ソングライター/水野良樹 | 来た運をつかむには事前の努力が必要

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

ソングライター/水野良樹

「SAKURA」「ありがとう」など世代を超えて愛される歌を作り続けている、人気バンド「いきものがかり」のリーダー・水野良樹さん。
デビューからの約10年間をひたすら駆け抜け、30代半ばからは2年弱の活動休止、独立、そしてメンバーの脱退などと向き合ってきた。
水野さんはどんな思いを胸に歌を書き続けてきたのだろうか。今の心境も含めて聞いた。

Profile

みずの・よしき/1982年生まれ、神奈川県出身。99年にバンド「いきものがかり」結成、2006年にシングル「SAKURA」でメジャーデビュー。国内外のアーティストにも楽曲を提供。実験的プロジェクト「HIROBA」主宰。エッセー集『犬は歌わないけれど』が発売中。

2021年11月、Jポップバンド「いきものがかり」のリーダーで、ソングライターとして活躍する水野さんのエッセー集『犬は歌わないけれど』が発売された。コロナ禍でどう暮らし、何を考えていたのかを素直な視点でつづっている。仕事や他人、そして自分にも正直に向き合っていたことが伝わってくるような一冊だ。

1999年、小学校からの幼なじみ山下穂尊さん、同級生の妹、吉岡聖恵さんとグループを結成し、路上ライブを続けていたが、大学2年時に所属事務所などが決まり、本気でこの道で食べていこうと思い始める。そして2006年、大学卒業間近にシングル「SAKURA」でメジャーデビュー。

「順風満帆に思われがちですが、デビューまでの1年間は苦しかったです。どんなに曲を作っても一向に採用されないし、ボーカル・吉岡の歌のレッスンも朝から晩までひたすら続く。本当にデビューできるのか不安でした。デビュー後も曲がヒットした実感はなかったですね。実際、地方でのライブは全然チケットが売れなかったし」。それでも次のシングル、次のライブなど目の前のことを無我夢中でやり続けた。それができたのは世間知らずの若者で、この道に進む以外考えなかったからだという。

ソングライター/水野良樹

そしてやがて努力のかいもあり、「ブルーバード」「YELL」「ありがとう」など数々のヒット曲を世に送り出して人気は不動のものとなる。「今になって感じるのですが、若いうちにしか無理は利かない。だからやりたいことがあるなら、無理が利くうちに頑張っておいて損はないと思います」

もちろんそうした努力が全て報われるわけではない。しかしそれは運を生かすことにつながると水野さんは考える。「いきものがかりは自分たちの力だけで夢を実現できたわけではありません。本当に運が良くて、この人にこのタイミングで出会っていなかったら次のチャンスはなかったという瞬間が何度もありました。運ってたまに転がってくる。その時ちゃんと引き寄せられる自助努力が必要かなって。僕らは当時、運が目の前にひょいと飛んできたらしっかりバットを振れるだけの準備と努力はしていた。それが良かったんだと思います」

「好きなことを仕事にして生きていくにはどうすればいいか」とよく聞かれる。「どの世界でも自分より才能のある人はいるし、その仕事でひどくつらい思いをすることもあるけれど、好きなことだから言い訳はできない。それでも『やり続けられる』と覚悟して取り組むこと。そうすれば後悔はない」。水野さんは自身の経験を踏まえ、そう断言する。

自分の限界値を上げるため、挑戦し続ける

ソングライター/水野良樹

ソングライターとして広く親しまれる曲を生み出し続けている、人気バンド「いきものがかり」の水野さん。デビュー後10年ほど経た頃から思いがけず紆余(うよ)曲折を重ねることになる。まず17年初頭、「放牧」と称して2年近くグループ活動を休止。「満身創痍(そうい)のような状態で来たので、いったん各自のペースで好きなことをして過ごそう」というのが目的だった。

それでも水野さんは仕事を選択する。「僕はとにかく、ソングライターとしての技術や能力をもっと高めたかったので曲を書き続けました。そんな中で、やはり自分は曲を作るのが好きなんだと改めて気づくことができた。また、様々なシンガーの方と仕事をすることで、人によって音楽との向き合い方が全然違うのだという発見もありました」

18年11月に活動を再開し、19年にはアルバムをリリース。さらに20年、長年在籍した芸能事務所から独立し、自分たちで作った会社をベースに活動を始めた。そんな矢先、21年夏、人生最大の転機が訪れる。メンバーの一人、山下穂尊さんの脱退だ。「6歳から30年以上一緒でした。テレビに出たい、有名になりたいといった無邪気な気持ちでスタートした時からの全てを知っている。そんな彼との青春物語にいよいよピリオドを打つ時が来たんだなと」

水野さんは一抹の寂しさを乗り越え、新たな道を選択した山下さんを晴れやかな気持ちで送り出すと同時に、自身もまた新たな心境でいきものがかりをリスタートさせることにした。2人体制になったことで、ボーカルの吉岡聖恵さんともより純粋にシンガーとソングライターとして向き合えるようになった。「仲間意識を超え、プロとして互いに敬意を持って活動を続けていきたいと思っています」

自著の新刊エッセー集『犬は歌わないけれど』には、「限りを超えたい」というような表現がしばしば登場する。実際、自身の限界値を上げるために様々なことにも挑戦。19年に立ち上げた「HIROBA」もその一つだ。アーティストやクリエーターたちとの実験的なプロジェクトで、曲と小説がセットの書籍も出版した。

そんな水野さんの究極の目標は、桜のような歌を作ることである。「自分を表現するために歌を書くというよりは、桜のようにただそこに在るだけで多くの人の心に寄り添えるような歌を書きたい。そもそも僕のことなんて知らなくていい。でも曲は桜のように誰からも愛され続けて欲しい、どんな時代になっても。そこを限りなく目指して音楽を作り続けています」。自分の「限り」を超えようとする思いは大きな原動力になる。

ヒーローへの3つの質問

ソングライター/水野良樹

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

大学で専攻していた社会学を究めるため、大学院へ進んで社会学の研究者になっていたと思います。と言いながら案外、普通に就職していたかもしれません(笑)。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

精神科医で京都大学名誉教授だった木村敏さんの『時間と自己』です。自分と他者は分かり合えないと考えていたのですが、この本を読んで、意外に自分と他者の区別はないのかもしれないと思えました。「なぜ自分は曲を書いているのか」「どういう曲を書けばいいのか」ということへのヒントになった一冊です。かなり難解な本なので自分の解釈がどこまで正しいのか分からないところもあるのですが(笑)。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

喫茶店ですね。自分のモードやスイッチを入れる場になっています。元々喫茶店は大好きでよく行くのですが、全国ツアーで様々な土地に出掛けた際には必ず地元のチェーン店の喫茶店に行きます。そうするとその土地や街の空気がつかめるんです。

Information

エッセー集『犬は歌わないけれど』が発売中!

人気バンド「いきものがかり」のリーダー・水野良樹さんがつづったエッセー集『犬は歌わないけれど』(新潮社/1,485円〈税込み〉)が2021年11月に発売された。「未来はどこにあるの?」と、幼い息子の本質を突くような問いに考え込む。バンドデビューした高校時代、背中を押してくれた友人の言葉。所属事務所から独立して初めて知る社会の一般常識。作業を終えた深夜、誰もいないリビングで犬に“なでられる”。そしてグループを脱退した親友を思う……。共同通信社から各地方新聞社へ配信された連載「そして歌を書きながら」を元に加筆修正したものと、新たな書き下ろし2本を加え一冊の本として刊行。水野さんが一人の人間として日々を過ごす中で、感じたこと、考えたことが正直な言葉で記されている。「ちょうどコロナ禍に書いたもの。皆さんも経験したことのない日常を送られた2年間だったと思います。だから僕がどう思ったかということよりも、ご自身はどうだったかということと照らし合わせて読んでもらえると、より楽しんでいただけるのではないかと思います」

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/244/

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