
新たな環境での焦りもあって、そんな不安を抱えながら日々の仕事に向き合っている人も少なくないはずです。
P&Gやマクドナルド、ファミリーマートなど、8社もの会社を渡り歩いてきたマーケター・足立光さんは、新しい環境で結果を出し、周囲の信頼を勝ち取る中で「即戦力」としての振る舞い方を身につけたといいます。
そんな「即戦力」になるために必要な仕事の進め方、そしてキャリアに対する考え方を、足立さんにたっぷりと伺いました。

即戦力になるため、まずは「期待値」を把握せよ
──足立さんはこれまで7回もの転職を経験されています。ご自身の経験や仕事仲間のエピソードから、「即戦力」として活躍しているビジネスパーソンの“共通点”を挙げるなら、それは何になると思いますか?
足立光さん(以下、足立):スピーディーに周囲の期待値を超えていくことでしょうか。
──新人に課される期待値は、年齢やポジションによっても違いそうです。
足立:そうですね。20代や第二新卒であれば、会社も「1か月で即戦力になってくれ」とは思っていません。逆に40代や50代、あるいはハイレイヤーのポジションなら入ってすぐ「即戦力」として活躍してほしいはずです。
なので、まずは自分自身に課せられた期待値を把握した方がいいでしょう。
仮に「入って半年で一人前になる」ことが期待値なら、期待値を超えるために、大体4か月ほどで業務を自走し、何かしらの結果を出す必要があります。半年かかってしまうとそれはあくまで「期待値通り」。そこから一歩抜け出すには、どうしても少し早めの成果が求められるということを意識する必要があると思います。
──まずはどういう期待値が自分に課されているかを把握し、それを超えるアクションをしなければならないと。その期待値は、会社側に直接聞いてもいいんでしょうか? 入ったばかりで「自分に何を期待されていますか?」とはストレートに聞きづらい人も多いと思うのですが。
足立:その感覚も分かるのですが、やはり活躍したいと思っているなら直接的・間接的に聞いた方がいいでしょうね。
直属の上司はそもそも期待値を設定する義務があるので、聞いたら快く答えてくれるはずです。
それ以外の方なら「今活躍しているのはどんな方ですか?」「その方は、どんな感じで仕事をされていますか?」「どんな成果を出されていますか?」と聞いてあげると、答えやすいと思います。当人に「いつから頭角を表しました?」と聞いても答えづらいでしょうから(笑)。
タイミングがあれば、社外の方に聞くのもいいですね。一緒に仕事をしているお取引先などは、社外のプロジェクトメンバーの実力を結構客観的に判断していたりします。
即戦力になるため、「仮説検証」を重ねよ
──なるほど。そうしてなんとなくの期待値を把握し、それを超えるためには具体的にどんなアクションをすればよいでしょうか?
足立:仮説検証のサイクルを回すことです。仮説とは、新しい組織やそこの事業、仕事の進め方に対する「多分こうなんじゃないか、こうしたらいいんじゃないか」という自分なりの考えです。組織に溶け込むためのもの、結果を出すためのもの、さまざまなバリエーションがあると思います。
これらを周囲の人から情報収集したり、いろいろな場面をつぶさに観察することで編み出していきます。
そのプロセスで僕がおすすめしたいのは、気付いた違和感をメモに書き留めておくこと。組織によってルールや常識は違うので、「なんでこの作業が必要なんだろう」「なんでこの方法を採用していないんだろう」というのが必ず出てきますよね。それを書き留めておくんです。

──メモに書き留める、というアナログさが面白いですね。
足立:入って1年もすると忘れちゃいますからね。
違和感といえば、以前いた会社は「共有」のための会議がいっぱいありました。30人も参加させて、そんなに重要ではないことを共有する。これは時間のムダだと思ったので、「共有はメールにしませんか?」と提言して、結果的に会議の量も減りました。共有の方法をメールに絞ると、会議でやるべきことも明確になって、生産性も上がりました。
違和感を書き留めておくと、自分の考えも整理しやすいので、仮説をつくる際に役立ちますよ。
──やはり仮説を持って物事に向き合うと、組織に対する解像度や、自分のやるべきことに対する解像度も上がっていくのでしょうか?
足立:それだけでなく「多分こうしたら結果が出るんじゃないか」という仮説をもとにアクションすると、軌道修正もしやすいし、成功確率も上がりますよね。
著書『即戦力!:転職、転勤、出向、異動するときに読む本』(編注:以後「著書」は同書を指す)に「『勉強中です』と言えるのは最初の90日」と書いたのですが、この90日という期間は結果を出すための仮説をつくって、その検証に着手するくらいのタイミングなんです。学びを完全にやめろという意味ではないのですが、「学びながら価値提供を始めるべきタイミング」であることは意識できると良いのではないかなと思います。
これは僕がコンサルティングの会社に在籍していた頃、いろんな方にインタビューしながら会社や事業の改善策に関する仮説をつくる中で培われた感覚です。業種や職種を問わず、新しい組織に入ったときには大体当てはまるものだと思います。
これまで僕は新しい組織に入ったら、1年目〜2年目のうちに細かな結果を出し続け、3年目くらいで誰の目にも見える結果を出したいという思いで仕事に向き合ってきました。

そのためには入って3か月で「自分がやるべきこと」や結果を出すためのアクションを把握し、残り半年ほどでその仮説を検証して勝ち筋を見出し、2年目にこれならいけるというものをドーンと実行する、といった逆算思考を持っておきたいんです。

──その考えは、確実に結果を出すためには必要になってきそうです。とはいえ、全員が、入社してすぐの段階で結果を見据えたアクションができるわけではありません。もっと初歩的な、即戦力になるための「心構え」を伝えるとするなら、何でしょうか?
足立:4つくらいあると思います。
ひとつ目は、自分の意見を出せること。上司に対して「どうですか?」とオープンクエスチョンで聞くのではなく、「オプションは3つあって、私はBがいいと思います。◯◯さんはAがいいですか?」とクローズド・クエスチョン(選択肢を提示する聞き方)で聞く。何かしらの考えや仮説をもって仕事に向き合っていることが伝わります。
ふたつ目は、イニシアティブや自発性を見せること。仕事をして、その反応が返ってきて、次にどうするか。指示を待つのではなく、どんどん動いていく。この姿勢があれば間違いなく「新しい仕事を任せてもいいかも」と思われます。
3つ目は、適切なタイミングで適切な内容を報告できること。自発的に仕事を進めても、報告がないと周囲の人を不安にさせますよね。だから、報連相は自発性と同じくらい大事です。新人だと、誰に何を聞いたらいいか分からない、上司によっては「自分で考えろ」と言われてしまう、などと悩むかもしれませんが、上司以外の人に聞いて回ることも視野に入れて、報連相のルートを探りましょう。
4つ目は、抱え込まないこと。新人は相談できる人が周囲に少ないので、困ったことがあると手が止まり、結果的に仕事のスピードも遅くなってしまいがちです。上司以外の方も含めて、いろんな方にアドバイスを求められるようになれば、解決できることも増えてくるはずです。
自分の意見を出すこと
「どうですか?」とオープンクエスチョンで聞くのではなく、「オプションは3つあって、私はBがいいと思います。◯◯さんはAがいいですか?」とクローズド・クエスチョン(選択肢を提示する聞き方)で聞く。
イニシアティブや自発性を見せること
指示を待つのではなく、どんどん動いていく。
適切なタイミングで適切な内容を報告できること
適切なタイミングで適切な量の報告を行う。報連相のルートを探る。
抱え込まないこと
上司だけでなく、社内のいろいろな人にアドバイスを求める。
そして今話していて思いましたが、これらは新人かどうかを問わず、できていない人もいっぱいいると思います。
即戦力になるため「新しい発見につながる人間関係」を築こう
──たしかに。そして、このスタンスを意識するには周囲の人間関係も並行して築いておく必要がありそうですね。人間関係をつくるという側面で、足立さんが新しい組織に入った時、最初の1週間や1か月でやることはありますか?
足立:当たり前のことかもしれませんが、いろいろな方の話を聞きます。入ってしばらくの頃は、社内の人とランチ会や飲み会を頻繁に開きます。
自分の人となりを知ってもらう目的もあるし、皆さんがどんな問題意識を持っているか、どうやって仕事に向き合っているかを知りたい。できれば自分の上も下も、他部署も、お取引先も含めて聞くのがいいでしょうね。
──足立さんは著書で「自分は外向的ではない」と公言されていますが、それでも積極的にコミュニケーションをとられる姿勢はすごいですね。
足立:「この人に任せたらちゃんとやってくれそう」という信頼感がないと、なかなか大きな仕事は回ってきませんから、人間関係は結果を出すためにも重要です。
──話を聞く以外に、実践されていることはあるのでしょうか?
足立:2つあって。まずはできるだけ人と会う時間をつくること。僕は放っておいたらランチもひとりで行ってしまうタイプなんですが、新しい組織に入ったばかりの頃はあえて誰かと行くことを義務付けていました。
もう一つ意識しているのが、誘いを断らないこと。人によって難しいとは思うのですが。ポジションが上がってくると「誰を誘おうか……」と悩んでしまうこともあり、ランチも飲み会も自分からはあまり積極的に誘わないのですが、誘われたら基本的に断りません。
──そういえばかねてから「同じ会社の人とはあまり飲みに行かない」と発信されていますよね。
足立:そうですね。同じ会社、同じ業界、同じ年代は、放っておいても集まるんですよ。それはそれで楽しいからいいけど、新しい発見は少ない。新しいことを無理やり自分にインプットするには、違った業界、違った会社、違った年齢の方々と交わる方がいいと思っているんです。
──この感覚は、先ほどお話しいただいた「情報収集から仮説をつくって検証する」といった、足立さんの仕事のスタンスにも通じるところがあるかもしれませんね。でも、フットワーク軽くいろいろな場所に顔を出していると、「軽薄」な人に見られそうという不安も感じませんか?
足立:自分の中で新しさをあまり感じない、発見につながらないことはやらない、という線引きは設けているかもしれません。だから、何もかも参加するわけではないんですよ。
即戦力になれるかどうか不安? 転職すべきかどうか迷っている人に伝えたいこと
──足立さんのキャリア観についてもお伺いしたいです。近年はあらゆる業界で転職が当たり前のものになりつつある一方で、「3年は同じ会社にいるべき」という価値観も根強く残っています。足立さんはこれまでどんな基準で転職を決めてきたのでしょうか?
足立:今の会社で自分として納得できる、自信を持って外に話せるような結果や実績、そしてやりきった感じがあるかどうかで決めていました。外資系企業では「アチーブメント」とも言いますが、それがないのであれば、今の会社にいた方がいい。
僕は、何かしらの実績を積み上げていくことこそがキャリアを形作ると思っているので。

有名な会社にいることや有名な大学を出たこと、得難い経験をしたことは、人生の糧になりこそすれ、キャリアアップには直接つながらないと思います。大事なのは、その人が何を成したか。「ここでこういう実績を出しました。その結果、こう昇進しました」みたいな話を積み上げていかないと、自分も成長しないし、ポジションも上がっていかないですよね。
逆に、極端ですが2年でやりきって結果も出たとなったら、2年で辞めてもいいかもしれません。
──背筋が伸びる思いです。とはいえ、いくら結果を出していたとしても、新しい職場で即戦力になれるか不安に感じる人も中にはいると思います。足立さんご自身は、そういう不安を感じた経験はありますか?
足立:大きく不安に悩まされた記憶はあまりありません。先ほどお伝えしたようなスタンスで、目の前の仕事に一生懸命向き合えば、自ずと次のキャリアは目の前に転がってくると思っています。
キャリアの設計方法には2つのパターンがあると思っていて。
ひとつは、「何歳でこうなりたい」という明確な目標があって、それを達成していくパターン。
もうひとつは、目の前のことを一生懸命やっていたら、それがキャリアにつながっていくパターン。僕はこちらです。今の会社にはもうかれこれ5年在籍していますが、6年前は全然違う仕事をしていると思っていましたからね。常に想定外です。最近は大学院で教壇にも立っています。

ひとまず目の前の仕事に全力をつくし、最大限の成果を出す。それができていれば、いつしかどの会社でも即戦力として通用するスキルが身につき、キャリアも成長していくはずです。

取材・編集:はてな編集部
撮影:是枝右恭
制作:マイナビ転職
仕事の質を上げる「スタンス」


