社会に出て数年目の間は、仕事に慣れておらず、時間の大半を仕事に費やしてしまうことも多いでしょう。その結果ワークライフバランスが崩れ、自分の趣味や好きな活動にうまく時間を割けなくなってしまうこともありそうです。
今回は会社でエンジニアとして働く傍ら、趣味で「役に立たない工作」を作り、Webメディア「デイリーポータルZ」などで発表している爲房新太朗(ためふさしんたろう)さんにインタビュー。「工作は趣味だけど、仕事と同じくらい大切なこと」と語る爲房さんに趣味と仕事の両立を伺いました。
PROFILE
バックエンドエンジニアの傍ら、趣味で役に立たないジョーク工作をする
――爲房さんが作られている「役に立たない工作」とはどんなものなのでしょうか。
いままで発表したものの中で一番反響があったのはこれですね。既製品の「黒ひげ危機一発」に改造をしたものです。センサーで海賊が飛び出すのを検知すると、モーターでアームが動き、スポンジで海賊を優しくキャッチします。
センサーやモーターなどの電子機器を使う工作を「電子工作」といいます。工作の中でも特に電子工作が好きで作り続けています。
就職してからも工作は続けていて、会社で年に一回行っている「ハッカソン」という、ものづくりのイベントにも参加しています。他にも、電子工作の祭典であるMaker Faireなどにも工作を出しています。
――爲房さんは人気Webメディア「デイリーポータルZ」でも執筆されています。きっかけはなんだったのでしょうか。
ある年のハッカソンで、会社の仲間たちと作った工作を発表しました。そのイベントにデイリーポータルZが協賛していて、賞をいただいたんです。
それがきっかけで、デイリーポータルZが主催する工作イベント「ヘボコン」などに呼んでいただけるようになり、やがてデイリーポータルZにもライターとして主に工作記事を定期的に執筆するようになりました。
――勤務されている会社では工作やライターとは関係ない仕事をされているとお伺いしています。
会社ではWebシステムのサーバーサイドの開発をしています。利用者からは見えない、いわゆるバックエンドと言われる分野ですね。
最近では開発だけではなく、マネージャーとして動くことも多くなってきました。システムの仕様を作ったり、開発のスケジュールを決めたりしています。入社して10年目になり、新入社員のメンターなどをする機会もあります。
方向性の違うことをやっていくのがかっこいい
――趣味である「役にも立たない工作」と仕事の「バックエンドのエンジニア」は、まるで正反対のように聞こえます。爲房さんは趣味と仕事をどのようにとらえていますか。工作はあくまでも趣味ですが、僕にとっては仕事と同じくらい大切なことですね。
趣味の役に立たない工作では、人が見て面白い「ウケ狙い」みたいなことを考えるのが好きです。会社で作っているシステムでは、「面白さ」を入れるようなことはなく、普通に人の役に立つシステムです。
こんなふうに、仕事でやりたいことと、趣味でやりたいことの方向性は違っていて、方向性の違うことをそれぞれきっちりやりたいという気持ちがあります。役に立つことだけでも、面白いことだけでも、自分の中ではちょっと物足りなく感じてしまうんです。
趣味と仕事が何かしらつながっている人もいると思いますが、僕の場合はまったく別のことをしているという意識で、それぞれを無理につなげることなく両方を独立して進めていくのが好きです。
――なぜ「方向性の違うことをやっていきたい」と思うようになったのでしょうか。
僕が大学生の時、インターネット上でニコニコ動画が流行していました。そこでは技術を使って面白いものを作っている人たちがたくさんいたんです。彼らは尊敬の念を込めて「技術のむだ遣い」と言われています。
いま僕が参加しているデイリーポータルZにもそういったライターが数多くいますし、面白メディアとして有名な「オモコロ」にもいます。最近だとTwitterで発信している人も多いですね。
そういった人たちの姿を見て「面白いこともできます」って言えるのがかっこいい、というイメージが僕の中にできてきました。それがずっと続いていますね。
趣味に「締め切り」を設けることで、うまく趣味に没頭できる
――趣味と仕事の両立で悩んだことはありますか?
ここ1年ほどは仕事が忙しくて、単純に趣味の時間を確保するのが難しくなってきています。特に面白いことを考えるのって、気持ちにも時間にも余裕がないと難しいです。
また、僕は工作するだけでなく、デイリーポータルZに定期的に記事を書くことになっています。工作をして、原稿にする……といったことを継続するのは、しんどく感じることもあります。
ただ、面白いことをして発表するのはすごく好きなんです。面白いことをしなくなれば、たしかにしんどさはなくなるかもしれませんが、そこはなんとしても面白いことをやる余裕が欲しいですよね。
工作で面白いことをやる場合は他に誰もやっていないものを作ることが多いので、工作が完成した時に「世界のどこにもない、役に立たない面白いものができた!」という気持ちになるのがたまらないですね。それが楽しくてやめられないです。
それに、締め切りがあるからこそ、そこに向けて工作をがんばれます。なんとか締め切りに間に合わせて、次の工作に取りかかれます。デイリーポータルZの締め切りがなかったら、おそらく工作自体をやらなくなってしまっていたでしょうね。
――大変そうに聞こえましたが、時間がないからこそ締め切りが重要なんですね。
そうですね。僕の場合は原稿の締め切りですが、そうでなくとも趣味には何らかの区切りを設けておいたほうがいいと思います。例えば「ここまでやったらSNSにアップしよう」とか。
趣味に締め切りを設ければ、ダラダラと続けてしまうことがなくなり、かえって没頭できるんです。趣味の時間を明確にすることで仕事にも影響しないようにできます。
……そうは言っても、どうしても忙しくて趣味の時間が取れないこともあります。実は、つい最近そんな状態になってしまいまして(笑)。そこで、デイリーポータルZには、工作をしないで、自分の思い出で構成する記事を1本書きました。
この記事自体は好評だったのですが、こういうことはあまりしたくはなくて。やはり僕は趣味と仕事が両方あってバランスが取れるタイプなので、デイリーポータルZで僕が工作していなかったり、休載が続いたら、それは相当大変な時です(笑)。ある意味、趣味がいまの自分自身の状態を測るバロメーターとしても機能しているかもしれません。
自分の時間を作るスケジューリングも仕事のうち
――趣味と仕事を両立させるために行った読者もマネできる具体的なアクションを、教えていただけるでしょうか。
仕事を可能な限り早く終わらせて、趣味の時間にするという、メリハリをつける意識が必要ですよね。僕は仕事をきっちりスケジューリングして、自分の時間を作るのも、仕事のうちだと思っています。
例えば、働き出して何年か経つと、有給休暇っていつの間にか取らなくなっていませんか。実は、漫然と長時間労働をして、有休も取らないでいるほうが仕事においてラクだと思うんです。毎日の流れを変えないで済みますから。
がんばって休むようにすることで仕事にもメリハリがつきますし、日々の趣味にも打ち込むことができるのではないでしょうか。なかなか大変なことではあるのですが、僕もできるだけそうできるように心掛けています。
(MEETS CAREER編集部)