小説家/テレビ美術制作会社 企画 燃え殻 | 仕事を面白くするのは自分のアイデア次第【Heroes File】

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第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

小説家/テレビ美術制作会社 企画 燃え殻

「燃え殻」という名前は好きなアーティストの楽曲からつけた。
テレビ美術制作会社で企画の仕事に携わりながら、ツイッターでのつぶやきが注目を浴び、小説を執筆することになった燃え殻さん。小説デビュー作はベストセラーとなり、2021年7月に2作目も発表した。
そんな、小説家であり会社員でもある燃え殻さんの仕事観について話を聞いた。

Profile

もえがら/1973年生まれ。テレビ美術制作会社に勤務。2017年刊行の小説デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーに。同作は森山未來主演で映画化され、21年11月にネットフリックスにて放映予定。21年7月新刊の『これはただの夏』が発売中。

テレビの美術制作会社の社員として働く傍ら、休み時間に始めたツイッターの叙情的なつぶやきで注目を集めた燃え殻さん。その後、ウェブサイトで連載した小説が話題を呼んで2017年に書籍化。そのデビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』は世代を超えて支持されベストセラーとなった。そして森山未來さん主演で映画化も決まり、21年11月にネットフリックスで全世界に配信される予定だ。

さらに、21年7月29日には小説第2弾『これはただの夏』を発売。前作の『ボクたち~』は自身の過去を振り返りながらつづったのに対し、今回は現在と未来へ向かって書いたという。「登場するのはそれほどポジティブではない主人公とその周りの人たち。色々つらいことがあっても、明日とか『次』のことを思いながら過ごしているなら、とりあえず今日は良しとしようということを、彼らを通して表現したかったんです。『次に何かがある』と思えることって生きて行く上で大事なことだと信じているので」

小説家/テレビ美術制作会社 企画 燃え殻

そんな燃え殻さんも、20代前半の頃は次があるなんて想像できずに、「これから自分はどうなるんだろう」と不安を抱えながらアルバイトに明け暮れていたという。「今勤めている会社も本当に成り行きで入りました。テレビ映像用のテロップをデザインするのが主な仕事で、当時は3人ぐらいしか社員がいなかったのでとにかく色々やらせてもらいました」

小さな会社で激務だったが、社長は自由にさせてくれたし、新規事業の立ち上げなども任せてくれた。「お陰でどんどん仕事の面白さが分かるようになっていきました」。そうやって経験を重ねていくうちに自分のアイデアで勝負をかけるようになっていく。「新規事業に向けた営業も自分らしいやり方で受注しようと決め、営業先の近くにやたらと出没して顔を覚えてもらうことから始めました。そうすると自分の行動に自分でウケて楽しくなり、仕事自体がつらいとか考えなくなるんです」

燃え殻さんは「どんな仕事も基本的には面白いようにはできていない。いかに楽しくするかは自分のアイデア次第だ」という。そんな考えを芽生えさせる出来事が、もうずっと前、20歳の頃にあった。「洋菓子工場でバイトをしていた時、僕がある工夫をしたら納品先のスーパーの担当者が気づいて褒めてくれたんです。そうしたら僕だけでなく、工場長や仕事仲間の士気が高まって職場の雰囲気も一気に明るくなった」。それは仕事におけるアイデアの大切さを実感する体験。「あれが僕の仕事に対する考え方を形作った原体験だったんだと、今改めて感じています」

人を喜ばせることが、どの職でも一番大事

小説家/テレビ美術制作会社 企画 燃え殻

会社員で小説家の燃え殻さん。今やツイッターのフォロワー数は約25万人だ。

文章を書く際に心掛けているのは、人を不快な気持ちにさせないこと。「ツイッターによって様々な人とつながりができましたが、誰とつながれば得だとかはあまり考えていません。自分の得だけを考えたら終わり、その時点で誰かが損をして長く続かなくなってしまうと思うので」

21年7月に出した新刊の『これはただの夏』も読み手のことを第一に考え、最後まで何度も改稿を重ねた。そうした苦労を経たかいあって、「自分にとっても間違いなく好きな小説になりました」と語る。

そんな燃え殻さんは現在、20年以上勤めた会社を休職中だ。このまま辞めるかどうかは未定であり、小説家一本でやっていくかどうかも決めていない。「ものを書く仕事を始めて4年ぐらい経ちますが、今までと全然違う仕事をしているという感覚はないんです。工場での作業や清掃などのアルバイトから始まり、美術制作会社での業務まで色々経験してきたその延長線上にあるものだと思っています。なぜならどんな職業においても、納期を守る、目の前の人を喜ばせるというのが一番大事で、そこが共通しているからです」

どの仕事にも楽しみがあり苦しみがあるというところも一緒。強いて言うなら、執筆活動は仕事の応用編に入ったという感じ。「だからこれ一筋でという気持ちもないんです。これから先も、この延長線上にある何かしらの仕事をしていくんだと思います、きっと」。その話からは、会社や職種にこだわらず「働く」ということに真摯(しんし)に向き合う姿勢が見える。

そして燃え殻さんは、自身の経験から人はいくつになっても、何度かは人生をやり直せると語る。「僕が20代前半の頃は『25歳までに転職しないとマズイ』と求人誌に書いてありました。それが『30歳までに』『35歳までには』とだんだん上限が上がっていった。さすがに40歳になると言われなくなりましたが、僕は43歳から小説を書き始めています。周りにはそんな無謀なことはやめた方がいいという人もいましたが、結果的には書いて良かった。全てを失ったとしても人生は何度かはやり直せると思うんです」

ただし、「何度でも」は違うと。一回一回、真剣勝負で臨まなければならない。それが大切だと燃え殻さんは念を押した。

ヒーローへの3つの質問

小説家/テレビ美術制作会社 企画 燃え殻

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

基本的にはどんな仕事でもやれます、という姿勢で生きています。単純作業が苦にならない、というか好きなので、工場で働いていたと思います。アルバイトで工場勤務は経験しているので頑張れると思います。単純作業と言われるものは色々な工夫ができて面白いんです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

中島らもさんの『永遠(とわ)も半ばを過ぎて』です。「永遠が半ばを過ぎる」ってすごくいい言葉だなあって思っていて。20歳の頃に出会って何度も読み返してきました。今でも読んでいます。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

例えば、このボールペンを使うと決めてしまうとそれを忘れた時に困るので、そういうのは持たないのが信条です。ただ、一杯飲み屋を営んでいた祖母が生前「お前は私に似ている」とよく言っていたんです。根性がある人でした。だから大勢の人前で話すとか、本を出すとか、一大事の時には「あのばあさんの孫だから大丈夫!」と祖母のことを思い出すことにしています。

Information

小説『これはただの夏』が発売中!

ベストセラーとなったデビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』から4年。燃え殻さんの小説第2弾『これはただの夏』が2021年7月29日に発売された。「誰もが成人式が来て大人になるというわけではないと思っていて、日々の人との関わり合いや人生の岐路を重ねながら気づいたら少し大人にならざるを得なかった、みたいな感じが僕にはとてもリアルに感じられるんです。だからそういうのが描けたらいいなと思って書きました。自分でも一番好きになってしまいそうな小説です」と燃え殻さん。今回は小説の発売と同時にそのプロモーションビデオのフルバージョンも公開された。主演は俳優の仲野太賀さんで、主人公のモノローグと小説内の会話を朗読しているのがアニメやゲームなどで活躍する声優の江口拓也さん。さらにまた、燃え殻さんが本作を書くきっかけとなった、けものさんの楽曲「ただの夏」も必聴だ。

発行元:新潮社
定価:1,595円(税込み)