一人20万円で「八ヶ岳の別荘」を購入。会社員が教える、仲間とお手頃に二拠点生活を楽しむコツ

菅谷岳洋さんトップ画像


リモートワークが珍しくなくなった今、「住む場所や働く場所を変えなくてもいいなら二拠点生活をやってみたい」と考える人は多いでしょう。楽しく、無理なく、でも自分の貴重な財産になる。そんな二拠点生活を始めるには、どんなノウハウが必要でしょうか。

都内のIT企業に勤める菅谷岳洋さんは昨年、仲間とともに八ヶ岳のふもとに「別荘」を購入しました。費用は一人頭20万円。現在は週末を中心に足を運び、仲間たちとDIYで快適な空間を作り上げています。その模様をnoteに綴ったところ、大きな反響を呼びました。

未経験のDIYに挑戦したり、仲間の「やりたいこと」を全力でサポートしたりするなかで、二拠点生活を楽しむコツが分かっていったそう。菅谷さんが仲間と共にイチから「別荘ライフ」を作り上げていくプロセスは、二拠点生活に興味を持つ会社員にとっても大いに参考になりそうです。

平日は別荘でワーケーション、週末に別荘でバーベキュー

――菅谷さんのnoteからは「別荘ライフ」の楽しさがひしひしと伝わってきます。改めて、誰とどんな別荘を購入したのか教えてください。

菅谷岳洋さん(以下、菅谷):2020年の8月に9人の仲間と共同で購入しました(編注:後に5人増え、14人での共同運営となる)。場所は八ヶ岳の中腹にある別荘地で、周囲は自然に恵まれています。一方で道もしっかり整備されていますし、少し下ればスーパーや地場の野菜を売っている小売店もあるので、とてもいい環境ですね。

――どれくらいの頻度で訪れているのでしょうか?

菅谷:最低でも月イチは。でも、ゆっくり過ごすというよりは、今はほぼDIYに時間を費やしていて、ずっと肉体労働です(笑)。最近はキッチンやウッドデッキを新しく作りました。あとは冬に向けて断熱材を入れたり、スキマ風が入ってくる場所を塞いだりしようかなと。ただ、ようやく環境が整ってきたので、これからは少しゆっくり過ごしたいですね。

菅谷岳洋さんがDIYでつくったキッチン
DIYで作ったタイル張りのキッチン

――現在はさらに仲間が増えて14人で運営しているそうですが、メンバーなら自由にいつでも使えるんですか?

菅谷:Slackのグループを作っていて、使いたい人が自由に予定を書き込む形です。「来週の水曜から金曜までいるから、誰か来ない?」とか、「今週末にDIYやるから誰か手伝って」とか、わりとルールは少なめでユルく運営していますね。メンバーの多くはIT系の仕事に携わっていて、3分の1はフリーランスなので、スケジュールも調整しやすいんです。だから、平日にここでワーケーションして、週末はバーベキューをするなんてことも多いです。

二拠点生活の拠点として「別荘」を買う選択

――そもそも、「別荘をみんなで共同購入しよう」という話になったのはなぜでしょうか?

菅谷:もともとアウトドア好きの友人とよくキャンプをしていたんですけど、コロナでなかなか集まれなくなったんです。そこで、知らない人がいない、仲間内だけで集まれる場所がほしいねという話になり、別荘を買うことを決めました。緊急事態宣言が出ていないタイミングで別荘に集まったり、集まる時は適宜マスクをつけたりと、感染対策を行うのは大前提ですが。

あと、僕の場合はそういう前提があったので共同購入の形をとりましたが、もちろん一人で買うという選択も大アリだと思いますよ。共同購入・共同運営はあくまで一つの選択肢に過ぎません。

――二拠点生活のスタイルとして、例えば移住や車中泊など別の手段もあるように思いますが、そうした選択肢は思い浮かばなかったんですか?

菅谷:なぜか、思い浮かばなかったんですよね。「知らない人がいない」「仲間内で集まれる」「都内で働きながら楽に行き来できる」という条件を考えると、別荘は最適な選択であるように思えました。

――それにしても「買う」のは大きな決断かと思います。借りることは考えなかったんですか?

菅谷:それも、あまり考えなかったですね。理由は自分でもよく分かりませんが、いろいろ(別荘を)カスタマイズしようと考えていたからでしょうか……。ちなみに、場所は千葉の館山や熱海なども検討しました。最終的に八ヶ岳を選んだのは、もともと土地勘があったことが大きいです。山梨や長野には登山やキャンプでよく訪れていましたから。ここなら、別荘を拠点に行きたい場所へアクセスしやすいなと。

そして、見た目はボロいけれど、ガスや上下水道などのインフラが整っていたこと、管理がしっかりしていたこともこの別荘を選んだ決め手の一つでしたね。別荘専用の管理業者が常駐していて、配管が詰まったり、冬に凍ったりした時にも対応してくれるんです。周囲も綺麗な別荘が多く、ちゃんと定期的に人が来て掃除されている感じでした。

菅谷岳洋さんの別荘の冬の様子
冬の別荘の様子

――初めて別荘を購入する時は特に、管理の状態は大事なポイントですよね。では、別荘を購入するまでのプロセスを教えていただけますか?

菅谷:まずはネットで物件を探して、不動産屋さんにコンタクトを取る。そこは一般的な住宅を買う時とあまり変わりません。そして、いいなと思った物件を内見させてもらう。僕らは「キャンプのついでに、通り道だったらちょっと寄っていく」みたいなパターンが多かったですね。

――では、一般の住宅と違う点、気を付けるべき点はありますか?

菅谷:ボロ屋の別荘って基本的に、不動産屋さんは「何か不具合があっても責任を取りませんよ」というスタンスだし、こっちもその前提で買うんです。そうなると、不動産屋さんの担当者が信頼できるかどうかがすごく大事な決め手になってきます。正直、そこを見極めるのはなかなか難しいのですが、ちゃんと話を聞いてくれるかどうか、デメリットも含めて丁寧に説明してくれるかどうかは一つの判断基準でしょうね。だから、僕らも購入前は「どこを直す必要がありますか?」「DIYってどこまでできますか?」など、たくさん質問をするようにしていました。誠実な担当者の方は、「給湯器が壊れているので、取り替えてください」とか「ウッドデッキの底が抜けているから危ないですよ」と、ちゃんと教えてくれました。

それから、可能であれば、近隣住民の方々にも話を聞いてみるのがいいと思います。「ここを買うか検討しているんですけど、どうですか?」って。嫌な顔をされる時もありますが、逆に「若い人が来てくれたらうれしいわ」と言ってくださる方もいます。この別荘のご近所さんは、「冬はめちゃくちゃ寒くなる場所だから、気を付けたほうがいいよ」と親切に教えてくれて、そういうところも良かったですね。

――ちなみに、別荘のお値段はいくらだったのでしょうか?

菅谷:購入費が土地と建物を合わせて180万円で、改修費用が100万円でした。最終的に14人で折半したので、一人頭20万円ですね。維持費は税金など諸々込みで1人あたり年間1万円程度です。

――それって、かなり安い……ですよね?

菅谷:そうですね。購入費用は相場よりかなり安いと思います。他の物件もいろいろ探しましたが、この建物の状態で、ここまで安いものはなかなか見つかりませんでしたから。

確かに、長らく人が住んでおらず外は雑草がボーボーでしたし、外観も内装も最初はボロボロでした。でも、外側が汚いだけで、きちんと手入れすればなんとかなると思いましたね。基礎がどこまで劣化しているかは不安でしたが、そこは買って床や壁を剥がしてみないと分からないところもありますから。ただ、結果的に、そこも特に不具合はありませんでした。

別荘の記事内カット
メンバーが草刈りをする様子

別荘は良い意味で「プレッシャーを与えられる」環境

――お購入後、DIYでキッチンやウッドデッキを作ってきたということですが、当初はどんな改修計画を立てていたんですか?

菅谷:いつまでに何をやろうと綿密に計画をしたわけじゃなく、その都度みんなで話し合って何をするか決めてきました。最初に始めたのは草刈りですね。それも、どれくらい時間がかかるか分からなかったので、とりあえずそれが終わったら次に取り掛かろうという感じでしたね。

――あまり計画立てても、それがプレッシャーになってしまいますもんね。

菅谷:そうですね。楽しく達成感を得られるようにして、みんなが継続して取り組めるようにするのが一番大事だと思います。別荘に行ったメンバーが「こんなに綺麗になったよ」とか「こんなの完成したよ」とSlackに写真をアップすることで、行っていないメンバーが羨ましがる。そして、自分もこんなことをやってみたいと、次々にアイデアが出てくるような循環が大事ですね。だから、今のところどこまでやったら完成っていうのは決めていません。誰かがやりたいことがある限り、完成はしないんじゃないですかね。

――ちなみに、いま菅谷さんがやってみたいことは何ですか?

菅谷:ピザ窯やサウナは作ってみたいですね。火を扱うとなると行政の許可がいるので、交渉が必要なんですけど、メンバーは賛成してくれそうな気がします。許可が出たら、できる範囲のことは自分たちでやろうと思います。

――基本的に、全て自分たちでやるスタンスなんですね。

菅谷:水回りや給湯器、窓のサッシ、それから建物の構造に関わるものなど手に負えない部分は業者に頼みますが、それ以外は基本的にすべて自分たちでやります。といっても、インターネットで調べた情報をマネしただけなのですが……。

ちなみに、別荘でDIYをやるようになって、僕は初めてセメントをこねました。最初は本当にできるのか不安でしたが、意外とできちゃうものだなと。

別荘の記事内カット
メンバーがキッチンの上にセメントを塗る様子

――菅谷さんは器用なほうですか?

菅谷:全く(器用ではない)ですね(笑)。別荘を買うまで丸ノコなんて一度も使ったことなかったし、自分に使いこなすのは無理だと思っていました。でも、横で仲間が木を切ってるのに自分が何もやらないなんて、あり得ないじゃないですか。そこで、恐る恐るやってみたら案外使えてしまったので、いい意味でプレッシャーを与えられる環境って大事なんだなと改めて思いました。あとは、大学で建築を学んだメンバー、デザインの仕事に携わるメンバーもいて、彼らから学ぶことも多いです。それぞれが得意なことやスキルをシェアして高め合えるのも、仲間と一緒に二拠点生活をやるメリットだと思います。

別荘の記事内カット
DIYをする菅谷さん

あと、今回のnoteなど情報発信(広報役)もメンバーに促されて始めたのですが、別荘の魅力がさまざまな方に伝わったようで、やってよかったなと思います。今後はDIYの様子についても積極的に発信していく予定です。「まだまだ半人前だから……」と遠慮すれば、自分のDIYスキルも成長しないので(笑)。

別荘の共同運営で大切なのは「遠慮なく苦言を言い合える関係」

――14人での共同運営は楽しそうな反面、人数が増えるほどトラブルも起こりやすくなるのではないかと思います。トラブル防止のためのルールなどはありますか?

菅谷:お金のことに関してだけ決めています。別荘のために共同で購入した物をGoogleスプレッドシートに入力して管理し、月に1度みんなでお金を出し合う。それくらいですね。基本的にみんな付き合いが長いので、そこまでガッチガチにルールは決めていません。

意思決定をスムーズにするため14人のうち1人をリーダーにしたのですが、もし、何か問題が起きたり意見が分かれたりしたら、そのリーダーに決めてもらうようにしています。

――例えばDIYをする際に、どこまでお金をかけるかはどうやって決めるんですか?

菅谷:それもSlack上でやり取りして決めますね。今も、あるメンバーから「小屋を建てたい」というアイデアが出てるんですけど、費用が50万円かかるらしいんですよね。それはさすがに高すぎるから、いくらまでなら出せるか、どうしたら安く作れるか、みんなでアイデアを出し合いながら現実的な落とし所を探っています。

別荘に関わる費用は基本的に全て折半なので、やりたくなければハッキリやりたくないと言えばいい。だから、そもそもそれが言えるような関係性の人と始めることが大事なのかもしれません。

Slackでのメンバーとのやり取り
キッチンのDIYに関するSlack上のやり取り(画像を一部加工しています)

――大きな亀裂が生まれてしまう前に、吐き出しあうことが大事だと。

菅谷:そうですね。例えば、改修に全然タッチせず、改修が終わったら遊びにくるようなメンバーがいると、他のメンバーの不満が溜まるじゃないですか。そうならないように、「最近ぜんぜん来てないじゃん!」と遠慮なく言える関係性が大事なんだと思います。お互いのことをよく知らない相手と共同購入してしまうと、将来その別荘を売る時にも揉める可能性が高くなりますからね。

――夫婦ですら離婚の際にマンションの売却で揉めることもありますしね……。

菅谷:はい。もし共同購入のデメリットがあるとすれば、所有に対しての責任が発生することでしょうか。飽きたからといって一人だけ抜けるのは、なかなか難しいので。そこは個々のモチベーションを事前にすり合わせながら、人選を慎重に検討したほうがいいと思います。

――菅谷さんご自身は、別荘の共同運営に携わるモチベーションを維持するために、何が大事だと思いますか?

菅谷別荘までの「(物理的な)距離」は結構大事かなと思います。みんなが気軽に足を運べる距離に別荘がないと、どうしても行くのが億劫になってしまいますからね。それと、モチベーションの維持という点では、仲間がいるのは大きいと思います。みんなで試行錯誤しながら何かを作ったり表現したりする達成感もあるし、自分のモチベーションが下がれば誰かが叱咤してくれる。10人もいれば、全員のモチベーションが一斉に下がるなんてことは考えにくいですからね。その時々で誰かのやる気にうまく乗せられて、また段々と楽しくなっていく。そんな持ちつ持たれつの関係がチーム全体でうまく作れれば、長く続けられるんじゃないかと思います。


別荘ライフでキャリア観も人生観も変わった

――別荘での二拠点生活を始めたことで、生活や将来に対する考え方に変化はありましたか?

菅谷:遊びで始めたことですけど、結果的に仕事やキャリアに対する考え方も変わったように感じます。例えば、誰かがDIYのアイデアを出してくれた時に、それを否定せず、実現に向けて最大限サポートする。そうすると、自分が何かを提案した時にも力になってくれる人が出てきて、いい具合に支援の循環が生まれるんです。全く的外れでなければ、誰かのやりたい思いを大事にして、チームとして実現していく。それって、仕事でも大いに生かせる考え方なんじゃないかと思います。 

――確かにそうですね。

菅谷:あと、仕事においても、会社に所属するというよりプロジェクトに参加する、という意識が強まったように感じます。言ってしまえば、別荘も一つのプロジェクトですからね。メンバーのスキルを生かして、より良いものを作っていく、という。今回の経験を通して、僕自身、アプリやサービスといったプロジェクト型の仕事にもっと携わってみたいと思いました。

――それは思わぬ収穫かもしれませんね。人生観も変わりましたか?

菅谷:そうですね。平日は東京のオフィスでデスクワークをして、休日は自然のなかで肉体労働をする。正反対の人生を並行して生きているような感覚があります。それに、どこでも生きていける自信みたいなものも生まれました。東京での生活が行き詰まったら地方にも住めるし、逆もある。そう考えたら、心にゆとりが持てるようになります。そこは、やってみて気づいた良さですね。

――まさに二重の経験を積めるわけですもんね。羨ましい限りです。別荘の共同運営を始める前にはこうした感覚は持っていなかったんですか?

菅谷:仕事にしても、プライベートにしても、以前は「二つのうち一つを選ぶしかない」という思いが強かったんですよね。住む場所は東京か地方か、今の会社か別の会社か、など。でも、仲間と別荘に住むことで、そうした二つの間の「グラデーション」が見えてきて、物事を二者択一で考えないようになりました。

――それを聞いて、「菅谷さんと同じような経験がしてみたい」と考える読者も多いと思います。でも、いざ自分もとなると、生活のスタイルがガラっと変わることに二の足を踏んでしまう人もいるかもしれませんね。

菅谷:確かに、いきなり地方移住となると大それた感じになっちゃいますけど、今住んでいる場所からそんな遠くない場所に別荘という拠点を作って行き来するだけなら、そこまでハードルは高くないと思います。住む場所も働く場所も今と変わらないわけですから。

何より自分たちだけの隠れ家を持ち、それを仲間と一緒に作り上げていくのはとても楽しいです。リスクがないといえばウソになりますが、そこを仲間と乗り越えていけるのであれば、ぜひおすすめしたいですね。

菅谷岳洋

国内最大級のキャンプメディア「hinata」を運営するvivit株式会社で新規事業部部長を務める。キャンプ用品のEC「hinataストア」やキャンプ場検索サイト「hinataスポット」を立ち上げ中。趣味は別荘のDIYとキャンプと食べ歩き。
Twitter:@sugataker

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真提供:菅谷岳洋さん

※2021年7月29日15:50ごろ、記事の一部を修正しました。

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