俳優・アーティスト/加藤和樹 | 人の心を動かすもの、それが目標となった

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優・アーティスト/加藤和樹

落ち着きのあるたたずまいと低音ボイスが魅力の加藤和樹さん。

ミュージカル界の第一線で活躍しながら、アーティストとして音楽活動にも積極的に取り組んでいる。さらに、アニメやゲームの世界でも声優として知られるマルチな才能の持ち主だ。でもどの分野も、全く白紙の状態からのスタートだったという。

そんな加藤さんは一体どのような思いでキャリアを重ね、今のような八面六臂(ろっぴ)の活躍に至ったのだろうか?

Profile

かとう・かずき/1984年愛知県生まれ。2005年ミュージカル「テニスの王子様」に出演して脚光を浴び、06年には歌手デビュー。俳優として活躍するほか音楽活動も精力的に行なっている。22年9月17日(土)から東京都港区の自由劇場で上演予定の舞台「裸足で散歩」に主演。

アーティストとして音楽活動で魅力を放つ一方、その変幻自在な演技力でミュージカルを中心に舞台作品からも引く手あまたの加藤さん。2022年9月は舞台「裸足で散歩」に主演する予定だ。

アメリカの喜劇作家ニール・サイモンの代表作で、性格が正反対の新婚夫婦のすれ違いを描いた心温まるラブコメディー。「僕が演じるのは頭が固くて真面目な新米弁護士。彼と妻とのやりとりがとても愉快です。息苦しく生きづらい今こそ、本作でほっこりした温かな笑いを楽しんでもらえたらうれしいです」

高校3年の時、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでファイナリストになった加藤さん。ある芸能事務所が声をかけてくれたので卒業と同時に上京する。ところがその事務所が半年で倒産。「途端に路頭に迷い、地元に戻って大学受験しようか、アルバイト先の正社員になろうかなどと考えましたが、コンテストで知り合った仲間がドラマや舞台などで活躍しているのがうらやましくて、芸能界への諦めがつかなかった。結局そのまま1年半ほどバイト生活を続けていました」

悶々(もんもん)とした日々の突破口となったのは、ザ・ベイビースターズというロックバンドの曲「去りゆく君へ」だ。「別れのラブソングなんですが、次々に就職していく友人たちから取り残された自分の心境と重なり号泣しました。同時に、こんな風に人の気持ちを動かす音楽がやってみたいと思うようになったんです」

俳優・アーティスト/加藤和樹

目標ができた加藤さんは、やがて運命的に今のマネジャーと出会う。「音楽をやりたいと話し、事務所に所属させてもらいました。そこで初めて受けたオーディションがミュージカル『テニスの王子様』です。歌の経験ができるし、友人も出演していて好きな作品だったので挑戦することにしました」

そして加藤さんはこの作品で一気に注目を浴びることになる。翌年には歌手としてCDデビューも実現。さらに人気ドラマへの出演や武道館ライブと活躍の場は広がっていった。「でも、実はこの時期が一番つらかった。歌も芝居もほとんど経験のないまま環境がどんどん変化していくので、それについていくだけで精いっぱいでした」。夢はかなったものの楽しいと感じる余裕はあまりなかったという。

そんな加藤さんの意識を変えたのが、ミュージカルの共演で出会った俳優、山崎育三郎さんの存在だ。「同世代の彼が、ミュージカル俳優として圧倒的な表現力をもって活躍していることに衝撃を受けました。彼とまた共演したいと思い、それ以降、ミュージカルに積極的に挑むようになりました」

挑む心を忘れず、自分の世界を広げる

俳優・アーティスト/加藤和樹

当初は歌も芝居も不慣れで、自分に自信がなかったという加藤さん。でも同世代の俳優、山崎育三郎さんに刺激され、本格的にミュージカルの世界へチャレンジしていく。そしてその後、「ロミオ&ジュリエット」や「レディ・ベス」「フランケンシュタイン」「ファントム」など大作への出演が続くことになる。

「『レディ・ベス』は山崎さんとダブルキャストでした。僕はそもそもミュージカル経験が少なく、歌唱力も彼とは雲泥の差があります。だからこの時は歌でかなわない分、僕は芝居を頑張ろうと思いました。演技もうまいわけではないけれど、せめて気持ちが届くようにと考え、とことん役と向き合い懸命に演じました」

その努力が功を奏して、次はミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」の主演にも抜擢(ばってき)される。「ただ、この時点でもまだ自信がないままでした。そんな僕を見透かしてか、演出の小池修一郎さんが『君はもっと自信を持っていい』と言ってくれたんです。要は、これまでの自分の努力を信じなさいということ。それ以降、本当に気持ちが楽になり、自分らしい表現ができるようになりました」

今、俳優としての快進撃が目立つ加藤さんだが、アーティストとしての活躍も目覚ましい。CDデビューして16周年となり、その間、毎年楽曲をリリースし、ライブツアーを行なっている。「歌にも100%、芝居にも100%の力を注いでいます。両方とも好きだし、僕にとって大事な表現の場。どちらも気を抜かずに続け、止まらないことを目標として掲げています」

更にアニメやゲームの声優、そして最近はテレビ番組のMCなども経験。22年9月17日(土)から上演予定の舞台「裸足で散歩」では主演するが、この作品のようなコメディーに挑戦するのは俳優人生初だという。「年齢、経験を重ねるとできることは確かに増えますが、さらに新たなことに挑む心も忘れたくない。それによって自分の世界が広がっていくはずなので」

「やればできる」が信念だ。俳優もアーティストも声優も全くのゼロからスタートし、第一線で活躍できるようになったという、その経験から実感している。「未知の世界に飛び込むのは毎回足がすくみます。でも最初の一歩を踏み出してみると意外に何とかなる(笑)。やりたいことがある時って、想像以上に自分の中にエネルギーをため込んでいるものです。だから恐れずその一歩を踏み出すといいと思います」

ただそう言いつつ、今でも時々立ち止まったり逃げ出したくなったりすることがあるそうだ。そんな時に思い浮かべるのは周りのスタッフやファンのこと。その人たちがいるから仕事を続ける。これも加藤さんらしさのようだ。

ヒーローへの3つの質問

俳優・アーティスト/加藤和樹

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

子どもの頃、料理人になりたい思ったことがあります。今も料理を作るのが好きなので、おそらく調理関係の仕事、例えばラーメン屋あたりをやっているのではないでしょうか。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

漫画家・井上雄彦さんの『SLAM DUNK』です。言わずと知れたバスケットボールを題材にした作品ですが、小学生の時に読み、それをきっかけに中学高校ではバスケ部に所属していました。主人公の高校生・桜木花道は全くの初心者からバスケを始め、急速に才能を開花させ、全国大会まで行き、強豪校にも勝つんです。僕の一番好きな言葉は「やればできる」なんですが、その原点になっている漫画。桜木の諦めない心、“スラムダンク精神”みたいなものが僕の中に息づいています。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

大事なことがある前や気合を入れたい時は、結構「ラーメン二郎」へ行ってラーメンを食べます。僕の“勝負めし”ですね。

Information

舞台「裸足で散歩」に出演!

アメリカの劇作家ニール・サイモンの名作ラブコメディーが、加藤和樹さんの主演で上演される予定だ。物語の舞台は寒い2月のニューヨーク。真面目な新米弁護士ポールと明るく自由奔放な妻コリーは、新婚旅行を満喫して新居のアパートへと帰ってくる。そのアパートには風変わりな住人がたくさんいて、中でも一番の変わり者が屋根裏部屋に住むヴィクター・ヴェラスコ。ある日、コリーは母であるバンクス夫人との食事にヴェラスコも誘い、4人で楽しいひとときを過ごす。しかしみんなが帰った後、コリーとポールはケンカを始めてしまうのだった……。世界中の人たちから愛されてきた名作が、今新たによみがえる。「ごくありふれた日常の中、思いも寄らないハプニングが起きてとっても面白いんです。きっと優しい気持ちになれると思うので、ぜひ観(み)に来てください」と加藤さん。

日程・会場:プレビュー公演2022年9月13日(火)有楽町よみうりホール、東京公演9月17日(土)~29日(木)自由劇場(東京都港区)
出演:加藤和樹、高田夏帆、本間ひとし、松尾貴史、戸田恵子
翻訳:福田響志
演出:元吉庸泰
公式サイト:https://hadashidesanpo.jp
※兵庫、大阪、神奈川、東京多摩公演も予定。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/256/