俳優/加藤諒 | 仕事をつかみ取るため、怖いけど一歩踏み出した

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優/加藤諒

バラエティー番組で人気に火が付いたこともあり、今でも「お笑い芸人さん?」と言われることが多いという加藤諒さん。だが、紛れもなく実績と実力を兼ね備えた俳優だ。
10歳でデビューしながらもインパクトのあるビジュアルが裏目に出て、なかなか仕事が得られずに辛酸をなめた時期もあったという。
そこをどうやって乗り越え、第一線で活躍する俳優になっていったのか。その軌跡を伺った。

Profile

かとう・りょう/1990年静岡県生まれ。多摩美術大学の映像演劇学科卒業。2000年にテレビ番組「あっぱれさんま大先生」でデビュー。PARCO劇場にて23年6月25日(日)まで上演中の舞台「新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~」に出演中。

たしかな演技力と唯一無二の存在感で多くの人から愛されている俳優の加藤さん。現在は2023年6月6日から上演中の舞台「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』」に出演している。太宰がシェイクスピアの名作を語り直した戯曲形式の小説が元で、「設定は『ハムレット』と同じですが登場人物たちの人間臭さに味わいのある作品です。ユーモアもたっぷりあって笑って楽しんでいただけると思います」と語る。

5歳から地元静岡のダンススクールへ通い、10歳の時にテレビのバラエティー番組「あっぱれさんま大先生」で芸能界デビューした。当時はお笑い芸人に憧れていたが、中学生になって映画『HINOKIO』に出演したのを機に俳優を志す。「地元の映画館で上映されたのがうれしくって、映画っていいな、ずっと芝居していたいなって思ったんです」

早速、舞台や映画などのオーディションを受け始めるが、「主役より顔が目立つ」と落とされてばかり。高校卒業が近くなった頃には、両親から「俳優は諦めて地元の大学へ進学して手に職を付けたら」と言われてしまう。「でも諦めきれなかったので『映像演劇学科のある多摩美術大学に落ちたらそうする。だから、その代わり受かったら東京で俳優を目指すのを許してほしい』と約束を交わし、無事合格できたので上京しました」

俳優/加藤諒

大学に入ってからも仕事はほとんどなかった。しかし在学中は学業が充実していたので焦りはなく、きつかったのは卒業後。「何もしないまま時間だけが過ぎていくんです。たまに舞台などに出演できても、同世代の共演者たちは稽古の合間に次の作品の台本を読んだりしているけど僕は何もない。つらい状況が続き、精神的にもかなり追い込まれました」

そんな停滞感を打ち破ったのが、事務所の社長からの「自分でも動きなさい」という一言。加えてマネジャーからも背中を押された。「チャンスの神さまは前髪しかない」、つまりタイミングを逃さずチャンスを捉えろと。「僕をよく知る2人に言われ、ようやく自分で仕事をつかみにいかなければという気持ちになりました」

演劇のワークショップに参加したり、以前、作品に出演させてもらった監督に相談しに行ったり。それですぐに仕事が得られたわけではないが、自ら進んで行動に出たことが突破口となり、徐々にドラマやバラエティー番組への出演オファーが入り始める。「小さな一歩でしたが、僕はその一歩が正直怖かった。でもいざ踏み出したら、そこには思いのほか楽しい世界が広がっていました」

もらった助言は心に刻み、実践を心掛ける

俳優/加藤諒

15年にバラエティー番組で得意のキレキレなダンスを披露したのをきっかけにブレークし、一気にお茶の間の人気者になった加藤さん。だが本業はあくまで俳優だ。ドラマや映画、舞台で着実に実績を重ねている。

そんな加藤さんが心底芝居の面白さを実感したのは、18年公開の映画『ギャングース』(入江悠監督)に出演した時だったという。「それまでの僕は、舞台『パタリロ!』のようにポップでコメディー要素の強い作品に出ることが多かったのですが、『ギャングース』はシリアスな社会派作品。その撮影時、実際には経験がないことなのに、その物語の世界に入り込んで自分がリアルに体験していると感じる瞬間があったんです。そんな感覚は初めてでした」

加藤さんのこの芝居を入江監督も絶賛してくれた。「実はそこまで体感できたのは、先輩俳優の成河さんのおかげです。役に関わることをちゃんと調べておくことが大切だと言われ、それを実行して撮影現場に臨んだので」。人からのアドバイスは自身の糧になると、加藤さんは褒め言葉よりも、先輩や演出家などからもらったアドバイス一つひとつを心に刻み、実践することを心掛けている。

23年にPARCO劇場で出演中の舞台「新ハムレット」でもそうだ。演出家の五戸真理枝さんからもらった言葉が常に頭にある。「役を演じるのではなく、その場で起きていることを受け止めながら演じてほしいと言われたので、それを意識して舞台に立っています」

芸歴は今年(23年)で23年と長いが、心底、仕事が楽しいと思えるようになったのは最近だと話す。「たくさんの作品に携わらせてもらいましたが、いまだに自信が持てないんです。ユーモアだけでなく、説得力のある演技ができるよう、もっと自分に磨きを掛けていかなければと思って努力しています」

謙虚に頑張る姿勢のその訳は、純粋に楽しいから。「実は学生時代、アルバイトをしようとしたんですが10カ所立て続けに落ちたことがあって、その時、僕にはエンターテインメントの世界以外に道はないんだなって(笑)。それと、たまにですが、自分の芝居が誰かのためになっているかもしれないと感じる瞬間があるんです。それも大きいかもしれません」

現場では「一緒に仕事ができて良かった」とスタッフや共演者に思ってもらえるよう「円満」を心に留めている。見てくれる人たちからは「加藤諒が出ている作品だったら絶対面白い」「加藤諒が出ているんだったらぜひ見たい」などと思ってもらえるような俳優を目指す。そのためにもまだまだ奮闘は続く。

ヒーローへの3つの質問

俳優/加藤諒

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

保育士です。高校を卒業して多摩美術大学に合格できなかったら保育士になると両親と約束していたので。僕自身、子どもが大好き。出演中のNHK・Eテレの子ども番組「で~きた」だけでなく、2023年3月放送のNHKの特集ドラマ「幸運なひと」に保育士役で出演した時も、子どもたちがなついてくれてすごくうれしかったです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

『ハリー・ポッター』シリーズです。子どもの頃の僕は、絵本は好きでしたが本はあまり読みませんでした。でも小学校6年の時に『ハリー・ポッターと賢者の石』を読んで、あまりに面白くて見事にハマり、全7巻を読み切りました。それ以降、本を読むのが好きになりました。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

舞台に出演している期間中、楽屋にある化粧鏡の前に自分の好きなものをたくさん並べています。最近はガチャ(カプセルトイ)が好きなのでゲットしたグッズの数々がズラリ! 並べておくだけでテンションが上がるんです。

Information

舞台「新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~」に出演中!

シェイクスピアの四大悲劇の一つ「ハムレット」を、設定はそのまま生かしつつ、太宰治が自らのレンズを通して大胆に書き下ろした戯曲スタイルの長編小説『新ハムレット』。その舞台作品が上演されている。タイトルは「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』」で、日程・会場は2023年6月6日(火)~25日(日)、東京・渋谷のPARCO劇場にて。ハムレットや彼を取り巻く人物たちがこじらせる悩みや関係性がとても身近に感じられる物語だ。上演台本と演出を手掛けたのは、23年2月に第30回読売演劇大賞の最優秀演出家賞を受賞したばかりの五戸真理枝さん。出演は悩めるハムレット役を木村達成さん、ハムレットを慕うオフヰリヤ役を島崎遥香さん、ハムレットの学友ホレーショー役を加藤諒さん、そして駒井健介さん、池田成志さん、松下由樹さん、平田満さん。「『ハムレット』と聞くと敷居が高いというイメージを持たれる方もいるかと思いますが、太宰が書き下ろした『新ハムレット』はある家族の痴話げんかをのぞき見するような感じで、親近感を持って楽しんでもらえます。お時間があれば、ぜひPARCO劇場へ足をお運びください」と加藤さん。

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/shin-hamlet

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/268/