キャリアも分散投資の時代へ。「複業(副業)×リスキリング」で市場価値を高める方法【第3回・実践 #リスキリング 講座】


「何か始めたほうがいいとは思うが、具体的にどう動けばいいのかわからない」——そんな状態に心当たりはないでしょうか。

学ぶ意欲はあっても、それをキャリアの変化につなげる具体的な道筋が見えず、行動に踏み出せないケースは少なくありません。

本連載、『実践リスキリング講座』では、45歳からのキャリア支援を行う都築辰弥さんが、実際の支援現場で見てきた後悔やつまずき、そこからの立て直しをもとに「リスキリングをどう始め、どう活かすのか」を解説します。

第3回となる今回のテーマは、「学び」と「実践」をどう結びつけるかという観点から見る、リスキリングの進め方

重要なのは、新たなスキルを増やすことそのものではなく、それをどのように実践の中で活かし、キャリアの選択肢につなげていくかという視点です。

本記事では、「キャリアの分散投資」という考え方をヒントに、複業(副業)を通じて学びを実践に変え、自分の市場価値を高めていくための具体的なアプローチを考えます。

著者:都築辰弥(つづき たつや)東京大学工学部システム創成学科(コンピュータサイエンス)卒。新卒でソニーに入社し、スマートフォンXperiaの商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」などをプロデュース。その後、2019年に人材系スタートアップである株式会社ブルーブレイズ(現ライフシフトラボ)を立ち上げ、45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」を開講。人生後半のキャリア形成支援に取り組む。国家資格キャリアコンサルタント資格を持ち、フルスタックエンジニアでもある。


新NISAの普及やインデックス投資の浸透に伴い、ミーツキャリアの読者の皆さんの中でも資産の分散投資を実践している方が増えてきているのではないでしょうか。

「卵を一つのかごに盛るな」という投資の有名な格言もあります。特定の個別株に全財産を突っ込むよりも、複数の銘柄や金融商品に分散している方のほうが多いかもしれません。

しかし、少し胸に手を当てて、あなた自身の最も大きな資産について考えてみてください。働いて収入を生み出す源泉であるキャリア(労働資本)については、今お勤めの会社という、たった1つの銘柄に文字通り「一点集中・全振り」していませんか?

「あのとき、もっと早く準備しておけばよかった」――。私はいま、45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」の代表として、日々40〜50代のビジネスパーソンのキャリア支援を行っていますが、キャリアの行き詰まりに直面したミドルシニア世代から、こうした後悔の声を数え切れないほど聞いてきました。だからこそ皆さんに、将来のリスクに備えた「キャリアの分散投資」の重要性をどうしてもお伝えしたいのです。

役職定年や子会社への出向、黒字リストラといったキャリアの先細りのリスクは、私たちが想像するよりもずっと早い段階で現実的なキャリア課題として表面化してきます。

どれほど現職で高いパフォーマンスを上げていても、会社の看板を外された瞬間に、社外では自分の価値が十分に評価されない可能性もあるのです。それは、特定の1銘柄が暴落した瞬間に、全資産を失う、そんなリスクの高い状態と言えるかもしれません。

だからこそ、早いうちから始めるべきなのが、キャリアの分散投資としての「複業」です。
(※本記事では、「複数の仕事を通じてスキルを広げる」という意味で「副業」を「複業」と表記します)

単なるお小遣い稼ぎではなく、今後の自律的なキャリア形成を確固たるものにするための「リスキル複業」の重要性についてお伝えします。


「目的なき学び」を利益に変える「リスキル複業」

リスキリングが話題になって以降、焦りから「とりあえずMBA」「とりあえずデータサイエンス」「とりあえず資格」と、目的が明確でないまま学び始めるという、早まった投資をしている方も少なくありません。

しかし、私たちの支援現場でも、「仕事で成果を出せていない焦りから、目的なき学びに逃げてしまった」結果、時間とお金を費やしても思うように成果につながらなかったというケースは非常に多いのです。

実務経験の伴わない、付け焼き刃のインプットは、リアルな労働市場では評価されにくいこともあります。

本来、学びとはインプットしてからアウトプットするのではなく、アウトプットの必要性に迫られて初めて、血肉となるインプットが始まるものです。

複業という他流試合で、会社の看板も後ろ盾もないニュートラルな環境に身を置く。そこで「自分は自社以外でどんな価値を提供できるのか?」をシビアに問われるからこそ、自分の現状のスキル水準がわかり、本当に今アップデートすべき課題が明確になるのです。

複業をポートフォリオに組み込むことは、金銭的な副収入(インカムゲイン)を得るだけでなく、社外人脈や汎用的なポータブルスキルといったキャリアの資産価値そのものを高める(キャピタルゲイン)という、二重のリターンをもたらしてくれます。これこそ、30代が真っ先に取り組むべき、長期的にリターンが期待しやすい選択肢のひとつです。

「複業を始めると本業が疎かになるのではないか」「自社の仕事だけで手一杯なのに、これ以上は無理だ」

勤め先で活躍している方ほど、そう思うかもしれません。

しかし、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、「人間のキャリアには『知の深化(今ある仕事を深掘りし効率化する)』と『知の探索(遠くを幅広く見て新しい組み合わせを探す)』のバランスが不可欠と指摘しています*。 ( * 拙著『人生後半の働き方戦略』日本経済新聞出版社)

毎日同じオフィスに行き、同じメンバーと、同じ社内ルールで根回しを繰り返す日々は、「知の深化」に偏っています。複業という形で「知の探索」をブレンドすることは、本業を脅かすどころか、むしろ本業への強力なシナジー(相乗効果)を生み出すのです。


大企業のジェネラリストから「社外で買われるプロ」への転生事例

ここで、ライフシフトラボの支援現場で見られる知見をもとに、30代で複業ポートフォリオ(複数の仕事の組み合わせ)を構築し、キャリアのレバレッジに成功したハイクラスビジネスパーソンの事例をご紹介しましょう。

大手化学メーカーでコーポレート部門に所属していた30代後半のJさん。Jさんはいわゆる典型的なジェネラリストとしてジョブローテーションを重ね、心のどこかで「自分は一歩会社の外に出たら、何者でもないのではないか」という強い焦りを抱えていました。

そこでJさんは、複業の求人サイトに登録し、過去に経験したバックオフィスの業務フロー効率化に関する求人に応募。数回の面接を経て、地方の中小メーカーの業務改善アドバイザーとしての案件を獲得しました。

週に数時間、オンラインで経営者の御用聞きとなり、業務フローを可視化して改善提案を行う。その過程で、最新のクラウドツールや生成AIを活用した自動化リテラシーを、必要に迫られて「ながらリスキリング」で習得していきました。

結果として、複業先での業務効率化は大成功を収め、報酬額も増えて月15万円の安定した副収入を達成。それ以上に大きかったのは本業への影響です。

社外で「ゼロから課題を特定し、解決策を自ら提案する」という主体的かつ自律的なマインドを鍛えられたJさんは、本業でも複数部署を巻き込むAI導入プロジェクトのリーダーを任されました。


30代から始める「複業ポートフォリオ」行動計画

では、あなたが今日からキャリアの分散投資を始めるための、具体的な2ステップをお伝えします。

ステップ1:職務経験を棚卸しし、「〇〇する方法」に変換する

まずは、自社以外でも通用するあなたの強みを明確にします。

職種名(例:経理、営業、人事など)でアピールしても社外の人には刺さりません。それは単なる社内の「役職」や「機能」のラベルにすぎないからです。

あなたがこれまで苦労して乗り越えた課題や、再現性のあるノウハウを、「〇〇の課題を解決し、〇〇する方法」という独自の「じぶんコンテンツ」*1のタイトルに変換してください。

「仮にビジネス書を1冊執筆するならどんなタイトルにするか」というメタ視点が有効です。

例:
経理⇒月次決算を効率化する業務フロー改善
営業⇒新規顧客の商談化率を高める方法
人事⇒面接通過率を改善する採用プロセスの設計

ステップ2:複業求人サービスにプロフィールを登録し、市場の洗礼を受ける

じぶんコンテンツがある程度明確になったら、次はマーケットに参戦しましょう。

まずは「週1〜2時間程度」「数万円規模」の小さな案件から始めるのがおすすめです。

「スキイキ」をはじめとする複業求人サービスやビジネスSNSは、無料で登録できるものも多いです。

自分に合ったサービスをいくつか比較しながら活用することで、より多くの機会に触れることができます。

ステップ1で言語化したじぶんコンテンツをプロフィールに魅力的に盛り込み、実際の求人案件への応募を通じて、「自分のスキルが社外でどう評価されるか」のPDCAサイクルを回し始めるのです。これがまさにキャリアの「市場テスト」です。

資産運用と全く同じで、キャリアの分散投資における最大の武器は「時間」です。

始めるのが早ければ早いほど、そのリターンは中長期的に複利で効いてきます。

会社の口座だけにあなたの貴重な労働資本を全額預けっぱなしにするのは、もうやめましょう。まずは今週、ステップ1から取り掛かり、分散投資の一手を始めてみてください。


リスキリングというと「何を学ぶか」に目が向きがちですが、今回の記事では「学びをどう実践に結びつけるか」という視点の重要性を語っていただきました。

スキルは身につけることがゴールではなく、それをどのように活かし、価値として発揮できるかが問われていきます。その意味で、社外での実践機会を持つことは、自分の現在地を知り、キャリアの可能性を広げるうえで有効な選択肢のひとつと言えそうです。

中でも「複業(副業)」は、学びと実務を結びつけながら、自分のスキルが市場でどう評価されるのかを確かめる機会でもあります。小さく始めながら試行錯誤を重ねていくことで、キャリアの軸や強みがより明確になっていくのかもしれません。

シリーズを通してご覧いただき、「学びを活かすリスキリング」をどのような形で実践していくのか、自分なりの選択肢を見つけていただければ幸いです。

※複業を始める際には、会社の就業規則の確認や本業とのバランス、情報管理(機密保持)にも十分に配慮する必要があります。無理のない範囲で継続していくことが重要です。


制作:マイナビ転職


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*1:じぶんコンテンツとは:自分の経験を他者に再現可能な価値に言語化したもの(詳しくは連載第1回https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20260410-tsuzukiをチェック)