元宝塚歌劇団娘役/早花まこ | 悔しさはエネルギーに転換して新たな挑戦を

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

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飾らない性格で周囲を明るくしてくれる早花まこさん。宝塚歌劇団に2002年から20年までの18年間在籍し、雪組の娘役として活躍した。退団後は演劇の好きな人たちや俳優たちと詩の朗読会をしたり、ラジオのパーソナリティーを務めたり。
そして初めての著書では、9人の元タカラジェンヌに取材し、鋭い洞察力で彼女たちのセカンドキャリアを考察している。今回はその本にまつわる話や自身の宝塚時代について、思いを語っていただいた。

Profile

さはな・まこ/東京都出身。2002年に宝塚歌劇団へ入団し、20年の退団まで雪組の娘役として活躍。劇団の機関誌『歌劇』で連載コーナーの執筆を8年にわたって務める。3月に初めての著書『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)を刊行。

宝塚歌劇団の雪組で娘役として活躍し、2020年に退団した早花さん。23年3月、初の著書『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』を刊行した。新潮社のウェブマガジン「考える人」で連載していたものをまとめた本で、早花さんが元タカラジェンヌ9人にインタビューしたノンフィクションだ。

登場するのは早霧せいなさん、仙名彩世さん、香綾しずるさん、鳳真由さん、風馬翔さん、美城れんさん、煌月爽矢(現・中原由貴)さん、夢乃聖夏さん、咲妃みゆさん。退団後それぞれに自分らしい道を突き進んでいる9人に、舞台に懸けていたかつての思いや、感じていた喜び、葛藤、そして現在の挑戦などを真摯(しんし)に語ってもらっている。同じ時代を共に切磋琢磨(せっさたくま)した早花さんだからこそ聞き出せた貴重なエピソードが満載である。

執筆したきっかけは早花さん自身の退団だった。「宝塚歌劇団に入るには、宝塚音楽学校への入学以外方法がないのでそのための努力をすれば良かったし、在籍中は稽古や公演に日々追われていた。だから宝塚以外のことに触れずに過ごしてきたので、いざ卒業しようと決めた時は、その先の人生をどう歩めばいいのかまったく想像できず不安でした。そこで、退団された先輩たちに話を聞くことにしたんです」

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その際、勇気づけられるアドバイスをたくさんもらい、もっとさまざまな生き方をしている先輩たちにも話を聞きたくなった。その願いを実現できたのが「考える人」の連載だった。

インタビューは1人に約3時間かけた。順風満帆と思っていた先輩が実際はいつももがき苦しんで舞台に立ち続けていたことや、はたから見たらうらやましく思える長所が実はその人にとってコンプレックスだったなど、予想とは違った話が毎回飛び出した。「宝塚はちょっと特殊な世界ですが、9人の方々は決して特殊ではなかった。みんな入団当初に厳しい叱咤(しった)を受け、自分には無理だと思いながらも諦めずに夢へ向かって地道に努力していました。だから成果を出せたんですね」

卒業後の選択は千差万別だけれど、全員、どんなにつらく悔しいことがあっても、人のせいなどにはせず、先に進むためのエネルギーに変えていた。「そこが素晴らしいなって。私は娘役で未熟ながらも18年間、全力投球で頑張ってきたので、退団後の人生は余生だと捉えていました。でも、自分らしく人生を切り開きながら突き進む先輩たちがこんなにもいる。私も立ち止まっている場合じゃないなと感じました。今は前へ進むことだけを考えています」

苦手な人でもその一言が案外、大きなヒントに

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宝塚歌劇団では「きゃびい」の愛称で親しまれていた早花さん。祖母と母が宝塚ファンで、幼い頃からよく観劇していたという。そして小学6年の時、涼風真世さんがオスカルを演じた「ベルサイユのばら」を見て衝撃を受け、宝塚に入ることを決意する。宝塚音楽学校は15歳から入学できるが、普通の高校生活も謳歌(おうか)したいと高校3年の時に受験。無事一発合格でき、88期生として入学した。

音楽学校では2年間で礼儀作法やダンス、演技など舞台に必要な技術を身に付けるのだが、これが想像以上に厳しかった。「音を上げそうになりましたが、家族の大きな協力があって入学した手前、弱音は吐けなかった(笑)。これを乗り切ったら憧れの舞台に立てるんだと自分に言い聞かせ、頑張りました」

初舞台は星組の「プラハの春」「LUCKY STAR!」だった。「団員として初めての『仕事』です。新人だからといって、私の笑顔が曇っていたら公演全体に傷がつきます。舞台に立つ責任の重大さを痛感しました」

そして雪組に配属され、20年の退団まで娘役として数々の公演に出演する。「雪組は『るろうに剣心』など和物が得意。それで2、3カ月は和物をやって、その後いきなりフランスが舞台の公演、次は現代アメリカといった具合に取り組む作品のテイストが毎回違うので、勉強することも多く、でもそれが楽しかった。挑んで挑んでの日々でした」。早花さん自身、芝居を繊細に作り込むのが好きで、雪組は同じタイプの人が多く居心地も良かったという。

やがて、早花さんは18年ごろから退団を考え始める。「30代半ばになり、そろそろ自分で区切りをつけようと思って」。文章を書くのが好きな早花さんは、歌劇団の機関誌『歌劇』で8年間執筆も経験。そのことも含めて、宝塚では好きなことをさせてもらったと振り返る。「そもそも不器用なので、求めに対応できないことも多かった。でも『宝塚が好き』という原動力があったから続けることができました」

そんななかで、何よりも大きかったのが人との出会いだという。元タカラジェンヌ9人にインタビューした著書『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』に登場してくれた先輩たちのように、前向きな気持ちにさせてくれる人がたくさんいた。「例えば苦手と感じる人との出会いも、私は大切にしました。そういう人の一言が案外、大きなヒントになったりするんです」

今後は、更に文章を書く仕事を増やし、演劇に関わることもしていきたいという。夢は膨らむばかりだ。

ヒーローへの3つの質問

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Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

文章を書くのが好きで、小中高校とずっと物語を作ったりしていたので、腕を磨いて磨いて小説家になりたかったです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

漫画『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)です。宝塚を卒業してから読みました。生きていくうえで忘れたくないこと、大切にしたいことがすべて詰まっています。読んだ後、「私は私に与えられたことを一生懸命やろう」という気持ちになります。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

“勝負オムライス”です。宝塚時代、東京公演の初日や千秋楽の朝食では必ず、ケチャップで「おめでとう」などとメッセージを添えて母が作ってくれました。ところが卒業公演の千秋楽の時だけは食べられませんでした。その日は早めに劇場に入る都合があって、前夜からホテル泊だったからです。でも、18年間続けてきたことなのでどうしても食べたくて、前日、母に「ホテルに持っていけるようにオムライスを作って」と頼みましたが、何と「面倒くさい」と一蹴されてしまいました(笑)。

Information

著書『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』発売!

早花まこさんの初めての著書『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社/1,650円〈税込み〉)が2023年3月1日に発売された。ウェブサイト「考える人」で連載されていた時から大きな反響のあったノンフィクションだ。早霧せいなさん、仙名彩世さん、香綾しずるさん、鳳真由さん、風馬翔さん、美城れんさん、煌月爽矢(現・中原由貴)さん、夢乃聖夏さん、咲妃みゆさんという、宝塚歌劇団のトップスターから専科生まで計9人の元タカラジェンヌを徹底取材。現役当時の喜びや葛藤、そして卒業後の仕事や生き方について、同じ時代を駆け抜けてきた早花さんがインタビューして書き上げた。「さまざまな経験や紆余(うよ)曲折を経て、自分と向き合い、新たな道を歩き始めた方々が登場します。彼女たちの生き様は宝塚が好きな方だけでなく、今から何かを始めようとしている方、すでに頑張っている方の心にも響くはず。この本は前に進もうという気持ちにしてくれる一冊だと思うので、ぜひ手に取って読んでいただけるとうれしいです」

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/265/