仕事をしながら創作活動も。 #文学フリマ (文フリ)出店経験者・ひらりささんに聞く、同人誌づくりの醍醐味

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このGWにも東京会場での開催が予定されている文学フリマ(文フリ)。近年、その勢いが止まりません。出店者・来場者ともに年々増加し、日本最大級の文学イベントへと成長しつつあります。

この盛り上がりを支えているのは、プロの作家や読書愛好家だけではありません。SNSのタイムラインで「仕事の合間に執筆を進めています」「初めて文フリに出店します」といった投稿が見られるように、同人活動を趣味として楽しむ人々の存在が、文フリの場を押し広げているのです。

一方で、「自分も同人誌をつくってみたい」と思いつつも、二の足を踏んでしまう人も少なくないでしょう。何を書けばいいのか分からない。仕事との両立は現実的なのか。そもそも、自分の書いたものを買ってくれる人なんているのか──。

そんな疑問を今回、文筆家のひらりささんにぶつけてみました。会社員として働きながら文フリへの出店を続けるひらりささんは、同人誌づくりをどう位置づけているのでしょうか。

答えは意外にもシンプルでした。「なんでも自分で決めていい、最高の暇つぶし」。そして、その言葉の裏に、仕事と同人誌づくりのしなやかな関係性が見えてきました。

ひらりささんプロフィール画像
ひらりささん。1989年東京生まれ。会社員のかたわら、オタク文化やBL、美意識、消費などに関するエッセイやインタビューを執筆する。単著に『沼で溺れてみたけれど』(講談社)、『それでも女をやっていく』(ワニブックス)、『まだまだ大人になれません』(大和書房)。オタク女子ユニット「劇団雌猫」としての編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

「インターネット同窓会」が生まれる場所。文フリ人気の背景

──2025年11月23日に開催された「文学フリマ東京41」は過去最高の来場者数を記録しました。こうした昨今の文フリの盛り上がりをひらりささんはどう見ていますか? この数年で、つくり手の層や会場の雰囲気に変化はありましたか。

ひらりさ:来場者の全体像を正確に把握しているわけではないのですが、「知り合いがすごく参加するようになった」という実感がありますね。ネットで自分の生活について発信している友人がまず一般来場者として会場に足を運ぶようになって、気がつけばその人自身が出店者の側に回っている。そんな光景をよく目にするようになりました。裾野がぐっと広がったなと思います。

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東京ビッグサイトで行われた、文学フリマ東京41の様子(提供:ひらりささん)

──一般来場者と出店者の境界線が曖昧になってきている、と。

ひらりさ:同人イベントって元からそういうものだとは思いますが、2010年ごろに参加していた頃は、「評論」とか「短歌」とか、特定のジャンルに打ち込んでいる人が腕を試す場として作品を発表している印象が強かったです。今は、エッセイや日記が特に元気な印象。批評・創作を通じて名を上げたい人だけでなく、ブログやXなど、ネットで書いていた人が、それを紙の形にすることに興味を持つきっかけになっているのかなと。

──ネットで発信する情報を、紙でもアウトプットしたい、というニーズはなぜ生まれるのだと思いますか?

ひらりさ:やっぱり形として残るものになるのは大きいですよね。加えて、紙の本を売ることで、買いに来てくれる人とのフィジカルな交流も生まれる。情報発信者が本来的に持っているコミュニケーション欲求を満たせるのだと思います。

それに、「自分一人のためにお客さんが来てくれるかどうかは分からないけど、似たような発信をしている人たちが集まっているなら、お客さんも見込めるかも」という安心感もある。文フリが良い意味で「インターネット同窓会」のようになっているのかなと感じますね。

──ひらりささんご自身は2022年秋から文フリに出店されていますが、それ以前から同人誌はつくられていたんですよね。

ひらりさ:2013年頃から、アニメの二次創作同人誌を友達と一緒につくってコミックマーケット(コミケ)で頒布する活動をしていました。その後、2016年からは「劇団雌猫」というユニットで同人誌をつくるようになりました。

──劇団雌猫としての活動が商業出版にもつながったそうですね。

ひらりさ:はい。商業書籍を出すようになったきっかけは、劇団雌猫で同人誌をつくったことでした(編注:2016年冬のコミックマーケットで刊行された『悪友 vol.1』を2017年に『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』として商業書籍化)

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劇団雌猫としてコミケに参加した時の写真(提供:ひらりささん)

個人でも、女性が女性に抱くさまざまな感情のバリエーションを描いた『女と女』という同人誌を出したら、出版社から「女性をテーマに本を書きませんか」という執筆依頼をいただいたこともあります。

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同人誌「女と女」がきっかけで生まれた『それでも女をやっていく』

出版社への企画持ち込みってハードルが高いですよね。でも、「こういうことを書けます、こういうことを書きたいです」ということを同人誌という形で世の中に見せておくと、それがきっかけで仕事につながることもあります

これをビジネスだと思わない。仕事と同人誌づくりを両立するTIPS

──同人誌づくりが文筆家としてのキャリアを切り開いてくれたわけですね。ただ、誰もがひらりささんのようにコンスタントに同人誌を出せるわけではないと思います。興味はあるけれど、つくるスキルや発信する内容に自信がなくて二の足を踏んでしまう人も多そうです。同人誌づくりを始めるにあたって、大切にすべきことはありますか?

ひらりさ:そんなにプレッシャーを感じなくていいというか、紙の形になっていれば何でもOKじゃないでしょうか。極端な話、出店する1日前に紙1枚を印刷して出すだけでもいいわけですから。むしろ「高い完成度を目指さない」という気持ちの方が大事かもしれません。伝えたいテーマ、自分が楽しめそうなテーマをまず形にしてみるのがいいと思いますね。

そして、これをビジネスだと思わないことも大切です。同人誌づくりって決して儲かることではないので、「これだけやればこれだけリターンがある」という気持ちで頑張らない方がいいんじゃないかなと。

──あくまで趣味として割り切ることで、メンタル面も作業面も楽になりそうですね。とはいえ、誰かに本を売る(頒布する)以上、「在庫を抱えるリスク」は生まれます。そうしたリスクをどう回避していますか?

ひらりさ:私はいつも「もし全部売れなくて純損失になったとしても、耐えられる印刷代」だけ使って、少なめに刷っています(笑)。売り切れたら、場合によって通販用に増刷していますが。ただ、その部数もできる限りおさえていますね。増刷にはやっぱりお金がかかるので……。基本的にはリスクを避けて安全側に倒したいというスタンスです。印刷代は「このくらいの金額ならなくなってもいいかな」と思える範囲で設定するのがいいと思います。

──リスクというと、スケジュール管理の方法についても伺いたいです。仕事と両立できなくなるほど制作進行がパツパツになってしまわないように、どういうことを意識されていますか?

ひらりさ:まず出たいイベントの日程から逆算して、締切と「ここでこれをやる」という大まかな進め方を決めてしまうことですね。特に印刷所での印刷や、誰かに依頼する場合は表紙のデザイン・本文のレイアウトなど、自分ではどうにもならない部分のスケジュールは早めに把握しておいた方がいいです。印刷所はイベントが迫ってくると混雑しますし、入稿データ作成も誰かに依頼するなら1か月程度の余裕を見ておきたい。その上で「1週間にこれくらい書けそう」とざっくり計算して進めていく感じですね。

──なるほど、全部自分でやらなくちゃいけない……。というわけではないんですね。制作工程の一部を他人に依頼することで、作業が楽になる側面はあるのでしょうか?

ひらりさ:ありますね。それに加えて、各人が得意な作業を担当できるので、誌面のクオリティも上がる印象です。

あと、人を巻き込むことは締切を守ることにもつながります。一人だとどうしてもスケジュールが後ろ倒しになりがちですが、ゲストを呼んだり、複数人でつくったりすると「ここでこの人にあれをお任せしないといけない」と意識しながら作業できるので。作業費や謝礼を支払う必要は出るので、そこは一長一短ですが。

ひらりささん直伝、同人誌づくりのコツ

  • 「紙の形になっていれば何でもOK」の気持ちで取り組む
  • 印刷代は、「もし全部売れなくて純損失になったとしても、耐えられる」額におさえる
  • スケジュールは、出たいイベントの日程から逆算して、締切と大まかな進め方を決める
  • 自分ではどうにもならない部分のスケジュールは早めに把握する
  • 誰かと一緒につくると、スケジュールを守れたり、誌面のクオリティが上がったりすることもある

一人プロジェクトだから楽しい。仕事とは違う同人誌づくりの醍醐味

──同人誌づくりの楽しさについても掘り下げたいのですが、会社の仕事と比べた時、どんな点が魅力的でしょうか?

ひらりさ:会社の仕事だと、会社が追求している利益やミッションに合わせて自分が動くことになりますよね。なんなら、商業出版だってそうです。でも同人誌づくりは、自分がリーダーでいいし、別に利益第一じゃなくていいんです。一人プロジェクトだから、失敗も成功も全部自分の責任で進められる。「こっちのテーマにした方が売れるかもしれないけど、書きたいテーマはこっちだからこれを書く」ということをやってもいいわけです。だから私は同人誌づくりを「なんでも自分で決めていい、最高の暇つぶし」かつ「たくさん失敗できる場所」みたいな感覚で捉えています。

──苦手なことに挑戦する場としても機能する、と。

ひらりさ:それで自分が楽しめなくなってしまうと本末転倒ですが、そういう機会にも成り得ます。例えば私はデザインがあまり得意ではないのですが、告知用の画像をデザインツールの「Canva」で自作することを2022年頃から続けていて。長くやっていると「前よりかわいいのつくれるようになってきたかも!」という瞬間があってうれしいです。

──一人プロジェクトだからこそ、PDCAサイクルが回しやすいという側面もあるのでしょうか?

ひらりさ:ありますね。読者の感想をチェックして、評価されているポイントを自分の強みとしてさらに伸ばしていこうかな、と考えたり。それがきっかけで、自分の得意・不得意に気付けることもあると思います。

もちろん、会社の方が大きなことをできたり、大きな予算を動かせたりはします。ただ、私は同人誌づくり特有のスピード感が好きなんですよね。一人プロジェクトだからこそ、「やろう」と思った時に始められるし、「誰かの承認を待つ」みたいなフェーズがないので、ぐんぐん進んでいきます。

個人的に、同人誌は「小さい範囲に深く届けたい」と思っているので。

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2025年3月31日から9月30日の日記をまとめた同人誌『あとかた』(提供:ひらりささん)

──「小さい範囲に深く届ける」、いい言葉ですね。

ひらりさ:情報発信のツールをネットと使い分ける側面でも、同人誌は「狭く深く」伝えることに向いています。ネットに出した情報は一人歩きしがちですし、昨今は炎上リスクも高まっている印象です。だから私は、日記や個人的な生活の話のような狭い範囲に届けたい情報は同人誌で、逆に広い範囲に届けたい情報や一般論として伝えたい意見はインターネットや商業書籍で、と使い分けているんです。

──先ほど仕事と同人誌づくりの違いについての話も出ましたが、同人誌づくりで培ったスキルが仕事に生きるという側面はあるのでしょうか?

ひらりさ:生かそうと思ってつくっているわけではありませんが、結果として相互作用があるなという感じです。どちらかが一方的にどちらかに生きるというよりは、お互いに影響し合っている。例えば、私は本業が編集者なので、人に仕事を依頼するスキルは同人誌づくりでも活用できています。逆に、先ほどお伝えしたように、同人誌づくりを通じて得意なこと・不得意なことへの理解が深まった結果として、仕事の内容を調整できたこともあります。

ひらりささんが語る、同人誌づくりの醍醐味

  • 一人プロジェクトだから、失敗も成功も全部自分の責任で進められる
  • 一人プロジェクトだから、誰かの承認を得ることなくスピード感をもって進められる
  • 苦手なことに挑戦する場にもなる
  • 自分の得意・不得意に気付けることもある
  • 「培ったスキルが活用できる」など、仕事にも良い影響がある

同人誌を出せるくらいのワークライフバランスがちょうどいい

──お互いに良い影響があるんですね。では実際に「これから同人誌をつくってみたい」と考えている人は何から始めるのがいいでしょうか?

ひらりさ:いきなり出店を目指すのではなく、まずはいろいろなイベントに足を運んでみるところから始めるのがいいんじゃないでしょうか。 どんな人がどうやって同人誌を売っているのか、どんなお客さんが来ているのかを肌で感じてみる。その意味で文フリは、来場者の多い東京会場より、地方開催の会場に足を運んでみてもよさそうです。

あと、先ほど少しお話ししましたが、これはあくまで趣味なので、「すごい本をつくるぞ!」と壮大な風呂敷を広げた結果、仕事の時間を削ったり、同人誌をつくりすぎて仕事がおろそかに……みたいな事態には注意ですね。土日に作業するとか、遊びの時間を減らすとか。「1日数百字、スマホでポチポチ書く日記を半年分まとめたら一冊の同人誌になるかな」みたいな感じで、できるだけ頑張らなくてもやれる方法を模索する。

──「仕事との両立」という意味では、どういうスタンスで向き合えばよいと思いますか?

ひらりさ:実を言うと、私はあまり会社の仕事にやりがいを求めない方が気持ちが安定するんです。あくまで私個人の働き方としてですが、会社の仕事では「報われたい」と思わない方がうまくいくことも多いなと最近感じています。その分、同人誌づくりや文筆活動にはやりがいを求めたいし、それで自己実現の欲求も満たしたい。

仕事がすごく忙しかった2024年は同人誌を出せなかったのですが……だからこそ最近は「同人誌が出せるくらいのワークライフバランス」がちょうどいいな、と思っているところです。

そんなわけで、人生必ずしも仕事が第一ではないとは思っていないので「文フリに賭けすぎて生活がめちゃくちゃに!」くらい同人誌づくりにハマれるなら、もう全然止めません(笑)。今年の文フリにも出店しますが、いろいろな出会いがあるといいな〜と、買い手としても楽しみです!


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ひらりささんの新著『まだまだ大人になれません』(大和書房)

取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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