副業の漫画が心の柱になった。“ポンコツAD”だった真船佳奈さんが自分だけの仕事を見つけるまで

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<プロフィール>
真船佳奈。1989年福島県生まれ。2012年株式会社テレビ東京に入社。アニメ事業部勤務を経て、入社3年目で制作局に異動。バラエティ番組のADを経験し、『テレ東音楽祭』チーフAD、『ひるソン!』『昼めし旅』などのディレクターを担当。番組内の挿絵やキャラクターデザインも手がける。2017年10月にAD時代の経験を漫画化した『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます』(朝日新聞出版)を上梓。現在は編成部で番組編成に従事している。


働き始めて数年が経つと、希望していた部署での勤務が叶ったり、新たな職務を与えられたり、変化を経験することも増えてきます。しかし、いざそこでの仕事に取り組んでみると、理想と現実のギャップに自信を失うことも少なくありません。また、同僚との違いに焦りを覚えることも増えてくると思います。

テレビ局で働く真船佳奈さんは、2014年に念願の制作局への異動が叶うも、自らの「ポンコツぶり」に自信を喪失。一時は会社をやめたいとまで考えることもあったといいます。

しかし、当初は趣味で描いていた漫画を2017年に『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます』として出版。徐々に自信も回復し、副業の経験が本業にも生きるなど、状況が好転していったと語ります。

幼少期から絵を描くのが好きだったという真船さんは、どのように自らの「個性」を生かし、居場所を見つけたのか。話を伺いました。

会社員をやりながら、副業で月100ページの漫画を描く日々

――真船さんはテレビ局で会社員として勤務しつつ、2017年からは漫画家としても活動されているんですよね。まずは、それぞれのお仕事の内容を教えてください。

真船佳奈さん(以下、真船):2012年に新卒でテレビ東京に入社して、3年目から制作局でADの仕事を3年ほどしていました。2017年からはBSテレビ東京に出向し、今は編成局というところで番組の骨組みを作るような仕事をしています。どんな番組を何時に放送するか考えたり、特番の企画を選んだり、どちらかというと現場で働いている方々のサポートにあたる業務ですね。

漫画家としては、制作局でのAD時代の経験を描いたエッセイ漫画『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます』で2017年にデビューし、続編を含む2冊の本を出版したり、Webで漫画やエッセイの連載をしたりしてきました。いまはちょうど次の連載の準備をしているのと、5月ごろにはもう1冊本が出る予定です。最近は漫画を1日1本描き下ろしてブログやSNSにアップするというのを決めているので、多い時は月に100ページ近く漫画を描いています

――月に100ページ! 凄まじい量ですが、どのように時間をやりくりされてるんでしょう?

真船:月にそれだけ描いていると言うと、めちゃくちゃできる社会人みたいに思われちゃうんですけど(笑)。

大事にしているのは、どっちみち無駄にしていたような時間を副業にあてることです。例えば、通勤電車などのスキマ時間やランチの時間。今はだいたい行き帰りの時間にiPadで色塗りをして、昼休みに漫画を描くようにしているので、うまくいくと本業の隙間に2時間くらいは作業できるんですよ。

会社を出るのは18時〜19時くらいで、帰宅してからはゴロゴロしつつ、お風呂の時間に漫画のSNS投稿などを準備します。夫は帰りが遅いので22時頃に一緒に晩ごはんを食べて、寝る前にアプリを使って写植やコマ割りのような単純な作業を少ししつつ、1時くらいまでには絶対寝る、というのがおおまかなルーティーンです。

ブログやSNSにアップする漫画は基本的にネーム(大まかなコマ割りやキャラクターの配置を記した下書き)を書かずに思いついたまま描いているんですが、連載などの作品はそういうわけにもいかないので、土日のどちらかでネームを考えたり平日できなかった作業をする、という形にしています。

――かなりストイックに時間を区切ってお仕事をされてるんですね。

真船:ただ、睡眠時間を削ったりはしていませんし、土日もどちらかは休んで夫と過ごすというのもルールにしています。私にとって漫画を描くことは自分を好きになるためにやっていることなので、無理はせず副業をしようをモットーに続けている感じですね。

「もう真船には任せられない」自信を失ったAD時代

――今は2つの仕事を両立されている真船さんですが、ADとして働き始めた当初は、ご自分のことを「ポンコツ」と感じていたともお聞きしました。

真船:AD時代のことは、もはやあんまり覚えてないんですけど(笑)。働き始めた当初は、テレビ局員って「面白そうだからやっちゃおうぜ!」みたいな、とにかくアイデアを出すのが好きで瞬発力のある人が多いのかなと思ってたんです。自分自身、わりと思いつきで行動するタイプなので、勝手に性格的にも合ってるのかなと。ただ、実際にADに求められるのって緻密な作業気遣いなんですよね。私にはそういうものが致命的になくて……。

――ADって、もっと突発的なオーダーに答えるお仕事なのかと思っていました。漫画の中でも描かれていましたが、「明日までにどんぐり100個集めてきて」と無茶ぶりをされたりするような。

真船:あ、もちろんそういう仕事もありますよ! 私はむしろ、そういう変な仕事にはそこまで苦手意識はなかったんです(笑)。でも、突発的なオーダーに応えられたところで、いちばん大事な放送の根幹に関わるところでミスをするADにはやっぱり安心して仕事を任せてもらえないんですよね。

『恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。』ページカット
『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます』]
(C)テレビ東京/朝日新聞出版

番組の放送スケジュールを1枚作るにしても、私は必ず計算ミスをしてしまうんです。例えば歌番組の生放送の場合、この曲を何時から何時まで放送するという緻密なタイムスケジュールがあって、当時は私がそれを作っていたんですけど、本番の前夜にそれが実際の放送時間から10分くらいずれているのに気づいたことがあって……。

――生放送前夜に! 聞いているだけで冷や汗が出そうです……。

真船:「もう真船には任せられない」という雰囲気になって、偉い人たちがたくさん会議室に集まって計算をやり直し始めたんですよ。「この曲の尺は◯分だから……」って(笑)。それくらい緻密な作業はできないし、ほかにも演者さんへの細かい気遣いがうまくできなかったりとか……。

日に日にテレビの仕事って本当に丁寧な作業の積み重ねなんだなというのが分かってきて、「自分はなんてポンコツなんだ、向いてないんだな……」と自信を失い、毎日悩みました。しかも、当時は若くて「自分しかできない仕事をしたい」っていう気持ちも強くあったので、もういっそのこと会社を辞めようかなと思ったりとか。

――それはつらいですよね……。漫画を描き始めたのは、その頃ですか。

真船:そうですね、2016年頃だと思います。最初は趣味がほしいと思って、軽い気持ちでFacebookに漫画をアップし始めたんです。もともとテレビを見ながら絵を描いたりするのは好きだったんですけど、甥っ子が生まれたのをきっかけに、「甥っ子ってなんて可愛いんだろう」みたいな誰も傷つかない漫画を描いてみようと思って(笑)。そうしたら、意外とみんな面白がってくれたんです。

――漫画の描き方は、どこかで勉強されたりしたんですか?

真船:全然してないです。ただ、絵を描くこと自体は子どもの頃から好きだったので、社会人になりたてのときに大人の絵画教室みたいなところに通って、すこしだけ習った経験はありました。

それと、小さい頃から母親が何冊もスケッチブックを買ってくれたり、高校の時にテスト用紙の裏に描いた絵に花丸を付けてくれたりする先生に囲まれて育ってきたので(笑)、絵を通してであれば自分の伝えたいことを面白く伝えられるな、という実感はなんとなくあったんです。長年、絵を描くのはいちばんのストレス解消の手段でもあったし。

それで、その漫画を続編とあわせてnoteとTwitterにアップしてみたら、元テレ東の先輩・佐久間宣行さん(バラエティ番組『ゴッドタン』などのプロデューサー)が見つけてくれて「あれ、漫画描いてるの?」と。そのあと、佐久間さんから「ADの漫画も書いてみたら?」とアドバイスがあり、すでに落書き程度に書いていた漫画を送ったところ、そこから佐久間さんのTwitterを通じていろんな人が作品を見てくださり、あれよあれよという間にテレ東を舞台にした漫画でデビューが決まったんです。

副業が本業の「自分にしかできない仕事」につながった

――今年で漫画家デビューされてから4年ですよね。漫画家として活動されるようになって、本業に対するスタンスや精神面など、変化を感じていることはありますか?

真船:社会人として……というか制作局においては特に、キャラ立ちすることがすごく大事だという実感があって。テレビって本当に職人の世界というか、ストイックに面白いものを作る人が尊敬される世界なんですね。特徴や個性がないと先輩やお仕事相手の方とそもそも交流が持てないし、信頼関係も築けないことが多いと思うんです。

そんななかで、いままでは私のキャラって仕事ができないみたいな負のイメージだけだったと思うんですけど(笑)、漫画家デビューしたことでひとつキャラとして立つものができたのかな、とは思います。

意外と同じ局内でも、作っている番組が違うと交流する機会の少ない人も多いんですが、特に尊敬している先輩たちから「漫画、面白いね」って認めてもらえたのはかなり自信につながりましたね。私もまるっきりダメなんじゃなくて、こんなに面白いものを作ってる先輩たちに面白がってもらえるようなものを作れる力を持ってたんだな、と。

AD時代の真船さんの写真
AD時代の真船さん

――その成功体験は、すごく自信につながりますよね。その後も、本業の影響はありましたか。

真船:そうですね、漫画を通じて自己実現の場を持てたことがやっぱり大きいです。テレビ番組って本当にチームで作るものなので、編成局に移ったいまも、「私はこの中できちんと自分の役割を果たせているのか?」みたいな不安を持つことはあって。でも、今はその不安はある程度副業で解消できていますし、本業においても、局のPRイラストやキャラデザイン、SNS用のイラストを描く仕事などを依頼してもらえるようになったんです。

分かりやすく面白くなにかを伝える、ということは漫画の仕事を通じて鍛えられたので、本業でもそういった仕事には自信を持って、自分にしかできない仕事だという気持ちで取り組めるようになりました。実績を積み重ねることで「じゃあこれも真船にやらせてみようよ」という機会も増えていくと思うので、最近は副業で頑張ってきた経験がいますべて本業に生かせているな、と感じています。

あと、プライベートでも人脈が広がりましたね。「漫画家やってます」と言うとちょっとした食事の場でもみんな興味を持ってくれるし、去年からは本格的に漫画を勉強しようと思って漫画の学校に通い始めたので、漫画家さんのお友達もできました。だから例えば今後、本業で「誰か面白い漫画家さんいない?」って聞かれたら紹介できるんですよ。それも副業が生んでくれたひとつの強みなのかなと思います。

「月~金お昼のソングショー ひるソン!」マスコットキャラクターの「ロマンスグレーひろし」と、小学生アシスタント「かなで」と真船さんの写真
真船さんがデザインした「月~金お昼のソングショー ひるソン!」マスコットキャラクターの「ロマンスグレーひろし」と、小学生アシスタント「かなで」

――逆に、副業を始めたことで感じている大変さやデメリットなどはありますか?

真船:いまは本業と副業をいいバランスでできているし、ありがたいことにテレ東には先輩たちのおかげもあって「エンタメとしていずれなにかを還元してくれるはず」と副業を応援してくれる空気がすでに浸透しているので、とてもいい環境で仕事をできているなと思います。

ただ、副業を始めた当初は悩むこともありましたね……。誰にもそんなことは言われなかったんですけど、仕事で絵を描いてほしいという依頼がきても、「会社でiPadを開いて絵を描いてるところを見られたら、同僚に調子に乗ってるって思われるかも」みたいな気持ちがあって、やたらコソコソ作業をしたりしていたし。

いまは上長にしっかり確認をしたうえで、業務だからと認められたことは堂々と自分の席でしてるんですが、もし本業で手を抜いたら「副業だけにしたほうがいいんじゃないの」って思われる可能性は常にあると思っているので、当然ですが精いっぱい仕事には臨んでいます。個人的には、副業を始める前よりも「この企画は絶対面白い!」というのを自信を持って伝えられるようになったとも感じています。

趣味の分野なら会社で1番になることもできる

――真船さんの場合は、もともとご自身が持っていた「絵を描く」という個性がキャリアを切り開くことにつながっていると思います。ただ、そもそも自分の強みが何か分からない、という人も少なくないと思います。

真船:結局いちばん強くて誰も否定できないのは、「これがすごく好き」という気持ちなのかなと思います。例えばラーメンについてはすごく詳しいし誰よりも好き、という人がいたら、それだけで個性になりますよね。だからまずは自分が人よりも好きな分野を見つけて、極めてやる、という気持ちでいつもよりそれに時間を注いでみる。その知識や感想を言語化できるようになったら、社内でも一目置かれるんじゃないかと思います。趣味のような分野では、世界1位にはなれなくても、会社1位って意外となれちゃうと思うんですよね。

――確かに社内で1番であれば、目指すことができそうです。それと、真船さんにとっての佐久間さんのように、周囲の人に見つけてもらうことも重要ですよね。

真船:そうですね。面白いことをしていれば、自分から発信しなくても周りが勝手に見つけてくれる……なんてことはたぶんなくて。「フッ、おもしれー女」みたいなことは現実では起こらないんですよ(笑)

私の漫画が佐久間さんの目に留まったのも、noteに漫画を載せたことがきっかけでしたし、その際にめちゃくちゃ勇気を出して「ぜひ先輩のアカウントで発信してください!」と言ったのも覚えてるんです。もしそのときに「人に見せられるようなレベルじゃないので……」とか言っていたら、佐久間さんも気にかけてくれなかったんじゃないかとは思いますね。

副業や趣味で心の柱を増やせば、人は強くなれる

――最後に、真船さんの今後のキャリアプランについてお聞きしたいです。これからも、あくまでテレビ局員は本業、漫画家は副業として続けていかれる予定ですか?

真船:本業と副業、という形でここまでお話をしてきたんですが、最近はそのふたつの線引きをそんなに意識していないんです。実は今度私の漫画がテレ東でアニメ化するんですが、そうなるともう本業と副業もないというか、自分を構成している要素としてはどちらも半々だなと思っています。だからいまは、テレビ局員兼漫画家というのをひとつの仕事にしていきたいなと。

開局50周年を機に誕生したテレビ東京のキャラクター「ナナナ」と真船さんの写真
開局50周年を機に誕生したテレビ東京のキャラクター「ナナナ」との一枚

――では会社員を辞めて独立する、という選択肢はあまり考えられないですか?

真船:一時期、漫画を描く時間がもっと欲しくなって独立が頭にちらついたときもあったんですが、いまの自分の漫画の大半は、テレビ局で面白いものに日常的に触れている環境だからこそ生まれているものだと気づいて。「どうせ真船さん会社辞めて漫画家になっちゃうんでしょ」ってたまに言われるんですけど、私はたぶんどっちかだけだと満足できないので、独立というのはいまのところ考えていないですね。どっちも楽しいからどっちも続けたいな、と思っています。この変な二足のわらじを履いてる人はいまのところ私しかいないので。

――これまでお話をお伺いして、本業以外にも軸を見つけることが仕事において自信を身に付けるうえで非常に重要だなと感じました。

真船:そうですね。いざとなったらテレ東をクビになってもどうにか食べていけるだけの道は見つけられた、とは自分でも思います(笑)。就活の時にも感じたことなんですが、「この会社に落ちたらもうほかがない……!」と思い込んでしまうと不思議と落ちるんですよね。前に「私はほかの会社にも入れるけど、ここでとらないともったいないと思いますけど?」みたいな気持ちで行けってアドバイスされたことがあるんですけど、そういう余裕が生まれた瞬間にうまくいくことってたしかにたくさんあるよな、と思います。

ほかにもやれることがあるなかで私はこの仕事を選んでしているんだ、と思えると自信がつくし、副業って生きていくうえでのそういう柱になりうるなって。1本の柱を頑張って太くしていくのもいいけど、2本の柱があったらそれだけで強いじゃないですか。人生を通じてそういう心の柱みたいなものを増やしていけると、どんどん人は強くなれるんじゃないかなと思います。

【リリース・出演情報】

真船さんが原作を務めるTVアニメ「オンエアできない!」の放送が、BSテレ東・テレビ東京ほかで2022年1月放送スタート!!

公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/anime/oadekinai/

取材・文:生湯葉シホ

個性の磨き方や、会社での居場所の作り方に悩んだら