

カムバック制度は「アルムナイ採用(企業の退職者を再び採用する仕組み)」とも呼ばれ、退職者を再び雇い入れる仕組みとして、いまや大手企業や官公庁にも広まりつつあります。
とはいえ、その制度を使ったことのない人にとっては、再入社のメリットだけでなく、「どうしたら戻れるのか」「実際にどんなケースがあるのか」といった具体像はイメージしづらいのが正直なところ。どんな人が、どんな理由で戻っているのか。戻って良かった人と、そうでなかった人は何が違うのか。
退職者と会社の関係構築を支援する、株式会社ハッカズークの代表・鈴木仁志さんに伺いました。
- なぜ「古巣に戻る」人が増えているのか
- 「隣の芝は青くなかった」でカムバックするパターンもあり
- 古巣に戻って成功する人、しない人の違い
- 会社と退職者の関係は"辞め方が9割"?
- 辞めた後も会社とのつながりが「キャリアの資産」になる
監修者
なぜ「古巣に戻る」人が増えているのか
カムバック制度を使って古巣に戻る人は、最近増えているのでしょうか。その質問に対して、鈴木さんはハッキリ「増えている」と答えます。
「大きな理由は、これまで再雇用にほとんど取り組んでこなかった会社が、再雇用の仕組みを整備し始めたことです。
私が起業した2017年頃は、会社が退職者と一緒にビジネスをするとか、退職者向けのイベントを開くなんて、まず考えられませんでした。でもそれが今は普通になりつつある。会社・個人の退職に対する考え方そのものが、この9年で大きく変わったと言えます。これは、慢性的な人手不足といった社会状況も後押ししていますが、それだけではありません。
そもそも一部の例外を除けば、雇用契約書に『退職してはいけない』と書かれているわけではありません。
日本の場合は会社と個人の間に『(従業員は)長く在籍するもの』という心理的契約(編注:経営学の概念。採用前後で会社と個人の間に生じるお互いへの期待)があり、それが『退職=悪』のイメージにつながって、再雇用や再入社の浸透を阻んでいたのではないかと考えられます」
その上で鈴木さんは、会社が退職者とつながろうとする動機には「ドライな面」と「ウェットな面」があると指摘します。
「単純に、在籍経験のない人より退職者の方がオンボーディング(新入社員に組織への順応を促す施策)のコストが低い。すぐに戦力になってくれます。これは実利的な、ドライな考え方ですよね。
一方で、退職者が『やっぱりここで働きたい』と戻ってきてくれると心底うれしい、と語る人も多いんです。こちらはエモーショナルでウェットな考え方です。
この両方が備わっていることが、カムバック制度を活用するためには大事です。ドライなメリットだけでも、ウェットな感情だけでも、会社と退職者が良好な関係を築くのは難しいでしょうね」
この章のまとめ
- これまで再雇用にほとんど取り組んでこなかった会社が、再雇用の仕組みを整備し始めている
- 会社が退職者とつながろうとする動機には「ドライな面」と「ウェットな面」がある
- ドライなメリットだけでも、ウェットな感情だけでも、会社と退職者が良好な関係を築くのは難しい
「隣の芝は青くなかった」でカムバックするパターンもあり
実際に、どんな人がカムバック制度を使っているのでしょうか。外で経験を積んでキャリアアップし、その力を古巣で活かすというイメージも強いですが、実際はそれだけではないと鈴木さんは言います。
「もちろんキャリアアップ型もあります。ただ、『隣の芝は青いと思って出てみたけれど、実は青くなかった。だから戻りたい』というパターンもかなり多いんです。
例えば、『もっと自由な環境で新規事業をやりたい』と飛び出してみたら、どこに行っても環境は同じで、自分がもっと力をつけるべきだったと気づく。あるいは報酬だけを基準に転職したら、働き方が合わずに『前の職場の方が良かった』となる。
あと、コロナ禍によってガラッと働き方を変えた人が、働き方を戻すというパターンも増えています。当時はアメリカを中心に「YOLO(編注:You only live once、『人生は一度きり』の意味)」という言葉も流行りました。私の知人には、大手企業を辞めてフードデリバリーの配達員をやっていた、という人もいます。当時はそれが正解に見えた選択も、コロナ禍が落ち着き、冷静になってみると『やっぱり前の働き方の方が自分に合っていた』と気づき、元の環境に帰ってくるわけです。
こうした経緯や動機を見ると、『キャリアに一貫性が出ないのでは』と不安に思う人もいるかもしれません。
でも、先ほどお伝えした通り、会社は退職者を再雇用することに積極的になりつつありますし、退職者の側も戻ることに抵抗がなくなりつつある印象です。
これは、退職者が会社に嫌な感情を持って辞めたわけではないケースが多いからです。会社に求めていた改善点と、会社が認識している改善点が同じだった(会社が改善に向けて動いている)というパターンが少なくない。だからこそ、戻ることに抵抗がなくなっているのだと思います。
誤解を恐れずに言うなら、会社と退職者の関係は恋愛に通じるところがあるかもしれません。お互い嫌いではないけれど、ちょっと距離を置きたいということも出てくるでしょう。
そういう時、一旦会社を離れてまた戻ってくるというプロセスは、むしろ自然なことではないかと思うんです」
この章のまとめ
- カムバックには『隣の芝は青いと思って出てみたけれど、実は青くなかった。だから戻りたい』というパターンも多い
- 退職者の側も戻ることに抵抗がなくなりつつある
- 会社と退職者の関係は恋愛にも通じるところがある
古巣に戻って成功する人、しない人の違い
一方で、やはり気になるのは「戻ってどうなるか」でしょう。戻って成功した人に共通点はあるのか尋ねると、鈴木さんは二つのポイントを挙げました。
「一つ目は、辞めた理由を自分で言語化し、それが解消されるかを理解した上で戻っていることです。
実は辞めた本人も、本当の退職理由を分かっていないケースが多いんです。例えば表向きは『給与』が理由でも、本当は『自分としては満足しているのだけど、家庭で給与のことを言われ続けるのが嫌だった』ということもある。だから給与の高い会社に移っても、今度は仕事内容に不満が出てしまう。
辞めた理由はどうあれ、元いた会社に戻ることでそれが本当に解消されるのか。されないなら、されないと理解した上で戻るのか。ここが大事です。
もちろん、モヤモヤがすべて解消されることはありません。でも、どこが解消されてどこが解消されないかを分かっているだけで全然違うと思います。
二つ目は、主に会社側に求められるポイントで、オンボーディングをきちんと行っていることです。アルムナイの強みはキャッチアップの早さですが、それに会社側が甘えると、双方にとって良くありません。
社内システムやワークフローだけでなく、事業の根幹すら変わっていることもある。そこがきっちりオンボーディングできていなければ、たとえ再入社だとしてもパフォーマンスを出しづらくなります。
だから転職者側も、自分がどのくらいの期間離れていて、その間に何が変わったのかは会社に確認すべきでしょうね」
加えて、見落としがちなのが"周囲の目"だと言います。鈴木さんは、ある大手IT企業から他社へ移り、再び戻ってきた知人のエピソードを紹介してくれました。
「戻った彼が、転職先(前職)のロゴが入ったノートを持っていたら、部下に『元の恋人にもらったものを使い続けているみたいで複雑です』と言われたそうで(笑)。これはかわいい例ですが、外での経験を語るのも度が過ぎると『なぜ戻ってきたんだ』となりかねないということは覚えておいてもいいかもしれません。
つまるところ、戻ってうまくいかない原因は、ここまで挙げた成功条件の裏返しだと言えます。すなわち、『辞めた理由が整理できておらず、お金などの条件だけで戻ってしまう』、あるいは『会社側による再オンボーディングがなされない』。このいずれかに陥ったとき、カムバックは失敗に終わってしまうことがあるのです」
この章のまとめ
- 戻って成功するのは「辞めた理由を自分で言語化し、それが解消されるかを理解した上で戻っている人」と「オンボーディングのフローが踏めている人」
- 戻る前に、自分がどのくらいの期間離れていて、その間に何が変わったのかを会社に確認すべき
- 外での経験を語りすぎると「なぜ戻ってきたんだ」と思われかねない
会社と退職者の関係は"辞め方が9割"?
ここまで再入社のメリットを紹介してきましたが、そもそも「元いた会社に『戻りたいです』と言えるのか?」と考える人も少なくないでしょう。戻れる関係を残せるかどうかは、実は「辞め方」で大きく決まると鈴木さんは言います。
「辞めるときの体験が悪いと、そもそも戻りたいと思わないはずです。
皆さんに想像していただきたいのですが、辞めた会社の株を持っていなくても、辞め方が良ければ『株価が上がってほしい』と思うし、逆に辞め方が悪ければ『下がってほしい』と、思ってしまうのが人情ではないでしょうか。
辞め方と会社の業績は関係ないのですが、やはり人間は自分の選択肢を正当化したがるもの。
だからこそ、送り出す会社側はもちろん、退職者の側も「いつでも戻ってきてね」と思われるような辞め方をすることがキャリアの選択肢を広げることにつながります。これを私は『辞め方改革』と名付けています。
そして退職者は辞めた後も、今戻る気がなかったとしても、元いた会社と何かしらのつながりを保てるとベストでしょうね。
例えば、自分が今何をしているかを定期的に伝える、アルムナイ向けのイベントなどに顔を出して社員と接点を持つなど。
これは営業活動とも近しいところがあります。普段から連絡を取り合っているからこそ、いざというときに相談ごとや提案がスムーズに通る。何の連絡もないのにいきなり『戻りたいです』『戻ってきてください』では、お互い動きにくいですからね」
この章のまとめ
- 戻れる関係を残せるかどうかは「辞め方」で大きく決まる
- 退職者は、たとえ戻る気がなかったとしても、元いた会社と何かしらのつながりを保っていたい
- 退職者による元いた会社へのアプローチは営業活動とも近しい
辞めた後も会社とのつながりが「キャリアの資産」になる
働き方がますます多様化する中、会社と退職者の関係は「個人のキャリア戦略」にも直結してくると鈴木さんは語ります。
「AIをはじめとする技術の進歩は著しく、これまで身につけてきたスキルも陳腐化しやすい時代です。そうなると、会社が求めるスキルやポジションは幅広くなり、結果として従業員の会社に対する関わり方も多様になってくると思います。
『今だけ少し力を貸してほしい』『手伝わせてほしい』。そんな関わり方も普通になってくるでしょうね。
だからこそ、アルムナイ採用を活用するかどうかを問わず、会社と退職者がお互いに良い関係を築いておくことにネガティブな側面は少ないと思うんです。
もちろん、すべての人が古巣とつながる方がいいとは限りません。本当に合わない会社や法律に抵触するようなトラブルを経験したなら、無理につながる必要はない。
けれど、副業やフリーランスから会社員への回帰といった働き方が多様化する中で、過去に在籍した会社との関係はさまざまな形で活きてきます。
何より、"戻れる選択肢がある"という事実そのものが、私たちのキャリアをずっと自由なものにしてくれるでしょう」
この章のまとめ
- スキルも陳腐化しやすくなると、会社が求めるスキルやポジションは幅広くなり、従業員の会社に対する関わり方も多様化する
- 会社と退職者がお互いに良い関係を築いておくことにネガティブな側面は少ない
- 戻れる選択肢があることは、キャリアを自由なものにしてくれる
今いる会社を「辞めるか、残るか」の二択で考える前に、「関係を残して辞める」という第三の道があること。そして今いる会社とのつながりが、退職後も自分のキャリアの資産になりうること。
進路に迷ったとき、その視点を一つ持っておくだけで、見える景色は少し変わるはずです。
【出典】
※マイナビ転職『2025年の転職活動を漢字1文字で表すと、年代が高いほど「苦」が多い傾向。転職による良い変化を実感する声も』
取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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