夢みた仕事でなくても(後編) | ジェーン・スー×和田明日香

ジェーン・スー×和田明日香(後編)

仕事の醍醐味(だいごみ)は職種が変わっても同じ

スー:実は私、ラジオパーソナリティーの話をいただいた時どうやればいいか分かりませんでした。でも今はむしろ向いているのかもって思います。しゃべりの上手(うま)い下手よりも、パーソナリティーの背景や経験、価値観などが問われる職種です。私の場合、会社員経験があるのでリスナーに共感してもらえている気がします。

和田:ラジオはもちろん、本や雑誌のコラムでもスーさんの言葉は心に刺さることが多いです。

スー:うれしいです。私は文章もしゃべりも決して上手くありません。あくまでも私が発信する内容に共感してくださっていると思うので、ラジオもコラムや本の仕事もどこまで自分に正直にやるかということは心掛けていますね。

和田:うそがないから私たちに響くんでしょうね。そんなスーさんが現在のお仕事に感じている醍醐味は?

和田明日香さん

スー:会社員時代と同じです。目の前のことを真面目にコツコツやって、手応えがあった瞬間に幸せを感じます。何をやっても長続きしないけど、仕事だけはどんな職種でも集中できるし、執着できる。たぶん仕事が好きなんだと思います。職種が変わってもやり方は変わらない。目の前のことをきちんとやるだけです。

和田:なるほど。私は自ら目指した職業ではないのですが、やはり目の前で求められているものを自分なりの一生懸命さで続けてきたことで、何もなかった自分という人間の形がだんだんでき上がっていった気がします。

スー:私は昔、経費の計算とか普通のことが全然できなくてコンプレックスだったんです。でも会社の同僚に「できないことはできる人に任せたらいい。あなたはあなたにしかできないことをやりなさい」と言われて随分ラクになりました。和田さんには生まれ持っての明るさというか華があるので、表舞台が合っていると思う。もし就活で就職が決まっていたレコード会社に新卒入社していたら、裏方として楽しく働けても和田さん本来の資質は生かしきれなかったかも。だから自分にしかできないことがあると信じて料理家の仕事を続けてほしいです。

和田:スーさんにそう言われると力が湧いてきます。これからも自分なりに頑張りたいと思います。

ジェーン・スーさん

夢があるから偉いというわけではない

スー:ラジオパーソナリティーや雑誌連載の仕事をやっていて、最近いただく悩み相談で多いのが「ここにいると成長できない」「目標が見つからない」といった内容です。成長、目標は会社が評価軸にしやすいからだと思うのですが、私は目標なんてなくていいし、その悩む時間ももったいないと思ってしまう。何より、夢があることが偉いことでも何でもないし。

和田:そのとおりですね。私の場合「仕事と子育ての両立は?」と聞かれることが多いのですが、両立ではなくて「両輪」だと思っています。子育ての時間は充実してるけどそれだけだと息が詰まる。でも仕事ばかりになるとギスギスしてしまうし、家族への申し訳なさでパフォーマンスが落ちたりする。仕事と子育ての両輪があるから私は前に進めているんです。

スー:なるほど、いいですね。

和田:以前、スーさんの雑誌コラムに「手放したらマズイと感じるものこそが、その人をその人たらしめている」とあって、私が手放せないのは子どもだなと思いました。ただ同時に「自分にとって大切なものは何だろう?」と自問し続けることが大事な気もしたんですね。

和田明日香さん

スー:自分にとって大切なものが分からなくても、誰かにアウトソーシングして心がザワザワするものとしないものが絶対にあるはず。そこを見極めれば人生において譲れないものがつかめると思う。

和田:譲れないものは社会的評価のあることじゃなくても全然いいんですよね。

スー:もちろん。趣味や「推し活」でも!

和田:思えば、私は目の前に差し出されたものに乗っかり、コロコロ転がるように進んできた。そのおかげで「料理」という、自分を発信できるものが見つかったので後悔はないんです。ただ「何がしたいんですか?」と聞かれると、ずっと受け身の自分が情けなくなることもあって。

スー:正直に「ない」って言っちゃえば。

和田:つい「なくてすみません」という気持ちになってしまって(笑)。

スー:実は今月(23年3月)、女性13人のインタビュー集『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』が出るんです。彼女たちの生き方は和田さんに通じるものがあり、あらためて、人生を充実させる方法は目の前のことを一生懸命やることだなと実感しました。

和田:私もぜひ、読ませていただきます!

ジェーン・スーさん×和田明日香さん

<前編はこちらから!>
meetscareer.tenshoku.mynavi.jp

リーダーが語る、アシタを開く言葉

スーさん
「愛こそすべて」
ラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」で毎年元旦に書き初めをするのが恒例なんです。2022年に「愛こそすべて」と書き、そのとおりに日々を過ごしたらとても良い1年になったので、23年もこの言葉を書きました。

和田さん
「今、目の前にあることを幸せだって思えるのが一番幸せなことだよ」
大学卒業間近、社会人として会社へ就職しようとしていた矢先に私の妊娠が分かり、就職を断念しました。その時に父が言ってくれた言葉で、今でも事あるごとに思い出します。ずっと宝物にしています。

Profile

ジェーン・スー/コラムニスト、ラジオパーソナリティー、作詞家。1973年東京都生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、TBSポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」「となりの雑談」を担当。著書に講談社エッセイ賞受賞作『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)など多数。最新刊『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)が2023年3月24日(金)に発売予定。

和田明日香/料理家、食育インストラクター。1987年東京都生まれ。3児の母。料理愛好家の平野レミさんの次男と結婚後、修業を重ねながら料理家として活躍の場を広げ、テレビや雑誌でオリジナルレシピを紹介するようになる。現在はバラエティー番組「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日系)などに出演。レシピ本『10年かかって地味ごはん。』(主婦の友社)がヒットし、2023年3月3日(金)に第2弾となる『楽ありゃ苦もある地味ごはん。』が発売。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/kibou/020_2/