こうして私の仕事はホームパーティーになった。ある会社員が実践した、副業でキャリアを作る戦略

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<プロフィール>
村上あゆ美。1985年生まれ。高校卒業後、アメリカの大学に進学し、Restaurant Management学部を卒業。帰国後、レストラン運営企業で勤務。転職サイトの営業職を経て、2018年よりスナップマート株式会社にて営業職に従事。2014年より副業で「ホームパーティープランナー」としての活動を開始し、現在は本業・副業を通じていいモノ・コト・ヒトにスポットライトを当て続けている。


働き方の変化に伴って副業が身近になるなか、自分も会社の外で知識やスキルを生かしたい、とぼんやり考える機会も増えたのではないでしょうか。一方で、それを副業として続けたり、キャリアにつなげたりするのは簡単ではありません。副業を「回している」人は、どんな戦略を立て、どんな試行錯誤を積み重ねているのか。

会社員の村上あゆ美さんは本業のかたわら、もともと好きだったホームパーティーを軸に「ホームパーティープランナー」として、およそ7年にわたりパーティー・イベントのプランニングやコーディネートを続け、「村上あゆ美=ホームパーティー」というポジションを獲得。それが、その後のキャリアにも影響したようです。そこに行き着くまでには、好きなことの言語化やそれに適したスタイルを探る努力、本業と副業の幸せな関係を築くコツなど、副業を始める前の人にも役立つ「ヒント」が隠されていました。

会社以外の「軸」を模索する

――村上さんは、会社員のかたわら「ホームパーティープランナー」としても活動されていますが、そもそも副業を始めようと思ったのはなぜでしょう?

村上あゆ美さん(以下、村上):会社以外に「軸」がほしいと思ったんです。ずっと働き続けたいとは思いつつ、出産して子育てしながら仕事もバリバリこなすロールモデルが周囲におらず、ライフステージに変化があったら自分はこのままで大丈夫なんだろうか……と悩んでいて。

ただ、その「軸」の内容はもちろん、「軸」を副業にするかどうかも具体的には想像できていませんでした。だから当時は、自分の好きなこと・得意なことを見つけようと模索していた気がしますね。ちょうど周りに「〇〇さんといえば熱狂的な嵐ファン」「スポーツのことなら〇〇さんに聞けば間違いない」みたいな個性のある人が多かったので、私も自分の名前にタグ付けできるような趣味がほしいなと。

――でも、ホームパーティーって、そういった「趣味」の中ではわりとニッチな気もしますが……。

村上:たしかにそうですよね(笑)。ただ、母がわりとイベントごとの好きな人だったので、クリスマスには必ず家族でケーキを食べるとか、誕生日にはパーティーをするといった習慣が小さい頃からありました。

「ホームパーティーが好きだ」と気づいたのはアメリカの大学に留学していた頃です。アメリカではクリスマスの時期になると、毎日のように誰かの家でパーティーが開かれ、それがすごく楽しかったんです。

――そこからホームパーティーを「自分の名前にタグ付けできるような趣味」にするため、例えばどのようなことを?

村上:社会人になってから、ホームパーティーを自分も開いてみたいな……と思い立ち、友達と3ヶ月かけて準備をしてクリスマスパーティーを開いてみたんです。

――3ヶ月かけて準備!本格的ですね。

村上:これが予想以上に楽しくて、ホームパーティーは自分の「軸」になるかも、と手応えを感じました。その後は、とりあえず毎月1回は必ずホームパーティーを開くぞと決めて(笑)。

合わせて情報発信にも力を入れようと、パーティーの準備段階から写真を撮り、それをブログやInstagramで発信したり、「ホームパーティープランナー」という肩書きで友達のメディアにコラムを書かせてもらったりするようになりました。

そんなふうに、地道に「村上あゆ美=ホームパーティー」というイメージを定着させようとしていました。すると、半年くらいで「なんかいつもホームパーティーしてるよね」と周りから言われるようになり、パーティーのテーブルコーディネートやイベントのプランニングの依頼が知り合いづてに舞い込むようになりました。 ただ、当時はそれを副業にするかどうかまでは意識していませんでしたね。

――でも、お話をお聞きする限り、行き当たりばったりではなく、ある程度計画や戦略を練ったうえで動かれていた印象を受けます。

村上:大学時代にもブログを毎日更新していたので、性格的に発信するのが好きなんでしょうね。あとは単純に、パーティーのために毎回すっごく時間をかけて準備していたので、「なにも残せなかったら悔しい」っていう気持ちもありました(笑)。

やっぱり発信を続けていると、周囲から「こんなこともできるんじゃない?」「こういうイベントやろうよ」みたいな声をかけてもらいやすくなるんです。そういった提案やお誘い、アドバイスをもらいながら、徐々にホームパーティーが副業になるかも、と思い始めたのが2014年ごろでした。

気持ちよく副業を続けるための「値付け」をする

――そのころ、「企業協賛」のホームパーティーを増やすようになったと伺っています。これまで開いていた友人や知人とのホームパーティーより規模も大きく、準備も大変になりそうですが、なにかきっかけがあったんでしょうか?

村上:当時、友達とウエディングをテーマにしたパーティーを企画したのですが、かかった費用に対して参加人数が多くなりそうだったので、さすがに参加費を頂かないと赤字になってしまう、でも個人主催のパーティーで高い参加費を頂くわけにもいかないし……と悩んでいたんです。すると、ある知人が「食事の提供みたいな形で協賛してくれる企業を探してみたら?」とアドバイスをくれて。その視点はなかったな、と企画書を書いて、ノンアルコールシャンパンのメーカーさんにお送りしました。

――一個人が何のつながりもない企業に協賛を依頼するのは、なかなかハードルが高いように感じますが……。一体、どんな企画書を送ったんでしょう?

村上:「ノンアルコールで楽しむウエディングパーティー」というコンセプトを打ち出しました。アイデアの大元には、自分が結婚式を挙げた時、お酒を飲まない・飲めないゲストのドリンクの選択肢が烏龍茶とオレンジジュースしかなかった、という反省点があります。

企業に協賛を依頼したパーティーも、ちょうどウエディングを検討している人たちが参加するものだったので、ノンアルコールの商品をPRしたい企業にとってはいいマッチングの機会になるんじゃないか、と思って。

――──企業に対してもメリットを提示できているのがすごい。その他、どんな説得材料を用意されたのでしょう?

村上:「ノンアルコールシャンパンやノンアルコールカクテルを提供していただけたら、会場で参加者に商品のアンケートを取り、その結果や、パーティー会場で実際に商品を楽しんでいる様子を写真でお送りします」という感じでお伝えしましたね。

――素晴らしいですね。一方で、そうした企業協賛の案件が増えるなか、それまでは「趣味」だったホームパーティーをビジネスにしていくことに、あまり躊躇いは感じられませんでしたか?

村上:最初は「趣味で始めたことなのに、お金をもらっていいんだろうか」と悩みました。だから値付けに関してはすごく安くしてしまっていたんです。

レンタルドレスサロンのパーティーの報酬なんて、すべて翌日のマッサージ代で消えてしまって(笑)。お金には代えられない実績と経験が手に入ったので、後悔はしていませんが、そのときはさすがにハッとしましたね。

自分が気持ちよく副業を続けたいなら値付けも考えないといけないんだ、という感覚がそこで生まれて、お金を頂くことに関してはひとつ吹っ切れました。

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レンタルドレスサロンのパーティーの様子

本業と副業のバランスを安定させるために「交渉」する

――村上さんは、2018年に本業で転職をされたそうですが、副業をしやすい環境を作ったという側面もあるんでしょうか?

村上:それが少し違っていて、転職前の会社は絶対に定時で上がれていたし、お給料も悪くなかったので、副業を続ける環境としては悪くなかったんです。仕事内容や会社のサービス自体に強い愛があったわけではありませんが……。

――では、なぜ転職を選んだのでしょうか?

村上:今の勤務先(スナップマート社、写真素材の売買ができるサービス「Snapmart」を運営する企業)の販売していたプランが、私が副業で普段企業に提案しているプランと同じで、副業との親和性が高そうだな、と感じたのが一つ。

もう一つは、本業であっても、単純に「やりたくないこと」をやりたくなかったんですよね。フリーランスという選択肢も一度は頭をよぎりましたが、そもそもホームパーティープランナーとしてやりたい仕事だけを選べるのはそれが副業だからなんだろうな、と思い直し……。

――なるほど。でも、転職によって副業と本業の内容が重なり、本業でも「やりたいこと」に関われる機会が増えたのでは?

村上:そうですね。サービスに登録してくださっているクリエイターさんに商品撮影を依頼したり企業案件を紹介したり、という仕事がまさに副業でやってきたこととも重なるので、転職当初は「好きなことを仕事にできた」という喜びが大きかったです。

ただ、次第に「副業と本業の内容が重なり過ぎると、それはそれで楽しくない」とも思うようになりました。

――楽しくない、というと?

村上:イベントプロデュースや会場装飾のような仕事を任されるにつれ、「これは自分がいるから受注できた仕事なのに、会社の成果となって自分には還元されないのか……」とモヤモヤすることが増えてきて。

――たしかに、副業かどうかにかかわらず、個人で培ってきたスキルを本業に生かすとなると、その部分にモヤッとする方は多そうですよね……。

村上:一度ちゃんと会社には相談しました。せっかくクリエイターさんがたくさんいる(一人で何とかしなくても大丈夫な)環境なのだから、私以外の人にも案件を振ってほしいという点と、自分だからこそ受注できた案件に関しては給与アップなどで還元してほしいという点を社長に伝えて。規模がそこまで大きくない会社なのでできたことではあると思うのですが、個人のスキルを会社で生かすなら双方が気持ちよく仕事を進められるよう、ちゃんと交渉したほうがいいと私は思っています。やっぱり言わないと伝わらないことも多い。私の場合も社長に伝えて初めて「なるほど、そう感じていたんだね」と理解してもらえたので。

――直談判する姿勢も、それができる環境も素敵ですね。では、いまは働く環境も含めて、本業と副業のバランスは比較的安定している、と。

村上:そうですね! 去年営業マネージャーという立場になり、自分の裁量でできることが増えました。それに伴って、副業に対する意識や姿勢も以前と比べて少し変わったように思います。

――具体的にどのようなところが?

村上:副業に集中するというよりはむしろ本業で成長したい、という意識が強くなってきましたね。それは、「好きなこと」で自分が事業を大きくしていける、という実感が持てたからだと思います。

一方で、副業でしか得られない経験ももちろんあるので、そういった仕事は今までと変わらず個人で受けるようにしています。

副業を始める前に「好きなこと」を言語化する

――村上さんは、パラレルキャリアに関するオンラインサロンの運営などを通じて普段から他人の副業事情を知る機会もたくさんありそうですが、副業が続かない人にはどんなケースが多かったですか?

村上:おそらく2パターンあって。一つは何をしたいかよりも「稼ぐために副業をしたい」という思いが先行しているケースです。もちろん、稼ぐことも大事ではあるのですが、先ほども申し上げた通り、すぐお金になる副業は少ないので……。もともとそんなに好きじゃない、興味が持てないものをビジネスにした方は、稼げない時期が続くとあっさりやめてしまうことが多いように思います。

もう一つは、仮に好きなことを副業にしたとしても「趣味でやるほうが楽しかった」というケース。誰かからお金をもらうには、当然誰かを喜ばせなければならないのですが、喜ばせる相手が「身近な人だけでいい」と感じる場合はおそらく仕事にするべきじゃないと思うんですよね。私の場合は「村上さんの発信を見てホームパーティーをしてみました」という知らない人の声を聞くことが好きだったので、ビジネスにするのに向いていたのかなと思います。

――お話をお聞きしていると、副業をキャリアにつなげる上では、それが仕事になるかどうかよりも先に自分の「好きなこと」を見つけ、「好きなこと」の何が好きで、何が仕事にできそうかを切り分けていく必要がありそうですね。

村上:そうですね。自分の経験を振り返っても、好きなこと、できること、やりたいことを切り分けて、それぞれ言語化するのはとても大事な作業だと思います。オンラインサロンにも「趣味をビジネスにしたいけれど、具体的にどの部分が仕事にできるのか分からなくて悩んでいる」という方が少なくありませんでした。そんな方には、例えば「料理が好きだから料理家になりたい」というところからもう一歩踏み込んで考えるべき、とよくお伝えしていました。

――もう一歩踏み込む、というと?

村上:例えば、「料理が好き」とひと言で言っても、作るのが好きな人だけじゃなく、教えるのが好きな人も、メニューを考えるのが好きな人もいるはずですよね。一つのジャンルにいろんな作業があって、それぞれ「好き」の方向性が違う。

ホームパーティーもそうだと思います。私の場合も、外部の方からいただいた依頼の中には「料理や装飾もお願いしたい」など、それまで手がけてきたコーディネートやプランニングの領域を少し外れるものもありました。そうした依頼も一つひとつこなすなかで、「ちょっとこれは私のやりたいこととは違うな」と感じるケースもあって。例えば個人のお宅のパーティーの飾りつけは、その方がパーティーを手作りする楽しみを減らしてしまっているような気がしてあまり向いていないと感じました。

試行錯誤の結果、ホームパーティーを通したきっかけ(商品を知る、参加者の趣味やスキルが発揮されるなどのきっかけ)作りが一番やりたいことだと気づきました。そして、それを快適に続けるための一つのスタイルが「企業協賛」だったのだろうと思います。

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器作家や器メーカーを協賛とした自主企画パーティーでの一枚

――なるほど。そうやって「好きなこと」の要素を分解してどこに需要があるのかを考えることで初めて、具体的なビジネスの方向性が見えてくるんですね。

村上:そうですね。試行錯誤した結果、どれも仕事としてはやりたくない……と感じる場合もあるでしょう。もしそうなったら、趣味の範囲に留めておく、というのも素敵な選択だと個人的には思いますね。

取材・文:生湯葉シホ

(MEETS CAREER編集部)

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