人間関係も生活の楽しみ方も、大事なことは全部茶道が教えてくれた。山越栞さんの「趣味との付き合い方」

山越栞さんトップ写真

さまざまな社会人の「趣味との付き合い方」をお聞きするシリーズ企画。今回は、高校生の頃からお茶のお稽古を続けているフリーライターの山越栞さんにお話を聞きました。

今や趣味は生きていくうえで欠かせない存在になりつつありますが、忙しい社会人にとって、仕事との両立には工夫が必要です。東京⇔栃木を毎月往復しながらお稽古に通う山越さんに、趣味が仕事や人生に与えた影響を伺いました。

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栃木⇔東京を月3回のペースで往復

Q.)山越さんの趣味活動について教えてください。

高校生の頃から15年ほど、地元の栃木でお茶のお稽古に通っています。もともと母がずっとお茶を習っていて、子どもの頃から母と一緒に先生のお宅を訪れることもよくありました。先生から「お茶やったら?」と誘っていただき、「やっておいたほうがいいかも」という直感のようなものを感じて、高校2年生のときに始めました。

初めは栃木の自宅から通い、大学進学を機に上京してからは月に3回ほどのペースで東京から電車に乗って通っています。大きなお茶会(※)や資格試験があるときはそれに向けてお稽古の回数が多くなります。

先生の考え方にもよりますが、茶道は基本的に途中で先生を変えることができません。私も先生から「あなたはこのまま栃木でお稽古を続けたほうがいい」と言われたこともあり、上京したての頃はペースが落ちたものの、ずっと同じ先生の元に通い続けています。私以外はみんな近場から通っている方ばかりなので、「なんでわざわざ東京から?」「大変そう」とよく言われます(笑)

お茶のお稽古を受けていると、その時自分の中にある心情に気づくことができます。私生活で落ち込んでいるときは暗い雰囲気のお点前になってしまうし、仕事で忙しいときは自分の粗雑さを感じることも。お茶を始めた当初から「年を重ねるほど豊かになれるような生き方がしたい」という気持ちがあって。お茶は60代、70代と年を重ねるごとにより深みが増す趣味なので、この先もずっと続けていくつもりでいます。

※お茶と和菓子で大勢の人をもてなす集まり

山越栞さん記事内写真

お茶を通じ、仕事にも活きる人間関係の基礎を学んでいる

Q.)今の山越さんにとって趣味はどんな位置づけでしょうか。

考え方の基本というか、私という存在のベースになっていると感じます。もう人生の半分はお茶をやっているので、仕事の人生よりお茶に関わってきた人生のほうが時間としては長いんですよね。お稽古で教えてもらったことやお茶の経験を通して考えたことが、日常や仕事の考え方にもリンクしている気がします。

たとえばお茶室には先生が掛け軸を飾るのですが、そこに書いてある言葉からいろんな意味を読み取れます。私はその中でも「和して同ぜず」という論語の言葉が好きで、これは「調和を大事にするのは、みんなと同じようにすることではない」という話なんです。「調和しつつも自分は自分」というスタンスは、この言葉から学びました。

茶人(※)はお茶ができればいいわけではなく、人を慮る能力や、人としてどうあるべきかを自分自身で整えなければいけないと言われています。「お茶会でたくさんの人をもてなすとき、どんなふうに配慮したら相手が喜ぶのか」といった仕事にも通じる人間関係の基礎は、お茶の先生や先輩から日々学んでいます。

※茶道に通じた人

なるべく「お稽古の日はお稽古の日」と決めてメリハリをつける

Q.)社会人は仕事とのバランスを考えることが多そうです。趣味と仕事を両立するうえで工夫していることを教えてください。

そのときどきで、お茶と仕事のどちらに比重を置くかはっきりさせるようにしています。たとえばお茶の資格試験を控えたタイミングなどは、お茶の予定をまず決めた上で仕事のスケジュールを調整し、お仕事で関わる方にも「この日はお稽古があって東京にいません」などお伝えするようにしています。逆に仕事を頑張りたいときは、お茶の先生に仕事の状況をしっかり話して仕事を優先します。頑張りたい時期がバッティングした場合は気合いでなんとかするしかないのですが……。

試行錯誤する中で「お茶を続けていくためにこんな仕事のやり方は良くないな」というのが徐々に見えてきて、最近はほどよくバランスをとれるようになった気がします。たとえば、新しい案件がスタートするタイミングは連絡を密に取らなければいけないので、連絡がとれないことで仕事がストップしないよう、平日にお茶のお稽古を入れるのを避けるとか。

20代の頃は「夜中まで仕事して、一日のうちでどっちも頑張れば大丈夫」みたいな考え方がありました。今も長い移動時間の間でメールを返したり原稿を書いたりはしますが、なるべく「お稽古の日はお稽古の日」と決めて、重めの仕事と重ならないように気をつけています。

お茶のおかげで日常生活が豊かになった

Q.)趣味が人生観や仕事観に影響を与えたことがあれば教えてください

日常生活を大切にするようになったと思います。お茶を通して茶人がやっていることって、「豊かに生きる」ことの究極だと思っていて。「人をもてなすためにそんなことまでするの?」というこだわりに溢れているんですよね。

基本のきでいうと、靴を揃えて家に入るとか、庭のお花をちょっとしたところに生けるとか……。それらは自分の生活をより楽しくする要素もありつつ、手の届く範囲で人をもてなす方法なんです。着物をきちんと着るのも、自分を見てもらうためではなくて人に安心を与えるため。昔は「先生に注意されるからやらなきゃ」と思っていたことが、今では「ずっとお茶を続けていくなら普段の生活でもできていて当然」という気持ちに変わりました。

あとは、お茶の世界で大事にされる「動じない心」が身につきつつあります。お茶会では予想外のタイミングで偉い人をもてなさなければいけないとか、お稽古で習っていないことをお客さまに尋ねられるとか、予期せぬトラブルが起こるんです。そういうときは一旦落ち着かないと何も始まらないので、感情的にならずに状況をきちんと把握して、慌てない。その姿勢はお茶会を通して学び、仕事の場にも生きているなと思っています。

山越栞さん記事内写真

(MEETS CAREER編集部)

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お話を伺った方

山越栞

山越栞
編集者・ライター。小冊子の編集長やwebマガジンのライティング、ライター講座の講師、地域活動の広報PR担当など、言葉と編集で伝えていくことを軸に、フリーランスで活動中。茶道のお稽古に通うために地元の栃木県と東京を行き来するソフトな二拠点生活をしつつ、下町の一軒家で暮らしている。
Twitter:@shioriyamakoshi