一つの会社に勤め上げるという価値観が過去のものとなり、「転職」や「独立」や「副業」が選択肢として以前より身近になってきているように感じます。そのため現状でモヤモヤすることがあったりつまずいたりしたときに、急いでほかに目を向けようとする人も多そうです。ですがその前に、今の会社でできることをしっかり整理しないと後悔することになるかもしれません。
はせおやさいさんは、大小さまざまな規模の会社勤めを経て独立し、その後再び会社員に戻ったという経歴の持ち主。多様な環境で働いてきたからこそ思う、会社で働くことの良さとは何か。そして、どのようにそのことに気づいたのか。ご自身の経験を振り返っていただきながら、綴っていただきました。
こんにちは、はせおやさいです。わたしは都内で会社員をしながら、ブログを書いたり、こうして寄稿をしたり、書く活動も行っている者です。もう20年以上、社会人をしてきて、これまで社員数名のベンチャー企業から2,000名を超える大規模企業、またはフリーランスまでさまざまな働き方で仕事をしてきました。
そうした経験を経て、「会社で働く」のと「ひとりで働く」のとでは、それぞれ異なる良さと大変さがあることを実感しています。ただ、会社の外に出て分かったのは、「会社で働くこと」には中にいる時にはなかなか気づけない魅力があるということ。私自身、何年か前に半ば勢いで勤めていた会社をやめ、一時はフリーランスとして働きましたが、その後自分にはチームで働くのが合っていると気づき、現在は再び会社員として働いています。
もちろん、人によって合う働き方・合わない働き方はあると思いますが、急いで転職や独立を考える前に、一度立ち止まってみてもいいのではないでしょうか。今回わたし自身の経験を振り返りながら、わたしが思う組織で働くことの魅力と、それを見直すために実践した頭を整理する方法について書いていきたいと思います。
自由に憧れて会社員からフリーランスへ
30代の半ばが見えてきた頃、当時めちゃくちゃハードな働き方をしていたわたしは、あるときプツンと糸が切れたように会社へ行けなくなり、フリーランスへ転身することを決意しました。朝も昼も、土日も関係なく働くやり方に疲れ果て、自分で自分の時間をコントロールしたくなったのです。
毎日のタスクを想定して管理しようとしても、会社組織にいると上長の都合でいくらでも差し込みの仕事が入ってきます。断ることが下手だったわたしは、なんでも引き受けてしまい、自分の時間をどんどん後回しにしてしまいました。結果、自分の時間は睡眠時間だけ、という、とても息苦しい毎日を送っていました。また、会社員ならではの悩みとして、自分以外のメンバーをマネジメントしなければいけなくなったり、目標設定をして細かく何かを管理する・されるということに疲れてしまった、というのもありました。
そのため、会社を退職し、個人で仕事を請けるようになってからすぐは、その「自由さ」に驚きました。平日の昼間に堂々と映画を観に行ってもいいし、昼寝をしたっていい。嫌な仕事は断ることだってできます。もちろん、そのぶんの売上が減るのは痛いですが、無理をして引き受けがちな自分には、合っているかもしれない。
そう思いながら、当初は人が働いている時間に遊び、遊んでいる時間に働くというフリーランスらしい(?)生活を送りました。
他者の力を気軽に借りられるのが会社員のメリット
ただ、それにも3カ月を過ぎる頃にはすっかり飽き、わたしは徐々に「自分は会社員の方が合っていたのではないか?」と思うようになりました。
理由はいくつかあります。
一つは、自分が生活するうえでリズムが必要なタイプだったと分かったことです。先述のとおり、最初こそ会社員時代と真逆のスタイルで生活を送ってみたりもしましたが、わたしの場合、それはむしろ効率を落とす結果になりました。そのため、「朝は何時に起きてごはんを食べ、夜は何時までには仕事を終えよう」と、結局会社員時代のようにルーティンを決めて生活するようになったのです。
もう一つ、実はこちらのほうが大きい理由なのですが、会社でチームとして働くことの魅力に気づいたことがあります。当然ですが、フリーランスになると「同僚」はいません。ですから、愚痴を言うこともプロジェクトの達成を共有することもできず、わたしは徐々に寂しさを感じるようになりました。
もちろん、同じようにフリーランスで働く友人もいましたが、相手も生活がかかっています。発注につながらない会話に付き合わせるのもなんだか申し訳なく、自然とひとり黙々と働くようになりました。固定給の会社員とは異なり、どれだけ働いたかで収入が変動するフリーランスは、なかなか気軽に他者の力を借りるのが難しいと、わたしは感じました。
翻って、会社員の魅力は「他者の力を無償で借りられる環境」ではないか、と思うようになりました。もちろん、いたずらに同僚の時間を奪うのはいけませんが、同じ組織で同じ目標を追いかけるからこそ、借りられる力があり、その力をテコのように使って、自分のなりたい自分に近づけるのが会社で働くということではないでしょうか。
フリーランスを経験し、「人には得意不得意がある」ということを改めて実感したのですが、その分業を上手にやっているのが会社という組織だと思います。経理は経理が、営業は営業が得意な人がやってくれる。それは、同じ部署の同僚同士でも基本的には同じだと思います。わたしはわたしの得意な部分で力を発揮すればいい。フリーランスの場合は、それらすべてを一人で担う必要があります。
このように、他者の力を気軽に借りることができ、愚痴もプロジェクトの成功も共有し合いながら働けることがわたしにとっては重要なのだと気づき、その後会社員に戻ったのでした。
現状と向き合うために「願望」を整理する
もちろん、この結論に至るまでには、じっくりと自分と向き合う作業を繰り返しました。ただ感情に赴くままに行動しては、また同じことの繰り返しになるな、と感じたからです。
そこでわたしがやったのは、「とにかく願望を書き出す」ということでした。この作業をすると、自分が仕事に何を求めているのかが明確になります。
方法はごく簡単。よくある付箋紙で構いません。「10時から19時の間で働きたい」といった小さくて具体的なことから、「何を優先して生きたいか?」といった抽象的なことまで、思いつくまま、1枚に1つずつ書いていくのです。
特に数に決まりはありませんが、だいたい付箋紙に20枚ほど書いたら、その中からランダムに2枚を取り出して、ジャンケンをさせるように「この2つのうち、どちらを優先するか?」を決めていきます。わたしの場合なら、「10時から19時の間で働きたい」VS「尊敬できる上司の下で働きたい」なら、「尊敬できる上司」のほうが勝ち、といったように競わせていって、最後の1枚になるまでそれを繰り返しました。
こうすることで、自分の中でもっとも優先したいことが最後に残り、ほかの付箋紙に書き出された願望も、すべてランク付けがされた状態ができあがります。
わたしの場合は「社会を少しでも良くする仕事に関わりたい」(壮大ですが、本気です)が最後に残ったので、これを軸に改めて自分の働き方を考えてみました。社会、と大きくターゲットを決めた以上、ひとりでやれることには限度があります。もちろん、ひとりの働きでも十分社会のためになることもあると思いますが、そのほかの優先度の高い付箋紙にあった「良いチームで楽しく働きたい」も考慮して、やはり会社員もしくはチームで働くやり方がよいだろうと結論を出しました。
ここでもし、一人で自分のペースで仕事がしたいなどが最優先事項に来るのであれば、フリーランスを選択肢に入れるのもアリだと思います。フリーランスも会社員も、あくまで「働く環境」のひとつでしかないからです。
ただ重要なことは、自分のやりたいこと、実現したい生き方が明確にならなければ、その実現の方法である「働き方」は見えてこないのではないか、ということです。だから、今の会社に不満を感じているという人は、まず自分の願望を整理することで、納得感を持ちながら働くことができるようになるのではないかと思います。
会社をやめたくなったときにすること
ただ、こうして自分の頭の中にあった考えを整理し、そのうえで納得して組織で働く選択をしても、ときに「やめたい!」と感じることもあると思います。そんなときに試してほしいことが二つあります。
不満を言語化し、周囲にシェアする
一つ目は、非常にシンプルですが抱えた不満を書き出す、ということです。
わたしは自分が会社の外に出たことで、「不満は甘えの裏返し」だったのだなと思うようになりました。会社に不満を持っているということは、何かを会社に期待している状態でもあるからです。
そのため、今は何か不満を感じたとき、まずその不満を書き出してみるようにしています。そうすることで、その不満の裏にどのような期待があるのか俯瞰できるようになり、具体的な対応策を考えることができるからです。
また、不満を言語化するということは、他者の力を借りやすくするための方法のひとつでもあります。基本的に、会社にいるということは、チームの力を借りても良い状況にいるということ。これを利用しない手はありません。
わたしの場合、会社から細かく管理する・されることを求められるのが苦手で息苦しくなってしまう、という不満がありました。そこでこの不満を書き出して俯瞰してみると、おそらくわたしには「人にはその人に合ったやり方」があり、その人なりに試行錯誤することで、本人にとっても納得感のあるより良い施策が発案されるはず、という考えがあることに気付きました。つまり、あらかじめ決められた施策の実施だけを任されるのではなく、施策の検討から仕事に取り組みたい、と思っていたのです。
その後、チームに自分の特性として「細かく管理する・されるのが苦手」というのをシェアしたうえで、上長には「戦略は会社の方針に従うが、戦術は現場に任せてほしい」と掛け合いました。大きな方針や本質的な狙いを外していないのであれば、ある程度は現場に自由にやらせてほしい、その代わりに効果検証もきちんとして、結果はマメに共有する、というように交渉したのです。メンバーには、大きな方針をしっかり共有したうえで、各自に裁量を渡し、ある程度の失敗はなんとかするから、全員が自分の力を発揮して目標に向かおう、という形で意思共有をしたのでした。
これが思った以上に功を奏し、得意なことは得意な人が手を上げて実行し、それぞれが苦手なことは正直に共有しあい、全体のパフォーマンスをどうあげていくか、という前向きな議論がおこるようになりました。当然そうなると、細かく管理する・されるという状況はなくなり、お互いの特性を知ったうえで、信頼をベースにして仕事を任せ合うチームに変化していきました。
もちろん、必ずしも提案を受け入れてくれる上司ばかりではないと思いますが、少数でも信頼できる仲間に巡り会えているのであれば、自分の悩みをどんどんシェアし、力を借りてしまいましょう。そこで借りた力は、自分の得意なことでお返ししていけばいいのです。
自分の「強み」を整理する
二つ目は、自分の取り組んでいる仕事を分類してみることです。
これは就職活動の準備をしているときに気づいたのですが、仕事には「得意」と「苦手」、「お金を生む」と「お金を生まない」ものがあるように思います。そして、「得意」と「お金を生む」が重なる領域はゴールデンポイントとでも呼べるようなあなたの強みであると言えると思います。
例えば、セールスのように直接クライアントと交渉し、発注を得て請求が発生するような仕事は「お金を生む」動きだと言えますよね。一方で、経理や総務のように社内の環境を整備し、よりよい状態を作っていくような仕事は、直接的には「お金を生まない」と言えるかもしれません。
もちろんすべての仕事はお金を生むために発生しているのであり、それが直接的か、間接的かがグラデーションになっているのだと思うのですが、もしこれを自分一人ですべてを賄わなければいけない状態だった場合、ゴールデンポイントを持っていた方が生計を立てやすい、というふうに言い換えられるように思います。
あくまでわたしの経験から言えば、このゴールデンポイントが弱かったり、「好き」だけど「お金を生まない」ことが得意だと感じるのであれば、会社という組織で役割分担をしたほうが生きていきやすそうだ、と思っています。
もしくは、とりわけ苦手な領域があり、そこに多くの時間を使ってしまうような場合もそうかもしれません。わたしの場合は、経理的に細かく数字をみて、精緻に仕事を進めることを求められる仕事が苦手な部分なので、逆にここを得意とするパートナーがいたほうが、より大きなお金を生む動きができると自認しています。
今思えば、わたしが短い期間ながらもなんとかフリーランスとして生活できたのは、20代の頃、「苦手」で「お金を生まない」ことを会社という組織が担保してくれている間に、「好き」なことで「お金を生む」力を鍛えられていたからなのだ、と実感しています。
入社間もない時期であれば、まだ確固たる強みを持っていないことも多いと思うので、自分に外に出てやっていけるだけのゴールデンポイントがあるのか、自問自答してみると頭を整理するきっかけになるかもしれません。
転職や独立が頭をよぎったら、一度立ち止まり自問自答してみよう
ここまで他者と働くことの良さばかり強調してきました。しかしもちろん、会社という組織の中では、人間関係に悩むこともとても多いと思います。そりの合わない上司、話の合わない同僚、言うことを聞かない部下、悩みはつきません。
でも、人間関係の悩みはフリーランスになってもあります。受発注関係が発生するため、むしろそこにはいくらかのパワーバランスが生まれて、大変な部分も生まれてくるでしょう。
前述したように、フリーランスはとても孤独で、気軽に他者の力を借りにくい状態で成果を出さなければいけません。もちろん、それを踏まえたうえで、独立を検討するというのは選択肢としてアリだと思いますし、その先で失敗してみるのもまたアリです。
ただ、ものごとには勢いが大切と言いますが、熟慮を重ねたうえで思い切るのと、短絡的に逃げてしまうのでは、大きく道が異なってしまうのではないかと自分の経験からも思います。もちろん、嫌な状況で心身を壊すくらいなら、すぐ逃げてしまいましょう。でもそうでないのなら、一度立ち止まって、「今の会社でやれることはやり尽くしたか?」と、自問自答してみるのもいいのではないでしょうか。
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