DJ・トラックメーカー/DJ松永 | 「好き過ぎる」。それを原動力に突き進んできた

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

DJ・トラックメーカー/DJ松永さん

好きが高じて…… どころの話ではない。中学2年で出会ったヒップホップにハマり、高校時代からはDJを始め、「とにかく好き」の一心でDJのスキルを磨き続けて世界の頂点まで上り詰めた「Creepy Nuts(クリーピーナッツ)」のDJ松永さん。
それでもまだ道半ばだと言い、これからもDJのスキルを極めたいし、もっといい曲を作りたいと語る。そんな松永さんに、これまで歩んできた半生と今の思いを聞いた。

Profile

でぃーじぇい・まつなが/1990年新潟県生まれ。2016年にラッパーのR-指定さんとヒップホップユニット「Creepy Nuts」を結成し、翌年デビュー。19年にはDJの腕を競う世界大会でチャンピオンに。22年9月7日にニューアルバム「アンサンブル・プレイ」をリリース。

松永さんがDJと作曲を手掛け、ラッパーのR-指定さんが作詞を担当するヒップホップユニット「Creepy Nuts」が今、幅広い層から支持されている。等身大の姿をさらけ出す内省的な歌詞と、耳に心地よく残るメロディーラインが人気を得ている理由のようだ。

2022年9月7日に発売された1年ぶりのニューアルバム「アンサンブル・プレイ」にも、そんな彼らの魅力が満載されている。テレビアニメの主題歌「堕天」や、TikTok(ティックトック)の再生回数が3億回を超えたというヒット曲「のびしろ」も含まれた、色彩豊かな楽曲がラインアップ。

「ヒップホップは自分たちの『リアル』を歌詞にするのがスタンダード。俺たちもその定石で曲作りをしてきましたが、今作は『フィクション』を全体のテーマに制作しました。そのほうが発想や表現も広がり、よりクリエーティブになるのではないかと思ったから。まさに俺たちの新境地を切り開くアルバムとなりました」

新潟県長岡市出身。中学2年の時にヒップホップと出会って好きになり、高校2年でターンテーブルを購入してDJにのめり込む。ほかのことが考えられなくなるほど夢中になり、高校を中退。アルバイトをしながらひたすらターンテーブルに向かってDJのスキルを磨く日々を送った。また曲作りも始めて、デモ音源を作ってはクラブに売り込んだりした。しかし地元でDJだけで生きていくのは難しいと考え、活躍の場を求めて上京する。

DJ・トラックメーカー/DJ松永さん

東京にツテがあったわけではない。バイトをしつつ、録(と)りためていた曲を元に何人かのラッパーに協力してもらってレコーディングし、アルバムを自主制作。「CDのプレス会社を探し、流通業者に卸してもらい、プレスリリースも自分で書いて音楽サイトに送りました。でも全然ダメで大赤字。個人では無理だと悟り、次はレコード会社を探すことにして、30社以上にデモ音源を送りました」

そんななかで声を掛けてくれた会社が1社だけあり、新たにアルバムを制作。これをきっかけに、10代の頃から面識のあったRさんとユニットを組んで17年にメジャーデビューすることになる。

とはいえ、自力でアルバムを作り、デモ音源を多くの会社に送るという努力は並大抵のことではない。「どうしたらDJで食べていけるか分からず、自分としては手当たり次第やれることをやっただけです。とにかくDJが好き過ぎてほかのことが一切目に入らなかった。それほどまで、俺にはDJの世界が輝いて見えたんです」。「好き過ぎる」という原動力を絶やさず突き進んで、松永さんの今がある。

自分のための頑張りが人のためにもなっていた

DJ・トラックメーカー/DJ松永さん

ここ数年、快進撃を続けている松永さん。ヒップホップユニット「Creepy Nuts」での活動のみならず、ラジオやテレビのバラエティー番組など多方面に活躍の場を広げてきた。だけど本業はあくまで音楽だ。

「色々な曲を作る中で、発見があり、DJとしての成長があって、今楽しくて仕方がない。どれだけ幅のあるサウンドを制作できるか、常に自分と勝負しています。今回のニューアルバム『アンサンブル・プレイ』でも、カラーの異なる楽曲ばかりをそろえられたと思っています」

自信がみなぎり、「DJだったら誰にも負けない」と言い切る。しかし、そう言えるようになったのは19年、DJの世界大会で優勝してからだ。それ以前は心でそう思っていても決して口には出せなかった。というのも、クリーピーナッツの相方、ラッパーのR-指定さんが、ユニット結成当初、日本一を競うラップバトルで3連覇していたからだ。

片や松永さんは無冠。「若い時からDJのスキルを褒められることは多く、それが自分のアイデンティティーでもあったんです。でもRのように実力を証明する称号がなくて正直苦しかった」。そんな理想と現実のギャップに傷ついていた松永さんは、突き動かされるようにDJの日本一を目指した。だが、16年の大会は惜しくも2位。翌年も挑戦するが順位を落として3位。「もう最悪。どん底の気分でした」

そして、これを最後にしよう、そう決めて挑んだ19年大会。「前の2大会は、Rと比べられたくないという後ろ向きな挑戦でした。でもこの年は覚悟を持って臨みました」。そのかいあって見事優勝。更に、1カ月後の世界最大規模のDJ大会でも優勝し、名実ともに世界一となる。「特に日本一になれた瞬間、ああ呪いが解けたと思い、一気にラクになりました」

そんな時、松永さんの成果を自分のことのように跳びはねて喜ぶスタッフの姿に、松永さんは感動したという。「DJも作曲も自分のためだったのに、今はそれが誰かのためになっている。ヒップホップはアウトローなイメージだから、夢中になればなるほど社会から外れていくものだと思っていました。でも、自分が頑張っていたらRという相方ができ、支えてくれるスタッフができ、俺たちの音楽を愛してくれるファンもできて、気づいたら社会のど真ん中にいた。不思議な感慨がありますね」

22年の今年32歳。まだまだ道半ばであり、人生の答え合わせをするには早過ぎると語る。「前よりいい曲が作りたいし、DJが今日よりも明日うまくなっていたい」。自分を真っすぐ見つめるところに、松永さんののびしろがある。

ヒーローへの3つの質問

DJ・トラックメーカー/DJ松永さん

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

もしかして生きていなかったかも。子どもの頃は、自意識過剰でプライドが高いことと身の丈の間にギャップがありすぎてずっと苦しかった。でも中2でヒップホップが好きになり、高2でDJと出会い、夢中になった。その夢中が持続するギリギリの期間内で、自分で納得のできる実績を上げ、奇跡的に生き延びることができました。話が飛躍していると思うかもしれませんが、自意識が自分を物理的に殺してしまうことはあるんです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

子どもの頃から映画やドラマなどのエンタメに一切触れてこなかったし、本もまったく読みませんでした。そんな自分が今、エンタメの世界にいることは驚きです。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

DJ。これしかないです。自分一人だけだと今も360度見渡してどう見られているか気にしてしまうところがあるのですが、DJは唯一人に心の底から誇れるもので、自信を持って人前で披露してすごいだろうって言える。

Information

ニューアルバム「アンサンブル・プレイ」発売中!

テレビアニメ「よふかしのうた」のオープニングテーマ曲「堕天」をはじめ、映画『極主夫道 ザ・シネマ』の主題歌「2way nice guy」、音楽ユニット「YOASOBI」とタッグを組んだ楽曲「ばかまじめ」などを含んだニューアルバム「アンサンブル・プレイ」が、2022年9月7日にリリースされた。独自の進化を続けるヒップホップユニット「Creepy Nuts」の色彩豊かな傑作が誕生。「デビュー以来、毎年見える景色が変わり環境が移りゆく中で、自分たちの考え方、社会での立ち位置も変わってきて、そのつどその時に感じたことを歌詞にして歌い上げてきました。でもそれをずっと続けていると、身を削って作詞をしているR-指定が疲弊してしまう。そこで今回は“フィクション”をテーマにした楽曲でまとめました。といっても生身の人間が作るものなので、リアルな部分もあると思います。ただ、これまでとは制作の工程を変えたという意味で、俺たちにとっては転機となるアルバムになりました」。通常盤のほかラジオトーク付き、ライブBlu-ray付き、Tシャツ付きもある。なお、9月26日(月)の神奈川公演を皮切りに、Creepy Nuts自身最大規模の全国ワンマンツアーも予定されている。

アルバム「アンサンブル・プレイ」特設サイト:https://creepynuts.com/ensembleplay2022/

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/257/