【CASE10】生産技術 × 人工衛星の開発・製造

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「宇宙の仕事」と聞くと、一部の専門家たちだけを対象とした”特別な仕事”と思ってしまいがちですが、実態はその真逆。特別な経験や知識がなくとも携われる仕事がたくさんある業界なのです。

そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第10回。人工衛星の開発・製造における生産技術の仕事について、Synspective(シンスペクティブ)の小野木 佑さんにお話を伺いました。

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Synspective/小野木 佑さん


【イントロダクション】Synspective(シンスペクティブ)のビジネスとは?

内閣府が『宇宙産業ビジョン2030』を発表したのは2017年5月のこと。2030年代に宇宙産業の市場規模を現在の2倍の2.4兆円を目指すとした、意欲的なものでした。その中で重要テーマとしてクローズアップされたのが、民間での宇宙利用の拡大であり、その対応策のひとつとして衛星データの利活用促進が挙げられたのです。

こうした状況をとらえ、2018年2月に設立されたのがSynspectiveです。同社に対する期待は資金調達にも表れ、設立から1年5ヶ月で100億円を超える資金の調達に成功。今日では、小型SAR(合成開口レーダー、Synthetic Aperture Radar)衛星の開発・運用から衛星データの提供、さらには衛星データを活用したソリューションサービスまで一気通貫の宇宙ビジネスを展開する、世界でも数少ない企業になっています。

ちなみにSAR衛星とは、自らマイクロ波を発信し、反射波を測定する観測衛星のこと。曇天や夜間でも地上を観測できるため、災害状況の速やかな把握をはじめとする防災・減災分野で特に強みを発揮します。同社では、2020年代後半までに30機を打ち上げ、世界のどの地域で災害が発生しても2時間以内に観測できる衛星群(コンステレーション)を構築。世界の災害対策・災害対応力の大幅な向上を目指しています。

どんな仕事なのか教えてください

これまでのSAR衛星は、重量が1t以上で、開発から製造、打ち上げまで200億円以上のコストがかかっていました。そこで、当社では重量が100kg程度で、製造と打上げを合わせたコストも10億円以下になる小型SAR衛星『StriX』シリーズの開発に取り組んでいます。すでに2020年12月、初の実証衛星『StriX-α』の開発・打上げに成功したほか、2022年3月には『StriX-β』、同年9月には商用実証機『StriX-1』の打上げにも成功しています。

しかし、当社では2026年前後をめどに、30機の衛星群の形成を目指しているので、1機ごとの成功で満足してはいられません。2023年は4機の打上げを予定しています。そのため、衛星の生産力向上は喫緊の課題であり、クオリティ・コスト・スピード(デリバリー)のすべてを向上させた上での量産体制の確立が求められています。シリアル生産が一般的な衛星の開発・製造において、いかに効率のよいパラレル生産を実現していくか。私は現在、モノづくりの現場全体を見渡す立場で、量産に相応しい生産工程の設計から製造・組立作業の標準化やマニュアルの作成、さらには生産工程の改善等に取り組んでいます。

この仕事のやりがい・面白さは

私の場合、入社理由と仕事のやりがいがリンクしているのですが、そのポイントとしては二つあります。

第1のポイントは、自分たちが開発・製造した衛星から送られてくるデータが、地球規模で自然災害への対処に役立つという点です。たとえば、2022年9月に発生した台風14号のケースでは、『StriX-β』のLong stripmap(ロングストリップマップ)モードで九州地域を2日間にわたって撮像。被災の状況をいち早く視覚的に解析することに成功しました。もともと私が創業間もない当社に転職したのは、減災を通じて社会に貢献したいという想いがあったためです。

そして、第2のポイントが、先行事例のほとんどない新しいことにチャレンジできるという点です。私は、入社してからα機の組立やβ機の機械設計に携わり、現在は量産に向けた生産体制の構築をマネジメントする仕事も任されています。これまで衛星をはじめとした宇宙産業の機器類は、ニーズに応じて特注仕様で開発・製造するのが一般的でした。これに対して、当社が目指しているのはコストメリットや生産スピードのアップが期待できる量産化です。設計部門や製造部門のメンバーと一緒になって、これまでの業界のスタンダードとは180度異なる製造文化を新たに創り上げるようなものであり、その主役の1人としてチャレンジできるというのは、他の業界ではなかなか経験できない手応えたっぷりの仕事だと感じています。

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この仕事の難しさ・大変な部分は

新しいことにトライできるのは、大きなやりがいである一方、仕事の難しさにもつながっています。特に、衛星の開発・製造は、現代の名工に選ばれるような職人によるクラフトワークの部分が大きく、量産とは相容れない面もあります。それを人材などのリソースが限られた状況の中で、ブレークスルーしていくのは容易なことではありません。

衛星の製造は、一般的な製品のそれとはあまりにも違っています。組立工程で言えば、衛星の場合は組立が始まるタイミングですべて部品が揃っているとは限らず、工程の組み換えなどに対応できるようにしておかなければなりませんし、組立作業そのものでもCADデータ上では成り立っているのに、実際に組み立てようとするとできないといったケースも少なくありません。加えて、試験の問題もあります。宇宙空間と同じ環境で試験をしようとしても、真空状態と無重力状態の両方を一緒に再現することが極めて難しいのです。

家電製品や自動車を量産しようとすると、それが新規開発であったとしても過去からの技術的な積み上げがあるので1を1.5くらいにする感覚ですが、衛星の量産化については文字通り0を1にすることが求められると言ったらイメージしやすいでしょうか。何しろ、衛星の量産化というのは、業界全体を見渡してみても立ち上げを経験した人が非常に少なく、人に聞くことができないので、自ら実践してみなければ分からないことだらけです。そのため、私の部署では数日で方針をコロッと変えることも珍しくありません。まさにアジャイルな環境であり、試行錯誤を繰り返すなかで、ほんの少しずつでも0から1に近づいていく取り組みを続けているところです。

この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル

まずは私のバックグラウンドからお話しします。東京理科大学大学院で機械工学を専攻し、学んだ機械設計の知識を活かしたくて、最初は大手電機メーカーに就職。14年にわたってカメラやテレビの機械設計を中心に、R&Dから量産まで携わってきました。その後、社会人大学院生として慶應義塾大学大学院のSDM研究科でシステムズエンジニアリングを学びました。個人的な意見となりますが、このシステムズエンジニアリングは、対象をシステムととらえれば何でも設計できるという考えの工学知見で、この分野を学んだことが現在の業務に非常に役立っています。

もちろん、私のケースはほんの一例です。当社にはさまざまな活躍フィールドがあり、いろんなバックボーンの人材が世界中から集まっています。ユニークなところでは、衛星ビジネスの特殊性として製造部門では職人さんの力が欠かせません。当社でも数多くの職人さんが活躍していて、中には現代の名工に選ばれている人もいます。今後を考えると、彼らの持つ高い技能をどう継承していくかも、大きなテーマになっています。

もし、何らかのメーカーで試作品の製造や製造技術などに携わっているような技術者がいたとして、彼ら職人さん達の高い技術を学んで一流のクラフトマンになりたいというような志向をお持ちでしたら、ぜひ仲間に加わっていただきたいですね。


【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】

●私が宇宙を仕事にした理由
私は技術者の採用にも携わっていますが、志望動機の多くが「宇宙への憧れ」からといったものになっています。でも、私の場合は全く異なります。きっかけは社会人大学院生のとき、SDM研究科で、大手電機メーカーで人工衛星の開発に携わった経験がある白坂教授に教えを受けたことです。その際、当社を紹介され、小型SAR衛星という新しい衛星の開発に取り組んでいるスタートアップ企業であることを知ったのです。培った機械設計の知見と、新たに学んだシステムズエンジニアリングを活かしながら、「新しいこと」に挑めるという点に魅力を感じて入社を決めました。

●読者へのメッセージ
2018年2月の創業から4年以上の月日が経っていますが、まだまだスタートアップ企業の域を出ていません。衛星の開発・製造ひとつ挙げても、決まったルールはなくアジャイルな環境になっています。そのため、実感しているのが電機メーカー時代に培った知見が、そのままでは通用しないこと。どう応用していくかを自分なりに考え、チャレンジしていく必要があるのです。ルーチンワークはひとつもありません。それを楽しいと思えるかどうか。立ち上げ期に仕事をする大変さ、得られる経験の濃密さ、そして自由にやれる面白さを存分に味わいたいなら、今が絶好のチャンスです!

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