俳優/前田敦子 | すべては自分次第と捉え、やる気を持って進む【Heroes File】


第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優 前田敦子さん

アイドルグループ「AKB48」の絶対的エースだった前田敦子さん。AKBを卒業して早10年。その間に数々のドラマや映画、舞台に出演し、今や日本を代表する俳優の一人とも言える活躍ぶりだ。
プライベートでは結婚、出産、離婚を経験し、また所属事務所からの独立という出来事もあって「すごく濃厚な20代でした」と語る。
そんな前田さんに、アイドルから俳優へと歩んできた道、そして3歳の息子の子育てをしながら仕事に突き進んでいる今の思いなどを聞いた。

Profile

まえだ・あつこ/1991年千葉県生まれ。アイドルグループ「AKB48」第1期生として2012年まで活動。現在は俳優として映画やドラマ、舞台などで幅広く活躍。22年9月3日(土)からKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演予定のミュージカル「夜の女たち」に出演。

2021年の「フェイクスピア」や22年の「パンドラの鐘」など、舞台での活躍もめざましい俳優の前田さん。22年9月3日(土)からはKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演予定のミュージカル「夜の女たち」に出演する。

1948年公開の同名映画を元に演出家の長塚圭史さんが上演台本と作詞を手がけ、混迷する戦後を生きる3人の女性の壮絶な物語を描く。「私が演じる夏子は、どんな世になろうとも全ては自分次第なんだと強い意思で生きている。パンデミックを経た現在、誰もがやる気を持てばどこまでも突き進むことができる時代に突入したという気が私はしています。それだけに、己を信じて生きる強い女性を今演じることに意味を感じます」

2005年、14歳の時に母親に背中を押されてオーディションを受け、アイドルグループ「AKB48」のメンバーとなる。すぐにテレビなどで活躍できると思いきや、泣かず飛ばずの時期が長く続いた。「人気が出るにはどうしたらいいのかみんなで悩みました。私は自信がないのもあってよく『辞めたい』と言っていた。歌う時にセンターにしてもらえるのもありがたい話なのに、当時は嫌で反抗していましたね」

俳優 前田敦子さん

しかし4年経った頃から曲が売れ始め、認知度も高まっていく。前田さん自身も、新曲を歌うメンバーの第1回選抜総選挙で1位に選んでもらったことから、自分の置かれた立場に責任を感じるようになり、前向きに取り組むようになっていったという。

ただ、前田さんには他にも大きな夢があった。俳優になることだ。AKBのプロデューサー、秋元康さんにはメンバーになった頃から話していた。そのかいあってアイドル活動の傍ら、07年公開の映画『あしたの私のつくり方』で俳優デビューを果たす。「でも、演技ができなさすぎて市川準監督に叱られまくりました。今思えば、俳優業はそんなに簡単なことではないと知ることができた貴重な経験でした」

そして前田さんは12年にAKBを卒業し、俳優業に専念する道を選ぶ。「アイドルである限りどの現場でも一人の俳優として扱ってもらえないというジレンマがあったのと、共演をきっかけに仲良くなった池松壮亮さんや柄本時生さん、高畑充希さんがいよいよ本腰を入れて俳優をやっていこうとしていたので、私も同じ景色を見たいというのがありました」

また、山下敦弘監督の映画『苦役列車』との出会いも大きかった。「初めて、私もここで頑張っていいのかなと感じさせてくれる現場でした。この世界にどっぷりつかりたいと思い、アイドル卒業を決心しました」

仕事は、主体的に動いた方が気持ちいい

俳優 前田敦子さん

アイドルグループ「AKB48」を21歳で卒業し、前田さんは以降、演技に邁進(まいしん)してきた。声が掛かればどんな役でも引き受け、数多くの作品に出演した。そうした中で様々な俳優と出会い、徐々に自身が変化していったという。

「どんな俳優さんも、口をそろえて演技に自信がないと言うんです。何度もそう聞くうちに、経験の浅い私がうまくできないのは当たり前、自分の芝居がどうこうより、まずはどれだけ真剣に役と向き合えるかが大事なんだと気づかされました。それからは気負っていた肩の力が徐々に抜けていきましたね」

20代の後半、結婚、出産を経験したことも大きい。「ついでに離婚までして(笑)、濃厚な20代です。特に19年に子どもを生んでからは本当に変わりました。自分の仕事と人生に責任を持って生きなければという思いが、より強くなったんです」

一昨年末、デビューから13年半ほど所属した事務所を離れ、独立したのも子どものことがきっかけだ。「息子はこれから先どんどん成長していく。にもかかわらず私自身はこれ以上変われないかもと思えてきた。そこで、人が用意してくれた仕事をこなすのではなく、自分がやれることを自ら見つけて挑戦できる環境にしようと思い、独立を決めました」

そして1年半が過ぎた。「その間に、今まで出会ったことのない人たちと直接やりとりすることも増えました。それは刺激的で、世界も広がりました」。自身がやりたいと思えば即決できる感覚も、性に合っているという。

22年9月に上演予定の「夜の女たち」は初のミュージカル参加となるが、尊敬する長塚圭史さんの演出というのもあって即、承諾。「誰かに守られてというのではなく、自分が直接交渉したり、返事ができたりする方が仕事も断然気持ちいい。たぶん、自らの責任で自分がやりたいと思うことに果敢に挑んでいかないと、生きている感じがしないんでしょうね」

仕事では人の意見に左右されないという。そういう強い自分軸を持つことができているのは、AKBのプロデューサー、秋元康さんのおかげだ。「14歳の時からずっと『人生の選択は自分でしなさい』と。今でも私の人生の節目には必ず素敵なアドバイスをくれます」

今後は子どもの成長を見守りながら、自身の仕事もとことん楽しみたいという前田さん。「いくつになっても自らに限界を作りたくないですね。突然何かひらめいたら、それはこれからの生き方のヒントにもなりそうなのできっと迷わず挑戦します。何でもやったもん勝ちだと思っていますから(笑)」

スタイリスト:小山田早織
ヘアメイク:高橋里帆(HappyStar)

ヒーローへの3つの質問

俳優 前田敦子さん

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

思いつかないです。ただ、アルバイトはやってみたかったな。コンビニとかスターバックスで。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

ピーターラビットの絵本です。サイズが小さくて絵もかわいくて、活字が少々苦手だった私でもスッとその世界観に入ることができて好きでした。しかも、お話はちょっと大人っぽかった印象があります。小学生の頃、図書館でこのシリーズを借りるのが楽しみでした。息子がもう少し大きくなったらぜひ読ませたいです。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

新しい作品に入る時は毎回、監督とも相談しながら役柄のイメージに合わせてヘアスタイルを変えます。舞台の時は仕方ないのですが、映像作品ではカツラをつけるのがどうも苦手で。というのもあって、なかなかヘアスタイルが一つに定まらないんです。

Information

ミュージカル「夜の女たち」に出演!

溝口健二監督映画『夜の女たち』を舞台化し、長塚圭史さんが初めてオリジナルミュージカルに挑んだKAAT神奈川芸術劇場プロデュース公演「夜の女たち」が2022年9月3日(土)~19日(月・祝)に上演予定だ。1948年、戦後すぐに公開された映画『夜の女たち』は、終戦間もない大阪・釜ケ崎(あいりん地区)を舞台に、生活苦から夜の闇に落ちていった女性たちが必死に生き抜こうとした姿を描いた作品である。この映画の脚本を元に長塚さんが上演台本、作詞を手掛け、音楽を力にミュージカルとすることで、混迷した時代を生きていかなければならなかった日本人のエネルギーや生命力を描き出す。長塚さんの舞台にいつか出たいとひそかに夢見ていたという前田敦子さん。「長塚さんを始め出演者もみんな舞台を愛してやまない“舞台オタク”です(笑)。おそらく観(み)に来てくださる方々も舞台が大好きな方が多いはず。会場はすごいパワーに包まれると思います。ぜひその熱を体感しにきてほしいです」と語る。

出演:江口のりこ、前田敦子、伊原六花、前田旺志郎、北村岳子、福田転球、大東駿介、北村有起哉ほか
※9月24日(土)から全国ツアーも予定。