靴の話をしましたが、失礼にならない範囲でその人のファッションの気になるところを掘り下げてもいい。リサーチの話と絡めるなら、その人の好みや最近ハマっていることを事前に調べて話に出すと、きっと喜んでもらえるはずです。「あ、この人は自分のことを見てくれているんだな」と。

早川洋平さんインタビューカット

──「接客」と聞くと分かりやすいですね。やはりアイスブレイクで良い雰囲気を作っておくと、その後も深い話ができるんでしょうか。

早川:そうですね。僕の理想のインタビューって「おしゃべり」なんです。アイスブレイクも本編も終わった後もシームレスに続く、その状態こそがオリジナリティーのあるやり取りにつながると思っています。

──たしかに、と思う一方で、仕事の会合は用件ありきなので、相手に聞きたいことや想定される回答やゴールをしっかり決めて臨む人も少なくないですよね。話が予想外の方向に転がっていくと、頭が真っ白になってしまう場合もあるのでは?

早川:もちろん、会合の目的によりけりですが、一番大切なのは相手との関係を深めることでしょう。想定と違った方向に話が進んだとしても、頭の中の自分ではなく、目の前の相手と向き合っていれば、自ずと話の展開を柔軟に調整できるはずです。マインドフルネス(※)の精神です。「箱」から出ることが実際に会うことの醍醐味なのに、わざわざまた「箱」を作る必要はないように思います。

※……過去や未来ではなく「今この瞬間」に意識を向ける心の状態

リサーチの話にも関連しますが、仮に頭の中が真っ白になったとしても、相手のことを調べておけば、何かしら話を持たせることはできるはずです。それに、相手にも自分の本気度が伝わっているので、「本当はこういうことが聞きたかったんじゃないの?」と助けてもらえる可能性すらあるようにも思います。

──ここでも事前のリサーチが効いてくると。会った後の対応についてはいかがでしょうか。相手との良い関係性を次の仕事に生かすために、早川さんがやっていることはありますか?

早川:基本的なことなのですが、まずはスピーディーにお礼の連絡を入れることですよね。意外とやっていない人もいますから。あとは、本当にその相手と関係を深めたいなら、簡単な贈り物を送ったり。お相手によってはLINEギフトなど「かさばらない」ものも良いかもしれません。

そのほか大事なのは、「相手からの初めてのお誘いを断らない」ということですね。相手が音楽家の方なら「今度ここでライブするから来てよ」とか。僕はすぐにチケット買っちゃうタイプなのですが、ここで行動力が発揮できると、相手からすごく信頼されると思いますよ。

アポのクオリティを上げる「会話術」

  • アイスブレイクとは「接客」。相手の好みやハマっていることを事前にリサーチしておくと盛り上がる
  • 会話の目的を「相手を喜ばせること」に設定する
  • 話が脱線しても、ただひたすら「相手の反応」に集中する

「会う力」を鍛えることが、キャリアも育てる

──ここまでお話を伺って、仕事の場であっても「相手をどうすれば喜ばせられるか」というマインドこそが大事だということが分かりました。

早川:その通りですね。単なる取引先ではなく「記憶に残る人」になるためには、そうやって相手目線、相手本位で物事を考えるレッスンを普段からしておくのがいいのかもしれません。社内の人に対しても日頃から「何をすれば喜ぶだろう」と考えながら動く。テクニックじゃないんですよね。「本気度」こそが相手を動かすんです。

──その点で言うと、コスパやタイパが悪そうな手段ほど実は良くて、逆にコスパやタイパが良さそうな手段ほどに実は悪い、という部分もキーポイントかと思いました。

早川:そうですね。人間関係を深めるプロセスに、残念ながら近道はありません。上手い話を求めず、当たり前のことを愚直にやり続ける人が、相手の信頼を勝ち取るのだと思います。技術がどれだけ進化しても、人と人が直接会って、コミュニケーションする価値はなくなりません。むしろ、デジタル化が進む今だからこそ、相手のために泥臭く汗をかき、身銭を切れる人の価値は高まっているようにも感じます。

会うことを単なる仕事として捉えるのではなく、「相手とどう信頼関係を築き、人生を豊かにしていくか」という視点に変えてみる。すると、キャリアも広がっていくのではないでしょうか。

早川洋平さんインタビューカット

僕は仕事には常々「Aサイド」と「Bサイド」があると思っていて。

Aサイドの仕事とは、会社の中でお願いされる仕事やメインで請け負っている仕事。Bサイドの仕事とは自ら作り出した仕事です。

僕にとっては「会う力」を身に付ける講座や、企業や個人をプロデュースする仕事がそれに該当します。インタビューを通じて誰かと会う中で、いつの間にか仕事になっていったものです。

「Aサイド」と「Bサイド」どちらも大事なのですが、市場の変化が激しい時代、Bサイドの仕事をどう広げていくか、という視点で、今後は誰かと会うことに向き合ってみてもいいのかもしれません。


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早川洋平さん『会う力』
早川さんの著書『会う力』(新潮社)

取材・編集:はてな編集部
写真:小野奈那子
制作:マイナビ転職

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