テレビプロデューサー/佐久間宣行 | いつ辞めるか区切りをつけたら、前を向けた

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

テレビプロデューサー/佐久間宣行

数々の人気バラエティー番組を手掛けるプロデューサー、佐久間宣行さん。2019年のテレビ局社員時代から始めた、深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」の水曜パーソナリティーとしての顔もすっかり定着。
21年4月からフリーランスになった佐久間さんだが、会社員時代はどんな思いで仕事に取り組んでいたのか、そしてフリーになってからは? そんな話を本音で語っていただいた。

Profile

さくま・のぶゆき/1975年福島県生まれ。99年に早稲田大学を卒業後、テレビ東京へ入社し、多くのバラエティー番組を担当する。2021年3月末で同社を退社してフリーとなる。最新刊の『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』(扶桑社)が発売中。

「ゴッドタン」「あちこちオードリー」など、テレビ東京で数々の人気バラエティー番組を生み出し育ててきたプロデューサーの佐久間さん。2021年春からフリーになったが、19年には、テレビ東京の社員でありながら他局であるニッポン放送の深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」のレギュラーパーソナリティーに起用され、話題を呼んだ。「僕自身が一番の驚きでしたが、推してくれる人がいて、会社も笑って承諾してくれたお陰です」

この、ラジオでの2年間をまとめたのが『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』という著書だ。「僕はごく普通のおじさんなので、ラジオでは自然に家族や仕事の話をしていました。そんなフリートークから僕なりの仕事観や人生観が垣間見えると思ったので、ラジオファンだけでなく、人生やキャリアに悩んでいる人にも興味を持っていただけるかなと考えて書籍化させてもらいました」

そんな佐久間さんだが、テレビ東京入社当時は転職することばかり考えていたという。「ADからのスタートだったのですが、仕事が想像以上にハードで。自分の実力のなさも相まって、これは長く続けるのはムリだなと思ったんです」。そしてある日、決断する。3年目を区切りに、その時点で嫌だったら辞めようと。

テレビプロデューサー/佐久間宣行

「この決断が良かった。辞めるんだから我慢しなくてもいいと思えたので、例えば気が乗らない飲み会などは全て断りました。逆に仕事は後ろ向きではなく、3年目を迎えるまで一生懸命やることにしました。ADの仕事が、自分の工夫次第でクリエーティブなものにできるんだと気づき始めていたのもあったので」

さらにその頃から、好きだったお笑いの番組の企画書を幾つも出し続けたそうだ。「全然通らないので諦めかけた時もあったのですが、それでも、お笑い好きで変な企画を出すヤツと覚えてもらえた。企画書が僕のキャラを社内に認知してもらえるツールになったわけです」

企画はようやく1本採用になったものの、そのお笑い番組はわずか半年で終了。そして次の配属で担当した番組が「TVチャンピオン」だった。実はこの番組があったから3年で辞めることなく続けてこられたという。

「色々な競技を行うバラエティー番組でしたが、企画が通れば上下の関係なく誰でもその回はディレクターとして任せてもらえました。だから企画会議のために調査資料を用意したり、番組で使えそうな動画を自主的に撮影してきたりと頑張りました」。そうした仕事ぶりが認められ、30代には自己裁量で番組作りができるようになっていた。

褒めてもらえる能力は、信じて伸ばしていく

テレビプロデューサー/佐久間宣行

22年間勤めたテレビ東京を退職し、21年4月からフリーランスになった佐久間さん。テレビ番組の制作、ラジオパーソナリティー、イベントのプロデュース、そしてユーチューブチャンネルの配信などマルチに活躍中だ。

「会社を辞めた時45歳でした。周りは5年早くてもよかったねと言ってくれたのですが、僕は自分に自信がなくてフリーは無理だと思っていました」。その心境を変化させたのは、19年にレギュラーでラジオパーソナリティーを始めてからだという。外部から想像もしないオファーを受けるようになったこと、そしてテレビ以外にもユーチューブなど面白い企画を作れる媒体が増えたことが大きい。

「会社員のままだと、現場で番組作りに丸々携わることができるのってせいぜいあと10年。僕はずっと現場で仕事がしたかったので、たった一度の人生を後悔しないために退職という選択をしました」

そんな佐久間さんが、20年以上の会社員時代を通して守ってきたことが幾つかある。その一つが「人が褒めてくれることは信用する」だ。「20代の頃、矛盾しているのですが、クリエーティブな仕事をやりたいと思いつつそれが自分にできるとは思えなかった。本当に自信がなかったんです。だから、せめて人が褒めてくれることは信用してみようって。編集のセンスがあるとか現場の仕切りがうまいとか、褒めてもらったことは素直に受け止め、さらにその能力を伸ばしていこうと努力しました」

そしてもう一つ、「会社には自分の全てを渡さない」と早い段階から決めていたそうだ。「魂を捧げて仕事をする人もいますが、僕はそれだとメンタルがとても持たない。基本的には楽しいこと以外はしたくないので、自分の倫理に合わなかったり、心の健康を阻害したりするものは遠ざけるようにしていました」

会社のルールに慣らされてしまい、それがいつしか自分のルールになってしまうのも怖かった。「この仕事に自分の全部は持っていかれないぞという心構えで臨み、だけどちゃんとベストは尽くす。それが僕にとってはすこぶる健全な仕事との付き合い方なんです」

フリーになって半年が過ぎたが、仕事へのスタンスは変わらない。ただ、「せっかくなので会社員時代に経験していなくて、まだ自分が発揮できていない能力というか、引き出しが開けられる仕事を増やしていきたいですね」。最近は週1回のラジオパーソナリティーの仕事がストレス解消になっている。「ラジオってどうやってもうそがつけないもので、自分という人間がこぼれ落ちる。だから楽しいんです」

ヒーローへの3つの質問

テレビプロデューサー/佐久間宣行

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

学生時代、アルバイトでずっと続けていたのが飲食店のホールスタッフ。とにかく酔っているお客さんには好かれていたので、かなり向いていると思います。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

フレンチのシェフ・斉須政雄さんの『調理場という戦場 ―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』です。斉須さんが自身の店を立ち上げ、自分の色や持ち味を出すまでの格闘の歴史が書かれています。一仕事人の伝記として面白かった。AD時代、心身が疲れた時によく読んでいました。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

始める前に一度、諦めます。そうすると「ある程度やれることはやったんだし、これで結果が良くても悪くてもしょうがない」と思えるので。

Information

最新刊『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』が発売中!

2019年春、当時テレビ東京のプロデューサーだった佐久間宣行さんが、ニッポン放送の深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」のレギュラーパーソナリティーになった。それから2年以上が経ち、3年目に入った今も人気番組として多くのリスナーに愛されている。その番組の内容を書籍化し、21年6月に刊行したのが『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる ~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』(扶桑社/1,650円〈税込み〉)だ。佐久間さん自身による厳選フリートークを始め、お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さんらゲストとのトーク、さらには語り下ろしエッセーやショート漫画などコンテンツも盛りだくさん。「仕事と人生をストレスなく楽しむヒントが、この本を読むと得られると思います」と佐久間さん。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/241/

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