俳優/珠城りょう | 憧れの人を目標に今すべき努力を考える

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優/珠城りょうさん

宝塚歌劇団で2016年から月組トップスターとして大きな期待と憧れを一身に背負って活躍。21年8月まで在籍し、その使命を完遂した珠城りょうさん。退団以降は俳優として歌手として、着実に新たな歩みを進めている。
でも退団直後は自分に何ができるのかが分からず、不安な日々を過ごしたという。そこからどうやって気持ちを立て直し今に至ったのか。宝塚時代のことも含め、話を伺った。

Profile

たまき・りょう/1988年愛知県生まれ。2008年に宝塚歌劇団入団、16年に月組トップスター就任。21年の退団以降は舞台やドラマ、音楽活動などで活躍。1月15日(日)から東京・池袋で公演予定の「PARCO PRODUCE 2023『マヌエラ』」の舞台に主演する。

感情豊かで包容力のある演技によって多くのファンの心をわしづかみにしてきた元宝塚歌劇団の月組トップスター。現在は舞台をはじめドラマやコンサートなどへ活躍の場を広げている珠城さん。1月15日(日)からは、東京・池袋の東京建物 Brillia HALLにて上演予定の「PARCO PRODUCE 2023『マヌエラ』」の舞台で主役を演じる。

第2次世界大戦直前の上海を舞台に、実在の日本人ダンサー・永末妙子(マヌエラ)の激動の半生を描いた作品。「以前からストレートプレイに興味があったので声を掛けていただきとてもうれしかったです。あの時代を生き抜いたマヌエラの強さと、内面に抱えていた葛藤や寂しさを大切にして演じたい。ダンスでは彼女の魂の叫びをしっかり表現できたらと思っています」

初めて宝塚歌劇団の舞台を見たのは中学2年の時。華やかできらびやかな世界に魅了され、宝塚音楽学校を受験する。「クラシックバレエは習っていたのですが、歌はそこから声楽の先生について学び、当の入試は2回落ちて3回目に何とか合格できました」

入学1年目は宝塚の舞台に立つために必要なことを学んだ。「日本舞踊、タップダンス、ジャズダンス。そして演劇や三味線などいずれも初めてのことばかり。勉強することが多過ぎてついていくのに必死でした」。それが、本科生に進級したタイミングで一つ上の先輩たちの初舞台を見て、大きな決意が生まれる。

俳優/珠城りょうさん

「たった1年の違いで舞台に立つことができている先輩たちを仰ぎ見ながら、自分は1年後にどうなっていたいのか、どこを目標にして取り組んでいこうかと真剣に考えました。そもそも幼い頃からダンスやピアノを習っている経験豊富な同期生も多かったので、彼女たちとの実力の差を縮めるためにも、本科生の1年で学習する科目全てでいい結果が出せるよう死に物狂いで頑張ろうと決めたんです」

歌劇団に入団後は月組に配属され、向上心は更に加速。憧れの先輩を目標に、どうしたらこの人みたいになれるか、自分との違いは何かと日々考え、人の倍以上の努力を続けた。

そのかいあってか、新人公演初主演を入団3年目にして務め、その後も大役への抜擢(ばってき)が相次ぐ。16年には月組トップスターに、入団9年目というスピード出世で就任。重責と周囲からの期待を一身に背負いながら、一つひとつの作品に真摯(しんし)に向き合い、輝かしい実績を着実に築いていった。

「トップは想像以上に過酷でしたが、同時にすごく貴重な楽しい経験をさせていただきました」。そして団に別れを告げたのが21年8月。新たな道へと歩み出すことにした。

失敗したとしても、一歩踏み出したことは誇り

俳優/珠城りょうさん

宝塚歌劇団月組トップスターの座を卒業して約1年5カ月。その間にドラマ初出演やCDデビューを果たして話題を呼んでいる珠城さん。23年1月は主演舞台「マヌエラ」に臨む予定だ。「退団してすぐこんなに色々な仕事をさせていただけるとは思っていなかったので、私が一番驚いています」と声を弾ませる。

実は、退団直後は何も決まっていなかったそうだ。「表現する仕事がしたいという気持ちはあったものの、私には宝塚での経験しかありません。歌も踊りも芝居もすべて男役としてのもの。そのため自分に一体何ができるのかが分からなかった。不安しかなかったです」

そんな途方に暮れている状況から脱することができたのは、現在所属する芸能事務所との出会いがあったからだ。「事務所の方々が私の気持ちを常に引っ張り上げ、前向きにしてくれるんです。『何ができるのか分からないということは、何だってできるということだよ』と。一気に視界が広がって、希望を持って日々を過ごせるようになりました」

最近は新たな仕事をする度に意外な自分を発見したり、更なる可能性を感じたりすることも多く、楽しくてたまらないという。「男役ではかなり計算した役作りをしてきたので、より自然な演技が求められるドラマの現場は最初不安でした。でも、現場の空気に触れていたら感情が動き、計算しない演技ができたんです。そんな自分が新鮮でした」

昨秋行ったコンサートでは、人生で初めて「私の歌声ってまだ伸びるかもしれない」と感じる瞬間があったそうだ。「ずっとボイストレーニングを続けていたのですが、なかなか納得のいく結果が得られず、継続は力なりなんて歌に関してはうそだと思っていたんです。でもそれは本当のことだったんだと実感しました」

宝塚時代は真面目な人と言われることが多かったという。責任感が強過ぎるあまり、自身を犠牲にしてでも最後までやり抜かなければならないと思いがちだった。しかし、この1年ちょっとの間にさまざまな現場を経験したことで、自分の幸せや喜びを優先してもいいんだと思うようになった。

「それと、たまには失敗してもいいかなって。実際やってみてうまくいかなかったとしても、何がよくなかったのかが分かるわけだから。それよりも一歩踏み出したことが大事で、それを誇りにしていいんだとポジティブに捉えられるようになりました」

今後は、映像作品や舞台はもちろんナレーションにも挑戦したいと語る珠城さん。まだまだ色んな「顔」を見せてくれそうだ。

ヒーローへの3つの質問

俳優/珠城りょうさん

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

子どもの頃からスポーツを色々やってきたのと、人に教えたりすることも好きなので、スポーツの指導者かインストラクターでしょうか。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

小学生の時に読んだ小説『耳をすませば』(柊あおい原作、田中雅美著)です。それまではアニメや漫画が好きだったのですが、この本に出会ってからは小説をたくさん読むようになりました。自分で小説をちょっと書いたりしたこともあります。私にとっては大きな変化でした。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

日本酒の香りって、よりリラックスできていいんです。お風呂の時、お湯にほんの少し入れるだけなのですが、心身共にリフレッシュできるので、舞台の初日前日などは自分の体を清める意味も込めて粗塩&日本酒入りの湯船につかるようにしています。

Information

舞台「マヌエラ」に出演!

珠城りょうさんが宝塚歌劇団退団後に初主演する舞台「PARCO PRODUCE 2023『マヌエラ』」が、2023年1月15日(日)~23日(月)に東京・池袋の東京建物 Brillia HALLにて公演予定だ。第2次世界大戦直前、「上海の薔薇(ばら)」と呼ばれた実在の日本人ダンサーの、愛と激動の人生を音楽×ダンス×芝居で描いた作品。上海で生きていくためダンスホールの踊り子となった永末妙子は、かつてムーラン・ルージュのスターであったパスコラに見いだされ、国籍不明の美貌(びぼう)の一流スターダンサー・マヌエラとなる。一方この上海では、日本海軍士官・和田や追われる青年チェン、怪しい貿易商・村岡などマヌエラを取り巻く人々も、時代の波の中でうごめきながらそれぞれに生きていた――。1999年にPARCO劇場にて上演されたストレートプレイ「マヌエラ」の24年ぶりの上演。脚本は前回も担当した鎌田敏夫さんが加筆し、演出は俳優としても活躍する千葉哲也さんが担う。激動の時代を生き抜いたマヌエラを演じる珠城さん。「あの時代の上海で多国籍の人々がいかに生きたか、その大変さが描かれています。切なくて胸が苦しくなるようなシーンもありますが、決して難しい内容ではありません。今を生きる人たちすべてに優しく響くメッセージが込められていますし、何かしら感じていただけるものがあると思うのでぜひ見にいらしてください」

出演:珠城りょう、渡辺大、パックン(パックンマックン)、宮崎秋人、千葉哲也、宮川浩ほか
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/manuela/
※大阪、福岡公演も予定。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/261/