【CASE04】エンジニア(ハードウェア系) × 宇宙商社

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「宇宙の仕事」と聞くと、一部の専門家たちだけを対象とした”特別な仕事”と思ってしまいがちですが、実態はその真逆。特別な経験や知識がなくとも携われる仕事がたくさんある業界なのです。

そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第4回。宇宙の産業化を推進する『宇宙商社』におけるエンジニアの仕事について、Space BDの秋山 恭一さんにお話を伺いました。

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Space BD 秋山 恭一さん


【イントロダクション】Space BDのビジネスとは?

昨今、宇宙に進出し、自らの事業のために活用しようと考える企業や研究機関が急増しています。しかし、宇宙空間と地球上とは環境が大きく異なるため、人工衛星や探査機、国際宇宙ステーション(ISS)での実験機といった、さまざまな機器類を宇宙に送り出すためには、越えなければならない多くのハードルが存在します。

たとえば人工衛星の表面温度は、太陽光が当たる側で120°C、影になる側でマイナス150°Cにもなります。そのほか、宇宙線と呼ばれる高エネルギーを持って飛び交っている粒子やロケット打上げ時の振動などについても事前に十分な考慮が必要です。このような過酷な環境下で期待どおりの性能を発揮できるかどうか、あらかじめ地上で検証しておかなければなりません。また、ロケットの打上げや衛星の搭載、ISSでの実験を実施するにあたっても、さまざまな申請や事務手続きが必要となります。

このように、専門的な知見やノウハウの蓄積が少ない企業や研究機関にとって宇宙環境の活用はさまざまな困難が伴いますが、その頼れるパートナーとして注目を集めているのがSpace BDです。技術調整から打ち上げ実現、運用支援までをトータルにサポートすることで、顧客の宇宙環境の活用実現を後押しています。

とは言え、同社が直接試験を行ったり、実際にロケットを打ち上げたりするわけではありません。そうした設備を持つ企業や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など専門機関との間をつなぎ、機器の調達や開発・打上げ・運用など、宇宙活用に関するあらゆるシーンでアドバイスとサービスを提供する商社的存在――Space BDは宇宙の産業化を推し進める『宇宙商社』なのです。

その目指すところは、日本の宇宙ビジネスを「世界を代表する産業に発展させる」こと。これまで、JAXAによる初の民間開放案件である『国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟からの衛星放出事業』の事業者に選定されたことを皮切りに、JAXAとのパートナーシップや海外の打上げ手段の調達を通じて多岐にわたる打上げオプションを構築し、宇宙の新たな利活用を創出する事業を展開してきました。また、人工衛星の打上げのみに留まらず、ライフサイエンス分野の支援、地方自治体の地域活性支援、企業ブランディングやマーケティング、教育プログラムなど、宇宙を題材にした多様なプロジェクトを推進しています。

2022年8月時点で、衛星取扱い約50件を含め100件以上の実績を重ねており、衛星打上げサービスや宇宙利用サービスのリーディングカンパニーとして大きな存在感を放っています。

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どんな仕事なのか教えてください

私が主に担当しているのは、ユーザーインテグレーションという、宇宙環境利用に必要な事前の技術調整業務。お客様が宇宙に送り出す機器の設計・開発から打ち上げ、運用まで多種多様なサポートをご提供しています。

現在、複数のプロジェクトに関わっているのですが、あるプロジェクトでは、お客様がISSに持ち込もうとされている実験機器の地上における解析評価や試験のご支援を行っています。機器がロケット打ち上げ時の振動で壊れてしまったり、機器に搭載されているバッテリーが不具合を起こしてISS内で破裂してしまったりするようなことがあっては一大事。そのため、事前に地上で十分な解析や試験を行い、その結果を報告書にまとめて、JAXAによる安全審査を受ける必要があるのです。その過程でJAXAと継続的なやりとりが発生します。

お客様が、この試験や審査を独力だけでクリアするためには多くの困難に直面することが考えられます。そこで、私がさまざまなアドバイスをし、時には一部業務を代行するなどして、プロジェクト全体をリードしていきます。JAXAや試験設備を持つ企業・研究機関のご紹介、各種手続きのご案内、試験計画の立案と試験実施のご支援、報告書の作成、スケジュールのマネジメントなども行います。そのほかにも、審査文書や試験委託先が作成した文書などの確認、プロジェクトスケジュールの成立を目的とした各種タスクの優先順位再検討などにも関与します。

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この仕事のやりがい・面白さは

お客様と一緒にプロダクトやサービスを上流工程で企画するところから、間接的ではありますが、人工衛星やISSでの各種の実験装置、さらには探査機など宇宙に関するさまざまな機器の開発に携われるのが、この仕事の面白い部分です。

私も実際に、探査機を使って月の水を探査する『TSUKIMI』という産官学連携プロジェクトや、ISSの『i-SEEP (「きぼう」日本実験棟に設置されている中型曝露実験アダプタ)』で技術実証を行う通信装置のプロジェクトにも携わっています。

そのほか、教育関連プログラムの一環で高校生が衛星開発を通して宇宙にチャレンジするプロジェクトや、大学・研究機関のプロジェクト、さらにはクラウドファンディングで人工衛星を打ち上げようとしている有志団体のプロジェクトにも参画しています。プロジェクトごとにその目的も扱う機器もさまざまですが、宇宙に進出しようというプレイヤーも多彩で、そうした方々と関われることも日々大きな刺激となっています。

一つのプロジェクトで、スタートから打上げまでに要する期間はおおよそ2年。私は2021年に入社しましたが、進行中のプロジェクトには立ち上げ時から携わっているものがいくつかあり、それらが2023年春以降に打上げを迎える予定です。お客様と一緒に祝杯を挙げる日を今から楽しみにしています。

この仕事の難しさ・大変な部分は

解析・試験項目は大きく設計段階と製造段階の2段階に分かれていて、それぞれ約10種類の報告書を作成し提出する必要があります。それだけの解析・試験を期限までに終わらせて報告書にまとめなければなりません。試験用の設備も、いつでも使えるわけではありませんから、試験計画やスケジュールもしっかりと管理する必要があります。一つクリアしたと思ったらすぐに次の壁が立ちはだかってというように、気の抜けない時間が続きます。

また、書類の不備やスケジュールの遅れが原因で、打上げに間に合わないような事態になったら、お客様に対して大きなご迷惑をお掛けすることになります。そうしたプレッシャーは常につきまといます。

お客様のアクションを受動的にただ待っているだけでは、プロジェクト全体の進捗が気づかぬうちに遅延していたという事態に陥りがちです。自らが積極的にイニシアティブを取り、プロジェクトをリードしていく姿勢が重要になってきます。「伝書鳩にならないように」というのが、かつて上司から受けたアドバイス。そのマインドは、プロジェクトを成功させるために欠かせないものだと感じています。

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この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル

宇宙や人工衛星等の機器に関する専門知識は、あるに越したことはありませんが、入社時点ではそれほど重要ではありません。それよりも、リーダーシップを発揮できる人、段取りや手配を計画的に行える人のほうが活躍できるのではないでしょうか。お客様としっかりとコミュニケーションをとり、自分の意見を積極的に発言していくという意識が大切だと思います。

また、地上試験の項目は多岐にわたっているため、材料や構造、熱力学、運動力学、電気・電子工学、電磁波、通信など、持っていれば役に立つ知見はたくさんあります。さらに、宇宙環境活用の可能性は今後ますます広がっていくことが予想されますので、「宇宙とは関係ない」と思っていた自分の知見が大きな強みになる可能性も秘められています。何か一つでも得意分野・専門分野があれば、そこを起点にして活躍することは十分に可能と考えています。

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【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】

●私が宇宙を仕事にした理由
大学ではバイオロボティクスを専攻し、蛇型ロボットの研究・製作に打ち込みました。でも、「いつかは宇宙に携わりたい」という思いが、ずっと心の奥にありました。その後、大手航空会社へ新卒で入社し、航空機整備の仕事に携わりましたが、やはり宇宙への強い思いを大事にしたいと考え、Space BDに転職したという経緯です。

「ロケットを作りたい」、「人工衛星のプロになりたい」といった形ではなく様々な物や人が宇宙とつながっていくプロセスそのものに関わってみたいという志向を持っていた私にとって、Space BDの目指す姿は「まさに!」という感じ。当事者意識を持って手を挙げれば存分にチャレンジさせてもらえる文化があるので、その点も魅力に感じています。

●読者へのメッセージ
宇宙産業には、まだ決まりきった“答え”というものが存在していません。また、まさに今この時も、世界中のプレイヤーがグローバルに多種多様な可能性を探りながら、めまぐるしく変化しています。だからこそ、今チャレンジする価値があると考えています。

自分が「やりたい」と思った時がスタートのタイミングです。到来しつつある「宇宙の時代」に想いを馳せ、ぜひ一緒にチャレンジしていきましょう!