優れた営業は何を話しているのか。今井晶也さんに学ぶ、対決裁者コミュニケーションの本質

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優れた営業は「翻訳家」にも似ているーー。ふとそう感じた瞬間はないでしょうか。

ここでいう“翻訳”とは、単に言葉を置き換える作業ではありません。顧客が抱えている本質的な課題を読み解き、相手の立場や価値観に合わせて“意味を再構築して伝える”こと。その営みは、翻訳家が異なる言語や文化同士をつなぐプロセスと似ている部分があります。

そして、そのスキルは営業だけでなく、上司、同僚、あらゆるビジネスパートナーとスムーズに物事を進めていくためにも、重要なものです。では実際に、一流の営業はどのようなテクニックやマインドをもって「翻訳」に臨んでいるのでしょうか。

今回お声がけしたのは、株式会社セレブリックスのCMOであり、セールスエバンジェリストとして営業プロセスを分析・発信し続ける今井晶也さん。

「営業とは、コミュニケーションの専門職です」

そう語る今井さんとともに、「翻訳」の具体的な方法論を掘り下げながら、AI時代の“人間が売る意味”を考えます。

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今井晶也さん株式会社セレブリックスの執行役員・CMOとして、コーポレートブランディング、事業企画、マーケティング、営業領域を管掌する。また、セールスエバンジェリストの肩書で、主に法人営業と新規営業における、セールスモデルの研究、開発、講演を行う。著書に『Sales is 科学的に成果をコントロールする営業術』(扶桑社、2021年)など。

※今井さんの代表作『Sales is』の続編が近日刊行予定。本記事で紹介する「ファクトファインディング」についても触れています(写真は過去の著書)。

あと一歩で受注を決められない人の「共通点」

──今回は優れた営業が持つ技術を「翻訳」という視点で掘り下げたいのですが、その前にお聞きしたいことがあります。頑張っているのにあと一歩で受注を決められない営業は、コミュニケーションの観点で何が足りていないのだと思いますか?

今井晶也さん(以下、今井):いろいろあると思うのですが、ざっくりまとめると「顧客の社内プロセス(意思決定の進み方)」に対する想像力でしょうか。顧客がなぜ自社の商品を選び、どうやって稟議にかけ、その際誰がどう調整するのかという。

皆さんも身に覚えがありませんか?

「見込みあり」と読んでいた案件が予期せぬ理由で失注したり、ステータス不明の案件が管理表に「検討中」として残り続けたり。これらは、顧客の社内プロセスが把握・コントロールできていない証拠であることも少なくありません。

そうした状況は往々にして「担当者の反応が良かったから、受注できるはず」という、営業の一方的な期待から生まれます。しかし、営業活動において一方的な期待やサプライズ(想定外の出来事)は禁物。顧客と着実に合意形成していくことが大切です。

今井晶也さんインタビューカット

──耳が痛いですね……。とはいえ、顧客の社内プロセスを社外から把握することには限界もありそうですが。

今井:もちろん、予算が確保されているかいないかで顧客の社内プロセスは大きく変わります。確保されている場合は予算を使うこと自体が既定路線になっているので、社内プロセスをそこまで細かく把握する必要はないのかもしれません。

しかし、営業が能動的に顧客へアプローチする形式では、ほとんどの場合、予算を確保していない相手に対して提案が行われます。「お金はあるけど他の施策に使う」「今使えるお金がない」「予算をどこかから捻出(移動)しなければならない」などの前提がある中、営業はまだサービス(商品)の利用メリットを感じていない人に、利用する意味を見つけてもらう必要がある。

そのためにも、顧客がどんなロジックで、誰に、どうやって決裁を取っていくのか解像度を上げなければなりませんし、自ら顧客の課題を深掘りして設定し、担当者と「ワンチーム」になって社内を攻略する姿勢が求められます。

確実に受注を決めるためのアクションとマインドセット

  • 予算が確保されているか、されていないかで動き方を考える
  • 「顧客の社内プロセス(意思決定の進み方)」を想像する
  • 一方的な期待やサプライズ(想定外の出来事)は避けて、着実に合意形成する

顧客のモヤモヤを課題に「翻訳」するファクトファインディング

──課題設定やチーム感の醸成は、営業のコミュニケーション技術の見せ所でもありますよね。

今井:少し考えてみていただきたいのですが、あなたが今相対している顧客は自社の課題を把握できていると思いますか?

市場の移り変わりが早いという時代背景もあり、「自社の課題を完全に把握している」状態は意外と希少です。

だからこそ、顧客が感じている言葉にできないモヤモヤや、現場レベルの問題意識を紡ぎ合わせ、「御社の課題はこれで、こう解決すべきですよね」という道筋を作ってあげることは、営業の大事な仕事だと私は考えています。

こうした課題を言語化するプロセスこそまさに「翻訳」のひとつと言えるのではないでしょうか?

──たしかに、モヤモヤから課題へ「翻訳」していると解釈できます。では、納得感のある課題を設定するために、顧客とどうコミュニケーションをとればいいのでしょうか?

今井:課題設定に必要な情報を“深いレベルで”引き出す、すなわち「ファクトファインディング(表に出ていない事実や背景を探る行為)」を意識すべきです。

──「情報を引き出す」と聞くとヒアリングを想起しますが、ファクトファインディングとヒアリングは違うのでしょうか?

今井:表面上は似ていますが、明確に分ける考え方が昨今定着してきています。ヒアリングは相手の認識や理解の範疇にあることを引き出すプロセスであり、ファクトファインディングは相手がまだ認識できていないような事実を引き出すプロセスです。

ヒアリングとファクトファインディングの違い

    ヒアリング=相手の認識や理解の範疇にあることを引き出すプロセス
    ファクトファインディング=相手がまだ認識できていないような事実を引き出すプロセス

──相手も気付いていないことに気付かせる、というイメージでしょうか。でもそれってかなり難しそうですよね。

今井:おっしゃる通り、営業のプロセスにおいて最も難しいポイントです。商談準備やプレゼンと違って営業だけで完結させられず、顧客の出方によって対応の分岐も変わりますから。しかし、ここでどこまで情報を引き出せて、どんな課題を設定できたかで、その後の展開が大きく変わります。

──ファクトファインディングの具体的な手法について教えていただけますか?

今井:一つ目は「未来逆算思考」です。

よく顧客に「今、何に困っていますか?」と聞く営業がいますよね。私は「困りごとドリブン」と表現していますが、この聞き方はすでに買う意思のある顧客にしか効果を発揮しません。なぜなら、買う意思のない顧客は困っていること自体がない(≒認識していない)からです。

ではどうするのが良いのかというと、未来に時間軸を設定して

先々、どうなりたいですか?
どんな目標を達成しなければならないんですか?

と、各自が持つ理想像や目標を聞くのです。

そのうえで

(理想や目標に到達するうえで)今足りていないもの、今後困りそうなこと、やるべきことは何ですか?

と問いかける。

狙いとしては、理想(未来)と現実(現在)のギャップを意識させることです。課題とは得てして理想と現実のギャップから生まれます

今井晶也さんインタビューカット

──面白いですね。課題を意識していない人に課題を意識させる技術として、営業以外の局面でも役立ちそうです。

今井:併せて身に付けたいのが「抽象化」の話術です。

例えば、「人が足りないから採用したい」と言う顧客に対し、「どの部署にどんな人が何人必要ですか?」と聞く営業は多いと思いますが、これは「具体化」で、もっぱら営業活動の後半、“何をどう買うか”を検討するフェーズになってから必要なコミュニケーションです。

課題設定の局面でやるべきは

そもそも、なぜ今、人を採用することが必要なんですか?

という問いかけです。抽象度を上げて目的自体を問い直す。すると「採用ではなく、既存社員の教育が必要かもしれない」「業務フローの見直しが必要かもしれない」という別の課題が立ち現れ、そこから提案機会につながる可能性もあります。

──話を掘り下げる方向性として、具体化だけでなく抽象化も有効だと。抽象化で新しい世界が開けるという示唆も興味深いですね。

今井:そうですね。課題が生まれると、その提案を前向きに捉えていただける可能性が高まります。課題設定とは、相手の事情に合わせて目的ややるべきことを再定義するプロセスと言えます。

余談ですが、ファクトファインディングを活用した課題設定は、AIが営業活動にも浸透する中、ますます重要視されると思います。

なぜなら、AIは企業が抱える課題を「コモディティ化(差別化が難しく市場価値が下がっている状態)」するからです。AI活用が進むほど、課題の仮説は似通いやすくなる傾向があります。企業のWebサイトや中期経営計画書をAIに読み込ませ、「この会社の課題は?」と聞けば、誰がやっても同じような仮説が出てくる。結果として、「どこかで見たようなつまらない提案」が世の中に溢れかえる。

だからこそ今後は「実は部長と課長で意見が割れていて……」「現場は今のシステムにこんな不満を持っていて……」といった、ネット上にない“生々しい一次情報”を顧客から引き出せるかどうかが、営業活動の明暗を分けるのではないでしょうか。

ファクトファインディングにおいて大切なこと

  • 相手もまだ認識できていないような事実を引き出す
  • 時間軸を「未来」に設定し、理想と現実のギャップを意識させる
  • 話を「抽象化」することで目的自体を問い直す

異なる立場を「翻訳」してチームへ昇華させるWE営業

──課題設定とともに重要なチーム感の醸成についても、どのような「翻訳」が必要なのか教えていただけますか?

今井:意識したいのは「I(私)営業からWE(私たち)営業へのシフト」ですね。「私はこの商品が御社に必要だと思います」と説得するのではなく、「私たちはこの商品で御社の困りごとを解決できますから、一緒に社内を説得していきましょう」と巻き込む。 顧客の担当者を、社内で自分と共に動いてくれる「社内セールスパーソン」として位置付けるイメージです。

担当者を巻き込むためによく使うのが、提案の点数を探るコミュニケーションです。

今回ご提案した内容は、御社にとって必要だと考えていただけましたか?
率直にお伺いしますが、今の時点で取り組みたい度合いは、100点満点中何点ぐらいでしょうか?
と質問する。「80点」と言われたら、

残りの20点を埋めるために私たちができることは何でしょうか?
と聞き、「60点」なら、

まだ悩ましい状況ですよね。何がクリアになれば前に進めそうですか?
と聞く。こうして、現状の提案に不足している部分を一緒に言語化しながら、チームとして前に進めたい意思を示すわけです。

今井晶也さんインタビューカット

──なるほど。不足点を言語化することで、稟議を通す道筋も見えてきそうですね。

今井:そうですね。担当者の素直な所感を引き出し、寄り添う姿勢を見せることではじめて稟議を進めるハードルになりそうな部署や人と接触する機会も生まれやすくなりますから。

──異なる立場の人たちを巻き込むような会話のスタイルですね。

今井:まずは担当者に

このプロジェクトを進めるにあたり、味方につけたほうがいい人は誰ですか?
と、自分たちのチームに彼らを引き入れるようなニュアンスで相談する。担当者の上司なら、

一度、その部長も含めて3人で「作戦会議」をしませんか?
と、心理的なハードルを下げながら接触の機会をつくります。他部署であれば、

その部門の方は、話を通す時、どんなことを気にされそうですか?
以前、似たようなツールを導入した際、どんな指摘が入りましたか?
と懸念点を聞き出し、担当者が突っ込まれた際の答えを用意してあげる。これは冒頭で述べた「サプライズをなくす」ことにもつながります。

一般論として、経営層は「投資対効果」、現場は「業務効率化」を、情シスは「リスク回避」を重視する傾向があるなど、部署ごとに「最優先事項」は異なりますそれに合わせてロジックを組み立て、担当者が周囲を説得しやすい材料をそろえてあげるのもまた、営業の技術と言えるのではないでしょうか。

「WE営業」を実現するために大切なこと

  • 顧客の担当者を「社内セールスパーソン」として位置付ける
  • 提案の「点数」を聞き、不足している部分を一緒に言語化する
  • 各部署の最優先事項に合わせた「ロジック」を組み立てる

受注につながるキーパーソンを探り出す「探客術」

──ファクトファインディング、WE営業、いずれも重要だと感じましたが、大前提「営業プロセスを効率的に進めていくうえで、誰にアプローチするか」も大事なのでは、と感じました。今回の趣旨とはズレますが……。

今井:その通りです。営業支援のソリューションを提供する立場としては意外に思われるかもしれませんが、営業力と同じくらい、あるいはそれ以上に「探客力」は受注率に影響します

──やはりそうですよね。アプローチすべき方の特徴とは何でしょうか?

今井:「権限」と「熱量」の掛け算で考えます。

営業の極意記事内グラフィック

単純に決裁権者だと思う方も多そうですが、たとえ役職が高くなくても、課題解決に対して強いリーダーシップを発揮し、必要な予算や上司を引っ張ってこられるキーパーソンは存在します。逆に、決裁権者であっても衝突を恐れる人や失敗したくない人はあまり相応しくありません。特に予算化されていないプロジェクトの場合、現状や周囲の人の考え方を変える強いエネルギーが必要だからです。

では、どうやってキーパーソンを見つけるのか。 私がよくやるのは、組織図の読み解きです。

既存の事業部に追加で「特命組織」が作られることがあります。例えば、「AI活用推進部」「DX推進室」「働き方改革室」など。

営業の極意記事内グラフィック

こうした特命組織に抜擢される人は、どんなタイプだと思いますか?

多くの場合、既存の枠組みを変えることを組織から期待されたエース級の人材です。

──なるほど。そうやって外部から絞り込むこともできるんですね。

今井:とはいえ、見定めてアプローチしても断られることはあると思います。

私自身、CMOとして購買の意思決定をする立場でもありますが、以前こういう出来事がありました。

ある企業の営業から「社員のSNS発信を強化し、社員個人を採用メディア化しませんか?」というご提案をいただいたのですが、「影響力の強い私自身のSNSアカウントを活用したほうが効率的なのでは」と思ったこともあり、私にはあまり刺さらなかったのです。

しかしその方は別ルートで弊社の代表にアプローチし、結果として受注に至りました。なぜか。代表が当時「社員の居場所作り」や「社員一人ひとりがセレブリックスの代表になる」というマインドを重視していたからです。つまり、代表にとってはすごくホットな提案だった。

今井晶也さんインタビューカット

この経験から学んだのは、「個人への失注」を「企業への失注」と勘違いしてはいけないということです。 人や部署によって強みや抱えている課題感は違う。ある人に刺さらなかった提案が、別の人には刺さるかもしれない。

──アプローチする人を変えれば、チャンスも生まれると。

今井:そうですね。むしろ断られた時こそ、リサーチして挽回するチャンスだと捉える。例えば、こういう聞き方で。

今回はご縁がなかったとのこと、承知いたしました。これ以上、営業はいたしません。
ただ、後学のために2点教えていただけないでしょうか? 御社の中で、〇〇さん以外に関心を持ちそうな方はいらっしゃいますか? また、私の提案を聞いて、率直にどこが刺さらなかったか教えていただけますか?

面白いことに「もう営業しない」と宣言すると、安心して本音を話してくれる人は少なくありません。それだけでなく「隣の部署の部長が興味あるかも」と別の提案先を紹介してくれることすらあります。断られたとしても「タダでは帰らない」。これは優れた営業が持つマインドだと思います。

探客において大切なこと

  • 「権限と熱量の掛け算」でキーパーソンを探す
  • 組織図を読み解き、「特命組織」に着目する
  • たとえ断られても「リサーチのチャンス」として捉える

「誰もが誰かに営業している」。営業スキルや交渉力を磨くことがキャリアを豊かにする

──ありがとうございます。ここまでのお話をお伺いして、今井さんのおっしゃっていることは営業以外のお仕事にも役立つように感じました。

今井:ファクトファインディングや巻き込み、探客といったスキルは、営業だけでなく、人生のあらゆる局面で役立ちます。

私の中で確信めいた考え方があって。それは「誰もが誰かに営業している」

上司やパートナーとの意見のすり合わせ、経営者の資金調達、転職活動。相手の課題を設定し、それに合わせて自分の価値を提案し、合意形成を図る点ではすべて「営業」と言えるのではないでしょうか。

例えば、採用面接で「今、どんな人を求めているのですか?」と企業側に要件を確かめたうえで話すと、伝わり方が変わります。「御社を志望した理由は〜」「私の強みは〜」と自分のスペックや経歴を一方的にアピールする前に、企業が求める人材のディテールや、企業の現状の把握を意識してみると、より相手の心を掴みやすいでしょう。

営業には「顧客を理想の未来へ導く」という視点が欠かせません。迷ったときは、その営業の基本に立ち返り、目の前の人を「理想の未来」へ導けているかどうか自問する。そうすれば、どんな相手とも前向きな関係やチームを築きやすくなり、仕事の質もきっと上がるはずです。


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取材・編集:はてな編集部
写真:小野奈那子
制作:マイナビ転職

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