あなたの仕事はなぜ成果につながらないのか。キーエンスの元No.1セールスパーソンに聞く「正しい努力の仕方」

岩田圭弘さんトップ画像


努力しているのに、思うように結果が出ない──。

そんな時、何をどうやって変えていくべきなのでしょうか。

「仕事を数字で管理しなければ、変えるべきところも分かりません」
そう語るのは、今回お話を伺ったアスエネ株式会社の共同創業者兼取締役COO、岩田圭弘さんです。

キーエンス時代に全社営業ランキング1位を3期連続で達成するなど、圧倒的な成果を残した岩田さん。その背景にあったのが、著書『数値化の魔力』でも紹介されているような、仕事のプロセスを細かく数値化して改善していくメソッドです。

仕事の進め方を効率化するだけでなく、仕事との向き合い方をも変えてくれる数字のマジック。一体どのようにして使いこなせばよいのでしょうか?

数字に対して苦手意識を持っている人でも実践しやすいよう、岩田さんに教えていただきました。

岩田圭弘さんプロフィールカット
岩田圭弘さん。慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部で営業を担当し、2010年に新人ランキングで1位を獲得。2012年下期から3期連続で全社営業ランキング1位を獲得する。その後、本社販売促進グループへ異動し、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年、キーエンスに戻り新規事業の立ち上げに携わる。2020年、アスエネに参画。

成果を出すとは、「確率を上げる」こと

──キーエンスといえば、およそ50%という圧倒的な営業利益率や2000万円を超える年収で有名ですが、それを可能にしているのは「従業員のパフォーマンスの高さ」であるようにも思います。改めて、キーエンスの従業員はなぜこんなに高いパフォーマンスが出せるのでしょうか?

岩田圭弘さん(以下、岩田):日々の仕事で「当たり前のことを徹底している」からだと思います。

──「当たり前のこと」とは?

岩田:ざっくり言うと、仕事の中身を細かく把握し、やったことを記録し、振り返って、改善する。このプロセスのことです。

──誰もが実践していることのように思いますが、それをやったからといって、キーエンスの従業員ほどパフォーマンスを出せるわけではないですよね?

岩田:そこは、先ほどお伝えした「徹底」というキーワードがカギになってきますね。

「徹底」するために取り入れているのが「数値化」の仕組みです。数値化と聞くと、売上や利益を思い浮かべる人も多いと思いますが、キーエンスでは仕事の「プロセス」すなわち電話や面談の回数、アポイントに至った件数などの工程までをすべて数値で管理しています

しかも、それぞれに細かな目標ややるべきことを設定し、“日次で”改善の動きを取っているんです。

──なるほど。工程を数値化するからこそ、仕事内容の把握や記録、振り返りがスピーディーかつ効率的に行える、と。

岩田:大切なのは、自分の足りない点や変化に素早く気づいて素早く改善する、ということなんです。ダイエットも、週ごとや月ごとにゆるゆると変化をチェックしていては効率的に体重を落とせません。体重の変化や食事の内容を日々記録し、食べ過ぎた翌日はあまり食べないようにする、などの細やかなプロセスマネジメントが大切です。

それと同じく、仕事でも1日の数値目標をきちんと管理し、達成できなかった場合は改善点を洗い出して翌日修正する。その一連の流れを全従業員が高いレベルで実現できているからこそ、成果が出るわけです。

──地味な積み重ねや継続の大切さが分かります。

岩田:「これをやったら絶対に成果が出る」という飛び道具は残念ながら存在しません。

そもそも、数値化という仕組みの背景には、仕事の成果を確率論で捉える思想があります。成果を出すとは、すなわち確率を上げることです。100件商談して100件受注できたら何も言うことはありませんが、それは不可能に近い。でも、受注に至るまでのプロセスを分解し、各工程を改善すれば「受注の確率を上げる」ことはできるはずです。

岩田圭弘さんインタビューカット

トッププレイヤーほど「量」をこなす

──プロセスの分解と各工程の改善を進めていくうえで、どんなことを意識すればいいのでしょうか?

岩田:「行動の量」と「行動の質」の掛け算の値を最大化させることだと思います。「正しい方向性の努力をたくさんこなす」とも言い換えられそうです。そして量と質、どちらかが欠けてもダメなんです。

グラフィック1

──量と質、どちらを優先して伸ばすのが良いのでしょうか?

岩田:まずは量だと思います。なぜなら、自分の裁量でコントロールしやすいからです。数値化しながら考えてみましょう。営業であれば、電話から受注へ至るまでのプロセスを分解して、どこが量的に改善できるかを探る。

  • DM:30件
  • 電話:28件
  • アポ:6件
  • 面談:3件
  • 商談:1件
  • 受注:0件

このプロセスであれば、増やすべきは入り口となる部分のDMや電話の数でしょう。具体的に何件増やしていくのか、目標数値は過去の実績などを参考に設定していきます。

そうして限られた時間の中で量を限界まで増やしきったところで、ようやく質的な改善に着手するのです。具体的には、電話からアポイントに何件つながったのか、あるいは商談から受注に何件つながったのかという「転換率」を増やすための施策(プレゼンテーション力の強化、顧客選定軸の見直しなど)を考えます。

  • 電話:28件
  • アポ:6件(転換率:21%)
  • 面談:3件(転換率:50%)
  • 商談:1件(転換率:33%)
  • 受注:0件

──量は変えず、質を上げていくことで受注数を上げるのは難しいのでしょうか?

岩田:難しいでしょうね。「量が質に転化する」とも言いますが、そもそも量をこなさなければ、質をどう改善すればいいのか見えてこないんです。

──量は低いが質は高いから成果が出ている、といった例はないんですね。

岩田:稀にそういうケースも見かけますが、一時的で再現性のないことがほとんどですね。

キーエンスでも、トッププレイヤーは量も段違いにこなしています。例えば、平均的な営業部員が1日4件商談するところを、トッププレイヤーは6〜8件商談するなど。そうして、トッププレイヤーほど泥臭く量を追い求める傾向にありますね。

──トッププレイヤーほど量の限界値が高いということなのかもしれませんが、彼らはやはり時間の使い方も上手なのでしょうか?

岩田:1日8時間=480分の稼働率が高い、つまり時間の無駄がないとは言えるでしょうね。そのために、例えば顧客リストをきちんと整理したり、架電中に次の連絡先を調べたりと、限りなく業務効率化しようとします。量をこなす意味が分かっているからこそ、そのための努力も怠らないのがトッププレイヤーの特徴ですね。

数値化すると「何を改善すべきか」が見える

──自分の仕事でこれから数値化を実践していきたい場合、まずは何から始めればいいでしょうか?

岩田:まずは自分の行動を記録することから始めるのがいいと思います。ある仕事のスタートからゴールまでの間にどんなタスクがあって、それぞれ何回数をこなしたのか。営業職であれば、先ほど見せたような架電数、商談数、受注数でしょうね。

それを「自分の目標」や「過去の実績」「他人の実績」の3軸で比べることで、ボトルネック(生産効率を下げている部分)や改善のために必要なアクションが見えてきます。

グラフィック2

──それぞれのタスクはどの程度までブレイクダウンするといいのでしょうか?

岩田:プロセス(どこをどれくらい切り出すか)と時間(どの時間軸で切るか)という2つの観点がありますが、そこまで細かく決める必要はないでしょう。何をどれくらいの時間を費やして取り組むかを決めるくらい。慣れれば同じ時間内でできる量も増えていくので、その時々の様子を見ながら、自分のやりやすいスタイルで調整していくのがいいと思います。

──タスクを数値化する文化がない組織では、どのように立ち回るのがいいですか?

岩田:まずは個人で取り組んでみてはいかがでしょうか。それで成果が出れば、全社で発表しよう、横展開しようという話になるかもしれません。

数値化を極めると、市場価値は確実に上がる

──数値化とは「やるべきことを具体化させること」とも言い換えられますよね。数字はとかく冷たいイメージを持たれがちですが、やるべきことが分かれば、むしろ「楽に働ける」とさえ言えるのでは?

岩田:おっしゃる通り、上司の営業スタイルを強要される、みたいな理不尽で感覚的なことがなくなるので、より健全に働けると思います。

あと、何をどう頑張ればいいのかという「努力の方向性」も明確に見えてくるので、努力と成果が結びつくことを実感しやすくなるでしょうね。

──そう考えると、数字に対するイメージがガラッと変わりそうですね。数値化を極めると、キャリアの観点でもポジティブな影響があるのでしょうか?

岩田:ありますね。結果に至るまでのプロセスを把握すると「再現性」が担保できます。自分の仕事にこの再現性が出てくると、転職時の面接でも「〜だから〜という結果につながりました」とプロセスをアピールしやすくなりますし、企業側にも「安定して成果が出せる人」だと評価されます

やはり、成果を出せる時と出せない時の落差が激しい人より、質量ともに安定して成果を出せる人にこそ仕事を任せたいですから。

それに、メンバーにプロセスを共有しやすくなるという意味ではマネジメントレイヤーで働く際も必須スキルです。

まずは徹底的に「マネ」する。自己流はその後

──岩田さんは、キーエンス在職中に営業職の新人ランキング1位や全社営業ランキング1位を3期連続で獲得されるなど、輝かしい実績を残されています。その背景には数値化の知識やスキルがあったのだろうと思いますが、どのようにしてそれらを身に付けていったのですか?

岩田:先輩や上司の仕事の進め方を徹底的に真似したことが大きかったように思います。守破離*1の中だと「守」の部分を突き詰めたイメージですね。

大切なのは、最初から自己流で始めないことです。私の失敗経験をお話しすると、入社1年目で運良く営業の新人ランキング1位を獲得したのですが、そこから調子に乗って自分のやり方に固執したところ、まったく成果が出なくなってしまったんです。その後2年くらいは目標未達の連続で、かなりの低空飛行でした。

──岩田さんにも伸び悩んだ時期があったんですね。

岩田:そもそも、ランキング1位といっても「新人の中で1位だった」に過ぎないんです。つまり、全社的には大した実績ではなかった。

ただ、3年目にしてそろそろ成果を出さないとマズいと焦るようになって、そこから自分のやり方を捨て、上司の仕事の進め方を模倣するようになりました。トークはもちろん、話し方に至るまで完コピする勢いで。そうすると、きちんと成果に反映されるんですよ。実際、3年目の下半期から3期連続で全社の営業ランキング1位を獲得できました。

──「完コピ」が功を奏した、と。

岩田:その時、やはり本質的に、自分のやり方というものは確固たる基礎の上にしか築けないと思いましたね。

ただ、その実績が認められて本社へ異動した後も壁にぶつかって。営業戦略の立案や販売促進といった新たな業務を担当することになったのはいいものの、先輩たちとのスキルの差に唖然としました。特に数字を分析するスピードの速さ、分析の深さには歴然とした違いがあって、同じ数字を見ているはずなのに、理解度がまったく違うんです。

それが悔しくて、大量の本を読んでインプットしました。結果として、それも数値化のスキルが大きく伸びるきっかけになったので、今振り返ると良い経験だったと思います。

岩田圭弘さんインタビューカット

──数値化のスキルを身につけると、新たな課題がどんどん目の前に現れるのが面白いです。

岩田:数字は自分の視野さえも広げてくれる、と思いましたね。

だからこそ、成長が頭打ちになる感覚もないんです。成績が良くても毎年バッティングフォームを変えるイチローさんのように、より良くなるんじゃないか、もっと上を目指せるんじゃないか、と思えるようになります。

──数字にこだわってキャリアを積まれてきた岩田さんならではの発言ですね。キーエンスで身に付けた数値化の知識やスキルは、スタートアップの経営陣として参画された今なお役立っているのですか?

岩田:もちろんです。現在、CO2排出量を見える化するクラウドサービスなどを提供するアスエネ株式会社のCOOとして、営業・人事・マーケティングなどを部門横断的に管掌していますが、主に「リソース配分」に数値化のスキルを活用しています。

リソースが限られるスタートアップにおいて、人・モノ・金をどこにどれくらい配分していくのかは非常に重要なテーマです。そのため、KGIやKPI、各部門の実績を日頃から見つつ「この部門にもっと人員を振り分けよう」などと都度判断していますね。スポーツチームの監督が、iPad片手に指示を出しているようなイメージでしょうか(笑)。

どんなポジションになっても「数字で語れる」というスキルはとても強い武器になるんだな、と日々実感しています。

取材・文:村上広大
写真:小野奈那子
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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*1:しゅはり、武道や茶道などの修練の段階を示す言葉。最初の「守」は師匠に教わった型や既存の型をひたむきに「守る」こと、次の「破」は既存の型が身についたところで既存の型を「破る」ことで自分に合う型を模索すること、最後の「離」は既存の型も自分に合う型も理解した上で既存の型から「離れる」こと。