俳優/安藤玉恵 | 何か違う。その直感が新たな道へ誘ってくれた

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優 安藤玉恵さん

映画、ドラマ、舞台と大活躍の俳優・安藤玉恵さん。名バイプレーヤーであるがゆえ、同時に複数の役を抱えることも多い。でもそんな時、演じる役が他の役に引っ張られることもたまにあるという。「だけど、年々ごまかすのが上手になっているので大丈夫(笑)」とさらり。
また、俳優のキャリアは20年以上を誇るが、今でも学生時代と同様、出演が決まって、受け取った台本を読み始める時が一番好きだと語る。
今回はそんな安藤さんに、仕事観や現場で心掛けていることなどを伺った。

Profile

あんどう・たまえ/1976年東京都生まれ。早稲田大学在学中に俳優としての活動を開始。2021年はNHKのドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」で注目を浴びる。22年9月9日(金)から東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演予定の舞台「阿修羅のごとく」に出演。

「尊敬する木野花さんの演出で向田邦子作品の舞台、と聞いた瞬間、やりたいです!と返事をしていました」。満面の笑みで安藤さんが話すのは、2022年9月9日(金)から東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演予定の舞台「阿修羅のごとく」のことだ。ままならない現状を右往左往しながらも正直に生きる、ある四姉妹の物語。

「私は三女役で、長女を小泉今日子さん、次女を小林聡美さん、四女を夏帆さんが演じます。姉妹ってこんなにもえぐり合うものなのかと思うほど辛辣(しんらつ)なバトルもありますが、そこからそれぞれが抱える心の現実が浮かび上がってきます。基本的には人間賛歌の喜劇。笑って楽しんで頂けたらうれしいです」

実家は東京下町の老舗とんかつ屋。安藤さんは3歳から店の手伝いをしていたという。「父は独学ですが英語を話せたので、外国人のお客さんが多かったです。近くにあった環境団体の人たちも通って来てくれていて、環境問題の話をよく聞いていたので自然に興味を持つようになり、小学校高学年の頃には外交官になるのが目標になっていました」

そのため猛勉強し、上智大学外国語学部へ入学。しかし半年で退学を決める。「理由は自分でも正直よく分からなかった。ただ、何か違う、ここじゃない、と思ったんです」

俳優 安藤玉恵さん

そして翌年、早稲田大学へ再入学。外交官の夢は諦めたが、次に何をしたいかを見つけたわけでもなかった。そんな中、同級生が誘ってくれた早稲田大学演劇倶楽部というサークルに入る。「今大活躍の俳優、小手伸也さんがそこの二つ上の先輩で、現在とほぼ変わらぬ容姿で衝撃的に面白かった。小手さんに会いたくて発声や筋トレ、芝居の稽古に参加するようになり、どんどん芝居にハマっていきました」

演じるだけでなく舞台監督や演出助手も務め、学内で自主映画を撮っている先輩の作品にも出演した。そんな芝居ざんまいの日々は卒業後も続く。「アルバイトをしながら仲間と劇団を作り、演劇を続けました。当時は将来のことより、まずは自分たちの舞台の動員を上げることが第一の目標でした」

転機となったのは27歳の時。舞台を観(み)てくれた廣木隆一監督から声をかけられ、映画『ヴァイブレータ』に出演することになったのだ。その際、監督が「ちゃんと俳優をやりなさい」と現在所属する芸能事務所を紹介してくれた。「そうして色々な映像作品に出して頂けるようになりました。そこからです、ようやく学生気分から抜け出し、俳優をやっていくんだという意識を強く持つようになったのは」

対話して相手を知る。そうして仕事をしやすく

俳優 安藤玉恵さん

21年、ドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」に出演。お笑いコンビ、阿佐ヶ谷姉妹の木村美穂さんを演じ、「本物そっくり」と話題を呼んだ俳優の安藤さん。どんな個性的な役でもリアリティーを感じさせ、印象を残している。そんな安藤さんがプロとして初めて、これは試練だと意識したのは28歳の時に出演した映画『松ヶ根乱射事件』だったという。

「それまでは学生仲間で演劇をやっていたというのもあり、自分に当て書きされた役を演じることが多かった。でも、この作品で与えられた役は今までに出会ったことのない女性。この役を成立させるにはどうしたらいいのか、どうアプローチすればいいのか。とことん自分で掘り下げ、こういうことかなというところまで本気で考え抜いたのは初めてでした。俳優という仕事は感覚だけではできないということを知り、それ以来、まず役と向き合い、じっくり考えるようになりました」

こうした試練のようなものは俳優人生の中でよく訪れるという。最近では19年に出演した松尾スズキさんの作・演出舞台「命、ギガ長ス」だ。「二人芝居で、しかも私は二役を演じるということもあり、初日までこれでいいのかとずっと悩みました。でも結果的にこの作品で悩み抜いたことは、これから芝居をやっていく上で私の根幹になるはずだと確信するほど貴重な経験となりました」

すでに俳優としてのキャリアは20年以上。今なお映画やドラマ、舞台と数々の作品から引っ張りだこ。掛け持ちになることも多い。しかし、どんな現場でも大切にしているのは監督や演出家と対話することだという。「たとえ一話だけ出演するドラマでも、私なりのその作品の解釈から全く関係ない雑談まで色々と話すようにしています。監督の人となりや空気感を把握できるからです。特に初対面の方ほど話しかけます。監督との距離の取り方がつかめると、私はすごく芝居がしやすくなるんです」

また、学生時代から実践しているのは「この人が作る作品が好きだ」と思ったら、そのことを伝えること。22年9月に出演予定の舞台「阿修羅のごとく」で演出を手掛ける木野花さんには手紙を出したそうだ。「何年も前から木野さんが演出する舞台に出たかったので、今回お話を頂いて、私のやる気を伝えるべくお手紙を書きました。以前、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演させてもらった時も、宮藤官九郎さんの脚本が大好きだったから絶対に出たいと周囲に公言していました。自分の気持ちを伝えることが自分のやりたいことに近づく一歩になると思います」

ヘアメイク:大和田一美(APREA)
スタイリング:salon de GAUCHO(Kei)

ヒーローへの3つの質問

俳優 安藤玉恵さん

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

どんなお店でもいいので接客をしたいです。あるいは、子どもの頃から憧れていた外交官でしょうか。今でも、ボランティア団体の活動リポートなどを読むと心が動きます。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

夏目漱石の『こころ』です。「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉が出てくるのですが、高校時代、勉強はできなくても心を鍛えておかなければいけないんだと思ったのを記憶しています。今はまた捉え方が違ってきていますが、この本だけは何度も読み返しますね。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

大事なことがある日の前日は早く寝ます。そのために銭湯へ行って体を温めたりすることもあります。

Information

舞台「阿修羅のごとく」に出演!

1970年代、ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」など数々の話題作を生み出した、昭和を代表する脚本家・向田邦子さん。中でも代表作と言われる「阿修羅のごとく」は、79年のドラマオンエア当時、鮮烈な印象を視聴者に残し、その後、再放送の度にファンを増やしていった名作だ。映画でリメイクされ、舞台化もされている。今回、その「阿修羅のごとく」がモチロンプロデュースの舞台として、2022年9月9日(金)~10月2日(日)に東京・三軒茶屋のシアタートラムにて上演される予定だ。ドラマのセリフはほぼそのままに、シーンと登場人物を大幅にカットして、“四姉妹のバトル”に焦点を当てた作品となっている。出演する安藤玉恵さんは「台本に活気があってセクシーなんです。セリフはもちろんいいんですが、こうくるかといった驚きもあり、一言一言から一人ひとりの心の機微が伝わってくる内容となっています」と語る。四姉妹を演じる小泉今日子さん、小林聡美さん、夏帆さんたちと共に、安藤さんがどんな“阿修羅”を見せてくれるか。出演は他に岩井秀人さん、山崎一さん。脚色:倉持裕さん、演出:木野花さん。

公式サイト:https://otonakeikaku.net/2022_asyura/
※兵庫公演も予定(10月8日〈土〉~10日〈月・祝〉)。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/255/