
そんな、不機嫌な態度を隠さない「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」は、あらゆる職場で見られます。
やっかいなのは、不機嫌の的となった側が「自分の伝え方が悪かったのだろうか」「気にしすぎなのか」と、つい自分を責めてしまうこと。相手の機嫌に振り回されると、「自分の接し方がまずかったのでは」と考えてしまいがちです。しかし、その原因が必ずしも自分にあるとは限りません。まずは相手の心理を理解し、必要以上に自分を責めないことも大切です。
不機嫌な人は、なぜ不機嫌になるのか。そして、どう付き合えば消耗せずに済むのか。精神科医の益田裕介さんに聞きました。
教えてくれる人
職場で不機嫌になってしまう人の心理
ひとくちに「不機嫌な人」といっても、突然怒り出す人、急に黙り込む人、相手によって態度を変える人など、そのパターンはさまざまです。仕事現場でよく見かけるのは、どのパターンなのでしょうか。
「どのパターンも等しくいますよ。ストレスを感じた時に生じる感情が、外に発散されるか、内に向かうか、他責なのか自責なのかの違いがあるだけです。
相手によって態度を変える人も、計算して使い分けているというより、『感情を抑えられない相手』と『抑えられる相手』がいる、と考えると分かりやすいと思います。
外に発散されるタイプは分かりやすいので、つい『不機嫌な人=いきなり怒り出す人』とイメージしがちですが、外に向かうのではなく、内に向かって際限なく自分を責めてしまうタイプも少なくありません。
シクシク落ち込んでいるので、周りもどう扱っていいか分からない。よかれと思って励ましても、『私が悪いんです、すみません』とふさぎ込んでしまう。どちらのタイプも、周囲は消耗してしまいますよね」
一方、「機嫌の波」にさらされた側は「そうすることで得をしようとしているのでは?」と勘ぐりたくもなりますが、これは計算された振る舞いなのでしょうか。
「不機嫌で周りをコントロールしようとする人は、実はそんなに多くありません。大部分は、ただ感情が抑えきれなくなっているだけなんです。
誰しもさまざまなコミュニティで社会生活を営んでいる以上、中長期的な損得だけを考えれば、感情をコントロールしたほうが得でしょう。それでもコントロールできなくなってしまう。
中には、本当はただ抑えられていないだけなのに、本人が『これはわざとやっているんだ』と言い張るケースもあります。『感情を制御できない自分』を認めるより、『あえてやっている』ことにしたほうがプライドを保てるからです。これは周囲にとって、なかなかやっかいなパターンですが……」
では、そもそもなぜ感情をコントロールできなくなるのか。それまで身を置いていた環境や過去の経験も関係しているのでしょうか。
「皆さんが『性格の問題』だとして諦めている、感情をコントロールする力は、精神科医療の世界では『パーソナリティ機能』と呼ばれるもので、別の学問で言うところの、いわゆる非認知能力に該当します。認知能力とは、IQのように数字で表しやすいものですが、非認知能力は表しにくい能力です。
(感情をコントロールできない人は)その力が、もともと弱いということなんです。
運動に得意・不得意があるように、感情をコントロールする力にも個人差がある。そう考えると、相手を責めたくなる気持ちも少し和らぐのではないでしょうか。
そして、この力は生まれつき決まったまま一生変わらない、というものではありません。多くの人は、成長の過程でさまざまな経験を積むなかで、自然と感情をコントロールする力を身につけていきます。『感情をコントロールできない大人』が少なく見えるのは、そのためです。一方で、そうした機会に恵まれず、大人になっても苦手さを抱えたままの人もいます。
逆に言えば、大人になってからでも、経験を積んだり、カウンセリングでメンタルケアをしたりすることで、この力は少しずつ鍛えられます。日々の仕事のなかで『感情をコントロールしよう』と意識すること自体が、トレーニングになるんです。
もちろん、背景にはさまざまな要因が考えられ、なかには専門的な支援が必要なケースもあります。どうしても感情をコントロールできずに苦しんでいるなら、一人で抱え込まず、専門医に相談してみるのも手です」
「不機嫌な人」の心理を読み解く
- 「不機嫌な人」の大部分は、ただ感情を抑えきれなくなっているだけ
- 「不機嫌な人=いきなり怒り出す人」ではなく、ひたすら自分を責めてしまうタイプも多い
- 感情をコントロールする力には個人差がある
不機嫌をぶつけてくる人から自分を守る会話術
相手の機嫌そのものを変えることは難しくても、振り回されにくくするための工夫はあります。ここからは、実際に不機嫌な人と接する際に意識したいポイントを聞きました。
例えば、「ダメ出しを受ける」というシーンを考えてみましょう。そのダメ出しが単なる感情的な難癖なのか、親身なアドバイスなのか、相手の話し方次第では判別しづらい場面もあるはずです。
「相手の言うことが正しいかどうか、自分だけではなかなか分からないものですよね。そんな時は、相手のことを知る第三者に『こういうことを誰々さんに言われたのですが、どう思いますか?』と気軽に聞いてみるのがいいと思います。
『たしかにその通りだね』と言われたら、ある程度の妥当性はある。逆に『それは違うんじゃない?』なら、あまり妥当性はないのかもしれない。何人かに確認するうち、だんだん冷静に判断できるようになってきます。
いまなら、生成AIに壁打ち相手となってもらってもいいでしょう。
そこで大切なのは、相手から受けたダメ出しを感情ではなく事実ベースで捉えること。動揺したときこそ外の視点を借りるわけです。
『自分の対応が悪かったせいかもしれない』と責めてしまうのは、明らかに自分が悪い時以外、あまり得策ではありません。メンタルケアの観点からも、ある程度は『相手は相手、自分は自分』と割り切ることが大事です」
第三者の助けを借りるのは、不機嫌をぶつける人と直接やりとりする際も有効だといいます。
「場合によっては、一人で声をかけにいかない、二人以上でアポを取りにいくことも大切ですね。一対一の構図を意識してつくらないことです。
これは単純に、一人ずつ順番に話すより、何人かでまとまって話したほうが、相手も不機嫌になりづらいし、なったとしてもその不機嫌が分散されるので、一人ひとりへのダメージも軽くなるからですね」
会話の組み立て方にも、コツがあるようです。
「先ほどお伝えしたことと関連しますが、機嫌の波が大きい人には、事実ベースの話を淡々とするのが有効です。曖昧な話や価値観をともなう話は、ツッコミや難癖をつける余地が生まれるので、可能な限り避けるべきでしょう。
あともう一つ大切なのは『主語』を工夫することですね。
『私の仕事』ではなく、『私たちの仕事』という言い方にする。『僕はどこを改善すべきでしょう?』ではなく、『僕たちはどこを改善すべきでしょう?』と問いかける。
一対一になると、人はつい相手を指摘したくなるものですし、敵・味方の構図も生まれやすくなります。それを避けるために『I(私)』ではなく『We(私たち)』で語り、『あなたは敵ではなく、味方ですよ』というスタンスをやんわり示すわけです。
本題からは逸れますが、組織で出世する人は得てしてこうした話し方が上手です。『私の部下が失敗しました』ではなく、『我々の部下が失敗したのですが、どう対応しましょう?』と上長に相談する。前者の言い方なら『ただあなたが悪いのでは?』となりますが、後者なら上長も『一緒に考えよう』というスタンスになりやすいので」
「不機嫌な人」から自分を守るコミュニケーション
- 相手のことを知る第三者に『こういうことを言われたのですが、どう思いますか?』と聞いてみる
- 相手の言葉を感情ではなく事実ベースで捉える
- 一人ではなく、複数人で声をかけにいく
- 『I(私)』ではなく『We(私たち)』で語り、相手と敵対しないスタンスを示す
相手を変えようとせず、自分を守る方法
ここまで実践的な対処法を伺ってきましたが、益田さんが最後に強調したのは、細かなテクニック以上に大切な「スタンス」の話です。
「不機嫌の的にされないようにするには、細かな会話のテクニックより、仕事力や人間力を磨くほうがいいと思います。いわば、こちらが相手より『大人』になるということですね。
相手の発言や振る舞いにその都度動揺していると、こっちが疲れてしまいます。でも自分のスキルや経験値が上がれば、うまく対応できるようになり、いつしか不機嫌の矛先も別の対象へ移っていくはずです」
とはいえ、相手に「改善してほしい」と願ってしまうのもまた人情でしょう。けれど益田さんは、そこにエネルギーを注ぐことに否定的です。
「精神科の治療もそうですが、人が変わるのにはとても長い時間が必要です。それに変わったと思っても、変わっていないこともある。自分の家族でさえ、変えるのは至難の業です。
だからこそ、『そういう人なんだ』と割り切って、淡々と処理することもまた大事です。僕自身も過去に何度か不機嫌の的にさらされたことがありましたが、やはり相手が変わることに期待すると、こちらが消耗してしまいます。
性善説で生きている人は、相手が不機嫌だと『私が悪かったのかな』と思いがちです。でも世の中には、そうじゃないパターンも山のようにあります。そもそも相手にフキハラをしている時点で問題があるわけですよね。
大切なのは、『この人はこういう人だから、こう付き合えばいい』と、人付き合いのバリエーションを増やしていくこと。そう捉えられれば、自分を責めずに済みます」
ただ、相手から不機嫌の的にさらされるうちにメンタルが参ってしまう人もいるでしょう。どこまでいったら専門家に頼るべきなのでしょうか。
「私がよく言うのは『座禅を5分以上組めなかったら受診しましょう』という目安です。
心の調子が悪い人は、目を閉じて深呼吸するだけでも、その間に嫌なことを思い出して勝手に涙が出たり、落ち着けなくなったりする。逆に、落ち着けるならまだ大丈夫なのかもしれません。これも感情コントロールの話ですね」
益田さんが伝えたいのは、「座禅ができるかどうか」そのものではありません。
不機嫌な相手との関係に悩むあまり、ひとりで静かに過ごす時間も仕事のことが頭から離れない、心や身体の不調を感じる——そんな状態が続いているなら、我慢しすぎず専門家を頼ることも大切だということです。
フキハラに限らず、人間関係のストレスは少しずつ蓄積していくものです。「まだ頑張れる」と思っていても、頭の中が常に相手のことでいっぱいになっていたり、休日まで気持ちが休まらなかったりする場合は、すでに無理をしているサインかもしれません。すべてを一人で抱え込まず、周囲に相談したり、ときには環境を変えることも選択肢の一つかもしれません。
「不機嫌な人」から自分を守るためのスタンス
- 細かな会話のテクニックより、仕事力や人間力を磨く
- 「この人はこういう人だから、こう付き合えばいい」と、人付き合いのバリエーションを増やしていく
- メンタルの不調を察したら、5分ほど静かに座って心の状態を確認してみる
不機嫌な人と向き合うとき、私たちはつい原因を自分の内側に探してしまいます。
けれど、その不機嫌の原因は、もしかすると相手のコンディションや能力にあるのかもしれません。
相手を変えようと消耗するのではなく、まずは心のしくみを知り、相手と適切な距離をとって、自分を守る。そして、「世の中にはこういう人もいる」と、世界の見方を少しだけ広げてみる。それだけで職場の人間関係は、もっと気楽になるはずです。
相手の言動を心理の面から理解することで気持ちが楽になることもあります。しかし、どれだけ工夫しても状況が改善しない場合は、異動や転職を含めて環境を見直すこともまた大切な選択肢です。
「働きやすい職場で、自分らしく働きたい」と考えている方は、下記の特集も参考にしてみてください。
取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
職場の人間関係に悩んだら


