社会人にとって大切な、毎月の給与・報酬。趣味や娯楽に使えるお金が増える一方で、「今月も使いすぎてしまった」「このまま働いていて、将来のための蓄えはできるのかな?」など、悩みや不安を持つ人も少なくありません。
そこで今回は、元国税局の職員にしてお笑い芸人のさんきゅう倉田さんにインタビュー。さんきゅう倉田さんは経歴を生かして、「税金」や「お金」のネタを数多く披露しています。そんな倉田さんに社会人としてどんなふうにお金と向き合っていけばよいのか、ご自身の経験を交えて話していただきました。
PROFILE
楽しいことをしたほうがお金は稼げる
――国税局員からお笑い芸人に転身した経緯を教えていただけますでしょうか。新卒で就職したのは国税局でしたが、学生の頃はお金にまったく興味がありませんでした。税金の勉強をしていたというわけでもないですね。国税局に入った理由は「国家公務員になりたかったから」、そして「細かい計算が好きだから」。そのくらいです。
国税局で行っていたのは税務調査です。これは、国から与えられた特別な権限を使って行う、とても専門的な仕事になります。業務はとても面白かったのですが、仕事をしている途中にふとした直感で「お笑い芸人のほうがもっと面白そう」と思ってしまったんです。
2年1カ月間働いた国税局を辞めて、NSC(吉本総合芸能学院)に入りました。その時点で「お笑いでやっていける」という自負のようなものがあったわけではありません。勢いですね。
――国税局からお笑い芸人になるというのは、金銭的にもかなり大きな変化だったと思います。仕事をするうえで倉田さんはお金とどう向き合っていますか?
基本的に、楽しい仕事をしたほうがお金は稼げると思うんです。楽しいことや好きな仕事をしていると、自然に勉強するし、向上心が出てきます。自分の能力が伸びていきやすいということになりますよね。つらい仕事よりも、楽しい仕事や好きな仕事をするべきです。
僕は、芸人になって3年目くらいの時に先輩から「国税局に勤めていたなら、お金の話をネタでももっと出したほうがいいよ」と言われたんです。ただ、国税局に勤めていた当時はそこまでお金の知識があったわけではありませんでした。
改めてお金の勉強をしてネタにしてみたら、お客さんからの反応がものすごくいい。お金の勉強をするのがすごく好きになりました。勉強や情報収集はずっと続けているので、現在では国税局で働いている時よりもずっとお金の知識がついています。これは好きじゃないとできないことですよね。
その結果、ネタの中にお金の話を入れるだけでなく、お金や税金に関するコラムや本を執筆するという仕事も依頼されています。好きなことでこんなふうに能力を伸ばして収入を得ることができるんです。僕は芸人だから特殊な例に聞こえるかもしれませんが、会社員でも原則は同じだと思いますよ。
そしてもう一つ、お金と向き合うためには時間の感覚もしっかり持つべきだと思います。いろいろなお金持ちと話をする機会があるのですが、彼らは時間をとても大切にしている人が多いです。それは自分が1時間でいくら稼げるかという「価値」を理解しているから。
時間をお金に変換して考えると、仕事や生活で何かをする時の判断基準の一つとして使えるようになります。例えば、「お金を節約しようとして、安売りをしている遠くのスーパーに買い物に行く」ということをする。でもそれは、時間をかけてまで得られる節約効果とみあっていないかもしれませんよ。
お金の制度や基礎的な知識を取り入れる
――お金の知識が以前より増えたということで、YouTubeや書籍で税金に関する情報を発信しておられるのをよく見かけます。例えば若手の会社員に関連しそうな税金の制度はあるでしょうか。
会社員という属性や年齢を考えると「会社員でも経費にできる特定支出控除」や「配偶者控除の適用基準日」がありそうです。
2021年時点での概要だけを軽くお話ししますので、詳しくは国税庁のホームページなどを参考にしてくださいね。
まず特定支出控除についてです。仕事に関係する支出を税法上の経費にできるのは、フリーランスなどの個人事業主に限られると思われがちですが、実は会社員でも経費にできるんです。ただし要件は厳しく、金額が給与所得金額の2分の1以上である必要があるので、よほど仕事で経費を使うシーンが多い人に限られそうではあります。
続いて身近なライフイベントに関連するものとして配偶者控除の適用基準日も紹介しておきます。一定の所得金額以下の配偶者と結婚すると控除を受けられるという制度です。この制度は12月31日の時点で結婚している場合に、その年の控除を受けることができます。つまりその年に1日でも夫婦ならいいんです。例えば、「1月1日」に入籍しようと思っているカップルは、1日前日に入籍するだけで払う税金が安くなります。
ただ、いずれも無理してまで活用する必要はないと思っています。先ほどのとおり時間を考えることが重要ですし、入籍日などは記念の日ですしね。こういったシーンと向き合うことがあった時に、そういえばと思い出し、「本当に必要か?」を考えて取捨選択するのが大事と思います。
――実際に活用するかはさておき、ちょっとした情報でも知っているか否かだけで選択肢が増えそうですね。ただ、もう少し大きい視点で「将来のための備え」に漠然と不安を持っている人は多そうです。倉田さんはお金にまつわる将来設計をどのように考えていますか。
「ミーツキャリア」の読者は社会人2〜3年目で会社勤めをしている人だと聞いています。そうした若い人は基本的に将来のお金の計画を立てる必要はないのではないでしょうか。というのも、お金の計画は、結婚や出産などの大きなお金がかかるライフイベントがある程度見えてこないとしづらいからです。
僕自身も、ファイナンシャルプランナーの資格を持っているのですが、細かいお金の計画は立てていません。まだ結婚する予定はないし、自分自身のライフイベントが見えていない状況ですから。ただ、ライフイベントがまだ見えていない人でも「漠然とした不安」を抱えている人はいるかもしれませんね。
そういった方は「ファイナンシャルプランナー3級」のテキストを読んでみてください。お金に対する初歩的な知識がまとまっていて、そこまで難しくありません。試験を受けなくても、内容を読んで理解するだけで十分です。
例えば、社会人になると保険のことを自分で管理しないといけなくなりますよね。ただ正直いろいろあってよく分からないという人もいるんじゃないかなと。そんな時に保険の仕組みや用語などについて、きちんと理解ができるようになります。そうすれば初めて自分に必要なものかどうかが正しく判断できると思います。
ライフイベントも老後まではなかなかイメージがつかないかもしれませんが、お金まわりの基礎的なところが分かれば、「家庭を持つとどうなるか?」など徐々に身近なところからイメージがついてくると思います。ファイナンシャルプランナー3級は「お金まわりの基本の知識」を学ぶにはちょうどいいんですよね。
「2つの口座」と「週ごとの予算」で貯金がしやすくなる
――お金の知識がつき将来設計のイメージも少しずつついてくると、どうしても貯金のことが気になってきそうです。貯金ができるようになる工夫はあるでしょうか?
「生活用」と「貯蓄用」の2つの銀行口座を持つのをおすすめします。貯蓄用の口座に毎月一定額でお金が引き落とされるようにする。実際に僕が国税局の職員だったときは、そうしていました。
もう一つ、僕の生活が一番苦しかった時は、月の収入が15万円くらいで、家賃が5万3,000円でした。仕事に力を入れたくて、劇場から近いアパートに住んでいたんです。
その時は、週ごとに予算を作って生活をしていました。収入から、家賃などの固定費を引いた金額を4で割って、「1週間に使える金額」とします。こうすることで支出はかなりコントロールしやすくなります。この結果、支出が収入を超えなかったので、この時でも貯金は微増していました。
以上は、単純なルールだと思うのですが、誰にでもできるというわけではないですね。僕は借金を抱えている人の相談に乗ることがあります。その時に「借金はどれくらいあるんですか?」と聞くと、みんなはっきりした額を答えられないんです。
「カードローン2社分と、銀行のキャッシングがあるから……。多分合計100万円はあるんじゃないか」そんな感じです。つまりお金が足りなくなってしまう人は、お金の動きを把握していないんです。だから自分の収入よりも多く使ってしまい、借金をしてしまうのでしょう。
――お金の動きを把握するために、管理方法が重要だと感じました。倉田さんが普段行っているお金の管理方法について教えてください。
おすすめはスマートフォンの家計簿アプリです。クレジットカードや銀行口座と連携して、自動でお金の動きが反映されるようになります。ちなみに僕は「マネーツリー」というアプリを使っています。
いくつか試しに使ってみたのですが、これが一番分かりやすいですね。家計簿アプリの中には多機能で画面が煩雑なものもあるのですが、マネーツリーは自分が見ている画面が「何を表し、どんな管理をするためのものか」が直感的に分かりやすいんです。
また、できるだけキャッシュレス決済を使って、ATMからお金を下ろす回数を減らしていきましょう。ATMからお金を下ろすのって手数料もかかりますし、手間ですよね。僕は今年まだ一度も銀行から現金を下ろしていません(2021年10月)。今年は冠婚葬祭などの現金が必要なイベントがなかったこともありますが……。
お金に対するリテラシーを身に付けると、日々の支出や行動も自然と変わるはずです。不安にかられて、焦りを感じるようなことも少なくなるのではないでしょうか。
将来が漠然と不安なら、将来のマネープランをFPと一緒にたててみよう!
(MEETS CAREER編集部)